未来からの手紙   作:スターゲイザー

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ボージャック復活にも意味があったお話。



第三十二話 忍び寄る影

 

 

 

 南の銀河でゴジットのパワーを感じ取ったベビーは、その時のパワーを超えなければならないとドクター・ミューの部下であったリルド将軍らにエネルギーを集めさせていた。

 リルド将軍の強さは魔人ブウにも匹敵する。

 世が世ならば伝説にも成れたであろうマシンミュータントの命運は、たった一人の手によってあっさりと尽きた。

 

「破壊」

 

 魔人ブウと同等の強さを持ったリルド将軍は、破壊神ビルスの破壊の力によってこの世から呆気なく消滅する。

 

「ん? どうやらあの星が本体だったようだね」

 

 リルド将軍の本体である惑星M2も直後に消滅していくのを宇宙で見届けたビルスは意外そうな表情を浮かべる。

 

「マシンミュータントと呼ばれる機械生命体の一種のようです。出来れば、破壊する前にエネルギーを集めていたその目的を知りたかったのですがね」

 

 ビルスの隣で惑星の消滅を見届けたウイスとしてはマシンミュータントの目的にこそ興味があったのだが、破壊してしまっては問い質すことも出来ない。

 

「界王神の奴が言っていたクウラとかいう奴と一緒だろ」

「サイヤ人への復讐、ですか? しかし、あれとは別口のようですが」

「破壊した奴のことなんてどうでもいいだろ。ウイスは気にし過ぎなんだよ」

 

 本来ならば後数年は寝ているはずだったところを起こされ、寝起きの機嫌の悪さを引きずっているビルスは細かいことを考えたくはないようだ。

 他の宇宙と比べたら寝てばかりの破壊神のお守りをしなければならない天使のウイスは、やれやれとこれ以上はこの話題を蒸し返しても機嫌が悪くなるだけだと判断して諦めた。

 

「超サイヤ人ゴッドがいるという地球に行くぞ」

「はいはい」

 

 起きた理由は超サイヤ人ゴッドと戦うこと。

 地球に着く直前に時空振を感じ取って破壊神としての仕事を行わなければならなくなったが、この時の問題はビルスとウイスがいなくなった後に現れた者にこそあった。

 

「…………あれが神。それも破壊を冠する破壊神か」

 

 リルド将軍から採集したエネルギーを貰う為に近くにいたベビーは運良くビルス達に気付かれないままその力を目の当たりにした。

 

「俺の感知外から遥かに離れた場所でも、僅かでも近づけば気づかれていたかもしれん。あれが神の領域か」

 

 ツフルの知識から破壊神のことは知っていたが、誇大した伝説に過ぎないと思っていた。

 現実は伝説をも超える力を有していたことを辛くも証明してしまった。

 

「リルド将軍から送られて来たデータはないに等しい」

 

 末期の際に送られて来たデータから破壊神の存在と、データでは計れない神の領域を知る。

 

「全宇宙ツフル人化計画の前には、破壊神はサイヤ人以上の脅威と見るべきだろう」

 

 サイヤ人への復讐と同時に全宇宙の生物に卵を産みつけ洗脳して部下とする「全宇宙ツフル人化計画」の為には、いずれビルスも倒さなければならない。

 

「神の力は感じ取れない。ならば、感じ取れる者の力を我が物とすればいい」

 

 機械は慌てない。コンピューターは動揺しない。

 機械生命体であるベビーに焦りはなく、足りないのならば余所から採取すればいい。エネルギーだってそうしているのだから今更気にするはずもない。

 

「可能ならば神そのものをこの身に取り込むことが最善。マシンミュータント達よ、エネルギー採集を続けながら神に類する者達を捜索せよ」

 

 観測出来ない神の力。手っ取り早く神の力をその身に取り込むことが出来れば観測できるようになるだろうと、南の銀河中にマシンミュータントを放ってエネルギーを集めながら探索を開始する。

 メタルクウラとの激闘を終え、ナメック星のドラゴンボールで地球が復活したばかりの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に夜が深まった時間。

