未来からの手紙   作:スターゲイザー

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前話の予告タイトルを変更しています。





第三十七話 孫悟空、死す

 

 

 フリーザとジレンの戦いを別次元から見ている者がいた。

 

「このままではいかん」

 

 決して見つからないように魔術で別次元に潜みながら二人の戦いを覗き見ていた老界王神は一人で呟いた。

 

「三年前から見ておるがあ奴の力は既にビルス様のみならず、大神官様すらも及ぶかどうか……」

 

 世界と世界の狭間に空間に身を置きながら考察を続ける。

 

「第六宇宙最強のヒット、そして第十一宇宙の破壊神を超えているジレンですら赤ん坊のようにあしらうようになるとは」

 

 老界王神ですら見ていなければ信じられないレベルで強く成っている。

 

「このまま成長を続ければ、やがて全王様の力さえ効かなくなる可能性もある」

 

 魔人ブウ戦後、ナメック星のドラゴンボールで蘇ってから数ヶ月してから、宇宙の中で異常なほどに高まって行く力を感じ取り、その力の持ち主を観察し続けて数年。

 その成長速度を考えれば、懸念すら懸念でならなくなる危険性がある。

 

「底知れぬ潜在能力じゃ。そしてその属性は完全なる悪」

 

 戦った相手を一人も殺していないが、逆に一人も殺さずにいられる方が異常である。

 殺さずとしている如何なる制約かは不明だが、それだけの自信と自負がなければ出来ないことであった。

 

「奴を倒せる者を探さなければならなん」

 

 しかも、悪ではなく善である者。条件の時点でかなり厳しいものがあった。

 更に老界王神の求めに応じてくれるかも未知数。

 

「…………ブウを倒したあ奴らに期待すべきか」

 

 フリーザに比べると現段階での強さはかなり劣ったとしても、悟飯の潜在能力を開放させたことを思い出して希望を見い出す。

 彼らにならば貸しがあるので頼めば手を借りることは出来るだろう。

 

「しかも奴らとフリーザには強い因縁もある。適任とも言えよう」

 

 別名、責任を取らせるとも言う。

 

「底知れぬ可能性を見せるサイヤ人。まずはその始まりから見ねばならんか」

 

 そうして、トッポが気絶しているジレンを見つけて死んでいないことに気付き、感涙に咽び泣いているのを見ながら魔術で過去の世界を覗き見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーザが力を発揮した時、目の前にいた悟空は吹き荒れる風に目を細めながら全身を圧迫してくる威圧感に身震いしていた。

 

「あっ…………お、オメェ、一体どんな修行をしてきたんだ」

 

 ベビーを一顧だにせずに消滅させた時点で強いというのは分かっていたはずなのに、高まり続ける力に震撼を隠せない。

 

「自らを鍛えるなど始めての経験でしたよ。そして同時に屈辱に塗れた日々でもありました」

 

 ゆっくりと拳を解くフリーザは猛る戦意を押さえつけるように凄絶に笑う。

 

「いつ何時でもあなたに敗れ、殺された時のことを思い出す」

 

 悟空はこれほどただの笑みが怖いと思ったことはない。

 

「どれほど体を痛めつけ、どれほど自分を追い詰めても足りない。そう、あなたを殺すまでは、この渇きは癒えることが無い」

「そこまで想って貰えて光栄だって、言った方が良いか」

 

 それでも悟空は戦わないわけにはいかない。

 

「減らず口を。相変わらず私を怒らせることに関しては宇宙一です」

「そりゃどうも」

 

 体の震えを抑えきれない悟空の強がりを見抜き、笑って流したフリーザは指を一本立てた。

 

「本気を出しなさい。直ぐに終わってはつまりません。私を楽しませてください」

 

 更に高まって行く気に気圧された悟空は背中に流れる冷や汗に気付きながらも慄然と顔を上げる。

 タイミング良く誰かが現れて都合良く助けてくれることも、悟空がこの土壇場で新たな力に目覚めるなんてご都合主義なことが起こるなんてことはない。ならば、自分自身の力で道を切り開くしかない。

