未来からの手紙   作:スターゲイザー

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ネタが浮かんだので魔導師バビディ編、始まります。


魔導師バビディ編
第五話 波紋の未来


 

 セルゲームから数年後、16歳になって高校に通うようになった孫悟飯は窮地に追いやられていた。

 地球人よりも遥かに高いポテンシャルを持つサイヤ人の父譲りの超絶的な戦闘力を持つ悟飯をして冷や汗を掻かせる人物が隣に座っている。

 

「なんでわざわざ、そんなおかしな恰好したのよ」

「い、いえ……その……仲間のみんなが普通に暮らしたいなら強いってことがバレちゃいけないって」

 

 冷や汗を掻かせている同級生のビーデルの問いにしどろもどろに答える。

 

「ふうん……」

 

 納得しているのかしていないのか、同年代との交流が極端に少なかった悟飯ではビーデルの反応から読み取れない。

 

「その仲間の人は悟飯くんよりも強いわけ?」

「ええ、強い人もいます」

 

 アドバイスしてくれたのは強さで言えば戦士ではないブルマなのだが、ここで敢えて言う必要はないだろう。

 高校まで学校に通わず、同年代との交流も少なく、人里離れたパオズ山で暮らしていた悟飯は普通というのがよく分からない。一番一般人の感性を持っているブルマに相談することが多い。

 

「ねえ、やっぱり金色の戦士もあなたなんじゃないの」

「い、いえ!! あ、あれは違いますよ!」

 

 悟飯がサタンシティに来てから悪人退治をしていた時に変装目的で超サイヤ人になっていたら金色の戦士と呼ばれるようになっていた。

 目立ちたくない悟飯は正体がバレないようにブルマに相談して変身アイテムを作ってもらい、グレートサイヤマンを名乗るようになったのに自白しては意味がないので必死に否定する。

 

「ほんとかしら」

「ほっ、ほんとですよ。嘘つくわけないじゃないですか、アハハハ」

 

 尚も疑われているようだが、普通の人は黒髪から金髪になったり戻ったりすることは出来ないはず。

 未だに世間の普通がよく分からないので、もしかしたらあるかもしれないが認めなければ大丈夫なはずだと内心で焦りを隠す。

 

(セルゲームの後は大変だったもんなぁ。特にベジータさんの時はヤバかったらしいし)

 

 セルゲームはテレビ中継されていたから身元が一部にバレて大変な思いをしたので、悟飯は当時を思い出して少し遠い目をする。

 

(お金の力って凄い)

 

 西の都で暮らしていたベジータの存在は早い段階で特定されたと後になって聞かされた。

 無遠慮にマスコミが押しかけでもすれば気が長い方ではないベジータがどんなことをするか分かったものではなく、ブルマがカプセルコーポレーションの力で押し留めなければ大変なことになっていただろう。

 

「1ヶ月後の天下一武道会、あなたも出るんでしょ?」

「え?」

 

 悟飯が現実逃避をしている間にビーデルは話題を変えたらしく、唐突に聞かれて目が点になる。

 

「天下一武道会、ですか?」

「そう。あなたが優勝したギョーサン・マネー主催の天下一大武道大会じゃなくて、歴史のある方の大会」

「それは分かるんですけど……」

 

 母からの惚気話や父が語ってくれた思い出話にも良く出て来た大会だけに知らないわけではないのだが、どうにも話が結びつかなくて困惑する。

 

「私が前回大会の子供の部の優勝者で、悟飯くんは天下一大武道大会の優勝者。これじゃ私の方が弱いみたいじゃない」

 

 肩書の上では子供の部の優勝者と大人ばかりだった天下一大武道大会の優勝者では確かに後者の方が上だろう。

 

「みんな弱そうで張り合いのある相手がいないし、悟飯くんは強そうだから白黒つけたいのよ」

「い、いや、僕はあまりそういうの興味ないし」

「じゃあ、なんで天下一大武道大会には出たのよ」

「お母さんに偶には体を動かした方がいいって言われて」

「そんな理由で出たの!?」

 

 何故か驚かれたが悟飯が天下一大武道大会に出たのはそんな理由である。

 

「そ、それだけじゃありませんよ。仲間がみんな出るって言って、それにお父さんも一日だけ帰って来るっていうから……」

 

 そこまで言って少し言い過ぎたことに気付き、慌てて口を閉じる。

 

