みんな個性的でいいね   作:柴猫侍

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喝! 死琉婆頼雄斗!!

 世の中、数奇な運命というものはあるらしい。言い換えれば、不思議な縁とでも言おうか。

 例えば、まだヒーローになることがどれだけ難しいことか理解していない子供の頃、共に夢を語り合った友達が居たとしよう。

 その友達は親の仕事の都合で遠い地方へ引っ越し、当時は携帯も持っていなかった事から、連絡手段が乏しく、始めの内は手紙でやり取りしていたとしても、次第にそのやり取りも少なくなっていき、いつしか音沙汰はなくなる。

 

 だが、不意に、なんの予兆もなく出会ってしまう場合が、この世の中にはあるのだ。

 

 その時、友達が地毛とは全く違う色に髪の毛を染め、小さい頃とは全く違う言葉遣いで、尚且つ別人と言ってもいい雰囲気に身を包んでいた場合、すぐに気付くことはできるだろうか?

 

 これは、ある“漢”に憧れた二人の学生の一日の話だ。

 

 

 

 +

 

 

 

 関西地方・江洲羽市の事務所の一室。

 そこへ、一人のツンツン赤髪の男子高校生と、根暗な雰囲気を漂わせる男子高校生が入室した。

 

「おざまっス、ファットガム! 今日も一日、よろしくお願いしゃーすッ!」

「お、レッドライオット! 今日も髪の毛バリバリでええ調子やな! それに比べて環、お前はいつもと変わらん陰気な空気纏いよって! 笑いの神様土足で去ってくで! ファ―――!!」

「挨拶代わりのいたぶりが、俺を更なる低みへ導く……!」

 

 まんまる肥満体系のヒーロー『ファットガム』に対し、雄英より赴いてきた1年A組の生徒『切島鋭児郎』が溌剌とした挨拶をする。

 だが、一方で彼の明るさの陰に埋もれる雄英三年生『天喰環』が、ファットガムのいじりを受け、うっ! と呻き声を上げて早速メンタルブレイクした。

 

 容赦ない校外活動先で世話になっているヒーローのいじりに涙を流す天喰。

 だが、『まあ、環はええとして……』とさほど気にしていない様子のファットガムがひょっこりと横に退け、彼の陰に隠れていた一人の女子の姿を露わにした。

 

(うぉ! 攻めてる恰好してんなあ!)

 

 思わず心の中でツッコむ切島。彼が目にしたのは、すでにヒーローコスチュームと思しき装いをした女子の姿であったのが、これまた男子高校生が反応せざるを得ない装いだった。

 若干光を反射する白―――否、銀色の長ラン。それを素肌に纏う少女は、なんと胸元を黒い晒しで巻いているだけであり、鎖骨やへその辺りはモロに露出している。下半身は改造制服らしい白いボンタンを穿いており、中々ヤンキー染みたテイストをしたコスチュームだ。

 

 そんなコスチュームを纏う少女も、これまた眼光が鋭い。割れたガラスの先端のように鋭い切れ長な瞳。瞳の色は水色で、四白眼なのも眼光の鋭さを際立たせるのに一役買っている。

 最後に、腰まで伸びた銀髪だ。地毛ではなく染めているのだろう。頭頂部に目を遣れば、若干根本が黒く染まっているのが目に見えた。

 

「ファットガム、その子はどなたッスか……?」

「ええ質問や! 今日からウチのヒーロー事務所にインターンに来た、『死琉婆頼雄斗(シルバーライオット)』っちゅうヒーローや! どや!? レッドライオットくん! この子も『紅頼雄斗(クリムゾンライオット)』リスペクトしとるらしいで! 気ィ合うんとちゃうか?」

「え、マジっすか!?」

 

 ファットガムの言葉に、切島は喜色を含んだ声を上げる。

 そう、ファットガムが言うように切島は、今は昔のヒーローとされている漢気ヒーロー『紅頼雄斗』を尊敬してやまないのだ。自分のヒーロー名も、そんな紅頼雄斗をもじったもの。

