みんな個性的でいいね   作:柴猫侍

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Jet Set Run

「……放さんか、受精卵小娘が」

「……アンタもな、勃起不全爺が」

 

 一つ屋根の下、小汚いリビングの中央に置かれるテーブルを挟み、矮躯の老人と筋肉質な少女が、一つのたい焼きを我が物にせんと引っ張り合っていた。

 前者は、部屋着には凡そ見えない白と黄色が基調のヒーローコスチュームを身に纏っている。

 一方後者は、これから出かけるのか、白いTシャツにジーンズと至ってラフな格好だ。プラチナブロンドの髪をミディアムに切り揃える彼女の顔は、端正で中世的だが、どことなく男前な雰囲気を漂わせている。

 

 そして、電子レンジで温められたと思しきたい焼きは、素朴な甘い香りを部屋一杯に漂わせ、甘いものを欲する人間の食欲を駆り立てる。だが、それが不幸にも一つの争いを生み、現在に至っていた。

 

 今にも真っ二つに裂けそうなたい焼きは、若干中に入っていた餡子を、裂け目から覗かせている。

 素朴な甘さが際立つ粒あんだ。こしあん程の滑らかな舌触りこそないものの、形が残る小豆の食感を楽しめる粒あんは、やはり人気がある。

 

「年長者を敬うということを覚えんか。先の短い年寄りに冷凍たい焼きの一つも寄越せんたぁ、おまえロクな人生歩めんぞ」

「例え年上でも身内でも、譲れない時って意地ってモンがあるのさ」

「小せぇプライドだなあ」

「同じ穴の狢だろ」

「……」

「……」

 

 交わす視線がバチバチと火花をまき散らす。

 こうしている間にも、たい焼きの温度はじわじわ下がっていく。冷めたたい焼きなど食すに値しない。あのホカホカ具合が堪らないのだ。

 ならばどうするべきか。

 

「……いっちょ、鬼ごっこでもするか」

「……いいよ、やってやんよォ!!」

「よし来た。乳臭ェ小娘あしらうのなんざ、赤子の手をひねるくらい楽だっつーの」

「言ったな、爺。ほえ面かかせてやらァ!!」

「威勢だけはいっちょ前だな! 俺が鬼、制限時間は一分。それでいいな?」

「っしゃあ! たい焼きは俺のモンじゃあああ!!!」

 

 吼える少女に対し、不敵な笑みを浮かべる老人。

 勝利した暁にできる賞品とも言うべきたい焼きは、テーブルの上の皿へ、ちょこんと置かれる。

 

 次の瞬間、両者は大きく息を吸い込む。それこそ辺りに漂う香しい匂いを取り込む程に。普通であれば、ただの深呼吸に見えるその行為も、彼らにとっては常人とは全く違う意味を持つ行為である。

 

―――戦に臨むべく、武器を取り込んだのだ。

 

 刹那、一陣の風が室内に吹き荒れる。

 部屋中を奔る無数の線は、壁に当たる度に跳ね返るように、再び勢いを増して別の方向へ向かっていく。

 それから何度も交差する二つの線は、数度の打撃音も響かせ、息を飲む超速戦闘を行っていたが、少女の突進の勢いが衰え始める。

 

「ん、にゃあ゛あ゛ああ!!」

 

 最後っ屁と言わんばかりの雄叫びを上げ、眼前の老人へ手を伸ばす少女。

 だが、最後の最後で老人の姿は掻き消え、同時に少女の背中に痛みが奔る。気づいた時には体がくの字に曲がり、受け身もとることなく床へ顔面から落下することとなり、『ぐえっ!』と蛙が潰れたような悲鳴を上げた後、ピクリとも動かなくなった。

 

「一分。俺の勝ちだ」

「ぐぬぬ……ッ!」

「あんだけほざいて結果がこれたァ、とんだ笑いモンだな」

 

 地に伏せ、ギリギリと歯軋りする音を奏でる少女へ、老人は畳みかけるように嫌味な言葉を吐く。

 しかし、それは同時に少女の逆鱗に触れてしまったようであり、若い女の子が浮かべてはいけない修羅の如き表情となった少女が、さっさと立ち上がり、玄関の扉を壊れるくらいの勢いでブチ開けた。

 

「はっ! じゃあいいよ! 俺は街に繰り出して、そんな冷めかけの冷凍たい焼きよりも美味し~い奴、たっくさん食べてきてやるから! 華屋の粒あんたい焼きに、桝田屋のクリームたい焼き……あ~あ、きっと出来立てホカホカで美味しいんだろーなー!」

