未来からの手紙   作:スターゲイザー

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一度完結させておいてなんですが、ネタが降って来たのでベビー編が始まりました。





ベビー編
第三十一話 静かなる胎動


 魔人ブウとの戦いでゴジットのパワーを感じとったのはクウラだけではない。

 第7宇宙にある地球から遥か遠くの銀河を漂っていた宇宙船にいた存在もまたサイヤ人の気を感じ取り、長い眠りから目覚めた。

 

「サイヤ人……」

 

 まるで機械の赤ん坊の如き存在は、培養液に満たされた中で静かに怨念を吐き出す。

 

「おお、ベビー」

 

 その赤ん坊が浮かぶカプセルの前で、長過ぎる眠りから目覚めた復讐の化身の名を呼びながら老人――――ドクター・ミューが歓喜の声をあげた。

 

「エネルギーは既に溜まっておる。今、培養液から出してやろう」

 

 ドクター・ミューはカプセルを制御している制御盤を操作してベビーに繋がっているチューブを外していく。

 全てのチューブが外れて直ぐにカプセル内を満たしていた培養液が抜かれていく。

 

「今こそ憎きサイヤ人に復讐を。そして母なる故郷であったツフル星を取り戻すのだ」

「…………まだだ」

 

 シュー、と音を立てて開いたカプセルから一歩出て来たベビーがドクター・ミューの言葉を遮る

 

「さっきの力。今のままでは勝てない」

 

 遥か離れた南の銀河まで震わせたほどの力には今のベビーでは絶対に勝てない。

 

「何を言っている。お前は私が作り出した最高傑作なのだぞ!」

「愚か者め」

 

 喚くドクター・ミューの顔面を瞬間移動したかのような速度で移動して掴むベビー。

 

「貴様はあの凄まじいまでの力を感じなかったのか?」

 

 空中に浮かぶベビーに顔面を掴まれて持ち上げられているミュ-は何とか降りほどこうともがくがビクともしない。

 

「力、だと?」

「その様子では感じ取れなかったようだな。やはり貴様は失敗作だったようだ」

「べ、ベビー! 生みの親に向かってなんたる口の聞き方を……!!」

 

 顔を手で覆われているのでドクター・ミューは自分の言葉を聞いたベビーがどんな表情になっているかに気付けない。

 

「そう、ベビー。貴様が名付けたその名からしてありえない」

 

 ドクター・ミューには万力の如く思えるベビーの手に更なる力が込められる。

 

「赤ん坊だと? ふざけるな! よりにもよって最も無力な存在の定義を俺に付けるなどあり得ぬ!」

「ぉ、おぉぉぁっ!!?」

 

 軋む。軋んでいく。

 ミシミシと音を立ててベビーの手がミュ―の顔にめり込んでいく。

 

「貴様は俺が作ったマシンミュータントに過ぎない。被造物が創造主を定義するなど百万年早いのだ!」

 

 グシャリと剛力の如き力で握り潰されるドクター・ミュー。

 

「今は勝てない。だが、何年掛かろうとも必ず殺してやる。待っているがいい、サイヤ人共」

 

 手の中にあるドクター・ミューを構成していた機械の部品達がバラバラと落ちていくのを見下ろしたベビーは、屑鉄となった元の存在など最初から無かったかのように頭を失った体を投げ捨てて、遥かな銀河の先にいる敵を見据える。

 

「貴様らを根絶やしにし、全宇宙ツフル化計画を遂行するのだ」

 

 最早、誰も覚えていないほどの遠い過去の遺物が動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴクウブラックとの戦いから三年が経った。

 パオズ山から少し離れた人の来ない荒れ地に二人の人物がせわしなく動いている。

 

「また強く成ったな、悟飯」

「お父さんにはまだまだ及びませんよ」

 

 同じ胴着を着た悟空と悟飯が向かい合って構えを取り、ニヤリと笑い合った直後に常人の目ではとても見えない速度で動き出した。

 

「はっ!」

「ふっ!」

 

 攻撃と防御が入れ替わり、脆すぎる足場の事など考慮の外にある二人の体が真っ直ぐに相手に向かって飛ぶ。

 それこそ十メートル以上を助走もなく跳び、重力を力技で捻じ伏せた二人の体が中間地点で容赦なく激突する。

 

