未来からの手紙   作:スターゲイザー

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悟空は戦い続けることを選択した。少なくともセルもまたそれを望んでいた。
悟飯に託すにしてもセルを消耗させることは決して悪い事ではない。自分に出来ることを限界まで…………それはセルを甘く見過ぎではないか?


第三話 悟飯の選択

 

 

 孫悟空は仙豆を食べてセルと闘い続けることを選んだ。

 仙豆は食べればどんな怪我も疲労もたちどころに回復する。疲労の極致にあった悟空を全開状態にまで回復させた。

 戦いをもっと楽しみたいが為にセルは一番強い悟空に仙豆を呑むように求めた。悟空が完全回復しても自身の方が上回っていると余裕があるからこそ出来た行動である。

 

「……っ!!」 

 

 その余裕を示すようにセルに殴り飛ばされた悟空が大きな岩塊の一つに背中から叩きつけられる。

 悟空が激突した衝撃で岩塊は粉々に砕け、舞い上がった粉塵の向こうに姿が隠れる。セルも気を感じ取れるので姿を隠せても大きな利点はない。仮に気を抑えて奇襲しようにも今の悟空は消耗し過ぎて攪乱することも出来ない。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………孫悟空、貴様との戦いは実に有意義だったぞ」

 

 悟空が仙豆を呑む前よりも更に消耗したセルが言葉通り満足した笑みを浮かべている。

 セルの声を聞いて岩塊から体を起こそうとした悟空が瓦礫の一つを掴んで身を引き起こそうとするも、その瓦礫が崩れたことで為せない。

 

「ぐっ……」 

 

 自力では立ち上がることすら出来ず、超サイヤ人を維持できずに普通の状態に戻ってしまう。

 

「褒めてやろう、孫悟空。そして、あの世で誇るがいい。完全体の私をここまで追い込めたのは貴様が最初で最後だろうからな」

 

 歩いて岩塊に近づいたセルが力を失った悟空の胸元のシャツを掴んで引き上げる。物のように扱われているのに反抗することも出来ないほど悟空は消耗しきっていた。

 

「ベジータやトランクスでは力を上げたとはいえ、貴様よりも劣っているはず。貴様以上の戦いは出来んだろう。ふっ、メインディッシュを先に食べてしまっては前菜には心が躍らん。これは誤算だったな」

 

 勝てないのは分かりきっていたこと。それでも戦い続けたのはセルを消耗させることが目的。

 負けようとも少なくともその目的は達成した。

 

「へっ、へへ…………オラに勝てても、そんなに疲れ切ってて大丈夫か?」

「確かに、この状態で連戦をすれば私であっても危ういだろう。そういえば、貴様らは体力を回復させる良い物を持っていたな」

「何?」

 

 にも関わらず、余裕を見せるセルに悪寒を感じてその顔に手を伸ばそうとするが、その前に軽く放り投げる。

 既にボロボロになっていたシャツが振り回された所為で破け、同じように脆くなっていた胴着諸共に千切れ飛ぶ。上半身裸になった悟空が二度、三度跳ねて地面に転がる。

 

「戦えなくなった貴様に、もう興味はない」

 

 地面に叩きつけられた時に切れた頭部の傷から血を流しながら、うつ伏せの悟空が地に手を付いて必死になって顔を起こすとセルは悟飯達がいる方に首を向けた。

 

「む!?」

 

 その瞬間、悟飯達とは別の場所にいた何者かが背後からセルをがっつりと拘束する。

 

「16号!!」

 

 人造人間16号がその巨体を活かして背後からセルを抱え上げ、持ち上げる。

 

「あ、アイツ何時の間に」

「16号はロボットだから気配に気づかなかったんだ!!」

 

 ピッコロが驚き、クリリンが人造人間が気を持っていないが故に気配を悟られなかった理由に気付く。

 

「ぬっ、外せん!?」

「今の消耗した貴様なら俺でも倒せるぞ!!」

 

 17号を吸収した第二形態のセルにも及ばなかった16号では、18号も吸収して完全体となった今は足元にも及んでいないが悟空との連戦で消耗している今ならば拘束し続けることぐらいなら出来る。

 

「お前達まで巻き込んで犠牲にしてしまうことを許してくれ! 俺はセルと共に自爆する!!」

「な、なにっ!?」

「これが体に秘められた使ってはいけない最期の力だ! セル! 幾ら貴様でも、これだけ密着されていれば塵も残るまい!!」

 

 16号の言い様からこの辺り一帯を吹き飛ばす爆弾を接触状態で使われれば、今のセルでは確実に生きていられるとは言えない。

 

「くっ」

 

 焦ったセルが拘束している腕を外そうともがくが、決死の策を成就させようとしている16号も譲らない。

 

「まさか孫悟空を殺す為に作られた俺が助けるような行為に出るとはな。だが、目的は果たせよう―――――――――だぁっ!!」

 