 

「吠え面描くんじゃねぇぞ……っ!!」

 

 畏れを裡に封じ込めて今出来る最大の力でフリーザを迎え撃たんと、超サイヤ人ブルーになって界王拳を使用し、一気に十倍にまで引き上げる。

 ベジータ達にパワーを分けて貰っているから、ベビーと戦っている時よりもその気は大きい。

 

「素晴らしい。今の貴方ならば破壊神ビルスを超えてるやもしれませんね」

 

 わざとらしく褒めそやして感嘆の息を吐いたフリーザはその眼に失望を露わにする。

 

「ですが、期待外れです」

「があっ!?」

 

 構えすらも取らず、一瞬で悟空の懐に入り込んだフリーザの拳が腹を抉る。

 

「本気がその程度であれば直ぐに死にますよ」

 

 胴体が裂けんばかりの衝撃に下がった悟空の顎を突き上げる。

 

「ま、まだまだ……っ!」

「遅い」

「っ!?」

 

 更に追撃してくるフリーザを超速度で回避しようとする悟空。先回りされて叩き落とされる。

 

「ふ、フリーザ!」

 

 なんとか四肢をついて着地したが、既に悟空のダメージは甚大。

 

「ここまで差が開いてしまいましたか」

 

 自らで作ったクレーターの底で見上げて来る悟空に失望した眼差しを向けるフリーザ。

 

「本気を全く出していないというのに戦いにもならない。どうやら私は強く成り過ぎてしまったようですね」

 

 クレーターの端に下りて来たフリーザが顎に手を当てて何かを考える仕草をする。

 明らかな隙に悟空はフリーザの足下目掛けて気弾を放った。

 一瞬でもフリーザを怯ませるか、最低でもその視界を覆い隠す目的で放たれた気弾はその役割を果たした。

 

「がっ!?」

 

 超速度で背後に回って攻撃をしようとした悟空の腹にフリーザの肘が食い込んでいた。

 

「チンケな手ですね」

 

 追加で尻尾で顔を叩いて悟空を数メートル先にまで吹っ飛ばしたフリーザはつまらなさげに振り返る。

 

「以前の戦いで気の重要性は見せつけられましたからね。コントロールし、感知出来れば随分と違った世界が見えるものです。その点については感謝しておきますよ」

 

 前回の戦いでのことを反省し、学習したフリーザに死角はないということか。

 

「しかし、これでは些か面白みにかける」

 

 膝をついて息を切らす悟空を見下ろしたフリーザは余裕を滲ませて笑った。

 

「大サービスです。両手を使わないでいてあげます」

「それは、オメェ……」

「分かりますか? あの時と同じハンデを上げると言っているのです」

 

 ナメック星での戦いの時、未だ全力を見せていなかったフリーザは悟空相手に興が乗ったと言い出し、結果として腕を使わされた。

 フリーザは、その時のことを再現しようと言っているのだ。

 そこにあるのは圧倒的なまでの自負と自信。例え両手を使わなくても負けないの確信があるからこそ、あの時のハンデを自ら言ったのだ。

 

「随分な自信だな。またあの時みたいに手を使わされる羽目になるんじゃないか」

「こうでもしなければ、あなたは本気を出さないようですからね」

 

 そう言われて悟空は口を閉じた。

 

「本気を出せと言っているのに、あなたは未だに力を残している。こうでもすれば力を出しやすいでしょ?」

 

 確かにベビーとの戦いでも界王拳を二十倍、三十倍に引き上げた。

 現段階の十倍からすれば格段の戦闘力を持つに至るだろうが、悟空の文字通りの奥の手である。

 二十倍はともかくとして、三十倍に至ってはなるのが一瞬程度なのでいざという時に取っておきたかったが、こうまで圧倒されてしまっては使わないわけにはいかないだろう。

 

「ありがてぇな。このままじゃ戦いにもなんねぇとこだった」

 

 本音を吐露しつつも、明らかに本気ではないフリーザが油断しているこのチャンスをモノにして倒すしか悟空には道が無い。

 