「なに!? オイ、その話詳しく……」

「グッバイ! 土産はないからなっ!」

「ま、待て! 分かった、こいつをやるから―――」

 

 老人が最後まで言葉を紡ぐ前に、少女は颯爽と家の外へ飛び出していってしまった。

 扉が閉じる際に巻き起こる風が、老人の前髪をふわりと靡かせ、それが美味なる甘味を口にすることが叶わなくなってしまった彼の哀愁を、一層引き出させた。

 

「み、美空……俺にもたい焼きを……」

 

 自分以外誰も居なくなったリビングで、老人―――グラントリノは、誰にも聞かれることのない言葉を淋しく呟くのであった。

 

 

 

 +

 

 

 

 昼下がりの街中。

 少し動き回ればじんわりと汗を掻いてしまいそうな暑い中、一人大きな袋を腕で携え、至福の笑みを浮かべ、たい焼きを食べる少女が居た。

 彼女―――飛田(ひだ)美空(みそら)は、つい先ほど購入したクリームたい焼きを片手に、食べ歩きに勤しんでいた。皮から香ばしい匂いが漂い、歯ざわりのいいパリパリとした食感に、しっとりモチモチとした中の食感が、絶妙なハーモニーを奏でている。尚且つ、これでもかという程パンパンに詰まっていたクリームは、皮の小麦本来の香りと甘さを損なわないよう、控えめで上品な甘さだ。

 

 ああ、桃源郷は此処にあった。

 たい焼き一つで極楽にでも行けるような気分の美空は、意気揚々と人が行き交う街中に目を遣る。

 

 親子連れに、学生、カップル、サラリーマンなど、多種多様な人々が十人十色な見た目で歩く様は、さながらファンタジーの世界のようだ。

 しかし、この超人社会に生まれた彼女は、普通の人の姿形で生まれたからといって、異形型の“個性”の者に偏見を持つような者ではない豪気さを兼ね備えていた。

 

「ん~、あま~い♥」

 

―――甘い物には目がないが

 

 頬一杯に頬張り笑顔を浮かべ、少し休めそうな木漏れ日溢れる日陰へ足を運び、そのままドサリとベンチに腰を掛ける。

 火照って汗が滲む体表を、涼やかな風撫でてくれた。これは良い場所を見つけたと言わんばかりに、美空は残るたい焼きを食べ進める。定番から変わり種まで、およそ十種類ほど買い揃えた品々が入っている紙袋を抱くのは、ちょっとした赤子を抱いているような気分だ。

 見ているだけで幸せとは、まさにこのこと。

 目に入れてもいいほど可愛くはないが、口に入れれば幸せ一杯だ。

 

「次は何にしよっかなー♪」

 

 餡子? チョコ? 白あん? 抹茶?

 しまった。これだけたくさん買ってしまうと、どれから食べればいいか悩んでしまう。嬉しい悩みに苛まれる美空であったが、ふとした喉の渇きに気づき、辺りを見渡し始める。

 すると、数メートルほど先に自販機が並んでいるのが目に入った。

 

(お茶買うか)

 

 たい焼きそのものの甘さを感じたい為、サイダーやコーラなどの甘い清涼飲料水はもってのほかだ。買うならば水か、日本人の心と言っても過言ではないお茶である。

 この時は単なる気まぐれでお茶を選んだ美空は、ポンとたい焼きが入った紙袋をベンチに置き、軽快な足取りで自販機へ向かう。

 

愛するたい焼きを肌身から離すなど、如何せん無防備過ぎるのでは? そう思ったあなた、安心してください。愛するたい焼きの為であれば、匂いを辿り、即座に駆けつけることができる自信がある―――彼女はそういう人間だ。

 

 閑話休題。

 

「100円100円……」

 

 財布の中を探り、小銭を探す。

 すると背後が何やら騒がしいが、今はそれどころではない。

 

「あった! ……あ、10円ないじゃんか」

 

 漸く100円玉を見つけたと思えば、残りの金額分の小銭がない。無駄な労力を費やしたことにため息を吐きながら、今度は1000円札がないかを探し始める。

 この間にも、何かが砕ける音や悲鳴のような声が上がるが、美空の耳に入ることはなかった。

 

「……あー、無い。くっそぅ……こんなことなら、余分に持ってくるんだった」

 

 結局は、目の前の自販機の飲み物を何一つ買えないことが発覚し、自身の見通しの甘さにブー垂れる。

 次の瞬間、思わず一歩前に足を出してしまうほどの風圧が、背後で巻き起こった。

 同時に響く破砕音にようやく気が付いた美空はとっさに振り返り、信じがたい光景を目の当たりにする。

 

「あ……あぁ……」

 