 拘束を外される前に自爆した―――――――はずだった。

 

「な、何故だ?! 何故爆発しない!?」

「じゅ、16号…………カプセルコーポレーションで修理した時、博士が爆弾に気付いて物騒だったんで取り除いたんだって言ってた」

 

 爆発しない己に16号が呆然としていると、爆弾のことをブリーフ博士から聞いて事情を知っていたクリリンが説明する。

 

「驚かせてくれたな、16号。流石の私も些か胆が冷えたぞ!」

 

 拘束されていても動く手の向きを変えて気功波を放って16号の胴体を粉砕して撃ち抜く。

 

「屑鉄風情が」

 

 気功波によって粉砕された16号の手足が飛び散る中で、言い捨てたセルの隙にとクリリンが懐に手を入れて仙豆が入っている小袋を取り出した。

 

「悟空っ!!」

 

 未だ16号の手足が地面に落ちぬ中でクリリンが悟空に呼びかけながら小袋から仙豆を取り出している。

 セルはかなり疲労していて、悟空が仙豆を食べて回復すれば十分に倒せる。今ならばベジータやトランクスでも可能かもしれないが、やはり悟空のずば抜けた強さをこのセルゲームで目にして期待したのだ。

 クリリンの行動が意味するもの、先のセルの言葉が頭の中でリフレインする。

 

「まさか!?」

 

 笑みを浮かべたセルが何をしようとしているのかを察した悟空が止めようとするが、立ち上がろうとしたところで膝がガクリと折れて行動に移せない。

 

「駄目だ、クリリン!!」

 

 悟空の叫びは遅すぎた。

 

「わっ!?」

 

 超スピードでクリリンの目前に移動したセルが投げようとしていた腕を掴んで仙豆を奪い取る。

 

「か、かえっ!?」

 

 悟空の為に仙豆を奪い返そうと行動に移しかけたの見たセルは、返す刀で裏拳をクリリンの頬に叩き込んで弾き飛ばす。

 

「クリリンさん!」

「安心したまえ。私に仙豆を渡してくれたのだ。まだ殺しはしない」

 

 悟飯がクリリンに駆け寄って抱え上げれば、セルの言う通り痛みに呻いて気を失っているが息はしている。

 クリリンとセルの戦闘力の差を考えれば一撃で殺されてもおかしくはない。手加減までして殺さなかったのは、悟空がまだはっきりと負けたわけではないからだろう。

 

「これが仙豆か」

 

 軽く跳びながらも大きな跳躍で悟空の近くに降り立ったセルが奪い取った仙豆をジロジロと見る。

 こんな小さな豆で完全回復することは悟空が実際にフルパワーになったのを目にしているからこそ疑いはしない。しかし、こんな物で本当に全回復するのかと一抹の不安を抱きつつも、口に放り込んで噛み呑み込む。

 

「はぁ――っ!!」

 

 仙豆が喉を通った直後に体力どころか、負った傷まで治ったセルの口から雄叫びを漏れる。

 

「成程、こいつは良い物だ」

 

 全回復した己の状態に仙豆の有用性を再認識したセルがニヤリと笑うのを見た悟空は悔しさに打ちひしがれる。

 

「ち、ちくしょう……」

「そうだ、私はその顔が見たかったのだ」

 

 これでセルを消耗させて後に戦う者達に託す作戦に意味がなくなった。

 

「とはいえ、16号には驚かされた。完全な私にも油断があったということだ」

 

 悟空の打ちひしがれた姿を見たセルが愉悦に笑い、その笑みを収める。

 

「このセルゲームこそ、私の油断の象徴だ。武舞台を消し、この地球で最も強い孫悟空を下した今、セルゲームに最早意味はない」 

「せ、セル……!」

「冥途の土産に見せてやろう、孫悟空。このセルの恐ろしい真のパワーを!」

 

 腰だめに構えた拳に力を込めたセルが隠されたヴェールを脱ぐ。

 

「かあああああああ――――――っ!!!!」

 

 セルの全身から噴火の如く噴出される気の迸りに呼応するように大地が揺れる。

 

「――――ああっ!!」

 

 ドン、と耳元で花火が爆発したかのような爆音が響き渡り、離れていた悟飯達を吹き飛ばさんばかりにセルを中心として衝撃波が襲う。

 

「はああああああぁぁぁぁ…………っ!!!!」

 

 衝撃波によって巻き上げられた悟空は、地球全体が震えるような気の昂りに飛びそうになった意識を繋ぎ止めて顔を上げる。

 

「どうだ、これが本気になった私だ」

「…………だから、なんだ。どんなに力の差があったって、それでも戦わなくちゃなんねぇんだ!!」

 

