5/24(水)
非常に、憂鬱な朝が来た。
「早く、行こう」
「前山、お前すごい度胸やな。殺されるかも分からへんのに」
「何を言ってるんだ啓。殺されるかも、じゃなくて、殺されるんだよ僕ら。そう思えば、もう、何も怖くない」
「ダメや。マミっとる」
きれいに整理整頓された自然の家での僕らの自室の出入り口の扉の前で立ち尽くす僕と啓。本当は、心臓の鼓動を止められることを恐ろしく思っていないわけではない。脚がガックガクだ。だが、行くしかない。
※
「おはようっす!」
「おはよう、2人とも」
「「お、おはよう(さん)」」
あれ、意外に気にしていない感じか?僕はそう思っているが、啓の豆を食らった鳩のような顔から、啓もそのように感じているのだろう。しかし、女子2人組はたちまち顔に暗雲が立ち込めた。
「グッバイ、啓」
「な?……………」
「し、死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目にも留まらぬ速さで啓の背後に忍び込んだ青村、そして姿を認識できた次の瞬間には、啓の首が180度回転していた。胴体は背中を向けているのに、顔はこちらを見ている。
「次はテメェだ」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
※
「じゃあ、今日1日君たちの運転手の朝田です。とりあえず目の前の2つの死体について質問いいかい?」
「大丈夫です。あと5秒、4、3、2、1」
「う、うぅ…………こ、今回は死ぬかと思った」
「何で俺までやねん………」
「ほら、この通り」
「世界七不思議の一つじゃあ!」
某千の鳥のような語尾で恐怖や疑問などの感情を表すタクシー運転手。正直我々もなぜバレたかなど、分からないことだらけだ。それはそうと、僕らは今、自然の家近くの特大駐車場にいる。そして、そこには無数のタクシーが停められている。今日の北海道中心部の班別行動での移動手段となるものだ。そして、僕の班は、啓、このは、青村、といったメンツだ。園枝は?だって?後で適当に出てくるんじゃね。
「そんなら出発するけど、大丈夫か?君たち」
「いたって健康です」
「問題なし!出発しましょうや!」
意気揚々とレスポンスし、早速タクシーに乗り込もうとするが、ひとつ問題。今回乗るタクシーは乗用車、つまり運転手以外には後部座席に3人、もちろん助手席ひとりが乗るというものだ。察しのいい人なら、お分かりだろう。
「なぁ、後部座席、誰が座るんだ?」
「そ、それはやなぁ……」
「まぁ、私たちは初めから後ろって決めてたから座らしてもらうよ」
「そうっす。座るっす」
我々男がグズグズとしている間にそそくさと女子2人が後部座席に乗り込んでしまった。こうなると余計に事がややこしくなる。
「なぁ、それだと僕らのどちらか1人が後ろに座らなきゃならない。この意味が分かるんなら、な?譲ってくれよ?」
「いやだね。逆にしたら、今度は私たちのうちの1人が後ろに座らなきゃならない。それはごめんだね」
「チッ…………クソビ「何か?」いや、なんでもございまする」
流れで青村を侮辱する言葉を口にしそうになったが、すんでのところで防ぎ、虐殺の危機は免れた。
「じゃあ、啓。この戦いは避けられないようだ」
「仕方あるまい。その勝負、正々堂々受けてやるやるわ!」
いつも園枝とテスト点で勝負(周りからはくだらないと言われるが自分たちでそう思っていない)しているが、それと同じくらい、いや、それ以上に自分たちのプライドが懸かった勝負が始まった!
