みんな個性的でいいね   作:柴猫侍

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ポカポカ嫉妬心

 ここはヒーロー養成の最高峰と呼ばれる雄英高校。

 そして現在は、午前の授業を終えて昼休憩に入ったところだ。学業を頑張って腹をすかせた生徒たちは、ランチラッシュの営む大食堂へ次々と足を運ぶ。

 それは雄英の代名詞と言っても過言ではないヒーロー科も例にもれず、リーズナブルな価格で提供される絶品の食事をとるべく、友人たちと談笑しながら教室を後にしようとする。

 

「轟くん、一緒にお昼食べに行かない?」

「おう」

 

 ヒーロー科A組が一人・緑谷出久は、最近打ち解けてきた轟焦凍を昼食に誘う。それに対し、能面ながらも快く誘いに乗る轟は、財布を片手に席を立ちあがった。

 

その時だ。

 ガラリと開く扉に、教室の中に居た生徒の視線が、自然と音が鳴った方へ向かう。すると、廊下から教室を除く一人の少女が佇んでいた。

 ジト目で、尚且つオッドアイ。右が緑、左が黒目である。サラリとした柔らかい髪の毛は、つむじ辺りは紅蓮に染まっており、大部分は雪を思わせるような白銀色だ。それをショートカットで切りそろえる少女は、非常に端正な顔立ちをしており、健全な男子高校生の視線を釘付けする程度には美しかった。

 

(あれ……? 誰かに似ているような……)

 

 見たことの無い子だが、ひどい既視感を覚えた緑谷は、たった今自身の横で立ち上がった轟へ目を向ける。

 オッドアイ。瞳の色。髪の色。要所要所に差異はあるものの、現れた少女と轟の顔のパーツは非常に似通っていた。

 

 『もしや』と考えた頃に少女は、テトテトと真顔で立ち尽くす轟の下へ歩み寄り、さも当然とでも言わんかのように彼の右腕へひしっと抱き着く。

 

「……(しょう)にぃ」

「おう」

「……お財布忘れたから、お昼買って」

「そうか。いくら要る?」

「……向こうで買って」

「……おう」

 

 親しい関係なのだろうか。

 やけに轟にベタベタと触れあう少女は、彼が昼食に必要な代金を渡そうとするのに対し、不満があると言わんばかりに頬をプクーッと膨らます。

 その様子に困った子供を見るかのような父親の顔になる轟は、『悪ィ。コイツも一緒に連れてっていいか?』と、共に昼食へ向かう友人であった緑谷に許可を得ようとする。

 

「う、うん! 僕は構わないけど……えっと、その人は一体?」

「ああ。妹だ」

「い、妹なんだ……って妹!? 轟くん妹居た!!?」

「双子のな」

 

 余りの衝撃に愕然とする緑谷に対し、轟は特にリアクションもせず、普段通りのクールな受け答え。

 そうしている間にも、轟の双子の妹とやらは夏に融けた飴のように、彼にベタベタと触れあっている。これだけ数多くの視線にさらされても尚、氷のように涼んでいる瞳の奥に、炎のような熱い想いを宿らせる彼女は、轟にしか意識を向けていない。

 傍から見ても分かるブラコンぶり。見ている側の方が恥ずかしくなってしまいそうだ。

 そんな周りの視線に気が付いたのか、轟はくっ付いて離れない妹の頬をペチペチ叩く。

 

潤那(じゅんな)、暑ィ」

「……焦にぃの右腕ひんやりしてるから放したくない」

「……まあ、それより一応自己紹介しろ。コイツ、俺のダチだ」

「……焦にぃのお友達?」

 

 轟の言葉を受け、延々とオドオドしていた緑谷へ目を向ける。

 刹那、先程まで主人にベッタリな子犬のような瞳が一変、明確な敵を確認した狼のような鋭い瞳を浮かべ始めた。

 思わず、緑谷のみならず周囲の者達も『ひいいい!?』と声を上げる始末だ。

 そんな威嚇が成功した後、『それやめろ』と兄に窘められた『潤那』と呼ばれた少女は、ようやく緑谷に対し口を開く。

 

「……初めまして。轟潤那です」

「あ、どどっ、どうも……緑谷出久です」

「……グリーンバレーさんですね」

「グリーンバレー!? まあ確かに漢字を英語にすればそうですけどっ……!!」

「……焦にぃがお世話になっているみたいですね。ですが大丈夫です。兄のお世話は私がしますから、故郷へお帰り下さい」

「ええっ!!? ちょ、轟くん! この子は一体なにを!?」

 

 意味不明な物言いに、緑谷のツッコミのキレも普段の二割増しだ。

 そして会話が成り立たないと危惧し、轟に助けを求める。

 

 しかし、

 