 そんな中、自分と同じヒーローをリスペクトしたようなヒーロー名の者が現れれば、好感を覚えないハズがない。

 

 早速、一歩前に出て挨拶を交わそうとする切島。

 

「俺、烈怒頼雄斗っス! よろ―――」

「切島ァ……久しぶりだなァ」

「し……へ?」

「アタイのこと、忘れたとは言わせないよ」

 

 友好的に迫る切島に対し、不敵な笑みを浮かべ、尚且つ博多弁で話ながら詰め寄る死琉婆頼雄斗。

 

「なんや、二人とも知り合いやったんか?」

「え? あ、ん~……い、いや……たぶん、俺は知らねえと……」

「はぁん!? アタイのこと、忘れたってのか!?」

 

 必死に記憶を掘り出し、目の前のヤンキー女子のことを脳内グーグルで検索しようとするも、ヒット数はゼロ件だ。

 だがしかし、相手は切島を知っている模様。『知らない』と言われた瞬間から、八重歯を覗かせながら切島に対してわんわんと抗議の声を上げる。

 

 しかし、本当に心当たりのない切島は、困惑するしかない。

 

「わわっ、悪い!! で、でもホントに分かんねえんだって!! もうちょい待ってくれ! きっと誰か分かる! ……かもしんねえから」

「~~~ッ、もういい! アタイはアンタのこと知ってんだよ、切島鋭児郎! アタイに恥かかせた罪、今日思い知らせてやるぁ!」

「お、なんや。面白そうな感じになってきたなぁ」

「……俺の心を蝕む疎外感……!」

 

 ギャーギャーと騒がしい事務所の一室。

 その壁の隅に自ら赴いた天喰は、自分とは裏腹な雰囲気を纏った三人に気圧され、いたたまれない気持ちになったまま、喧騒がやむのをジッと待つのであった。

 

 

 

 +

 

 

 

「ま、今日は四人一組で市中パトロールや。ここらはチンピラやチーマー多いから、武闘派目指しとるシルバーライオットちゃんの経験積むには最適やで」

「押忍!」

 

 たこ焼きを頬張りながら、軽く通りを見渡して説明をするファットガムに、シルバーライオットは意気のいい返事をする。

 恰好は際どいが、当たりは好感触だ。今のやり取りだけを見れば、元気のいい女子高生としか見れないが、切島と目が合うたびにギロリと眼光を鋭くしてくる。どうやら、自分が彼の記憶から消え失せている事実に、よほど根を持っているようだ。

 

(こここッ、怖ェー……!)

 

 “漢”を志す切島でさえ気圧されてしまうほどの眼光。一人か二人は殺っていそうな雰囲気さえ漂っている。

 

(思い出せ、俺! でねえと、今日のパトロール終わった後、事務所裏に呼び出されてヤベえことになっぞ!)

 

 共に市民を守るヒーロー同士だというのに、身内に対し戦々恐々としてしまう。いや、四六時中緊張しくしている先輩なら横に居るが、彼ほどの蚤の心臓でなくとも、あの眼光をスルーすることなど出来ようハズもない。

 クラスメイトである爆豪の如き、ナイフのような目つきは、香ばしいグルメの香り漂う街をパトロールしている間、延々と切島へ向け続けられる。

 

 美味しそうな食べ物の香りと、パトロール中に睨み続けられていることから、もう彼の胃は限界を迎えようとしていた。

 

 その時、ファットガムを先頭に歩んでいた四人の先で、悲鳴が上がる。

 

『きゃー! 誰かー!』

「む!? 事件や! 行くで!!」

 

 悲鳴を聞いたのであれば、ヒーローが動かないハズもない。

 体形に見合わぬ速力で走るファットガムに続き、切島たちインターン生も続いていく。

 

 そして、悲鳴が起こった場にたどり着いた時、彼らは道路の中央に佇む五つの影を見た。

 その影とは……

 