「最初はグー」
「じゃんけん」
果たして、結果やいかに。
※
「ほんまおおきに、前山はん」
「この関西弁野郎が………」
熱き男たちのじゃんけん勝負(笑)を制したのは啓であった。というか、啓の顔がにやけていたため、僕がが勝負に敗れるのは、既定路線だったと見える。追及してやろうかとも思ったが、この後の行程に響くと思い、泣く泣く女子2人が座る後部座席に座ることになった。というわけで、後部座席の助手席側には僕、運転手側には青村、中央にこのは、助手席に啓が座っている。
「あやさん、前ちゃんが変なことしてきたら、私がすぐに懲らしめるっす!」
「しねぇよ!」
「大丈夫このは。その前に私が肋骨をボッキボキにするから安心して!」
「安心できねぇ!滝沢カレンが国会議員になるくらい安心できねぇ!」
このはのジョークに対する青村の満面の笑顔でのフリが怖すぎて気が気でならねぇ。そういえば………
「なぁ、なんで昨日のジ◯プロックの件分かったんだ?青村」
「はぁ、ほんっとに鈍いねアンタ。それでも覗きに入ろうとした男か」
「覗きじゃねぇ!というか、昨日の肩砕きのときにこのはがどうのこうのって言ってただろ!」
「ふぅ」
窓ガラスのへりに肘をつき、空に思いを馳せる青村。その『やれやれ』とでも思っているような顔をぶん殴ってやりたい思いだが、確実に返り討ちにされるため、ぐっと昂ぶる感情を抑えた。
「まぁ、タネアカシをすると、写真撮るためのカメラをムービーモードにして、開けっ放しの部屋に置いたままにしておいて、監視カメラ代わりにしてたの」
「マジかよ………」
まさか撮られていたとは心外だった。
「そうだ、まさかとは思うけど、中身見てないだろうね?外側の名前を見てこそこそ届けに来たんでしょ?」
「えっ、いや、それはですね………」
あっ、これ昨日怒っていたのは、中身見たことではなく、勝手に開けっ放しの部屋に勝手に入ったことらしい。こいつは、触れてはいけない禁忌に触れてしまったのだろうか。そして、隣のこのはの表情が、一気に青ざめる。
「まさか、中身、見たっすか?」
「そ、それはぁ…………う、うん!見ました!見ましたとも!人というのは中身が気になる性分なんでね!見てしまいました!そしたら、あーら驚き!あなた様の下着セットが入っているではありませんか!あーはっはっはっ!!!」
「前ちゃん………運転手さん、止めてくれっす。できれば、川とか湖の近くにお願いするっす」
「あ、あぁ。だが、予定表には、最初の目的地は洞爺湖って書いてあるから、今そこに向かっているんだが………」
運転手が、僕らからすれば考えられないドスの効いた声のこのはに恐れをなしている。そのロリボディからどうやってそんな声を出しているのか、不思議でならないが、このはは続けて言う。
「あぁ、そうっすね〜。じゃあ前ちゃん、ノーボンベダイビングするっす」
「やべぇよコイツ2度と下界に戻ってこられないようにする気だよ!おい!啓!助けてくれ!」
「前山、応援してるで」
「間接的じゃなくて直接的に助けに来「問答無用!」豆板醤………」
首筋を青村に手刀された直後、僕は気を失い、顔を下に向けた。
※
「お腹空いたっすね〜」
「そうだね。早く食べよう!」
「良かった、四肢はバラバラになってない」
「なったらなったで加藤さん事件です状態になるやろ」
先ほど僕は命の危機を迎えていたが、どうにか繋いだ。ということで北海道中心部散策を続けたのだった。そして、昼時になり、お腹もいい感じに空になってきた頃、札幌駅にて昼食をとることにした。もともと、札幌駅で昼食というのは決まっていたが、何を食べるかはまだ決まっていない。運転手にオススメを聞いてもあまりいい答えが返ってこなかったため、お土産店を回りつつ、飲食店を探すことになった。
「このは、あなた小さいんだから、あまりうろちょろしないでね」
「何を言うっすか!何が小さいっすか!」
全国有数のターミナル駅ということもあり、方向感覚のない人間はすぐに自分がどこいるか分からなくなることだろう。加えて、平日とはいえ人も多いため、このはのように身長が低いとすぐに見失ってしまいそうだ。
「あ、前山、スマホ鳴ってるで」
「おぉ、あぁほんとだ」
連絡用に学校から支給されたスマホに着信が来ている。この時間帯なら、担任の点呼だろう。通路脇に寄り、着信に応答した。
「はいもしもし2組3班の前山です」
『前山か。他のみんなは問題なしか?』