「そう言えば本選出場者に、天下一武道会のパパの前のチャンピオンの孫悟空って名前の人がいたわよね。あなたと同じ苗字よね、孫悟飯くん」

 

 しかし、悟飯の行動に意味はなかった。ビーデルにバッチリ見透かされている。

 

「今時、苗字と名前が分かれているのは珍しいわ。その孫悟空って人があなたのパパなんじゃないの」

「い!? そ、その」

「やっぱりね」

 

 悟飯が嘘をついても分かり易いのもあるのだろうが完全にビーデルにバレている。

 

「はい、そうです。孫悟空は僕のお父さんです……」

 

 こうなれば認めるしかない。

 天下一大武道大会の優勝者であることは高校でバラされているので仕方ない。何よりも悟飯は孫悟空の息子であることを誇りに思っているから下手に誤魔化するよりも認めてしまう方が楽だった。

 

「前チャンピオンの子供とその前のチャンピオンの子供が闘うことになったら絶対に面白いと思うわ。出るわよね、天下一武道会。出なきゃ、みんなに悟飯くんがグレートサイヤマンだってバラすからね」

「ええっ!? そっ、そんなの……」

 

 どんどん逃げ道が塞がれていく感覚を悟飯は味わっていた。

 今まで女の人(といっても母やブルマ、18号ぐらいしかいない)に口で勝てた試しはないが、口が立つ方ではない悟飯では打開策を都合よく思いつけない。

 

「いいじゃないの、グレートサイヤマンで出場すれば分かんないんだし」

「だ、だけど」

「バラされたいの?」

 

 結局のところ、選択権は悟飯にはないようだ。

 ビーデルの機嫌次第で今後の生活が決まるとなれば、ほぼ命令に近い提案に頷く以外に悟飯に出来ることはない。

 

「わ、分かりました…………天下一武道会に出場しますよ」

「やったぁっ!」

 

 出場を許諾すると満面の笑みを浮かべたビーデルを見て、まあいいかと思った悟飯は大分昔にヤムチャに言われた言葉を思い出した。

 

(女の笑顔に男は頷くしかない、か。ヤムチャさんの言った通りだな、トホホ)

 

 とはいえ、母にどう言い訳したものかと考えていると、上機嫌のビーデルが楽し気に口を開く。

 

「私のパパも出場するけど、悟飯くんのところのパパは出るの?」

 

 その問いに悟飯は少し考えて。

 

「お父さんは―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビーデルに天下一武道会の出場を強制された悟飯は高校の授業を終えた後、寄り道をすることなく真っ直ぐ家路についた。

 ジェットフライヤーで五時間はかかる距離であっても悟飯ならば20分程度で家に着いてしまう。

 母を説得する良案が浮かばないまま家に着いてしまい、宿題をすると言って自分の部屋に引き籠ったが夕飯が出来て呼ばれても未だ解決策を見出せていなかった。

 

「あ、あのお母さん」

 

 隣に座る父にそっくりの弟の悟天がサイヤ人特有の大食漢振りを存分に発揮しているのを横目に見ながら、地球人の平均程度の摂取量の母チチに恐る恐る話しかけた。

 

「ん? どうしただ、悟飯ちゃん」

 

 高校生の息子がいるとは信じられない若い見た目のチチは口の中の食べ物を呑み込んで答える。

 チチの前の席の悟天は、夕食の場は悟飯がその日に学校での出来事を話すことが多いので特に気にした様子もなく食事を続けている。

 

「じ、実は今日、学校で」

「学校で?」

 

 悟飯が学校の話をするのをチチは殊の外、喜んでいた。

 戦いばかりだった幼年期と少年期を過ごした悟飯が同年代と楽しく過ごすのが嬉しいのだろう。

 

「グレートサイヤマンが僕だってことがクラスメイトにバレちゃった」

「あれまあ」

「悪い奴を捕まえた時に声とかで」

 

 正体がバレたことに目を丸くしながらも大して気にしていない風のチチに何も喉を通る気がしない。

 

「しっかりしているようでも悟空さの子供だな」

 

ニコニコと微笑んでいるチチを怒らせないかと戦々恐々としながら続きを話そうと口を開く。

 

「それで正体をバラされたくなかったら一緒に天下一武道会に出ろって……」

「いいんでねぇか、出れば」

 

 あっさりと認められてポロッと箸で掴んでいた唐揚げを落としてしまった。

 

「おっと」

 

 床に落ちる前に悟天が箸でキャッチして自分の口に運ぶ。

 