 どこから飛んできたのやら。丸くて大きい岩石が、たい焼きの入っていた紙袋ごとベンチを圧し潰しているではないか。

 無残にも地面に転がるたい焼きは、中身を腸のごとくまき散らしている。

 

 楽しみにしていた食べ物が、一瞬にして口にすることが出来ない状態に陥った光景を前に美空は、口をあんぐりと開けたままプルプルと震え、意味を持たない声を発するだけだ。

 それだけ眼前の光景がショックだった。

 

 息をするのも忘れ、たい焼きの亡骸を茫然と眺めること数十秒。

 今度は自分に影がかかった事を察し、即座に右へ飛び込むことで、振ってきたコンクリートの瓦礫を回避する。

 家で祖父グラントリノと鬼ごっこした時とは違い、持ち前の身軽さを生かし、華麗な受け身を取り、すぐにでも動けるような態勢になった美空は事の元凶となった人物を見遣った。

 

 大男と呼ぶに値する、筋骨隆々な肉体。くすんだ灰色の皮膚は見るからに分厚く、鎧のように体を覆いつくしている。

 更に極めつけは、頭部から真っすぐ天を衝くように伸びる角だ。

 

「たい……じゃなくて、サイだ」

 

 犠牲になったたい焼きに後ろ髪引かれる想いのまま向ける視線の先には、岩のような腕を振るい、警察のパトカーを投げ飛ばす、サイの異形型という“個性”の敵が暴虐を尽くしていた。

 荒く鼻息を吐き、けたたましい雄叫びを上げれば、近くの道路標識を引き抜き、警棒を構える警官数人を一度に吹き飛ばす。

 

「ぐああっ!!」

「くっ……ヒーローへ応援要請!! 三条通りで敵が暴れています!! 敵は強盗で指名手配中の『ライノ』……ヒィ!?」

 

 無線で応援を呼んでいた警官の一人の脚元に、槍のように道路標識が突き刺さる。

 その音、風圧もさることながら、それを為せるだけの敵『ライノ』の膂力が尋常ではないことは理解できよう。

 

「……よくも」

 

 警官が蹂躙され、市民が逃げ惑う中、暴れまわる敵を前に固く拳を握った美空。

 バゴンバゴンと破砕音が響く中、怒りに震える声を発しながら、せっせと靴と靴下を脱ぎ捨てる。

 横を通り過ぎる人に『何してんだ、あんちゃん!?』と声をかけられ、男に間違えられたことにも怒りのボルテージは上昇していく。

 

 そして―――

 

「よくもォっ!!」

「ム―――……ぶぼぉ!?」

 

 怒号に気が付いたライノが振り向けば、顔面に疾風の如き蹴りが突き刺さる。

 思わぬ一撃に不意を突かれたライノは、その巨体のバランスをぐらりと崩し、ズゥンと腹の奥底に響く音を立てて地面に倒れた。

 

「な、なンだァ!? てめェは!!」

「おい、知ってるか? 食い物の恨みはなァ……恐ろしいってことを」

「はぁ? なに戯けたこと……ぶッ!?」

 

 何が何だか分からぬまま吼えるライノであったが、勢いよく振り下された素足で口を踏みつけられ、続きの言葉を紡げなくなる。

 ちょうど胸の上あたりに佇む美空は、それはもうお怒りの様子だ。

 自然界では百獣の王ライオンさえも寄せ付けぬ強さを誇るサイ―――その“個性”を見に宿す敵であったが、そんな彼でさえ恐れ戦く般若が、牙を剥きだしにしていた。

 

「朝に一つ食いっぱぐれて……その上、昼飯代わりのたい焼きほとんどぶっ潰してくれるたァ、覚悟できてんだろうなァ!!」

「知るかァ!!! 邪魔だァ!!!」

 

 若干籠りながらも血気盛んな様子で叫んだライノは、そのまま胸の上の美空を殴り飛ばすべく、鎚のように拳を振るう。

 だが、ブワッと旋風が吹き渡ったかと思えば、美空の姿は一瞬にしてライノの視界から消え失せる。

 

 どこに行ったかと探るべく、地を揺るがしながら立ち上がったライノ。

 しかし、視界に捉えられるのは、辛うじて線となって街並みの中を飛び交う人影のみ。

 

「づッ!」

 

 速い! そう認識した時には、既に背中へ蹴りを入れられた時だった。

 

「痒ィなッ!!!」

 

 しかし、鎧のような皮膚を有すライノに決定打を与えられるような威力は有してはいない。

 流石に、素足で岩石のような皮膚を持つ相手を倒すには威力が引きすぎるか。そう思い至った美空は、不機嫌そうな顔で舌打ちする。

 

