未来からの手紙   作:スターゲイザー

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ゴールデンフリーザ編
第三十六話 悪の帝王


 

 

 人が長年住んでいないゴーストタウンが今にも崩れ落ちそうな振動と衝撃に揺るがされていた。

 

「ぬぐおっ!?」

 

 一人の人間の苦痛の呻きが使われなくなって久しい建物を幾つも破砕した音に紛れて途絶える。

 

「…………俺も驕ったか」

 

 体に走る激痛に顔を顰めながら、男は圧し掛かる瓦礫を軽くどけて立ち上がる。

 

「いいえ、あなたは強いですよ。今の私と戦いになるなんて全宇宙を探してもそう多くはありません」

 

 独特の足音を立てながら現れたその人物を見て唇の端から垂れる血を拭う。

 

「他の宇宙にここまでの奴がいるとはな」

 

 自分が全宇宙最強だと思っていたわけではなかったが、こうも簡単にあしらわれるとも想像だにしていなかった。

 世の中には上には上がいると、まざまざと見せつけられた思いだった。

 

「ほっほっほっ、あなたほどの人は第6宇宙の暗殺者以来です。中々、楽しい戦いでしたよ」

「突然、戦いを仕掛けてきた者の台詞とは思えん」

「これでも認めた相手には寛容な姿勢を見せることもあります」

 

 そう言って笑ったそいつは、顎に手を当てて良いことを思いついたとばかりに目を細めた。

 

「それだけの強さで正義の味方ごっこをやっているなんてもったいないではありませんか。どうです、私の部下になるつもりはありませんか?」

「断る」

「それは残念」

 

 折角の誘いを断れたからといって機嫌を害することなく、邪魔な噴煙を尻尾で振り払う。

 

「ジャスティスパンチ!」

 

 噴煙に紛れて接近していた赤い服を着て白い髭を蓄えた筋骨隆々な戦士が襲い掛かる。

 

「大仰な名前を付けたところで、ただのパンチではないですか」

 

 何ら防御することなく、その身一つで受け切る。

 ダメージなど欠片もない。あるのは蝿に触れられたかのようなむず痒さだけ。

 不動の大樹が如く手応えに殴りかかった方が余りにも隔絶した力の差に動きを止めてしまった。

 

「逃げろ、トッポ!」

「邪魔ですよ」

 

 第11宇宙でも図抜けた戦士であり、次期破壊神候補であるトッポを蠅を追い払うように尻尾で薙ぎ払う。

 

「彼も良い線を行っているのですが、人の話を聞こうとしないのが難点ですね。ジレンさん、でしたか。あなたと二人合わせて新生フリーザ軍の幹部にして差し上げたのに」

 

 仲間であるトッポを軽々と薙ぎ払ったフリーザにジレンは厳しい眼差しを向け続ける。

 

「彼は落第ですがね」

 

 軽く手を振るったフリーザの指先から気功波が放たれ、超速の戦士との異名を持つディスポを明確に撃ち抜く。

 一足で詰められる距離まで隠れ、正に踏み込んで高速の世界に入ったディスポを悲鳴を上げることも出来ず、離れた場所に受け身も取れずに倒れ込む。

 

「些か難しいですね、手加減というものは。うっかり殺してしまわないようにすると手加減が過ぎてしまう」

 

 トッポやディスポだけでなく、プライド・トルーパーズ全員と戦って圧倒的すら生温いと感じるほど、次元違いの力を見せながら不思議と誰一人として殺していない。

 わざと殺さないでいることにジレンは疑問を持った。

 今までプライド・トルーパーズとして数多の悪人と戦って来たからこそ、このフリーザが今更人殺しを忌避するような戦士としては思えなかった。

 

「それだけの力がありながら尚も何を望むというのだ?」

 

 破壊神ベルモッドから自らを超えた領域に至ったと認められたジレンを子ども扱いするほどの力を持つフリーザ。

 ジレンからすれば、これほどの領域に至った戦士が何を望むかなど皆目見当もつかなかった。

 

「あなたには関係のないことです」

 

 フリーザは自らの目的を語るつもりはないということか。

 

「人を誘っておきながらそれはないだろう」

 

 部下になる気など欠片もないが、これほどの領域に至っているフリーザが何を望んでいるのか興味が湧いた。

 

「個人的な感傷のようなものです。誰にだって話したくないことの一つや二つあるでしょう。ですが、そうですね」

 

 顎に手を当てたフリーザは明確に語るつもりはなくとも、さわりぐらいならば問題ないと考えて口を開く。

 

「言葉では色々と言えますが、嘗て挫かれた矜持を取り戻す為、殺されたことに対する復讐・・・安っぽい理由ですが、私にとっては大事なことなのす」

 

