未来からの手紙   作:スターゲイザー

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大会は丸々カットでお送りします。





第七話 不穏な影

 

 

 

 

 

 

 夕方までかかった天下一武道会後に一泊してから地元に帰る者が多い。リゾート地であるパパイヤ島の主産業は観光だとしても、数年に一度しか開催されない天下一武道会を観に来ようと集まった人々でホテルは満員御礼、むしろ人が入りきらないほどと言っていい。

 日中の熱気を残すように蒸し暑い夜のホテルは盛況であった。

 ホテルに泊まれずに野宿を強いられる者の中には遊び倒して一晩を過ごそうとする剛の者もおり、今日のパパイヤ島は夜も眠らない。

 幸運ではなく例外としてホテルに泊まれる者達もいる。祭りと呼ぶべき規模の天下一武道会の本選出場者とその家族である。本選出場者には専用の高級ホテルが宛がわれ、特に入賞者は最高級のホテルが与えられた。

 しかし、まさか入賞者が一般ランクのホテルに泊まるとは誰も予想しておらず、食堂ホールには忙しく人が出入りしていた。

 

「おっかわり!」

 

 唇の周りをソースや食べかすをベッタリと付けた悟空が空き皿を片付けようとしていたウェイトレスに頼む。

 

「ラーメン、カレー、ステーキ…………面倒だな。全メニュー十人前ずつ持って来てくれ」

「は、はいぃいいいいいいい?!」

 

 一つ一つ頼むのが面倒になって纏めると一瞬唖然としたウェイトレスは悲鳴を上げながらフラフラと皿の山を持って去っていった。

 悟空はその姿を見送ることなく大テーブルに残っている食事の片付けに入る。周りには何皿も積み上げられており、それは悟飯の周りもそうだった。

 明らかに少年時代を超えているペースと量に眉を顰める程度で済んでいるのは旦那がサイヤ人であり、息子がハーフであるブルマである。

 

「チチさん、本当に食べ放題なんて言っちゃって良いの?」

「構わないだ」

 

 ニコニコと旦那と息子が食事に勤しむのを眺めているチチに、流石にないと思うが賞金分食い潰されないか本気で心配になったブルマが聞いた。

 

「二人で1500万ゼニーも稼いでくれたからな。100万ゼニーぐらいなら平気だべ」

 

 100万ゼニーに収めるなら幾らでも食べて良いと御触れを出したチチに大喜びで食べている悟空と悟飯。

 

「俺達も食べたいよぉ」

「お母さん……」

「悟天ちゃんは暫くお預けだ」

「トランクスもよ」

 

 食べ続ける悟空と悟飯を涎を垂らしながら見ていたトランクスと悟天は、それぞれの母親に冷たく拒否されて肩を落とす。

 

「仕方ないぞ、悟天、トランクス」

 

 肩を落とす少年二人を見てクリリンが酒を片手に笑みを浮かべる。

 

「流石に入れ替わって本選に出たのはまずいぞ。擁護できない」

「クリリンさぁん」

「そんな声出しても駄目。悟飯が上手くやってくれたから良かったようなものの、下手をすれば悟空と悟飯まで失格になってたところだぞ」

 

 クリリンに怒るのではなく諭すように言われては父と兄にまで迷惑をかけるところだったことを自覚した悟天も猫なで声を止めて反省する。

 

「いいじゃないか、変装ぐらい」

「ヤムチャさん」

 

 内心、自分でも良いことを言ったと鼻高々だったクリリンに横から酒臭い吐息が放たれる。

 

「クリリンは良いよな。俺なんか、よりにもよって悟空なんかと対戦だぞ。勝てるわけないじゃないか。くそ、また一回戦負け野郎って言われる」

 

 クリリンと同じようにビールを飲んでいたヤムチャの席の周りには、食べ終わった皿を積み上げる悟空達とは反対に飲み終えた大ジョッキの山が並べられていた。

 

「飲み過ぎですよ」

「うるせぇ、これが飲まずにいられるか!」

 

 食事を取らずに酒ばかりを飲むヤムチャにクリリンが注意するが、当の本人はやるせなさでやけ酒中の真っ最中である。つまりは人の話など聞かない。

 

「自分はちゃっかり三位取っといてよ」

「俺の場合はただくじ運が良かっただけですよ」

「どうせ俺はくじ運ないですようだ」

「警察官のクリリン君と無職のヤムチャなんだし、日頃の行いの違いじゃないの」

「ぐっ!?」

 