「チィッ!」

「餓鬼がしゃしゃり出やがって!! ヒーローが来る前にぶっ殺して……」

「ヒーローが来る前に……なんだってぇえええ!!?」

「お゛ぉ!!?」

 

 美空は、風を切る勢いで振るわれた腕を躱し、掌と足裏にある穴から突風と言っても差し支えない勢いの風を噴射し、一瞬にしてライノの背後をとるように移動した。

 その図体故、鈍重な動きのライノの裏をとるような身のこなしは、疾風の如し。

 次の瞬間にはライノの右膝裏へ、強烈な横薙ぎの蹴りを放ち、無理やり膝を落として見せた。

 

「て、ンめェ……ッ!?」

「いくら皮膚硬かろうが、関節は他よりァ脆いだろ!!」

 

 態勢を崩しても尚、美空を潰さんと振るわれる一撃。それさえも回避した彼女は、掌と足裏―――合計四つの噴射口から空気を発しながら宙をビュンビュンと飛び回り、ライノを追いつめていく。

 

 右膝をついている相手の左足を、真後ろからタックルと食らわせるように持ち上げる。

 すると、ライノは必然的に後ろへ倒れるが、美空はそのまま左足を放し、再び宙へ飛び跳ねた。

 器用に翻り、体の正面を今にも背中を地につけようとするライノへ向け、徐に掌を空へかざす。

 

「さっきは痒いとか言ってくれたな。なら、こいつはどうだ? 必殺―――」

 

 目を点にし、自分を見上げる敵へ呟く。

 そして、今日一日分の怒りを吐き出すが為に、一気に胸が膨れ上がるほどに空気を吸い込む。

 

 刹那、爆発音が響き渡ると同時に、街路樹の木の葉を吹き飛ばす突風が吹き荒れた。

 

 

 

 ソニックストライク!!!

 

 

 

「ごッ……!!?」

 

 ライノが胸元に奔る痛みに気が付いたのは、肺から空気が絞り出される感覚を覚えながら呻き声を上げた後だ。

 

「あちゃ、道路割っちまった……」

 

 今の一撃で気を失ったライノの上で、呑気に相手が倒れる地表に目を遣る美空。

 彼女が目にしたのは、地割れでも起きたかのような巨大な亀裂が入る道路だ。ライノが地に腕を振るった時とは比べものにならない亀裂は、蜘蛛の巣のように広く回りへ広がっている。

 やってしまったと頬を掻く美空は、ジンジンと痛む掌の噴射口を見て、ハハッと乾いた笑い声を上げた。

 

「ったく……マジだと加減効かねえや」

 

 

 

 飛田美空:個性『ジェット』

 掌と足裏にある噴射口から空気を噴出!! ただし噴く空気は呼吸で吸った分だ! 因みに空気を吸った時、胸がパンパンに膨れ上がるが、彼女自身の胸は絶壁!! 普段のふくらみも、胸筋の凄さ故のふくらみだ!!

 

 

 

「……なんだ? 今、凄いイラってした」

 

 不可思議な苛立ちに苛まれた美空であったが、気のせいだと辺りを見渡す。

 暫し茫然としていた市民であったが、敵が退治されたことを理解すると、それを成し遂げた少女を賞賛する拍手を惜しみなく送る。

 そのような拍手に照れながら応えるが、慌てた様子の警官が一人、美空に歩み寄って来た。

 

「ちょ……君君!」

「は?」

「勝手に敵退治したみたいだけど、駄目じゃないか!! 幾ら強い“個性”だからって、“個性”で他人に危害を加えることは……」

「あ~」

 

 公共の場での“個性”使用は禁止。尚且つ、資格なしで他人に“個性”で危害を加えることはご法度。警官が言いたいことは、まとめればそういうことだ。

 

 このままではあらぬ疑いをかけられ説教されてしまう。

 折角ヒーロー気分でご満悦だったところに水を差され、意気消沈する美空は、虚しい中身の財布を漁り、一枚のカードを取り出した。

 そのカード……否、資格証に警官は目を丸くする。

 

「へ?」

「これ。ヒーロー活動認可許可証の仮免。確かにコスチューム着てないけど、俺ヒーローですから」

「あ、か、仮免……そ、そうですか」

「ども。ジェットヒーロー『フォードトリノ』って言います。以後、お見知りおきを」

 

 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、思い違いをしていた警官に詰め寄る。

 すると、警官が前に出てきたことでどよめいた場が、再び喝采の波にのまれていく。

 

「ヒュー!! 凄ェぞ!!」

「カッコよかったよー!」

「これからも頑張って! 応援してるわー!!」

 

 緊迫した場が、一変して敵を倒したヒーローを褒めたたえる場へ。

 その場の主役である美空は、悪くない気分のまま手を振って市民に応える。

 

 すると、一人の女の子がテトテトと親と思しき人物と共に近寄って来た。

 

「あ、あの!」

「ん? どーしたの、お嬢ちゃん」

「えっと、その……()()()()()()、すっごいカッコよかったです! 握手してください!」

「おにっ……」

 

 衝撃……圧倒的衝撃っ……!