「いいの?」

「金銭を要求されるとかじゃなくて、天下一武道会に出るってだけならオラが口やかましく言うことじゃないべ」

 

 どんな話をされるのかと思って少し焦っただ、と続けて言ったチチに慌てて謝る。

 

「ご、ごめんさない…………それであの、僕もどうせ出るなら優勝したいから学校休んでみっちり修行したいなと」

 

 悟飯の発言にチチが目をパチパチとした。

 

「悟飯ちゃんが負けるとしたらベジータぐらいだべ? あの人がルールに縛られた武道会に出るとは思えねぇし、悟飯ちゃんならぶっちぎりで優勝するだよ」

 

 チチの中ではクリリンやヤムチャ、天津飯が仮に出場したとしても今の悟飯の敵ではないと考えている。流石に修行を続けていると聞いているベジータは厳しいかもしれないが、天下一大武道大会で悟空との戦いを優先して二人でどこかへ行ってしまった前歴があるだけにルールに縛られた天下一武道会にわざわざ出るとは思えない。

 

「多分、クラスの人達も来るだろうから超サイヤ人は目立つから使えないし、それにどんな強敵が現れるか」

「あのな、悟飯ちゃん」

 

 今まで強い相手とばかり闘ってきた所為でどうにも感覚がおかしい悟飯の言葉をチチが優し気に遮る。

 

「今までがおかしいだけで頻繁に悟飯ちゃんクラスの強さの人が早々出てくるわけないべ。しかも一般人が多くいる天下一武道会に」

「お父さんは自分が出てた時には一杯強い人がいたって」

「それは悟空さが今の悟飯ちゃんよりも幼い時だべ。今の悟飯ちゃんと比べたら駄目だ」

 

 ジャッキー・チェン、天津飯、ピッコロ大魔王、ピッコロ、ラディッツ、ベジータ、フリーザ、人造人間達、セル、と悟空の話をよくよく思い返してみると強敵が次々と出てきているが、普通はそんなことはありえないはずであるとチチは自分に言い聞かせる。

 

「ちゃんと学校には行くだよ。鍛えるなら学校が終わって帰って来てからでも出来るだ…………ところで」

 

 この話題を続けていると碌なことにならないと判断し、学校を休んでまで修行をする必要はないと告げたところで話を変える。

 

「悟空さが優勝した大会では賞金は50万ゼニーだたが、今回も同じなんけ?」

「えっと、聞いた話だと」

 

 却下された悟飯は肩を落としながらビーデルとの会話を思い出す。

 

「優勝すると1000万ゼニーで、2位が500万……」

「1000万ゼニー!?」

 

 5位まで賞金が出るので全部を言おうとしていた悟飯の言葉を、優勝賞金が悟空が優勝した時と比べて20倍になっていることに驚いたチチが遮る。

 

「ほ、ほんとうだか?」

「そう聞いたけど……」

 

 物欲に乏しく金勘定もしない悟飯は金額の大きさに驚きはしたものの、チチのように目を見開くほどの驚愕を覚えなかったので再度の確認に少し引き気味になりながら頷く。

 するとチチは居住まいを正すと真っ直ぐに悟飯を見る。

 

「よし、悟飯ちゃん。学校を休んでみっちり修行して優勝してくるだよ」

「え、でもさっきは」

「悟飯ちゃんなら後でも十分に取り戻せるべ」

 

 手の平返しに悟飯が困惑していると、チチは影を作って笑う。

 

「実はお父の財産も残り少なくなってきて、悟天ちゃんの大学資金はどうしようと思ってたところだよ。天の恵みは活かさねぇとな」

 

 世の中、お金お金で世知辛いと悟飯は一つ学んだ。

 しかし、悟天の大学資金までは大丈夫という祖父・牛魔王の財産は凄いのだなと内心で思ったりもする。

 

「にいちゃんが出るなら僕もてんかいちぶどうかいに出る!」

 

 さっきまでガツガツと一人だけ食べていた悟天が話が終わったと見て、食べかすを口から飛ばしながら宣言する。

 

「悟天ちゃんが出るなら賞金が増えるな」

「15歳以下の子供の部になるから賞金貰えないんじゃないかな」

「…………そうだか」

 

 捕らぬ狸の皮算用となったチチは残念そうに野菜を口に運ぶ。

 

「え~、僕もてんかいちぶどうかいに出たいよ」

「悟天も子供の部なら出られるよ」

「にいちゃんと一緒がいいのに……」

「一緒に修行するからさ。兄ちゃんが優勝出来るように応援してくれないか」

「ぶぅ、分かった」

 