 気の早いものならば床についてもおかしくはない時間帯であったがベジータは風呂に入った後、自室のベットで枕元につけた電球のみで本を読んでいた。

 

「つまらん」

 

 大して面白くない週刊誌を読み終えたベジータはパタンと本を閉じると、端的に所感が口から零れ落ちる。

 つまらなさ過ぎて週刊誌をゴミ箱に投げ捨てたところで部屋の扉が開いた。

 

「あら、起きてたのベジータ」

 

 ベジータがいる部屋は正確にはベジータだけの部屋ではない。つまりはブルマとの共用の夫婦の寝室である。

 ブルマは研究者として時には昼夜関係なく行動しているのでベジータが先に寝てしまうことも多い。

 

「偶々だ。それよりも宇宙船はどうだった?」

 

 ブルマを待っていたのだが素直に言うベジータはベジータではない。

 

「昔、ベジータ達が使ってたのと比べれば数段劣るけど、一科学者として解析のし甲斐があるわ」

「そうか」

 

 そう言って白衣を脱いでソファーにかけて笑うブルマにベジータは頷きを返す。

 

「それよりも、ね」

 

 ベットに上がったブルマがベジータにしな垂れかかってくる。

 

「今日、いい?」

「ちっ、仕方ない」

 

 舌打ちをしながらも割と前向きなベジータは本を横に置いて顔を上げたところでブルマの違和感に気付いた。

 

『気づいたか。流石はサイヤ人の王子といったところか』

「ブルマっ!? ぐっ……ぁあっ!!」

 

 触れようとした手が止まったが、ブルマの手がベジータの首を絞めつける。

 一般的な地球人の女と変わらない筋力のブルマの手を振り解こうとするが、万力のように締まって来て果たせない。

 

「何ッ!?」

 

 ベジータはこのままではまずいと超サイヤ人ブルーになって拘束から抜け出そうとするが、ブルマの全身から気のオーラが迸っているのを見て驚愕する。

 

「気のオーラだと!? き、貴様…………ブルマじゃないな!!」

『頭の悪い猿だ。我が星を奪った貴様の親父もそうだった』

 

 明らかにブルマのものとは違う声と力。

 

「まさかツフル人!? 」

 

 生まれ故郷であるサダラを飛び立ったサイヤ人がツフル星に降り立ち、その星にいたツフル人を壊滅させて奪って名前を惑星ベジータとした。ベジータが生まれる前の出来事である。

 ベジータ王が奪った星はただ一つ、ツフル星だけだからベジータにも直ぐに分かった。

 

『そうだ。貴様ら憎きサイヤ人に復讐する為にやってきたのだ』

「ブルマの体に乗り移ったってわけか……! 寄生虫のような野郎が」

『なんとでも言うがいい。まずは、お前のパワーを頂くぞ!』

 

 接触状態のブルマの手からベビーの種子が皮膚を伝ってベジータの中へと入ってくる。

 

「ぬっ!? がっ、ぐぁああああああああああああああ?!?!?!?!」

 

 抵抗も虚しく体の中に入ってくる異物感にベジータが絶叫する。

 

「貴様如きが俺を支配できるなどと思うなぁぁ―――――っ!!」

 

 しかし、そこは神の域にまで至ったベジータ。

 超サイヤ人ブルーのオーラを極限にまで高めてブルマごとベビーを弾き飛ばす。

 

「きゃあっ!?」

 

 弾き飛ばされたブルマは壁に叩きつけられ、そのまま床に倒れ込んだまま動かない。

 

「神の気を宿そうとも所詮は猿だということだ」

 

 ブルマが離れたというのにベビーの声が聞こえてくる。

 

「どこだ!」

「俺は君に寄生するだけでなく支配するのだ。つまり、君になるわけだよ。ツフル人にな」

 

 ベジータの頬にベビーの顔が浮かび上がり、ニタニタとした気持ち悪い笑い声を響かせる。

 

「支配するだと、このベジータ様を」

「もう手遅れだ。どうだね。思い通りに体が動かんだろう」

 

 頬にベビーがいると分かって殴ろうとした手はベジータの意志に反してピクリとも動かない。

 