 こういう時に運の良さを発揮するのが日頃の行いなのだとすれば、定職にも付かずにブラブラとしているヤムチャよりも警察官として人の為に働いているクリリンとは比べるにも値しないだろう。

 拗ねかけていたヤムチャは、ブルマの全く以て反論の余地のない的確な突っ込みに胸を抑えて悶える。

 

「そうだべ。18号がミスター・サタンを脅してお金を取ろうとしたのを止めたクリリンの方がずっと上だべ」

「おい、止めてくれ。その話は」

「あら、自分の眼の届く範囲で悪を許さないってのは中々出来ることじゃないわよ」

「んだ。18号は良い旦那を持っただ」

 

 ブルマに続いてチチの口撃に被弾したのはマーロンの世話をしていた18号の方だった。

 幾ら人間ベースの人造人間とはいえ、妊娠・出産は例がなく不安を感じていた時に相談に乗ってくれたブルマとチチには頭が上がらない18号は顔を赤くして顔を逸らす。

 

「ママ、顔真っ赤」

 

 間近のマーロンには丸見えで、ブルマとチチは旦那に惚れ直した様子の18号をにこやかに見るのみである。

 

「そ、それよりも悟飯はいいのかい? 決勝で変装が解けてクラスメイト達に正体がバレちまったんだろ」

 

 18号は話の矛先を変えようと悟飯に嘴を向ける。

 話題の当人である悟飯は目をパチクリとさせて口の中の物を呑み込むと、一端抱えていた大皿をテーブルに置く。

 

「知られてしまったのは仕方ないですよ。元から武道をやっていたのは知られてますし、グレートサイヤマンは名前だけを借りたってことにします」

「私も口裏を合わせますから大丈夫だと思います」

 

 一周回って開き直ることにした悟飯の隣で、見たことはあるがサイヤ人達の遠慮のない食べっぷりに引き攣っていたビーデルが援護を出す。

 

「それよりも私は皆さんの強さに驚きました。悟飯君もそうですけど、クリリンさんも凄い達人で私なんか足下にも及ばなくて」

 

 準決勝で悟飯には手加減されて拳圧だけで舞空術を使う暇もなく場外に押し出され、三位決定戦ではクリリンに稽古を付けられたようなもので、ビーデルは自分が井の中の蛙であったことを強く自覚した。

 

「これでも君の倍は武道家として生きてるから、あれぐらいは出来ないとな」

 

 褒められて悪い気はしないクリリンが年長者としての風格を出そうと肩肘を張りながら語る。

 

(私だってパパに勝ったのに、悟飯君には手も足も出なくて、クリリンさんにも稽古を付けてもらって接戦の末に運悪く敗れたように見せられるほどの力の差があって、二人に勝った悟空さんはもっと強いっていうし)

 

 実際、ビーデルを相手にした時の力は万分の一にも満たないクリリンの余裕を感じ取ってゴクリと唾を呑んだ。

 決勝戦の悟空と悟飯の目にも映らぬ常識の遥か外側の戦いを見て、改めて見識を広がった世界を見たビーデルの背筋が粟立つ。

 

「地球人最強はクリリンだしな」

 

 不貞腐れたヤムチャがテーブルに顎を乗せてぽつりと言った。

 

「ヤムチャさん、俺よりも修行を続けている天津飯さんの方が強いですよ」

「アイツは三つ目人っていう宇宙人の末裔らしいから純粋な地球人ならクリリンになるだろ。ちなみに天津飯ってのは俺達の仲間で悟空の前のチャンピオンな」

「え、天津飯さんって宇宙人の末裔だったんですか!?」

「俺も聞いた時はびっくりしたよ」

 

 天津飯、というまたビーデルが知らない名前が出てきたが、少なくとも二人の見解ではクリリンよりもその天津飯の方が強いらしい。悟飯も天津飯が宇宙人の末裔であったことは知らなかったらしく驚いている。

 そこで一つビーデルに疑問が湧いた。

 

「悟飯君や悟空さんは地球人じゃないんですか?」

 

 天津飯という人がどのような見た目かは分からないが少なくとも悟空や悟飯は地球人にしか見えないのに、先程の話では準決勝でクリリンに、決勝で悟飯に勝った一番強く見える悟空が地球人ではないようだ。

 

「悟空は戦闘民族サイヤ人っていう宇宙人で、悟飯は地球人のチチさんとの間に生まれたハーフなんだよ」

「ちょっとヤムチャさん」

「戦闘民族……」

 

