未来からの手紙   作:スターゲイザー

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現在、悟空の超サイヤ人3の力を感じ取った悟飯と悟天が西の都へ向かっています。




第二十五話 頑張れ、神龍

 

「――――問答無用に破壊と言いたいところなんだけど、君達には幾つか聞きたいことがある」

 

 強いのか弱いのかも分からないビルスと名乗った破壊神は未来トランクスから視線を外す。

 

「おや、君は……」

 

 改めてその場にいる面々を見て、その中に嘗て見たことのある人物の相似形に気付いて笑みを浮かべた。

 

「ベジータ王子か、父親そっくりだね。すっかり大人になったじゃないか」

「び、ビルス……っ!?」

 

 視線を向けられたベジータは、今まで奥底に押し込まれていて忘れていた誰にも決して頭を下げない父であるベジータ王を足蹴にしていたビルスを見た記憶を想起する。

 

「前に会ったまだ小さな子供の時と比べて、随分と失礼になったね。僕を呼び捨てに出来るほど偉くなったんだ」

「っ!? 失礼しました!ビルス、様……」

 

 気は感じられないのに圧倒的なプレッシャーを向けられたベジータは恐怖で震え、言い方を直すとビルスは二度目はないと目で語りながら尊大に許した。

 

「ビルス様」

「分かってるよ、ウイス」

 

 ウイスと呼ばれた男は珍しくビルスが職務に忠実になっていることに内心で驚きながらも表面に出さない。

 

「順番に用件を片付けていくとしよう」

 

 そう言って右手を前に出したビルスは一つ目の指を折る。

 

「第一に先程までいた、そうそこのツンツン頭のサイヤ人…………えっと、フリーザを倒したとかいう孫悟空だっけ、に似た男について知っていることを全て話しなさい」

「ゴクウブラックについて、ですか?」

 

 あのベジータが恐縮して敬語まで付けた相手に失礼な態度を取ることは、普段から礼儀正しいトランクスは絶対にないのだがゴクウブラックのことに関してだけは別であったので思わず問い返していた。

 

「そんな名前なの?」

「いえ、一年前に俺の時代に現れたアイツは孫悟空と名乗っていましたが、紛らわしいので僕の母がそう命名したんです」

「僕の時代、ね。ああ、いいよ。続けて」

 

 ゴクウブラックのことに関しては一番関わって来たトランクスが自然とビルスの話の相手を務めることになったが、言った言葉の中に引っ掛かる物がある様子が気になったが先を促された。

 

「突然現れたブラックは正義の為に人間を絶滅させると言っていました。既に幾つかの星やそこの人間を滅ぼして来たとも。俺も一年戦ってきましたが、もう殆ど地球に人間は残っていません。母も殺されて俺は逃げるようにこの時代に。そしてブラックは、俺が通った時空を通り抜けてきてこの世界にやってきました」

 

 言っている内に込み上げる感情を抑えるように拳を強く握ることで紛らわせたトランクスを冷ややかに見るビルスとウイス。

 

「悟空さんと父さんとの会話で、ブラックの体は確かに悟空さんの物でも中身は違うようでした」

「中身が違う?」

「低俗な人間共と一緒にするな、劣等共、人間である貴様らには立ち入ることの出来ない世界に到達した、と言った言葉から元は人間ではないような印象を受けました」

 

 この時代に来てから分かったことも合わせて伝えると、ビルスは思案気に顎を撫でる。

 

「時の指輪に、片方だけのポタラ、そして人間ではないという印象か。そのブラックって奴は、そこの孫悟空にはない力を使ったりはしていないかな?」

 

 言われてトランクスは悟空の全てを知っているわけではないので、当の本人に顔を向けた。

 

「ブラックはどうやったか分かんねぇんだけど、自分で自分を回復させた。オラにはあんな真似は出来ねぇ」

 

 それともう一つと言いながら、今も脳裏にクッキリと刻み込まれている超サイヤ人ロゼが思い出される。

 

「超サイヤ人ロゼってやつになった時に、神が超サイヤ人ゴッドを超えるとかなんとか言ってたけど」

「自分で回復、神が超サイヤ人ゴッドを超えるとか…………ウイス」

「界王神に従事する者には体力や傷を回復させる能力を身に着けることが出来ます。恐らくビルス様の考えている通りだと」

 

 二人の間に何かしらの結論が出たようだが、悟空達は気になって仕方がない。

 

「あのビルス……様。どういうことでしょうか?」

 

 悟空は見知らぬ人に敬称を付けることに一瞬躊躇したが、ベジータが畏まるほどの相手なので敬語で話すことに決めて結論を聞いてみた。

 

「う~ん、まあ、これぐらいなら教えてもいいかな」

 

 話しかけて来た悟空からチラリとトランクスを見て考えたビルスは軽く頷いた。

 