「悔しいか。これが我々ツフル人の貴様達への復讐だ。サイヤ人は俺の奴隷となる」

「この虫けら目。俺様の気で吹き飛ばしてやる」

「無駄だ、ベジータ」

 

 気合を入れようとしたベジータは、やがてその意識すらも遠のき始めていたがベビーに支配されるぐらいなら死を選ぶ。

 

「いいのか? その気功波は妻を向いているぞ」

 

 未だ体の自由が効かないベジータは気功波を作ったが、その手は知らずに床に倒れたままのブルマに向けられてしまう。

 

「下手な抵抗はしないことだ。腕を動かすよりも気功波を撃つ方が容易いのだからな」

「貴様ぁ――っ!!」

 

 それが心の隙となった。

 

「この俺の内側で眠るがいい。貴様の体は有効に活用してやる」

 

 ベジータの反抗も虚しく、ブルマが人質に取られては成す術もない。

 

「貴様の望み通り、孫悟空は倒してやる。この俺がな」

 

 その言葉を向けてやると、ベジータの意識はベビーによって奥底へと封じられた。

 

「ふぅ、腐ってもサイヤ人の王子、後少し力が強ければ弾かれていた。ブルマの体を利用できたことも含めて運が良かったな」

 

 ベジータを完全に意識の奥底へと封じたことを確信したベビーは一つ息をついた。

 ベジータの意識を読めばブルマでなければここまで容易に触れることは出来なかったことが分かり、余裕は見せていたが完全に乗っ取れたのは僅かにベビーのパワーが上回ったからに過ぎない。

 

「南の界王を吸収して神の力を手に入れていなければ危なかったな」

 

 地球に向かう段取りを付ける前に運良く南の界王の存在を知り、その力を取り込めたことも大きい。

 神は神を知るというが、南の界王を吸収したことで神の力をその身に取り込んでいなければ、あそこまで容易にベジータを支配することは出来なかっただろう。

 

「安心するがいい、ベジータ。貴様に向けた言葉は嘘ではない」

 

 己の奥底へと封じ込めたベジータへと向け、手向けの言葉を送る。

 ベビーが操る体はこのベジータ一つで十分。ならば、ベジータとブルマの記憶を読んでもう一人のサイヤ人を知ったベビーは良いことを思いついた

 

「カカロット、地球の名では孫悟空とかいったか。最強のサイヤ人。一人ぐらいはこの手で殺しておかなければな」

 

 サイヤ人の体で全宇宙ツフル化計画を行うことが最大の復讐となる。それがツフル人を滅ぼしたベジータ王の息子の体ならば尚更。

 しかも、サイヤ人の体でサイヤ人を殺すなど、こんな面白い見世物があるだろうか。

 

「――――父さん!」

 

 ゴッドにも成れないトランクスだが、家の中にも関わらずベジータの気がブルーに成って感じ取れなくなったことに何か異変があったのかと急いで部屋にやってきた。

 

「どうしたんですか!」

 

 扉を開いての第一声は荒れ果てた部屋を見てのものだった。

 唯一の光源だった枕元の電球も壊れ、室内はトランクスが開けたドアから入る廊下の灯りのみ。

 暗闇で見えづらいが家具が一切合体飛び散らかっている。何かの異変があったのは間違いない。だからこそ、部屋の中央に立つベジータの顔にまで意識が向かなかった。

 外見はベジータとほぼ同じだが、髪の色が銀髪に変化し、額と顎、眼球に胎児形態の時に似たラインが入っていることに気付かなかった。

 

「何を勝手に入ってきている、トランクス」

 

 冷ややかなベジータの声に、室内に足を一歩踏み入れようとしたトランクスの身を竦ませた。

 トランクスにとって不運だったのは廊下の灯りが壁際に倒れているブルマを照らさなかったことと、ベジータの変容に気付けなかったことにあった。

 

「十二にもなって親の部屋に勝手にはいるとは何事だ!」

 