 セルが真のパワーを見せたからといって、悟空は今更怖気づいたりはしない。

 悟空は戦える状態ではない。現に超サイヤ人にはなれず、素の状態のままだ。超サイヤ人になれるほど回復していないことを示している。

 地に手を付き、足に力を込めて立ち上がる。

 ピッコロ大魔王、ピッコロ、ラディッツ、ベジータ、フリーザ、そして人造人間達。悟空よりも強い敵など幾らでもいた。自分よりも強い程度で諦めることなどあり得ない。

 

「これだけ絶望的な状況でありながらも心を折らないところは称賛しても良いが、それが何時まで持つかな」

 

 悟空の心を折ることを次の楽しみと定め、セルの目は悟飯達に向けられた。

 

「息子や仲間が次々に殺されても、貴様の心は折れないでいられるか。試してみるとしよう」

「何を……」

「安心するがいい。あんな奴ら如きに私が相手をしてやるまでもない。1、2、3…………気絶しているクリリンを除いて6人か、良し」

 

 前に立つ悟空には、胸を張って背中の昆虫染みた羽を広げたセルが普段は収縮している尻尾の入り口を広げていることに気付いていない。

 

「ふんっ!」

 

 セルの息むような声と共に尻尾から何かが出て来る。

 次いで出て来たそれらは二本足でしっかりと立ち、「ウキキ」と楽し気に笑った。

 

「これもピッコロの能力の一つだ。私の子供達…………さしずめ、セルジュニアと言ったところか」

 

 自らを子供大に小さくした現身たちをセルジュニアと名付けたセルは困惑している悟空の前で再び笑い、悟飯達を指差した。

 

「さあ、行けセルジュニア達よ。あそこにいる者達を嬲り殺せ!!」

「や、止めろ――っ!!」

 

 セルの言葉を意味するものを理解した悟飯達が瞬時に戦闘態勢を整えるのと、セルジュニアが顔を向けて飛び上がるのはほぼ同時だった。

 

「無駄だ、絶対に勝てはせん。小さくとも私の子供達だ」

 

 超サイヤ人になるベジータとトランクス、力を解放する悟飯、重りのターバンとマントを外すピッコロ、気を高める天津飯とヤムチゃ。

 それぞれに襲い掛かったセルジュニアの力は恐るべきものだった。

 

「ヤムチャと天津飯は予想通り、ピッコロでようやく戦いになるレベルか。ベジータとトランクスで互角とは期待以下だったが…………」

 

 人造人間17号と18号以下のヤムチャと天津飯がセルジュニアに手も足も出ず、17号と互角だったピッコロも想定の範囲内。第二形態以上の力を持っていたベジータとトランクスの力の伸びは、それ以前からの伸びに比べれば大したことはない。想定通り、悟空に二歩も三歩も劣る。

 概ね、想定の範囲内に収まっていた戦士達の中で異彩を放っている者が一人いた。

 

「孫悟飯のあの強さは予想外だったな。或いは単純な気の強さならば貴様よりも上なんじゃないか、孫悟空」

 

 声をかけられても悟空には何も言えない。

 固定観念は意外に覆られない。如何に超サイヤ人に目覚めようとも、悟空やベジータ達と比べれば何歩も劣るというのが皆の認識だった。当初はこの油断を利用して、悟飯の真のパワーさえ発揮できれば確実に勝利できたものの、悟飯の強さを見られてしまっては、セルの油断を誘う作戦は不可能となった。

 今はまだセルジュニア達も叩きのめすことを楽しんでいるから殺されてはいないが、一方的に殴られ蹴られているヤムチャと天津飯は何時殺されてもおかしくはない。

 

「止めさせろ! トランクスと悟飯以外はもう二度とドラゴンボールで生き返ることは出来ないんだぞ!!」

「私が貴様の言うことを聞かなければならない理由があるとでも?」

 

 死んだことがないのはトランクスと悟飯だけ。ドラゴンボールを使っても生き返れないからといって、セルが悟空の言うことを聞いてセルジュニアに攻撃を止めさせなければならない理由はどこにもない

 

「私は止めん。止めたいのならば力尽くで止めてみるがいい。出来るものならな、はっはっはっ」

「くっ、くそォオオオオオオオオオオ!!」

 

 セルジュニアを止める為に悟空は力を込めようとするが、体力が尽きており超サイヤ人にもなれない。

 

「なんとも不甲斐ない。これが天下の孫悟空か。またクリリンが目の前で殺されれば貴様の心も完全に――」

 

 言葉でも悟空を嬲るのを止めないセルが何かに気付いたように顔を動かした。

 

「はぁ――――ッっ!!」

 

 唯一、セルジュニアを相手に有利に戦っていた悟飯が、この絶望的な状況を打開する為にセルジュニアを弾き飛ばしてセルへと飛び掛かる。

 悟飯は皆を救うことが出来るのか。

 

 

 




フルパワーを見せたセル。セルジュニアによって追い詰められた仲間を救う為、悟飯が飛び出した。

悟飯もまた選んだのだ。その結末を一時間後に見届けろ。

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