 一言に集約させた言葉ではともかく、その眼だけは何よりもギラつかせる。

 

「では、さらばです。あなたとの戦いで私はまた一つ強くなれました」

 

 ジレンの視界はフリーザから放たれた閃光に染め上げられた。

 

「ぅ、ぐぅ……」

 

 その直後、フリーザの尻尾で薙ぎ払われて気絶していたトッポが目を覚ました。

 

「はっ!? ジレンは……」

 

 痛む体を押して立ち上がり、トッポが気絶する前はフリーザと単身で闘っていたジレンの身を案じて足を引きずりながら歩き出したところで閃光が空を染め上げる。

 

「じ、ジレンがやられた!?」

 

 ジレンの物ではない気の閃光にトッポがそう思い込んだのは無理はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれほど脅威と思われたベビーの首を刎ねた人物を見た誰もが目を疑った。

 

「ふ、フリーザ!?」

 

 正確にはフリーザと面識のない悟天とトランクスはピンと来ていないようだが、あの恐ろしいまでのベビーをあっさりと殺したのを見れば警戒を解くことなど出来るはずがない。

 

「お久しぶりですね、皆さん」

 

 その場にいる面々の中で特にトランクスを何故かジッと見たフリーザ。

 完全な初対面のはずなのに凝視されたトランクスとしては堪ったものではなく、嫌な汗が全身を流れていく。

 心持ち、ベジータの影に隠れるようにジリジリと動く。

 フリーザの視線がトランクスから外れたのは、ベジータの影に隠れたからではなく、第三者の介入があったからだった。

 

「――――きっ、さまっ!!」

 

 その声が聞こえるよりも早く、気を捉えていたフリーザはトランクスから視線を切っていた。 

 

「その体を寄越せ!」

 

 撥ねられた頭部と、別れた胴体が別々にフリーザに襲い掛かる。

 フリーザに動く予兆は全く見られないままベビーは組み付いた。なのに、ベビーはフリーザに憑りつくことが出来ない。

 

「と、憑りつけないっ!?」

 

 気のバリアーとでもいうのか。嘗て悟空とベジータが合体したゴジ―タと更に合体した悟飯によるゴジットのバリアーと比べても次元違いの密度に、如何なベビーといえど隙間が無ければ相手に憑りつくことは出来ない。

 

「人に乗り移ることしか能がない寄生虫如きが私に触れないで下さい」

「なっ!?」

 

 首を刎ねられたといってもその気の大きさには全く変わらなかった。にも関わらず、フリーザの睨みに込められた気合だけでベビーが雲散霧消する。

 

「あのベビーが一瞬で……」

 

 その存在の一欠けらも残さず消え去ったベビーを悼むわけではないが、一瞬だけ発せられたフリーザの恐るべきまでの力に悟空達は震撼を隠せない。

 

「さあ、私と闘いなさい孫悟空」

 

 消滅させたベビーなど邪魔者とすら思っていないであろうフリーザは大した感慨も見せずに悟空を見て言った。

 

「ですが、その状態では満足なものにはなりませんね。そこのお二人に治してもらいなさい」

「な、なにを」

 

 悟空の体が万全でないことを見て取り、デンデとキビトを指差した後は腕を組んだまま一行を見下ろす。

 

「満足に立てない相手を倒したところで復讐を果たしたとは言えません。私の気は短いのですから早くして下さい」

「なんでデンデとキビトさんが傷を治せることを知ってるんだよ!」

 

 会話をする気はない様子のフリーザを、悟飯の後ろに隠れた悟天が問い質した。

 

「後ろのはともかくとして、あなたはあの時の子供ですか。随分と大きくなりましたね」

 

 フリーザは悟空そっくりの悟天を見て悟空の子供と察し、その様子から悟飯があの時の子供であることに気付き、僅かに驚く表情をする。

 

「そちらは私を殺したサイヤ人に似ていますが、幼いところを見ると彼とは別時間軸の人間といったところでしょうか」

 

 トランクスも見てあの時には青年に近かったが、今はそれよりも小さいことに気付いて正確な分析をする。

 

「少年の疑問に答えるならば、ナメック星人は嘗て散々邪魔をしてくれましたので殺したことがありますし、そちらの方の服は界王神の従者が着る物。あなた達サイヤ人を超える為に武者修行に他の宇宙に行った際に同じ立場の者が傷を治すのを見たことがあるというだけ」

 

 熱もなく理由を語ったフリーザは悟空を見る。

 

「この時が来るのを随分と長い間、待ちましたからね。十五分だけ待ってあげましょう。私を倒す算段を立てても構いませんよ。出来るものならね」

 