「ここに来るまで君達が戦っているのを見てたんだけど、ブラックが身に着けていたこことここのやつ。知っているかどうかは知らないけど界王神由来ものでね。そして界王神に従事する者は体力や傷を回復させる能力がある。そして君達が聞いた孫悟空の体を使ってはいるが中身は別人だという話。ここまで言えば後は分かるね?」

「ブラックの中身は界王神と関わりのある者……」

 

 左手で右手の人差し指と左耳を指し示したビルスの言葉に悟空達もブラックが身に着けていた指輪と耳飾りを想起し、同じ結論に至るのはそう難しい事ではなかった。

 

「恐らく間違いないだろうね。界王神は十二ある宇宙に無数いるわけだけど、大分搾れたわけだ。とはいえ、他の宇宙に干渉するのはあまりよくないんだよね」

 

 十二の宇宙にいる人間の中から無限とも思える容疑者を一気に目に見える範囲に絞り込めたことはビルスにとっても喜ばしい事だが、第七宇宙の破壊神といえども他の宇宙にも破壊神がいるので越権問題になりかねない。

 時間干渉の問題は全宇宙に関わることなので強権を発動することも出来るが、そのような面倒なことをビルスは嫌う。

 

「取りあえず、今は同じように時間を弄った身近な人物から破壊するとしよう」

 

 面倒臭がったビルスは頭をガシガシと掻いてゴクウブラックの問題をひとまず横に置いておいて、この場にいる人物――――トランクスを破壊すると宣言とした。

 

「な、何を――っ!?」

 

 破壊神が破壊すると宣言したその意味を正確には理解していなくても、ベジータがトランクスを庇うようにビルスとの間に入った。

 その姿を見たウイスがビルスの横に立つ。

 

「過去や未来に行ったり、時間に干渉するのは重い罪になると知っていましたか?」

「い、いえ」

「時間は一定の方向にしか流れないものです。過去で花を一輪抓むだけでも後々の未来で宇宙から一つの星が消える理由にもなりえますから、時間の安易な移動は神々でさえ重く禁じられています。ビルス様に破壊されても文句は言えませんよ」

 

 優しく諭すように言うウイスに、トランクスは自分が未来から来たことによる影響は確かにあったことを覚えていた。

 

(そうだ。悟空さんが心臓病を発病した時期や人造人間の数や中身まで、色んなことが違った)

 

 全てが全てトランクスが時間移動をしたことによる影響というには不確定の要素が多いが、その影響は確かに善負の両面に大きい。

 

「待った待った! トランクスが未来から来て薬を渡してくれたお蔭でオラは死なずに済んだんだ。破壊なんて止めてくれよ」

「つまり、時間移動をしたのは今回が始めてじゃないってわけだね」

 

 ベジータに遅れてトランクスの擁護をした悟空の話を聞いて余計にビルスの破壊意欲が湧いてしまった。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 そこへ一応の危機が去ったと見て戻って来たブルマがビルスに物申した。

 

「へぇ、なんだい?」

 

 恐れるでもなく畏まるでもなく、真っ直ぐに見て来るブルマに興味を持ったビルスは問いを許した。

 

「トランクスが未来から来たのは止むに止まれない事情があってのことよ。事情も聞かずに破壊しようなんて神様のやることなの」

「どんな事情があっても許されないことってあるだろ」

「じゃあ、神様が正義の為に人間を滅ぼすってのは許されることってわけ? その神様に追いやられてこの世界に来たトランクスを破壊だなんて、随分と神様って偉いのね」

 

 如何なる理由があろうとも時間移動をした罪を理由としたビルスに対して、ブルマは先のブラックの一件を持ち出して反論する。

 ビルスもウイスもブルマが論点を摩り替えようとしていることには気づいているが、ブラックが神の関係者であると言ってしまった手前もあるので反論しにくい。

 

「時間移動が出来ることが問題なんですよ。全く驚きです。人間が作るなんて不可能だと思っていました」

「タイムマシンを作ったのは未来の私だけど今の私じゃないんだから責任を求めないでよ」

「そこまではしませんが、作れる可能性がある以上は自重してほしいところです」

「分かったわ。私はタイムマシンを作らないって約束する。信用できないなら誓約書でも作りましょうか?」

「いいえ、結構です。但し、次はありませんよ」

 

 そう言ってウイスはビルスの後ろに下がった。

 

「おい、ウイス」

「どうやらタイムマシンは破壊されたようですから、こちらとしても早急に彼を破壊しなければならない理由はないじゃないですか」

 

 論破するどころか丸め込まれた様にも見える付き人に顔だけ振り返ったビルス。

 ウイスとしては色んな容疑がかかっているブラックの破壊をこそ優先すべきと考えているので、今この場でトランクスを破壊することに拘っていなかった。

 