「悪ィ。コイツ、いつもこんなんだ」

「そんなぁ……!」

「……そういう訳です、バレー・オブ・グリーンさん」

「また変わった!!?」

 

 

 

―――轟くんには、妹が居たらしい

 

 

 

 +

 

 

 

 こんにちは、轟潤那です。

 現在、雄英高校1年生で普通科に通っています。何故雄英に通っているか―――それは言わずもがな、私がプリンスの焦にぃが通っているので、芋づる方式で入試を受けてちゃちゃっと入学しました。

 火下達磨……失礼、髭達磨……失礼、轟家の家長であり私の父である轟炎司は、私の雄英への入学を快く思っていなかったようです。何せ、あの男は私をヒーローにしようとは思っていないから。

 

 私と焦にぃは双子。父曰く、焦にぃは『最高傑作』と言うべき“個性”。しかし、私は父が思うような“個性”が発現しなかったのです。

 

 轟潤那:個性『水蒸気』

 体表から水蒸気を放つことができる!! MAXの温度は2500度で、本気になれば爆発みたいな勢いで放てるぞ、アッチー!! しかし、あんまり使い過ぎると熱中症になってしまう!!

 

 いうなれば、私は人間湿潤機……いや、加湿器でしょうか? 母が持っていた氷の“個性”と、父の『ヘルフレイム』とか言う厨ニなネーミングの“個性”が混じって変質したことで生まれた結果なのですが、私の“個性”が発言した時の父の目を忘れることができません。まるで、『ハズレ』でも見るかのような目……娘に向ける視線じゃありませんでした。

 まあ、体温調節ができない“個性”という理由で父の興味はそがれたようですが、そんな“個性”を私は大好きな焦にぃの為にバンバン使っています。

 

 私のプリンス……父のDVから母を守り、日本のヒーロー№2に孤軍奮闘する我が家のレジスタンス。

 母が度重なるDV染みた暴力で病院に入ってから淋しい想いをしていた私を、焦にぃは優しく慰めてくれました。冬ねぇ曰く、私は母似らしいので、母の面影を私に重ねているんだなぁ……と悲しい気分にもなりましたが、今はもう開き直っております。

 

 頑張る兄の為になれる献身的な妹になるべく、日夜努力を積み重ねました!

 

 料理、洗濯、家事、親父いびり。

そして筋トレで疲れている焦にぃへのマッサージ、そして氷結で冷えた右半身を“個性”で温めてあげたりと、一日の半分を兄への献身に注いでいます。

昔と違い、焦にぃの反応は淡白になってきていますが、きっとあれは照れ隠し。内心ではきっと世の女子が羨む爽やかスマイルを浮かべているハズ。そうであってほしい。つまり願望です。

 

 私の願望は兎も角、昔から焦にぃへのお世話をしている内に、私と焦にぃは共依存になってしまったようです。

 焦にぃは、母に似ている私に面影を重ね、子供の時に母を守れなかったことを悔いているか、家では結構私に対して過保護な感じ。

 一方で私はと言うと、父に最大級の反抗を為そうとする焦にぃをお世話することにしか、生きる意味を見出すことができなくなったとです。

 

 その所為か、学校では『潤ちゃんって、クールでミステリアスだわ……』と、一応居る友人に言われたのですが、焦にぃにはデレデレなので、世で言うところのクーデレとやらに当たってしまうのでしょうか。

 ままあ、クーデレやら何やら言われても構わないのですが、高校一年とあって焦にぃとの触れ合う時間が少なくってしまいました。受験シーズンは、帰宅時間が早いこともあって、割と一緒に居る時間が多かったのですが、その反動が今この時期にやって来てしまったのです。

 

 ああ、焦にぃとベタベタしたい。こんなことなら、父を殴ってでもヒーロー科に入りたかった。

 なにかと理由をつけて近づこうと試みたのですが、学校に居る間は何かと縛られることが多い。そのうち、私の焦にぃ成分が十分に補給できなくなり―――焦にぃの教室まで赴き、この昼食に至ったのです!

 

「……もうちょい離れろ。食い辛ぇ」

「……ん」

「『ん』ってなんだ?」

 

 焦にぃの右側は私のテリトリーであり、サンクチュアリでもあります。どこぞのテニヌをもじれば、『潤那ゾーン』とでも言いましょうか。兎に角、焦にぃの右側は私の範囲なのです。

 右側キープで、私のハートはポカポカ。お蕎麦を食べる焦にぃは、ああは言っていますが、寄り添っている私を無理に押しのけることもなく、淡々と食事を進めています。そこはかとない優しさと甘さ……これだけでご飯五杯はいけますね。今食べているのは蕎麦ですが。

 

「あ、あの……轟くんと轟さん」

「その呼び方はややこしくねえか、緑谷」

「それはそうなんだけど……二人とも、凄い仲良しなんだね」

「そうか?」

「うん。高校生の兄妹で、そこまで……その……至近距離に及んでいると言うかなんというか……」

 

