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「ささ、行こう行こう」
「うん、そろそろ行こう」
「っしゃーーー!」
「お、おう」
な、なんだこの状況。かつて、天使の◯P!とか、ロウ◯ゅーぶ!とか、そういう小学生が映える!みたいなテレビアニメがあったものだが、今まさにそういう感じじゃねぇか!いや小学生とかそういう小さな子供が嫌いなわけじゃない、むしろかわいいとは思う、って、もちろん健全な感情で。
……………
気を取り直して。今僕らは、駅近くのカラオケボックスを目指している。ついさっきまで、一果ちゃんのお兄さんへのプレゼント選びを手伝っていたが、『候補はいくつかに絞ったので、後は自分で選びます』とのことだった。そこまでは全くもって問題ではないのだが、そのあと結月ちゃんが『みんなでカラオケ行こうぜ!』といった感じで、なんだかんだついて行くことになった。
「うぅーあちぃー。何でこんな暑いんだよー!」
「うるさいうるさい」
「5月も終わりが近いし、夏が来たってことなんじゃないのかな」
このやり取りを見ていると余計にロウ◯ゅーぶ!のあのアイス・レイジとファイアー・ワークス、そしてシャイニー・ギフトの3人の二つ名が頭に浮かんでくる。ということは僕はロリコン?いやいや、そんなバカな。ちなみにどの二つ名が誰なのかが知りたい人はグーグル先生などでサーチしてみよう。
※
「ぜったいかれん!だーからまけない!」
「結月ちゃん、上手だね…」
「まぁ、上手は上手だけどあのテンションはどうなのよ」
小学生がかつての小学生ユニットの曲を歌っている。一見すると何もおかしなところはないだろう。俯瞰で聞いているとなんかこう、しっくりくるようでこない。そして、なぜこんなに狭いボックスになったことが僕の今一番の謎だ。ここの部屋を選んだのは藍ちゃんだが、そのとき一果ちゃんが
『そ、それは恥ずかしいよぉ〜!』
と、藍ちゃんのチョイスを遮るようにインしてきたが、結果的にこのボックスになった。
「ところで、藍ちゃんと一果ちゃんは歌わないのか」
「そーだぞ。歌え歌え」
「いや、私は歌える曲ないし」
「私は、そんな上手くないし…」
結月ちゃんの歌唱を評論しつつも、自分は歌いたくないと自己防衛の態勢に入る藍ちゃん一果ちゃん。しかしながら、僕も2人の歌を聞いてみたい気がする。
「まぁ、2人もとりあえずなんかで歌ってみたら?」
「「歌います!」」
「「はやっ!?」」
僕が歌うようにと誘った途端、人が変わったかのように過敏に反応する2人。リアクションも僕と結月ちゃんでシンクロしてしまった。そして、なぜか藍ちゃんと一果ちゃん、2人同時にマイクを手に取る。
「「それでは聞いてください、『ライオン』」」
「「え」」
呆気にとられたはこのことだろう。まさかのデュエット曲だった。しかも某マクロスの曲ときた。藍ちゃんはともかく、一果ちゃんがそのような曲を歌うのは全く想像がつかない。そして、何故ゆえコンサートばりに曲名アナウンスしたのか。
その後、もちろんフルサイズで聞いたのだが、語彙力皆無な感じで言えば『バカ上手い』といったところだろうか。歌唱だけではなく、体の動きというか、全身の表現にも思わず感心してしまった。というか、2人の息が合いすぎである。
「いや、上手くね?いや、上手くね?いち、あい、上手くね?」
「うーん、生まれつきいい声ではないけど、努力はしてる?そんな感じ」
「私も、自信はないけど、張り切って歌ったよ〜」
何だろう、今のこの2人、かなり面倒臭いぞ。そして、バカ上手すぎて少し2人に対して引いている自分がいる。
この後も、『コネクト』『Don't say "lazy"』『The end of escape』等々、この2人が歌うとは到底予想できない曲たちが投下された。女子小学生3人×男子中学生1人という、アンバランス御一行のなか、ここまで熱く盛り上がるとは思っていなかった。まぁ、ここまで来ると、"あれ"しかない……