「このことが全王様に知られたら全員一蓮托生ですからね、私以外は」

 

 天使であるウイスは全宇宙のトップである全王によって一つの宇宙が消滅させられたとしても、全王の宮殿に戻って新たな神が誕生するまで眠るだけでビルスほど重く捉えてはいなかった。

 タイムマシンがブラックに破壊されて使えない事、作る気は無いと明言したこと、トランクスが時間移動をした理由がブラック(神、もしくは関係者)なので情状酌量の余地を与えたというのが正しい。

 

「お前が良くても僕は認めないぞ。こいつはここで破壊する」

 

 バレたらウイスと違って全王に消滅させられる立場のビルスはそんなことになる前にトランクスを破壊するべきだと考える。

 

「じゃあ、取引しましょうよ」

「取引ぃ?」

 

 ビルスとウイスの間で意見が対立しているのを見たブルマが取引を持ち掛ける。

 

「ブラックの正体を私達が突き止めたらトランクスの破壊を止めてくれないかしら」

 

 ブルマの提案にビルスとウイスは予想をしていなかったのだろう。目を丸くして少しばかり唖然としているようであった。

 

「突き止められてなかったら直ぐに破壊しちゃうよ」

「ええ、構わないわ」

「躊躇がない。面白いね、君。いいよ、もしブラックの正体を突き止めることが出来たら破壊は後回しにしてあげる」

「破壊は止めてくれないの?」

「こればっかりはね。一人の命で第七宇宙の全てが守れるんだ。比べるまでもないだろう」

 

 ビルスが言っているのは間違いではない。

 ブルマだって余計なリスクを取りたくないのはカプセルコーポレーションにいる者として良く理解できる話であったし、取りあえずはブラックの正体さえ突き止められれば後は何とでもなるので頷きを返した。

 

「トランクス…………ああ、ちっさい方のトランクスの方ね。前に集めてくれたアレを持って来て」

「お、おい、ブルマ。トランクスに何を取りに行かせる気だ」

 

 後ろにいた現代トランクスに何事かを頼むブルマに、もしもブラックの正体を突き止められなければ破壊されることを心配したベジータが問い質す。

 

「本当は私の誕生日パーティーまでは秘密にしておきたかったんだけどね」

 

 走って頼まれた物を取りに向かった現代トランクスを見送ったブルマは、我に秘策有りとベジータを見てニヤリと笑った。

 

「ドラゴンボールで神龍を呼び出して聞くのよ。ゴクウブラックの中身は誰なのかって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西の都は夕方を迎えていたのだが、何故か一気に空が真っ暗になって夜になった。

 大多数の人が違和感を覚えながらも、その直後に閃光が奔って大きな龍が立ち昇ったのだが、誰もがカプセルコーポレーションの新しい開発によるものだろうと勝手に納得してしまったことで大きな騒ぎにはならなかった。

 

『どんな願いも叶えてやろう。さあ、言うがいい』

 

 ドラゴンボールを七つ集めると呼び出せる神龍が姿を現し、カプセルコーポレーションの上空から悟空達を見下ろす。

 神龍は何時ものように呼び出したのが悟空達と知るや、また誰かが死んだか何かを壊したのかと思いながら一人一人の顔を見ていったところで馴染みのない顔が二人いることに気が付いた。

 

『び、ビルス様!?』

 

 破壊神ビルスと天使ウイスを視認した神龍の厳かな声が途端に裏返る。

 

『こ、これはビルス様、初めまして……』

「挨拶はいいよ」

 

 長年に渡ってドラゴンボールを使って来た悟空達ですら見たことのないぐらいの神龍の驚き様と低姿勢振りである。

 ようやくブルマもマズイ相手に啖呵を切ったことを後悔し始めていた。

 

「説明すると長いから簡潔に聞くよ」

 

 一言一句聞き逃しはしないとばかりにビルスの動向に目を光らせていた神龍は嫌な予感に身を震わせた。

 

「さっきまでここにいたゴクウブラックの正体を教えなさい」

 

 既に願いどころか命令形になっていることに気付いた神龍は全能力を使って、そのゴクウブラックの正体を突き止めなければ自分が破壊されると直感したのだった。

 実際はビルスにそんなつもりはないのだが破壊神という名と今までやってきた所業を知っているので、思い込みとは真に恐ろしい物である。

 

 

 




今回はちょっと短め、タイトル詐欺な回でした。

現時点で明かされたゴクウブラックの情報を整理し、その正体に迫る。

未来トランクス、破壊不可避な状況にブルマが神龍頼みを提案。
神龍、とんだとばっちりをくらってしまう。

次回、『第二十六話 行け、未来へ』

君は神龍の冷や汗を見る……。


追記:本作においてのゴッドとブルー、ロゼの強化率について活動報告に上げました

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