 一日千秋の思いで待ったのだから十五分ぐらいは見逃してやろうと上から目線で言って、返事を聞くことも無く高度を上げる。

 

「何様のつもりだ、アイツは」

 

 声は聞こえないが姿は見える高度に上がったフリーザの余裕に苦々しい声を漏らすベジータ。

 

「それだけ自信があるということなんでしょう。以前とは比べ物にならないパワーを感じます」

 

 ナメック星での戦いの時とは次元違いの力を着けた自信があった悟飯ですら足元にも及ばないと断言できるほどの力をフリーザは身に着けている。

 

「本当にあのフリーザなのですね……」

「に、偽物ではないのですか?」

 

 キビトが信じられないと思うのも無理はない。

 悟空だってフリーザがあれだけの力を擁するなんて想像だにしていない。

 

「大体、フリーザは末来のトランクスに殺されたはずだろ。なんで生き返ってるんだ?」

「む、それはだな……」

「何か知ってるの、父さん?」

 

 バビディによってセルと共に蘇っていたことを知らない悟空達と違って、魔人ブウとの戦いで頭が一杯になってうっかりフリーザのことを言い忘れていたベジータは言葉に窮し、トランクスの目から僅かに顔を逸らす。

 

「アイツもセルと一緒に蘇っていた。言うのを忘れててスマン」

「父さん、なんでそんな大事なことを・・・母さんに言いつけるから」

 

 これにはトランクスも父への制裁不可避である。

 自分ではない自分が殺したと聞いては、恨まれているかもしれないと思うと気が気ではないのだ。

 

「…………四年前、バビディによってドラゴンボールで蘇った奴と戦ったが、超サイヤ人2で互角だった」

 

 ブルマにお仕置きを受けるにしても、それはフリーザを撃退しなければ叶わない。

 

「では、たった四年であそこまで強く成ったと? 僕もあの頃よりも次元違いに強く成ったはずなのに、ナメック星で闘った時以上の力の差を感じます」

 

 ありえない、と言いながらも悟飯は悟空を見て本心から思えなくなった。

 悟空も四年前、そしてナメック星の時と比べて段違いに強く成っている。似たような例がある以上は安易な否定は出来ない。

 

「ドラゴンボールを取り込んだベビーの力は、悔しいが俺の体を使っていた時よりも更に強かった。それを不意打ちだったとはいえ、あっさりと首を刎ねたところから見て最低でも俺の体を使っていた時以上と見るべきだろう」

 

 ベジータは自分では戦いにもならないと認めなければならないことに悔しさを覚え、血が滲むほどに拳を強く握る。

 

「俺達サイヤ人以外にあんな奴らいるなんて」

「勝てるの、お父さん?」

 

 ベジータですら及びもしない強敵である。どれだけ強いのか見当もつかないフリーザ相手に勝機を見い出せるとしたら、一度はベビーを倒した悟空以外に考えられない。

 

「ああ、任せろ。デンデ、キビトのおっちゃん、頼む」

 

 デンデとキビトの力を受けて全快して立ち上がった悟空にベジータが肩を小突く。

 

「それだけでは足りんだろう。少ないだろうが俺達のパワーも持って行け」

 

 拳からベジータの気が悟空へと伝わる。

 

「僕のも」

 

 次いで反対の肩に手を置いた悟飯が。

 互いに頷き合った悟天とトランクスが無言のまま悟飯とベジータを通して己がパワーを送る。

 

「我々も微力ながら」

 

 界王神、キビト、デンデも同じように悟空にパワーを渡す。

 彼らにも分かっていたのだ。ここでフリーザという巨悪を倒すことが出来なければ何が起こるのかを薄々と察していたからこそ、博打とも言える方法を取った。

 

「任せろ」

 

 湧き上がるパワーに身を震わせた悟空にだってフリーザに勝てる保証なんてない。だが、一番強いのは悟空で、勝てる可能性があるとすれば悟空だけなのだから否はない。

 

「時間です」 

 

 フリーザが言いながら組んでいた腕を解きながら降りてくる。皆から一歩前に出た悟空を見下ろす。

 

「待たせたな」

「あの地獄のような天国に比べれば、この十五分など待った内にも入りませんよ」

 

 やがてフリーザの高さにまで舞空術で上がってきた悟空は改めて嘗て対峙した強敵と視線を合わせる。

 

「では、リベンジマッチといかせてもらいましょうか」

 

 この時を待っていた、と歓喜に全身を震わせたフリーザが拳を固めた。

 

「うぉおおおおっ!!」

 

 フリーザが力を開放する。

 嘗てない敵を前にして、悟空のこめかみを冷や汗が流れて行った。

 

 

 






次回、『第三十七話 神を超えた者』


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