「午前中は僕、処刑されそうで危なかったですけど、今は4人全員問題ございません」
『お、オーケー。じゃあ午後も注意して、班別行動楽しんで。以上』
非常に淡白なやりとりではあったが、特に何か言われることはなく点呼は終わった。そして、電話している間に、"らーめん王国"といういろいろなラーメン店が集結している店で昼食を取ることになった。
みんな空腹が頂点に達したのか、移動速度が尋常でないくらい早かった。店に入り、席に着いて、オーダーを決め、注文を一通り済ませた。
「僕は塩一択。これ以外考えられねぇ」
「なんや。味噌派にケンカ売っとんのかワレ」
「こら、ケンカするな。所詮醤油に勝つものなんてないんだから、無駄な言い争いするんじゃない」
「鶏白湯スープでいいっす」
"ラーメンの味は何が至高か"という議論に花を咲かせた。それぞれ全く違うものを挙げ、議論は白熱している。ここまで自己主張が激しいのになぜ普段はあんなにも仲がいいのか。分からん。それが僕らとしか言いようがない。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
しかし、全員に現物が到着し、食べ始めると、誰も喋るものはいなかった。これが肉に群がる肉食動物たちの姿というものの縮図なのだろうか。
※
ラーメンを食べ終え、店を出た私たち。すると男性陣が
『『厠にいかしてくだせぇ』』
と江戸時代の農民のように言ったので、待ちぼうけを食らってるっす。
「あの店、結構量あったね」
「そうっすね。お腹いっぱいっす」
「次はどこだっけ」
「えーとぉ、スケジュールは前ちゃんが持ってて、分からないっす」
椅子に座り、取り留めもない会話で時間を潰しているっす。それより、今考えれば、大分不思議な場所のトイレを使っている気がするっす。あまり人気がないというか、もの静かな感じっす。
「おい!嬢ちゃん!」
「?私っすか?」
突如、お兄さんに威勢のいい声で話しかけられ、確認する私。このお兄さん、ガラが悪いっす。
「金出しなぁ」
「えぇ?!」
「うっせぇ!早く出せ!」
私がモタモタしているうちに、お兄さんは腕を振りかぶり、私に殴りかかろうとしたため、私は顔を背けたっす。しかし、3秒ほど経っても、殴られたような感覚がないため、背けた顔を元に戻したっす。すると………
「………………」
「な、なに?!」
私の右隣に座っていたあやさんが、左手でお兄さんの拳を止めていたっす。そして、あやさんは止めた拳を強く握りしめたっす。
「がぁ!!」
「やめてください。一言詫びて、今すぐに私たちの視界から消えてください」
普段見ないような鋭い目つきで相手を睨むあやさん。そして、いつもとは違うオーラを纏っていることが感じられるっす。また、お兄さんも、握られている拳の痛みからか、お兄さんは声を出さずにはいられないといった感じっす。
「悪かった!こんなことしないから!離してくれ!」
「………………」
あやさんは、謝罪を聞き、サッと握り締めている手を離したっす。すると、そのお兄さんは、ライオンから逃げるシマウマのように素早く逃げて行ったっす。そして、あやさんは、安堵したような表情で深く呼吸し、私に優しく語りかけてくれたっす。
「このは大丈夫?ケガとかない?」
「う、うん。私は大丈夫っす!それより、あやさんは?」
「私も大丈夫。…………2人が帰ってきたら、急いで行くよ」
「わ、わかったっす」
2人がトイレから戻ってきたあと、あやさんは2人に事情を説明し、その場から立ち去ったっす。あまり大ごとにならないように、というあやさんの気遣いだと、私は思うっす。
タクシーに戻って、次の目的地に向かっているとき、前ちゃんとあやさんで、会話を繰り広げていたっす。あまり詳しくは聞けなかったっすが、少なくとも、明るい話でないことは、2人の表情から容易に想像できたっす。
「じゃあ、次はどこ?前ちゃん」
「次は……………テレビ塔だ。そろそろ、青村にもヒモなしバンジーを…………」
「何か言ったかね前山くん」
「いえ何でもございません」
でも、すぐにいつものやりとりが聞けるようになったから、大した問題ではないと思うっす。無事に、終了を願いたいもんっす。
※
「前回といい今回といい出番少ないな、私」
他の班で活動中の園枝玲は、意味不明(?)なぼやきを残していたとさ。
玲の出番がすくねぇ。というわけで、次回は玲さん回です(おそらく)