「ねぇ、前ちゃんも歌ってよ」
「そうだそうだー!私たちだけに歌わせるなんてずるいぞー!」
「私も、前山さんの歌、聞いてみたい、な…」
薄々わかっていた、わかっていたさ。こんな流れになるくらい。まぁ、僕は意地でも歌わない…わけがない。
「いいよぉ。僕の自慢の1曲を聞くがいい!」
意気揚々とそう言って僕が投下したのは…………
※
「ブ、ブラボー!!」
「前ちゃん、すごくない?いや、すごすぎない?」
「前山さん…私…感動ですぅ〜!」
「そ、そうか。そこまで言ってくれるとは、あ、ありがとう」
ここまでの賞賛のされようだと、さっきのように再び引いてしまうレベルだ。というか、両サイドに小学生の女の子が座っているこの状況、少しばかりニヤついてしまう。だが、そんなことを思っていると…
「「◯ね!!!ロリコン!!!!」」
「あ"ぁ"!!」
園枝姉と青村が突入してきた。青村は有無を言わさず僕の首を掴み、壁にめり込みそうな強さで後頭部を壁に擦り付ける。
「前山さん!?」
「前ー!」
「前ちゃん!いやなぜお姉ちゃんがいる?!」
「いやぁ良かった妹。後少しで藍の純潔が奪われるところだった…」
「何言ってんのお姉ちゃん?!というか、前ちゃんが…」
「うぐっ!がぁ"!」
「苦しい?苦しいでしょうねぇ?まともに呼吸ができないから"あの状態"にもなれないでしょうしねぇ?」
「と、とりあえずみんな落ち着け〜〜!!!」
遠ざかっている意識の中、藍ちゃんの必死の叫びでその場は収まった。
〜a few minutes later〜
「頭冷えたかこの野郎」
「「大変申し訳ございませんでした」」
ソファーの上に正座する園枝玲、青村文。突然暴れたことに対して全力の謝罪、つまり土下座を前山、小学生3人組にしていたのであった。藍ちゃんに関しては、まるでゴミ以下のものでも見るような視線だ。
「いや、左右にに女子小学生がいて、若干ニヤついてたら、ヤバい人しかに見えないから」
「それと半殺しにするのは話がちげぇだろ!というか、あのニヤつきに別に怪しい意味はねぇ」
「どうだか、そう言いながらも私の妹をどうにかしようとしたんじゃないの?」
「んなわけねーだろ!しいたけ生で食わすぞ!」
これが本当に反省してる奴らの言動かよ。全く反省の色が見られない。
「はいはい、お姉ちゃんたちはもう出てって」
「えぇ…前ちゃんがこのロリハーレムも形成してるのはかなり心配だけど………ま、いっか。今度怪しい素振りを見せたらいよいよ通報するから悪しからず」
「いや、それには及ばない。まず首を取ってだな…」
「お姉ちゃんたちうるさい。早く出てけ」
「お暇していただけると、ありがたいです……」
「早く出ていけ出ていけ〜!」
「「うっ」」
小学生たちによる出ていけコール(一果ちゃんに関しては圧力)に負け、そそくさと立ち去っていった。
「ふぅ…殺されかけたりしてすげぇ疲れた……」
「今日は、帰りましょうか?」
「そうだねー。帰ろうぜー」
「ごめんね、ほんと」
歌うモチベーションをなくした僕たちは、帰宅することにした。
※
「送ってもらってすみません」
「いいんだよ。結構早く出てきたとはいえ、もう夕暮れ時だ。僕も中二ではあるけど、年上っぽいことはしないと」
「おーかっこいいぞー!ヒューヒュー」
「結月……ありがとう、前ちゃん」
「どういたしまして」
日も傾き始め、辺りが暗くなってきたため、前ちゃんに見送ってもらっている。正直、姉が突入し、その友人が暴れるなど、いい1日とは言えないが、前ちゃんといろいろできて楽しかった。それにしても、夕方とはいえ、これほど住宅街が不気味であろうか。
「……………………………!!!」
「え」
私の前を歩いていたはずの前ちゃんが、少し目を離した瞬間に突然視界から消えた。そればかりか、
「いたぁ!!!」
「何故あの子たちを撮っている。それも、午前中から」
「「「………え?」」」
前ちゃんの言葉に、言葉を失った。午前中から撮られていた?何で……?
