ものすごく難産でした。
私はどうして赫子を9本にしたんだ……お陰でただでさえ難しい戦闘描写が驚くほど難しくなってしまったじゃないか。もう、ぼかして書いたよこんちくしょう!
俺が穿った赫子は、しかしすんでのところで躱された。
「新手か…。っち、グズめ。…まぁいい。すぐに片付ければいい話だ」
「………」
白いやつが持ってるあの赫子。形も、匂いも、何もかも、見間違いようがない。あのクインケは、ヒナミの父親だ。
奥歯をギリッと噛みしめる。
「リョーコさん、走れますか?」
「え、…ええ」
「なら、逃げてください。娘さんは無事ですので、ご安心を。取り敢えず、例の場所へ」
「で、でも」
「俺のことは心配しないでください。こいつら殺して、終わりです」
「ほう…。随分と簡単に言ってくれるなら。私が逃すとでも?」
白いやつがクインケを振るう。それは不規則な動きでうねり、リョーコさんに迫るが…何回もヒナミの父親と模擬戦をした俺からしてみれば、防ぐのは容易い。
赫子を一本動かして、クインケを弾く。
「……簡単だからな」
「………」
リョーコさんが走り出す。その姿を隠すように、赫子を広げ威嚇する。
「…ふむ。どうやら、少しは出来るグズのようだ。亜門君。君は私のサポートに徹したまえ」
「!? 真戸さん、俺もーー」
「このグズは、君には少し荷が重い」
「…真戸さんがそう言うのであれば」
「…待たせたかな」
「いや、別に待ってねぇよ」
もう、攻撃は始まってる。
◇side亜門
「いや、別に待ってねぇよ」
新しく乱入してきた喰種がそう言った瞬間、私の上司である真戸さんが右に飛んだ。そして次の瞬間、真戸さんが立っていた地面から赫子が生えてきた。
思わず息を飲む。この喰種、今まで戦ってきたどの喰種よりも、強い。俺なら、今の一撃で確実に死んでいただろう。
「……どうやら、あんたもそこいらの白鳩とは違うみたいだな。随分と戦い慣れてる。特等か?」
「グズに言うわけがないだろう? しかし、やはりグズだな。いきなり不意打ちとは。随分といい性格をしているようだ」
「…あんたには言われたくねぇよ」
そこからまた攻防が始まった。合計5本になった赫子の内、2本を主に使い、隙ができれば待機させていた一本で攻撃を繰り出す。残りの一本は常に自身の周りに展開し、防御を固め、残りの一本は俺の方に向いている。
俺が少しでも動くと、赫子がすぐに飛んでくる。
…隙がない。
「草場さん、中島さん。今すぐここから離れて応援を要請してください」
「わ、分かりました」
聞こえたのだろう。すぐさま阻止するように赫子が攻撃してきた。クインケで、なんとか受け止めるが…重い!
勢いを止められず、宙に弾かれる。
「ぐっ…」
「亜門さん!」
「早く行ってください!」
くそっ、ただ振るわれた尾嚇が重すぎる! 一本でも厄介なのに、それを3本も……っ!
「真戸さん!」
真戸さんが、吹き飛ばされた。
◇
あの亜門とかいう奴を弾き飛ばした時、目の前のハトに一瞬隙ができた。
俺はそれに躊躇することなく尻尾を薙ぎ払う。咄嗟にクインケを盾にされたが、その程度でどうこうなるほど、俺の嚇子は優しくない。白鳩を吹き飛ばした。
白鳩は壁に叩きつけられ、ずり落ちる。
そうこうしているうちに、クインケを持っていない2人には逃げられてしまった。まだここからでも足音は捕捉できているがーー今はこいつらを殺すことを優先させた方がいいな。
亜門とかいう奴が白い骸骨みたいな白鳩を庇うように立つ。その目には敵意がありありと浮かんでいる。
俺はトドメを刺すように、5本全ての尾を白鳩に向けーー弾けるように、そこから距離を取る。
次の瞬間、俺が立っていたところに電撃の槍が降り注いだ。
雨のせいで殆ど匂いと音がしなかった……。いや、これはただの言い訳だ。こいつなら、今まで俺のように五感の優れたやつと戦ったことはあるだろうから、もう癖のように染み付いている動きだったのだろう。
「あなたは…」
亜門とやらの目が、驚きに開かれる。
「死神……」
CCGの死神が、そこにいた。
嫌な汗が、背を伝う。
「よう、昨日ぶりだな」
「………」
死神は俺の声を無視して、クインケを構え一気に距離を詰めてきた。
「いきなり、かよ!」
2本の尾を迎撃に向かわせ、それを難なく弾かれ、かわされたことにより様子見をやめて全力で戦うことを選択する。
すなわち、残り4本も展開し、全9本で相手をする。
「なっ、9本に増えただと!?」
そんな亜門の驚きの声が聞こえないほど、死神と蓮の間で激しい攻防が繰り広げられる。