「まさか、こうまで言ってナメック星の時とのように手を使ったりしねぇだろうな」

「しませんよ。サービス期間が終わったなどという言い訳もしないと誓いましょう」

 

 そうですね、と腕を組んだフリーザは視線を僅かにずらした。

 

「もしも手を使ってしまったら、その時点で私は負けを認めて大人しく引き下がると約束します」

 

 フリーザが約束を守る保証などないが破格の条件である。

 

「本当だろうな?」

「嘘はつきませんよ…………もう一つあの時と同じ言葉を送りましょう。今の状態の50パーセントの力であなたを宇宙の塵にすることが出来ますから」

「何……?」

 

 また既視感が刺激される。

 ナメック星での戦いで、二十倍に引き上げても倒しきれなかった既視感を振り払うように覚悟を決める。

 

(頼む! ハッタリであってくれ!!)

 

 あの時の絶望感が再び襲って来た悟空は拳を強く握って立ち上がる。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 界王拳を二十倍に引き上げると、それだけで体がミシミシと軋むが限界まで気を高め続ける。

 

「ハンデを上げているのですから、今度はもう少し持って下さいね」

 

 見下されていると分かっていても悟空は全く油断することなくフリーザを見据え、自分から仕掛けた。

 

「ほう、さっきよりも早い早い」

 

 最短距離を真っ直ぐ突き進んでの拳は簡単に避けられ、止まることなく界王拳特有の鋭角な軌道修正をして向かって行く。

 

「蹴り行きますよ」

 

 行動を先読みされて、界王拳二十倍でもギリギリの速度で頭を傾けて蹴りを避ける。

 言われなければ避けられなかったタイミングで、悟空は崩れた体勢を直すことを放棄して、地面に手を叩きつけた反動で無理矢理にフリーザに向かって行く。

 

「その必死さ、いいですね」

 

 悟空を遥かに上回る速度で背後に忽然と現れ、首に何かが巻かれたと思ったら視界が急に回った。

 

「がっ!?」

 

 尻尾を首に巻き付けられ、そのまま空中に投げ飛ばされたと分かった時には頬にフリーザの膝が叩き込まれていた。

 

「抗って見せなさい」

「ぐっ」

 

 視界がバチバチと明滅している中で追撃の蹴りを辛うじて躱し、二十倍ですら足元にも及んでいない現実から目を逸らしながら三十倍まで引き上げる。

 

「フリーザァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 起死回生どころか決死の行動に出た悟空は目の前にあったフリーザの尻尾を掴み、何かされる前に遥か上空へと投げ飛ばしてかめはめ波の体勢に移行する。

 

「界王拳三十倍のかめはめ波だ!!」

 

 悟空の界王拳を三十倍にまで引き上げたかめはめ波は避けようも無くフリーザに着弾し、かなり上空で爆発したはずなのに地球が壊れるのではないかと思うほどの振動が悟飯達を襲う。

 やがて振動と爆煙が消えた後には、足で防ぎ切ったフリーザの姿があった。

 

「く、くそったれめ……っ!?」

 

 フリーザは腕を組んだまま全身から気のオーラを迸らせながらも、その足には悟空の今放てる全力である超サイヤ人ブルー・界王拳三十倍のかめはめ波を受けていて傷一つ付いている様子は見受けられない。

 

「ま、全く効いちゃいねぇ……オラの限界を超えたかめはめ波を受けてもダメージを負ってないなんて」

 

 大して効いていないどころか、見る限りでは無傷。しかも腕を使わないというハンデを守ったままで、悟空の限界を遥かに超えた三十倍界王拳のかめはめ波を受け切っている。

 

「全力の全力、気が急激に落ちた様子から見て限界すらも超えてこの程度ですか」

 

 限界の更に上の限界を超えた界王拳三十倍のかめはめ波を受けても堪えた様子の全くないフリーザは、寧ろ悟空がこの程度の力しか発揮できなかったことに失望していた。

 

「どうやら私は強く成り過ぎたようです」

 