 クリリンが止めるよりも早く酒で軽くなったヤムチャの口は軽く、あっさりとその事実を暴露してしまった。

 しかし、寧ろ二人の強さに納得がいったビーデルは得心していた。

 

「ブルマの旦那、ここにはいないがベジータって奴もサイヤ人でな。悟空並に強いんだ。サイヤ人とそのハーフは俺達地球人じゃとてもとても」

 

 ビーデルは今日一日、自分が父を越えていたこと、悟飯の強さや、その仲間達の圧倒的な強さに何度も驚かされたものだが、もう空いた口が塞がらない。

 

(道理であの子達も強いわけだわ)

 

 色々と思うところはあるが、そうすれば少年部で見せた悟天とトランクスの常識外れの力にも納得がいってしまい、ビーデルは呆けるしかなかった。

 

「だ、大丈夫ですか、ビーデルさん」

 

 頭痛がしてそうな表情をしているビーデルを心配してくれる悟飯の気持ちは嬉しいが、原因の半分以上は悟飯にあった。

 

「今日一日で何度も常識が壊れたわよ……」

「ようこそ、非常識な世界に。悟飯君と付き合いたいんなら今までの常識が壊れた方が楽よ」

「そうだな。サイヤ人の嫁は強くなくちゃいけないだよ」

「お、お母さん達?! 何を言っているんですか!?」

 

 壊れたように笑うビーデルに仲間になったことを歓迎するブルマとチチの揶揄い言葉に反応した悟飯に皆が笑う。

 息子をフォローする為ではないが皿から顔を上げた悟空がビーデルを見る。

 

「嫁だとか付き合うとかはともかく、ビーデルも筋は良いんだから頑張って鍛えればそこそこ強くなれるぞ」

「え、本当ですか?」

「本当、本当」

「じゃあ、私を鍛えてくれますか?」

 

 安請け合いしそうになった悟空は隣に座るチチに脇腹を肘で突かれて少し考える。

 

「オラは人に教えるとかは苦手でな。悟飯に舞空術を教えてもらったんだから悟飯が鍛えてやったらどうだ?」

「僕ですか?」

「それがいいべ。ここは若い二人に任せるだよ」

 

 オホホ、と変な笑いを見せるチチに顔を見合わせた悟飯とビーデルは顔を赤らめて俯く。

 青春真っ盛りな二人の姿は一人身のヤムチャの目には毒である。

 

「ヤムチャ、どうしたんだ?」

「トイレ」

 

 席を立つと父親の目で悟飯とビーデルを見ていた悟空が問いかけてきたので率直に返す。

 居た堪れないのもあるが、酒の飲み過ぎて催してしまったのも本当なので嘘ではない。

 

「…………そういえば、選手の中に変なのがいたよな」

 

 世間一般では晩婚だったクリリンはヤムチャの気持ちも少しは分かる。苦笑しながら見送って次なる話題を口にする。

 その話題にトランクスも乗っかる。

 

「俺達がマイティマスクとして闘ったスポポビッチって人でしょ。大したことのない威力だったけど気功波も使ってたから変だなとは思ったんだ」

「うんうん、普通の人にしては我慢強かったよね」

「後は俺が闘ったヤムーって奴もな」

 

 涎が床にまで垂れていたトランクスと悟天もクリリンの話題に乗っかる。

 

「悟天とトランクスの基準だと当てにならないけど、確かに僕も少し異様に感じましたね」

「最初は力が入り過ぎてるんじゃないかとは思ったあの目付きの悪い奴らか」

 

 悟飯と悟空も直接二人と戦ったわけではないが異様なものを感じ取っており、強く印象に残っていたので食事の手を止めて話に加わる。

 

「俺の聞いた話じゃ、スポポビッチって奴は前の大会にも出てて知ってる奴がいたんだが随分と人が変わったらしい」

「あ、私もあの人のことは覚えてます。前見た時とは別人みたいでした」

「だろ? ちょっと気になってな」

 

 警察官としての職業病とでもいうのか、クリリンは人に聞いて調べていたらしい。ビーデルもスポポビッチのことは覚えていたらしく、疑問に覚えていたようだ。

 

「舞空術と気功波は気さえ使えればそこまで難しいものじゃねぇが、確かに妙だ」

「七年もあったので習得したとも考えられますけど」

「強さと技術が噛み合ってねぇんだよな」

 

 悟飯の意見も必ずしも否定する根拠はないが、にしては実力が比例していないのが気になる所である。

 