蓮は9本の尻尾を巧みに操りそこいらの白鳩ならとっくに命はないであろう攻撃をひたすら繰り返す。それに対して死神は、まるで舞うかのようにクインケで弾き、防ぎ、いなし、かわす。隙を見つけては電撃を放ち、それを蓮は容易く避け、あるいは防ぐ。
1秒が1分とでも錯覚してしまいそうなほどの攻防の果て、両者の一撃がお互いに弾き合い、距離を強制的にとったことで、一旦の攻防は終わった。
睨み合いの中、蓮は内心で舌打ちをする。
お互いまだ本気ではないとはいえ……CCGの死神が想像以上に強い。24区であったときから感じていたが、実際はそれ以上に厄介だった。大抵の白鳩なら、9本の攻防に対処しきれないのだが、こいつは違う。どれもこれも最小限の動きで回避し、反撃までしてくる始末。実力は、五分五分といったところ。いや、これまでの経験から、死神の方が一歩まさっているだろう。
そこまで思考し、さらに舌打ちする。目撃者である4人の白鳩は殺しておきたかったが、現状不可能になってしまった。
亜門とかいうやつと骸骨野郎も態勢を整え終えている。時間稼ぎは十分だし、潮時か。
死神が電撃を放ってくる。それを回避すると同時に大きく距離を取り、二階建ての建物の屋根の上に飛び移る。
死神と目が合う……どうやら、追ってくる意思はないようだった。
それを確認し、背を向けてその場を離脱しようとした、その時。
「待て! お前らグズは罪のない人を平気で殺め、己の欲望のまま喰らう! 貴様らの手で親を失った子も大勢いる! 残されたものの気持ち、悲しみ、孤独、空虚……お前たちはそれを想像したことはあるのか! 彼らのどこに、貴様らに殺される理由があった! この世界は間違ってる! 歪めてるのは、貴様らだ! どこに逃げようと、俺が必ず貴様らを仕留める!」
そう、心からの憎悪の叫びを聞き、
「……あ?」
自分でも信じられないほど低い声を出した。
しまった赫子を再び展開する。
「誰が、平気で人を殺し、欲望のままに食らうだって?」
屋根の上から飛び降り、ゆらりゆらりと歩を進める姿は、さながら幽鬼。
「悲しみ、孤独、空虚…それを想像したことがあるかだぁ? それはこっちのセリフだゴミが。お前らは、1人残された喰種の子どもたちの悲しみ、孤独、空虚、それに、他の喰種に喰われるかもしれないという恐怖を考えたことはあるのか? 俺たちが何の罪悪感もなく、人を喰らってるとでも? もちろん、中にはそんなやつだっているさ。だがな、大抵の喰種は、その罪悪感に苦しんでるんだよ。さらに言うなら、リョーコさんは一度たりとも、その手で人間を殺してはいない。聞こう。彼女を殺す理由が、どこにある?」
「ふん、そんなものーー」
「喰種だから、だろ? 聞き飽きたよ。お前らの戯言は。仕方ないだろ。俺たちは偶々喰種に生まれたんだ。人間しか食べれないんだよ。なら、死にたくないから、人間を食うしかないだろうが。というかさ、さっきから俺らのことをグズグズいうが、人間の方がグズだろうが」
「…なんだと?」
「その骸骨みたいなのが持ってるクインケ、リョーコさんの夫だろ。お前ら、よくそんな残酷なことができるよな」
「何をいうかと思えば…」
「なんだ? 喰種だから当たり前だとでも? なら分かりやすく人間で例えてやる。お前らは幸せな人間の家庭の夫を殺し、その骨で武器を作り、その武器で妻とその娘を殺そうとしてるんだぞ? お前らの方が、よっぽどクズだ。っていうか、テメェーらが歩み寄れば、多少なりとも喰種の被害は減るんだよ。テメーら人間が、死んだ人間を俺たち喰種に恵んでくれさえすれば、人間をわざわざ襲って喰う喰種は少しは減るだろうに」
「そんなこと」
「出来るわけない、だろ? なら俺らは生きるために、人を殺して喰うしかないんだよ。歪めてるのは喰種だって? それはそうだろう。人間しか食えないからな。だが、本当に俺たちだけか? 俺からしてみれば、人間の方がよっぽど、この世界を歪めてるよ。本当に、思考を放棄したお前みたいな醜い人間を見ると、殺したくて殺したくて仕方がなくなるよ」
それまで、意外なことに黙って話を聞いていた死神が、かちゃりとクインケを構える。
俺はそれに相手に聞こえるように舌打ちをし、
「俺をどこまでも追いかけ、仕留めようとしようが勝手だけどな、その時は俺はお前を殺して、親を殺された喰種の子どもたちの飯になってもらう。覚悟しとけよ、人間という名のグズ」
それだけ言い残すと、俺は再び屋根の上に登り、その場から離脱した。
お疲れ様でした。
いやはや、本当はもっと蓮くんに人間のグズ度を言わせたかったんだけど…まぁ、思うようにいかないよね。
まぁそんなわけで大変遅くなって申し訳ありませんでした。