「うおおおおっ!」

「おああああっ!」

 

 牽制の、あるいは距離を測るようなジャブのような攻撃は無い。互いに必殺の意を込めた拳が、衝撃波すら発しながら交差する。

 

「くっ」

「ぬっ」

 

 悟空が咄嗟に傾けた頭部を、悟飯の脇を、両者の拳が掠めて鉄槌のごとき拳が突き抜ける。拳の端から迸る力が、地面と空中をそれぞれ抉った。

 突進の勢いのまま、二人の体が激突する。数トンにも達する衝撃を、揺るがず二本の脚で受け止める父と息子。しかし、地面は二人のように受け止めらずに、中心にボコッと一メートルは陥没した。これを見れば激突の衝撃が如何ほどのものか見ている者にも理解できるだろう。

 激突の衝撃波が無尽蔵に撒き散らされる。至近距離で睨み合う。前進に使ったエネルギーは初撃で完全に失った。

 

「そらっ!」

 

 悟空のアッパー気味の拳が悟飯の鳩尾を狙って放たれるが手の平で受け止められる。

 ドシン、と悟飯を中心として低く大きな音を広がり、悟飯の足が威力に押される様に僅かに後ろへと動く。

 

「ちっ」

 

 攻撃を受け止められたことを見て取った悟空は舌を鳴らすと、腕を戻す勢いのまま体を捻り左足の回し蹴りを放つ。

 が、悟飯の腕によって防がれた。

 左足を戻す間も惜しんで、上体を後ろに倒して両手を地面に着け後転。同時に振り上げた右足の爪先で悟飯の顎を狙ったが、軽く顔を逸らすことで躱された。巻き起こった風で悟飯の髪が舞い上がる。

 

「はぁぁっ!」

 

 風に自ら踏み込んだ悟飯の重い拳が着地したばかりの悟空の腹を貫き――――。

 

「オラの勝ちだ」

「…………僕の負けですね」

 

 悟飯の拳は残像を突き抜け、横合いに出現した悟空の拳が頬に触れる寸前で止まっている。

 

「初歩的な技に引っ掛かったな」

 

 悟飯が負けを認めると、悟空はニヤリと笑って拳を引く。

 

「まさか残像拳を使うなんて予想してませんでした。妙に呆気ないなとは思ったんですよ。いや、その前からお父さんにしては攻撃が生温かった。もしかして全て作戦だったんですか?」

「全部が全部ってわけじゃねぇぞ」

 

 そこまで言って一度間を置く。

 

「悟飯の反応スピードなら最後に飛び込んで来れるって考えた。後はそこに罠を仕込んでおけば一発だ。ここまで上手くいくとは思わなかったけどな」

 

 最終的な仕留め方とある程度の想定通りに進んだが、それも悟飯の強さを見込んでこそ。

 

「敵いませんね、お父さんには」

「いいや、悟飯も中々のものだったぞ。全然、体も鈍ってねぇし、ヒヤリってすることも多かった」

「ビーデルと組手は続けてましたから。ただ、やっぱり勘は鈍っているかもしれません」

 

 今も鍛錬と実戦を繰り返している悟空に比べれば、体はともかくとして実戦の勘が鈍っていることは先の罠を見抜けなかったことも明らかなので、悟飯は少し困ったように頭を掻く。

 

「普通の生活の中じゃ、それも仕方ねぇさ」

 

 悟空のように実戦の機会を求めて界王に戦う場はないかと聞きに行けるような方法もないのだ。

 第一、決して戦いが好きなわけではない悟飯の性格的に方法があったとしても選ばないだろう。

 

「もう陽も暮れて来る。うちでメシは食ってくのか?」

 

 悟空は地平線に消えて行く太陽を見上げて悟飯に聞く。

 

「いえ、ビーデルが待っているので一度そっちに寄ってから家に帰ります」

 

 悟飯はハイスクールをトップの成績で卒業し、ビーデルと結婚した。

 家は歩いて直ぐのところにあるので離れた感じはしないのだが、やはりこういう時に実感する。

 

「大学はどうだ?」

「大変ですけど、なんとか。多少、ストレスも溜まりますけどお父さんがこうやって相手をしてくれるので助かってます」

「オラとしては本当に助かってるけど」

 