 不満げな弟の頭を撫でていると、もう一つ懸案があったことを思い出す。

 

「あ、そういえばもう一つ」

 

 どう言えばいいかと考えていると、三人が付いている食卓の直ぐ横に前触れもなく誰かが現れた。

 

「たっだいま。悪いな、遅れちまった」

「悟空さ」

 

 瞬間移動で現れた孫悟空は頭を掻きつつ笑う。その姿を見たチチが立ち上がる。

 

「オラ達は先にご飯食べてるだ。悟空さはどうする? 風呂は沸かしてあるから」

「いや、汗は界王様のところで流して来たから先に飯食うぞ。ああ、準備はいいからチチは座ってていいって。遅れたのはオラの責任なんだから」

「夫の世話をするのは妻の役目だべ」

 

 なんだかんだ言いながら二人で悟空専用の食器を用意して、悟空が悟飯の前の席に座る。

 両親が並び、悟空が悟飯の対面に、チチが悟天の対面の席になる。

 

「いっただきます!」

 

 席に着いた悟空は手を合わせて食事の挨拶をすると一気に食べ始めた。

 父の食いっぷりを見ていると話ばかりで食事が進んでいなかった悟飯も手と口を動かす。

 暫く食事の時間が続き、満腹になった悟空が遅れた詫びと言って皿を洗い出すと、追い出された格好のチチがテーブルを拭く悟飯に目を留めた。

 

「そういえば悟空さが現れる前に何か言いかけてなかったか?」

 

 言われて何の話かと首を捻った悟飯だったが、直ぐに思い出した。

 

「僕に天下一武道会に出ろって言った子がお父さんも出ないのかって聞かれて」

「悟空さが?」

 

 なんでその子が悟空が出場するのかと聞くのか理解できなかった様子のチチに説明不足を自覚した悟飯が補足する。

 

「その子はセルゲーム前に行われた天下一武道会のチャンピオンの子供で、その前のチャンピオンはお父さんでしょ。だからその子供である僕にも出ないかって話で」

「セルゲーム前のチャンピオンって、確かミスターサタンじゃなかっただか?」

「そうです」

「そうか、あのミスターサタンの……」

「なんだ、なんの話してんだ?」

 

 洗い物を終えた悟空が机の近くで立ったまま話をしてる二人が気になったらしく、悟天を肩車しながら聞く。

 

「実は……」

 

 話をしていた時にはいなかった悟空に、グレートサイヤマンの正体バレから天下一武道会への出場の強要に至るまでの経緯を説明する。

 

「天下一武道会か、懐かしいな」

 

 ソファに座って悟天と遊びながら悟空は仲間達と切磋琢磨した日々を思い出して懐かしむ。

 

「お父さんも出るの?」

「オラは畑があるからなあ」

 

 膝の上の悟天の問いに苦笑を浮かべる悟空にチチが「何言ってるだ」と言って隣に座る。

 

「悟空さも出るだよ。悟飯ちゃんと二人で賞金合わせて1500万ゼニーも貰えるんだべ。行って帰って来る数日ぐらいなら畑を放っておいても問題ないだ」

「ウチの畑の野菜を贔屓してくれるお得意さんもいるのに、そういうわけにもいかねぇだろ」

 

 数年前からカプセルコーポレーション協力の下で始めた農園に対しては悟空なりにも拘りがあって、大会に出たい思いがあっても何日も家を空けたくはないようだ。

 

「お父さんには瞬間移動があるんだから大丈夫じゃないですか」

「試合の時は以外は戻ればいいし、悟空さも出るだよ」

「お父さん」

 

 悟飯、チチに言われ、悟天の熱視線に悟空はやがて根負けすることになる。

 

 




原作との差異

1.映画『銀河ギリギリ!!ぶっちぎりの凄い奴』で開催された天下一大武道大会に占いババの力で一日だけ現世に戻って来た悟空が参加。悟空の参加をしてベジータも参加し、大会本選で当たって二人でどこかに行って戦った(優勝者は悟飯、そのことは高校でもバレている)

2.悟飯がブルマの下に寄らずに真っ直ぐ帰宅

3.悟空がナメック星のドラゴンボールでセルゲーム後、一年前後で生き返っている

4.悟空が超でやっているように農業者となっている

5.セルゲームの一件で悟空は原作とは少し考え方が変わっている


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