 

 男勝りな言動が祟り、羨望の眼差しを向けてくれる少女が、自分のことを男だと勘違いしている。

 女にとって、素で男と間違われるのはこの上なく傷つくことだ。

 しかし、この少女の眼差しを前に、訂正するのも申し訳なくなった美空は『アリガトネー』とカタコトな口調のまま、少女との握手を終えた。

 

(そっか……俺、男に見えたのか……)

 

 一仕事終え、男と間違われ、更には癒しの一時を送ってくれるたい焼きも今はない。

 何もない自分に、一体どうやってこの傷や疲れを癒せと―――

 

「おーい! そこのヒーローさん! 是非、ウチのたい焼き食べてってくれー! 駄賃はいらねえよー!」

「頂きまーす!!!」

 

 たい焼きを勧める声に、跳ねるように向かう美空。

 その後、美空は満足いくまでたい焼きをご馳走になった。

甘い物は、人に安らぎと幸せを与えてくれる。しかし、糖分の摂り過ぎによる糖尿病にだけは、是非注意を。

 

「あま~い♥」

 

 

 

 +

 

 

 

 後日。

 

「……オイ、美空。この請求書ァなんだ?」

「ん? あー、この前出かけた先で敵倒した時に、道路割った弁償? みたいな」

「なにしてんだ!? おめェはもうちょい手加減ってのをなぁ!!」

「敵災保険とヒーロー控除あるんだから足りるだろうが!」

「そういう話をしてんじゃあねえよ、俺ァ!」

「アンタにゃだきゃあ言われたくないわ!!」

 

 今日もまたギャーギャーと騒ぐ美空とグラントリノ。

 辺りに人が住んでいる建物がないからいいものの、朝からこれだけ騒げるとは、彼らも中々元気が有り余っている。

 普段ならそこから十分は軽く言い合えるのだが、慌ただしく朝食をとる美空に、祖父と口喧嘩する時間は残っていなかった。

 

「ヤバっ、もう時間が! 行ってきまァーす!!」

「ったく……おう! 行ってこい、ヒヨッ子ヒーロー!」

 

 律儀に手を振って家を出る美空に、グラントリノもまた、手を振って学校へ向かう孫を見送る。

 そう、美空は高校二年生。とある高校のヒーロー科に通う、今を時めく女子高生だ。

 

 それと同時に、伝説を鍛え上げた男の孫娘でもある、将来有望のヒヨッ子ヒーロー。

 

 いずれ『グラントリノ』の意思を継ぐヒーロー『フォードトリノ』は、今日もまた、人々を脅かす悪に立ち向かえる立派なヒーローになるべく、全力疾走するのであった。

 




キャラクター設定その1
飛田美空(ヒーローネーム『フォードトリノ』)
個性『ジェット』
吸った空気を掌と足の裏にある穴から噴出! 神風のような速さで飛び回れるぞ!

飛田's髪 プラチナブロンド。白髪とか言ったら怒られる。
飛田's目 切れ長。
飛田's胸 絶壁! 多少のふくらみは鍛え上げられた胸筋。カッチカチ。
飛田's腹筋 こっちもカチカチ。六つに割れている。
飛田's掌 空気を噴出する穴がある。大砲よろしく、穴にボールをはめ込んで打ち飛ばすことも可能。

グラントリノの孫娘。田舎に住んでいたが、ヒーローを目指したいと考えて現役ヒーローの祖父の下に移り住み、彼の家から学校に通っている。一人称が『俺』なのは、田舎で一人称が『俺』のご老人に囲まれて育ったから。つまり、方言みたいなもの。しかし、男らしい気性は生来のものであるため、結果として男勝りな性格の俺っ娘になってしまった。

・小話
豪快な性格である為、デクとかからわせて先輩ポジで面倒みてあげさせても面白いなー、など思っていたりしています。なんなら雄英の三年生ポジで、ミリオとも関わらせて、頼れる先輩ポジでデクを導いていく……なんていう展開もアリだと考えたり。
デクの師匠の師匠の孫娘というなんとも美味しいポジション。色々妄想膨らみます。
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