 そう言ってくれるなら悟空としても気を使わなくて済む。

 

「僕としては実戦の勘を取り戻したいです。また何時どんな敵がやってくるか分かりませんから」

「物騒な奴らの相手はオラやベジータに任せておけって。悟飯は自分の家族のことを大事にしとけ」

「大事にはしてますよ。だけど、お父さんは僕達に気を使い過ぎなんですよ」

「そんなつもりはねぇんだけどな……」

 

 悟飯としては、未来から帰って来た悟空が家族のことを常に気にし過ぎで、どこか負い目を感じているように思えて、悩みがあるのならば話してほしいと思っている。悟天やチチも気づいている。

 悟空は気を使われていることを理解しながらもゴクウブラックの所業が自分の所為だという思いがあって言えるはずもない。

 

『悟空! 聞こえるか!!』

 

 互いに気を使って気まずい雰囲気になりかけたところで、二人の頭に直接声が響いて来る。

 

「界王様か? ちょっと声が大きいぞ」

『一大事なんじゃぞ! 少しは慌てんか!!』

 

 現実の声ではなく、テレパシーのように直接二人の頭に声を届けた界王は悟空の注文に唾でも飛ばしてそうな剣幕である。

 

「何に慌てればいいんだよ」

 

 用件も言わない内から理不尽な要求をしてくる界王に辟易とした様子の悟空に悟飯が苦笑する。

 

『ボージャックが復活したんじゃ』

「…………誰?」

『嘗て銀河を荒らし回っていたヘラー一族の生き残りじゃ。4人の界王によって封印されていたが何者かによって南の界王が殺されたらしく、復活したようなのだ』

 

 へぇ、と特に興味もなさそうな悟空は生返事を返す。

 

「封印ってことは、ブウよりも強いんかソイツ」

『蘇ったセル以下じゃろうな。あれ? なんで儂、こんなに焦ってたんじゃろうか』

 

 当時は必死扱いて他の銀河の界王を協力してボージャック一味を封印したが、頼めば大体なんとかしてくれる悟空の強さは魔人ブウを遥かに超えた神の域にある。

 今更、ボージャックが蘇ったところで焦る必要も無かった。

 

「用件ってのは、そのボージャックってのを倒せばいいんか?」

 

 話の流れ的にそうとしか考えられないが一応聞いておく。

 

『ああ、南の界王が殺された調査はこちらでするから退治だけ頼めるか?』

「いいけどよ、こういう時の破壊神なんだろ。ビルス様がいるじゃねぇか」

『お、お前、あの方を動かすなどとんでもないことだぞ!』

「オラならいいのか?」

『散々、儂の星を修行場所として貸してやっとるだろうが。しかもタダ飯まで食っといて、儂の頼みは聞けんというのか』

「そんなこと言ってねぇって。界王様には感謝してるよ」

 

 都合良く使われるのは気分が良くないのでビルスの名前を出してみたが藪蛇だったらしい。

 

『昔ならともかく、今の神の域に達した悟空なら大して苦戦もせんだろう。今までの貸しを返すと思って行ってくれ』

 

 そう言われるとゴクウブラックの一件で神に対して思うところのある悟空には複雑なところ。

 

「で、そのボージャック某さんはどこにいるんだ?」

『南の銀河の…………って、言っても分からんだろ。こっちに来い。直接気配の場所を教える』

「分かった」

 

 切れた念話に悟空は悟飯を見る。

 

「お母さんには僕から言っておきます」

 

 悟飯は幾ら実力差があったとしても時間がかかる可能性もあるのでチチに伝えておくと請け負った。

 

「悪いな。晩飯までには戻るつもりだけど、戻れなかったら先に食べて寝といてくれって伝えてくれ」

「分かりました。お父さんも無理はしないで」

 

 心配する悟飯に悟空は親指を立てて瞬間移動でいなくなった。

 

「あ、流れ星」

 

 悟空を見送った悟飯が家に帰ろうとすると、空を一筋の流れ星が流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前に西の都近くに墜落したという宇宙船がカプセルコーポレーションの研究施設の一つに運ばれた。

 

「無人で落ちてきたのに地上と船体に被害が少ないのは自動運転の機能でもあるのかしら」

 