 三十倍界王拳を使った反動で浮かんでいることも出来ずに地上に降りた悟空の力尽きた姿を見ながら降りて来たフリーザ。

 

「分かっているのでしょう? 私が半分の力も出していないことは」

「ああ……」

 

 分かってしまう。

 この戦いでフリーザは何一つ嘘をついておらず、そして悟空の三十倍の界王拳を受けた時ですら半分の力も引き出せていないのだと。

 仮に更なる形態に目覚めたとしても、まだまだ力を隠しているフリーザの前に敗れることだろう。その未来がありありと想像できる。

 

「――――まるでデジャブですね。あの時とここまで似るとは。しかし、ここから先は全く違う」

 

 あの時はクリリンを殺されたことで悟空が超サイヤ人に覚醒したことで実力差が引っ繰り返ったが、今度はそんな都合の良いことが起こる余地はない。

 

「良いことを教えてあげましょう。私は修行によってこの形態よりももう一段階上があるのですよ」

「また変身するだと……?」

 

 嘗てのナメック星で自分がいなかった時の戦いを悟飯から聞いていた悟空は、フリーザの言葉が何を意味するかを理解した。

 フリーザは変身するごとにその戦闘力を段違いに増していった。最終段階と目されていた今よりも更に一段変身すれば、ただでさえ手に負えないフリーザの力がどこまで上がるのか悟空の想像を超えている。

 

「この変身を見るのは、あなたで三人目です」

 

 実力の面で言えば、今の状態でも圧倒しており悟空に見せる必要はない。

 ただ、嘗て上回られた意趣返しと、倒すと誓った男を完膚なきまでに超えたことを証明する為にフリーザは変身すると決めたのだ。

 

「はぁあああああああああああああああああああああっっ!!」

 

 変身するだけだというのに、耐えられぬとばかりに天地が轟く。

 増していくパワーに地球が耐えられないとばかりに地面が揺れて割れ、空が鳴くかのように風雨と雷鳴が鳴り響く。

 そして、閃光が辺りを染め上げて――――。

 

「ぁ……ぁ、ああ……」

 

 変身した姿を見るよりも先に、あまりにも巨大に膨れ上がり過ぎた気は悟空の認知野を超えて感じ取れなくなっていた。

 

「ふぅ、すみませんね。まだこの変身に慣れていないもので」

 

 地面を大きく抉り取りながら変身を終えたフリーザが舞い上がる噴煙を尻尾で軽く薙ぎ払う。

 

「分かりやすく金色にしてみましたが単純すぎましたかね」

 

 全身を染め上げる金色の肌。見た目で言えば色が変わった程度に過ぎないが、その内面の力は以前とは比べ物にならない。

 

「凄ぇ、本当に凄ぇよ、フリーザ」

 

 フリーザの力は悟空の想像を遥かに超えたところにあった。

 もう闘うとか、そういう次元の領域ではない。

 その力の上限が分からないという今まで闘った誰よりも遥かに隔絶し、畏れを抱くよりも純粋にここまでの力を持つ者に目標とされたことに喜びすら感じていた。

 

「安っぽいネーミングですが、ゴールデンフリーザとでも言っておきましょうか。でも、色が変わっただけではないのは分かっていますね?」

「力が読み取れねぇ。もうオラがどうこう出来る次元にはいねぇな」

 

 悟空に恐れも不安もなかった。

 嫉妬するとか、もうそういうレベルの相手ではない。これほどの領域に至った戦士に、一度でも目標にしてもらったことが嬉しかった。

 

「残念だ。そこまで至れなかったことが」

 

 それが孫悟空の唯一の悔いでもあった。

 

「さらばです、孫悟空」

 

 そして悟空の体は我知らずに傾いていく。

 胸に空いた心臓を的確に撃ち抜いた一筋の穴。

 何をされたのかも分からないまま、悟空の意識は急速に闇に食い潰される。

 

「あなたを殺すのは、星を壊すよりも大変でしたよ」

 

 孫悟空、死す。

 

 

 




実は生きているということはなく、悟空は死んでいた。


次回、『第三十八話 神を超えろ』
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