「実力はビーデルよりも下だけど、クリリンと悟天・トランクスの手加減したとはいえ攻撃に耐えられたことがおかしい」

「普通の奴なら十分に意識を刈り取る一撃を入れても平気な顔をしてたしな。倒した時は殺しちゃったかもって思っちゃったよ」

 

 冷静に見ていた悟空はどうしてもあの二人のちぐはぐさが拭えない。クリリンが一般人の戦闘力を見抜けないはずがないと信頼しており、ますます分からないと首を捻る。

 

「私達もアレって思ったぐらいだし、後で天界にいるピッコロに聞いてみたら?」

 

 一般人と戦士を知るブルマですら疑問を感じたのならば明らかに普通ではなかったのだろう。こういう時は困った時のピッコロ頼みである。

 

「明日の朝にちっと聞きに行ってみっか」

「僕が行きますよ。デンデと話もしたいし」

「じゃあ、たの」

 

 む、と悟空が言いかけて、突如としてトイレに行っているはずのヤムチャの気が大きく乱れ、減っていく。

 

「お前らはここを動くな!」

 

 立ち上がった悟空が叫び、同じくヤムチャの気の乱れを感じ取った悟飯とクリリンと共に食堂ホールを出て行く。

 大人達に付いて行こうとしたトランクスと悟天をそれぞれの母親が体を張って捕まえる。二人なら力尽くで振り解けるが、そんなことすれば怪我をさせると分かっているので大人しくするしかない。

 その間にも気が減っていくヤムチャの下へ悟空達は辿り着いた。

 

「ヤムチャ!」

 

 男性トイレのドアを蹴飛ばした悟空が電気が着いていない室内の床で二人の男に拘束されているヤムチャの名を叫ぶ。

 

「ちっ」

 

 二人の内、小さい方の男が悟空達の登場に舌打ちをする。

 

「お前、ヤムーって奴じゃねぇか。ヤムチャに何してる!」

 

 ヤムチャを羽交い絞めにして床に押し倒している大男のスポポビッチと、ヤムチャに何かを突き刺しているヤムーの姿を見て悟空が超サイヤ人になる。一瞬遅れて悟飯も超サイヤ人になる。

 トイレ内を一瞬で明るくし、素人でも分かる威圧感を発する悟空と悟飯にスポポビッチとヤムーも怯んだ。

 

「ヤムチャをは」

 

 なせ、とトイレ内に踏み込んで一気に二人を倒そうとした悟空と悟飯の体が外的要因によって硬直した。

 

「逃げるぞ!」

「お、応!」

 

 停止した二人に隙を見て取ったスポポビッチとヤムーは即座に壁を気功波で破壊して、ヤムチャを放り出して舞空術で逃げ出す。

 

「はぁっ!」

「ふぅっ!」

 

 悟空と悟飯が動きを止められた金縛りのようなものを気合で弾き飛ばした時には、気功波の余波が襲って来ていた。

 

「行ったか…………ヤムチャはどうだ?」

 

 壊された壁際に寄り、去って行った二人の姿が見えなくなった悟空は、先にヤムチャに駆け寄っている悟飯とクリリンに聞く。

 

「なんだこりゃ、気が抜き取られたみたいな感じだ」

「大丈夫ですか、ヤムチャさん?」

「ち、力が入らない……」

 

 ヤムチャの変わった状態に眉を顰めながらも、少なくとも悟飯の問いに返答を返せる以上は大事はないだろうと悟空は判断する。

 

「仙豆…………を取りに行くよりは天界にヤムチャを連れてってデンデに治療してもらった方が速そうだな」

「お待ち下さい」

 

 悟空がヤムチャを連れて瞬間移動しようとした瞬間、第三者の声がトイレに響き渡った。

 声が聞こえるほどの近距離に接近されながらも気が付かなかったことに内心で驚愕しながら、焦りを押し殺して壊された壁から見える外に体ごと向き直る。

 そこには丸い耳飾りを両耳に付けた変わった服装の二人が宙に浮かんでいる。

 

「私は界王神です。孫悟空さん、あなたにお願いしたいことがあります」

 

 小柄の人影――――界王神がそう言って悟空を見た。

 

 

 




原作との差異

1.悟空が優勝、悟飯が2位、クリリンが3位、ビーデルが4位、サタンが5位

2.マイティマスクの正体が早くにバレ

3.サタンに対する18号の脅しはクリリンによって阻止

4.初戦の相手が悟空だったヤムチャは安定の一回戦敗退

5.スポポビッチとヤムーが一人になったヤムチャを襲う(金縛りで動きを封じたのは界王神)

6.界王神の遅れた登場


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