 大きさが大きさなので、西の都の外れにある研究施設に運ばれた宇宙船を見に来たブルマは、現状分かっている範囲を羅列しているだけの解析データが書かれた紙をペラペラと捲る。

 

「地球のよりかは上だけど、ナメック星やサイヤ人達が使っていたものに比べれば数段落ちる感じか」

 

 各所で作業員が取りついている船体を見上げたブルマはデータから総評を下し、近くにいた主任研究員を呼ぶ。

 

「本当に誰も乗ってなかったの?」

「嘗ていた形跡は見られますが、食料や衣類など地球人であれば必要と思われる物資がどこにもありません。宇宙人がそれらを必要としないのであれば別ですが」

 

 殆ど地球人と変わらないサイヤ人を例外として、例えばナメック星人は水さえあれば生きていけるピッコロに聞いたことがあったブルマは少し考えた。

 

「乗員は何らかの理由で宇宙船を下りたけど、自動運転で進んでいたら地球まで来ちゃったって感じ?」

「恐らく」

「どこの星から来たかとかは分かる?」

 

 先代の神が地球にやってきた宇宙船を改装してナメック星に向かった際、着陸は音声認識で指示しただけで後は自動で宇宙船が行ってくれている。

 乗員が何らかの理由でいなくなって、進んでいたら地球があって勝手に着陸してしまったと考えるのが自然だった。

 

「現在調査中です。何分、言語体系が違いますので解析には時間がかかるかと」

「ナメック星のとは違うの?」

「また別の言語でしたので参考にはならないかと」

 

 ナメック星の言葉は従者であるポポがある程度知っていたから解析に苦労しなかったが、どうやら今度はそうはいかないようである。

 

(ベジータなら知ってるかしら?)

 

 地球人からすれば宇宙人の部類に入るサイヤ人のベジータは今では地球に居ついているが、嘗ては宇宙の広範囲を移動していたと聞いている。

 もしかしたら見たことがあるかもしれない可能性もあるので、一度見てもらうのもいいかもしれない。

 

「まあ、最終手段だけどね」

「は?」

「こっちの話」

 

 毎回毎回困ったからといって頼っていては技術が向上しない。

 別に時間が無いわけでもないので、解析技術を向上させる為にもベジータに頼るのは最後の手段とするべきである。

 

「汚染物質とかはないみたいだし、中に入ってもいい?」

 

 真っ先に検査された中に疫病の類の元となるウイルスや汚染物質の類は検出されていない。

 

「構いませんが、警備員を呼びますので少しお待ちを」

 

 カプセルコーポレーションの社長であるブルマを、まだ未知が多い宇宙船に一人で入らせるにはいかない。

 研究者である自分達では護衛にはならないので、主任研究員はブルマの傍を離れて警備員を呼びに行った。

 

「平気平気。なんかあったら呼ぶから」

 

 一度徹底的に検査されているのに危険も何もないだろうと、警備員を待つ気もないブルマはさっさと白衣を揺らして宇宙船の扉を開けて中に入る。

 

「操縦席はあっちかな」

 

 人がいない家は直ぐに傷むという。宇宙船にもその理論が当て嵌まるのかは分からないが、なんとなく無人であったことは疑わしいと思いつつ当たりをつけて進む。

 

「あんまり傷んでいる感じもしないし、本当に人はいなかったのかしら」

 

 壁を触っても傷んでいる感じはあまりしない。

 

『勘が良い』

「誰っ!?」

 

 と、ブルマは何かの気配を感じて振り返るが誰もいない。

 

「気にし過ぎかし……っ!?」

 

 ら、と続けようとして再び振り返った時には口が何かに覆われ、体に何かが入ってくる異物感にブルマの意識は一気に闇に落ちていく。

 

「その体、使わせてもらうぞ」

 

 悪意は静かにその鼓動を強めていく。 

 

 

 




実はメタルクウラ編は本来はベビー編になる予定だったのですが、その後のゴクウブラックやザマスと絡めるのが無理だったので予定変更。
ですので、その名残が序盤に残っています。

前章より3年経過し、ブウ編より4年が経過していることになります。

とっくの昔にビルス様は起きて行動しているので神と神はないですが、さてどうなることやら。

南の界王が何者かに殺され? ボージャック一味が復活。い、一体誰がそんなことを……!!


次回 『第三十二話 忍び寄る牙』


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