「何となくだがお前、最近ニュースで取り上げられてる、盗撮魔じゃないのか。それも幼い子を狙った。まぁあんなに報道されているのにここまで顔バレせず逃げ切れたもんだ」
糾弾し続ける前ちゃんをただただ遠くから見つめる私たち。眼光鋭く、殺気立った前ちゃんはどこだか人が変わったようだ。
「……………っ!」
「おっと」
前ちゃんが地面で踏んでいた盗撮魔がこちらに向かってきた。しかし、1秒、いや、刹那と経たないうちにそいつの前に現れて………
「…………!!っはぁ!」
前ちゃんは無言で、右手の拳で、盗撮魔の腹に重い一撃を与えたのだった。盗撮魔はたちまちその場に倒れた。そして、盗撮魔の右手に握られていたビデオカメラを前ちゃんが取り上げた。
「証拠は押さえた。大人に告げるなり、警察に通報するなりは、この子たちの感情に任せるが…これだけは覚えとけ、この子たちの記憶には、一生の悪夢として残ることを、な」
盗撮魔は、喚いている。殴られた痛みからか、前ちゃんの威圧に恐れをなしたのか、それは分からないけど。そして、前ちゃんは殺気立っていた様子から打って変わって、優しく、柔らかい表情を見せながら、私たちのところに戻ってきた。
「やぁ、かいちょーだよ。みんな大丈夫か?」
「う、うん」
「私たちは大丈夫ですけど…」
「まえは大丈夫?!すごい闘いだったよぉ?」
「まぁ、いいじゃないか。それで、あの男の処遇はどういたしましょうか?」
「私は、みんなの意見に従うだけだよ」
「つきは別にどっちでもいいよ!」
「私も、どっちでもいいけど」
私たちは足並みを揃えてそのように言う。日はすっかり落ちてしまったが、私には一果や結月が怖がる顔をしているようには見えない。
「そっか…………じゃあ、一つ質問」
「みんなは、あの男に隠し撮りされて、どう思った?」
前ちゃんは、限りなく穏やかな口調ではあるが、目の奥には固い決意がある。そのように感じた。
「私は……少し、驚きはしました。それだけです」
「つきも、びっくりしただけだぞ!!」
「私も、同じ」
そしてまた、さっきと同じように、足並みを揃えて言う。あのことに対してあまりにも突発的なことで恐怖を感じることはなく、驚きを少し感じる程度だった。
「じゃあさ、あの男だけどさ、人生、やり直さしてやろうよ。ああいうのを野放しにするべきじゃないとは思うけど、あれだって、僕らほどではないとはいえ、まだ長いはずだからさ、チャンスをやろうじゃん」
さっきまでの前ちゃんからは想像できないような寛容な発言を聞いた。しかし、ここまでくると、私たちの答えは一致するはず。
「そうだね、そうしよう」
「私もそれでいいぞー!」
「はい、仰せのままに」
「そうか………じゃあ、そろそろ去るとしますか」
男を背にして、私たちは再び帰路についた。なんだか、今までで一番長い1日だったような気がするというような思いを持ちながら歩き始めた。ところで…
「前ちゃん、すごい強かったし、その時人が変わったみたいだけど、なんか習ってたっけ、柔道とか空手とか」
「うん?いやぁうん、まぁあれだ、直感だよ。アハハ」
「?」
なんとなく歯切れが悪い感じだったけど、あまり気にはせずそれぞれ帰宅したのだった。
※
それからというもの、僕の耳で「正体不明の盗撮魔」のニュースを聞くことは無くなった。発覚していないというだけ、というのは勘弁だが。立ち直っていることを期待しよう。
さてさて、そろそろ物語の黒さを出していこうかね………(誰)