 ほほう、どうやら焦にぃのご友人である緑谷さんとやらが、私たちの距離の近さに驚嘆しているようですね。そうでしょうそうでしょう。世間では、妹から兄との距離を取り始めると聞き及びますが、そんなのは私と関係ナッシングですからね。

 焦にぃが許してくれる範囲であれば、例え……あくまで例えですが、焦にぃの彼女の目の前でもベタベタしてやりますよ。

 

 固い意志を胸にベタベタしている私の姿は、緑谷さんには刺激が強すぎたのか、彼は顔を真っ赤にしています。何故恥ずかしがっているのかは理解しかねますが、仲良しという点を見抜く辺り、彼は中々の目の持ち主……。

これを機に、焦にぃから離れていって欲しいものです。

何故なら、焦にぃは私のモノだから!

 

「……仲が良いぶんには大丈夫だろ」

「それもそうだねっ! ぼ、僕なに言ってんだろ、ははっ!!」

 

 ふふふっ、作り笑いが見え見えです。

 このまま私たちの仲の良さに恐れ、慄き、かなり強めの遠慮の感情を抱いて下さい。

 ようし……では、フェイズ2です。

 

「……焦にぃ」

「どうした?」

「……今日、一緒に帰ろ」

「今日?」

「……たまには一緒に」

 

 少しでも一緒に時間を過ごせる方法が無いか考えた結果、一番に浮かんできたのは登下校を共にすること。

 登校は基本的に一緒だけれども、下校は別々です。しかし、こうして昼食を共にしている間、一緒に帰ることを約束すれば、下校時間が多少ずれていても―――

 

「悪ィ。今日は、緑谷と飯田と一緒に帰る予定だ」

「……え?」

「先に約束してるヤツが居るんだ。だから今日は無理だ」

「……そんな」

 

 まさか、目の前の緑谷さんに先を越されているとは……不覚!!

 

「と、轟くん! 折角妹さんがそう言ってるんだし……」

「先にしてた約束ほっぽりだすのは礼がなってねえだろ。そんくらい、コイツも分かる歳だ」

「そ、そうかなあ? じゃあ、あの……何か、ごめんなさい」

「……いいえ、気にしてませんから」

「ヒィ……ッ!?」

 

 懇願をふいにされた私に同情する緑谷へ、あらんばかりの殺気を向けてやれば、彼は分かりやすく怯えた様子を見せます。おのれ、緑谷出久。貴様の名は忘れんぞ。

 私の焦にぃを奪い……ただでは済まさぬ!

 

 そんなことを思っている内にも、昼休憩は終わり。

 今日は敗北を認めましょう。ですが、焦にぃは私のモノなのです! 小・中と孤高を貫いてきた焦にぃに、どこからともなくやって来た泥棒猫にやれるほど、焦にぃは安くありません。

 

 今度会った時は、必ずやその瞳に、私と焦にぃの超絶な仲良し具合を見せてやりましょう。

 必ず……必ずです!

 

 

 

 +

 

 

 

 こうして、轟とつるむ緑谷と潤那の邂逅は終わった。

 この時を境に、彼女は緑谷に対抗心を抱き、なにかにつけて自分の方が仲良しであることを密やか且つ熱烈に主張するのだが、A組の個性豊かな面々や兄のマイペースさのお陰で、中々それが叶わなかったというのは、また別の話。

 




キャラクター設定その2
轟潤那
個性『蒸気』
炎と氷の”個性”が融合し、変質した結果出来上がった”個性”! アツアツの蒸気で相手を攻撃できたりと、その攻撃力、侮るなかれ!

潤那's髪 ツートーン。つむじ辺りが赤で、他は白。サラサラ。
潤那's目 ジト目。
潤那'sボディ 成長段階。慎ましいと言ってもらおうか。
潤那's肌 ”個性”柄、いつもしっとりしている。色白美肌。

轟焦凍の双子の妹。顔は母親似で、いつも静かではかなげな雰囲気を漂わせているが、中身は生粋のお兄ちゃん大好き人間。兄との平穏な時間を邪魔しようものなら、怒りを体現するかのように”個性”を発動させ、兄にたかる虫共を排除しようと考えるほどの過激な人物。兄に女の影が近寄ろうものなら……。

・小話
ふと思い浮かんだ、クールな轟のクーデレな妹。周りにはつっけんどんな態度なのに、兄だけにはベタベタな感じが、ギャップがあって一段と可愛らしのではと考えて書きましたね。
一匹狼だった兄に、これから仲のいい友人がどんどん増えていき、更には寮生活が始まる……一体この子はどうなってしまうんでしょうか(笑) 『私がお世話する』などといって、A組の寮に平然と上がっていったりするのでは……。
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