 やべっ、と怒鳴られたトランクスは思いつつ肩を竦める。

 ベジータが近づいていき、そして――・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手合せした翌日、実家にやってきた悟飯は昼食を取りに戻って来ていた悟空の姿を見て安堵の息をついた。

 

「よかった、お父さん。なんともなかったんですね」

「ボージャックのことか? そうでもなかったぞ」

 

 大きな唐揚げを口に含んでいた悟空は向かいの席に座った悟飯に大きく首を横に振った。

 

「超能力みたいなのを使う奴がいたりとかして一回逃げられるしよ」

「本当ですか?」

「そいつは割と直ぐにやっつけたんだけどよ、ボージャックの奴は自分の味方ごと攻撃したり周りを巻き込もうとして面倒臭かったんだ」

 

 要は実力では悟空に敵わないと早々に悟って、なんとか逃げようと様々な策謀を張り巡らせたらしい。

 

「強さ自体はセルよりも大分下だけど、悪知恵みたいなもんは上だったんじゃねぇか」

 

 会話を続けられる程度の食事スピードながらも、げんなりとした様子の悟空を見るに相当方法を選ばなかったのだろうということが悟飯にも分かった。

 

「探して捕まえて、悪さ出来ないようにしてから界王様に引き渡して帰って来た時には真夜中で、晩飯には全然間に合わなかったんだ」

「それは……」

 

 悟空が界王の星に向かったのが夕飯前で、帰って来たのが真夜中なのだとすればかなりの時間を取られたことになる。

 界王のお蔭で居場所は直ぐに知れたはずなのだから、それだけ捕まえるのに時間がかかったことを示していた。

 

「チチに伝言伝えておいてくれてサンキューな。まあ、その甲斐はあんまなかったんだけど」

「え、なんでですか?」

「オラが帰ってくるの待ってたんだよ、チチは」

 

 チチに伝言を伝えた時の反応から多分、そんなことになるだろうなとは思ったけど想像通りの展開になってしまったようだ。

 

「お母さんらしいというか…………ところで、南の界王様が殺された件については何か分かったんですか?」

 

 昔からの二人を良く知る悟飯だからこそ苦笑するに留め、昨日から気になっていた南の界王が殺された件について聞いてみる。

 

「それが今日になってから聞いてみても芳しくないらしい」

 

 漬物を食べた悟空も気になっていたみたいで渋い顔をする。

 

「ただ、南の銀河ではここ数年マシンミュータントっていう機械生命体ってのが暴れてたらしいから、そいつらが犯人なんじゃないかって話らしい」

「機械生命体というと、誰かに作られたんでしょうか」

 

 暴虐を働いたというマシンミューンタントには機械と名が付くのだから誰かが作った物ではないかと悟飯は考えた。

 

「宇宙には多種多様の生物がいるらしいから、一概に誰かが作ったのかどうかも界王様も分かんねぇってさ」

 

 サイヤ人を除けばフリーザ軍ぐらいしか宇宙人を知らないので悟飯の狭い知識だけでは宇宙は計れない。

 

「界王様には手に負えねぇ奴がいれば呼んでくれていい言ってあるから、また何かあったら連絡が来るはずだ」

「その時は僕もお手伝いしますよ。偶には実戦に出ないと勘が鈍って鈍って」

「はは、そん時はまた頼むわ」

 

 笑って受け流されたが、恐らく悟空は悟飯を呼ばないのだろうなと分かってしまって、やはり気を使っていることが分かっているだけに哀しかった。

 

 

 

 

 

 その間にもベビーの魔の手はカプセルコーポレーションを中心にして全世界へと広がって行く。

 静かに、誰にも知られることなく。

 

 

 




ベビー、神の力を知る。
ベビー、南の界王を取り込む。
ボージャック、復活。
悟空、ボージャック退治に向かう。
ベビー、ブルマに憑りつく。
ベビー、ブルマからベジータに取りつく。更にトランクスにも。

もしも南の界王を取り込んでいなかったらベジータに追い出されていた。
もしも悟空がボージャック退治に行っていなかったら、ベジータの気を感じ取って瞬間移動でやってきていた。

ベビー、大勝利!!

次回 『第三十三話 復讐の牙』

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