「最近の若者は、野菜嫌いが多すぎる!!」

「日々の不摂生! それに伴う不健康な者達!!」

「蔓延する生活習慣病! 偏にそれは野菜を摂らぬから!!」

「我々は、乱れた食生活を続ける者どもに喝を入れるべく参上した!!」

「生鮮戦隊ヘルシーズ、只今参上!!」

 

 ヒーローの戦闘服のようなスーツに身を包む、野菜頭の五人衆。

 トマトにナス、じゃがいも、キャベツ、ダイコンと、よりどりみどりだ。主婦なら大喜び……しないだろう。

 

「……なんや、とんだ色物が現れたっちゅーかなんちゅうか……」

「あれは(ヴィラン)っスか、先輩?」

「……ああいうのは、一番判断に困るタイプだよ。」

「とりあえず一発ぶん殴って……」

 

 敵かどうかは兎も角、怪しさ全開の集団を前にし、腕をブンブンと回してウォーミングアップを計るシルバーライオット。

 彼女を切島が『待て待て待て! 早まるな!』と羽交い絞めにして抑えている間、駆けつけたヒーロー代表として、ファットガムがヘルシーズに声をかける。

 

「あ~、アンタら……俺らは悲鳴聞いて駆けつけたんやが、ここで何してたんや?」

「む!? なんだ、そのだらしのない体は!! それも日々の不摂生の賜物だろう!! どうせ粉物や肉ばかりなどを口にしているからそうなるのだ!!」

「いや、俺の話聞けや。手前ら、ヒーローちゃうやろ!? 資格もなしに、このご時世でそんな派手~なコス着んのは、身分偽称と同じやで! それより、俺はここで何してたんやって聞いてんねん!」

「ふん! 貴様のような脂肪の塊に話す義理などないわ!!」

 

 話が全く通じない。敵の大半に共通する事項として、意思疎通を図るのが難しいことが挙げられる。そもそも話す意思がなかったり、理性がなかったり、時には論点をずらして長々と喋る者だったりと、敵によって様々だ。

 今回のヘルシーズとやらも、身なりはふざけていれど、ヒーローに対し明確な敵意を以て接する者達。

 

 それだけであれば、治安維持という名目で、警察のように指導をするだけにとどまったのだが―――

 

「その贅肉諸共吹き飛ばしてやろう!! ポテトタックル!!」

「そんな突進、俺にはごちそうさんや!!」

「わっぷ!!?」

 

 突然襲い掛かって来たじゃがいも頭の男。

 しかし、ガタイのよかった敵は、ファットガムの武器である脂肪にみるみるうちに包み込まれていき、下半身だけが露わになるという不格好な姿になってしまった。

 

 ファットガム:個性『脂肪吸着』

 彼の体は何でも吸着し、沈められるのだ!!! ト―――トロ!!

 

 早速襲い掛かってきた敵一人を鎮圧したファットガム。だが、更に彼の体へ無数のキャベツの葉が飛んできたり、細かな棘のついた葉が伸びてきたり、あまつさえ謎のジェルに包まれた種が飛来してくる。

 それら全て、ヘルシーズの“個性”による攻撃。全て脂肪で受け止め、無傷で済んだファットガムであったが、ここまで“個性”を用いられて無視することはできない。

 

 すぐさま、自分の山のような巨体の背後に佇んでいるインターン生へ向け、気迫の籠った声でこう告げる。

 

「さ、お仕事やで!! ちょっとこいつらにお灸据えたりや!!」

「よしきたッ!」

「押忍ッ!!」

「……なんでこんな、変な意味で目立つ人達と……っ!」

 

 意気が十分な切島とシルバーライオットに対し、悪い意味で目立っている敵―――元々敵は悪目立ちしているが、現在相まみえている敵はまた別のベクトルで―――と戦うことに対し、名状し難い羞恥を覚えている天喰。

 だが、彼も立派なヒーローの一人だ。それも、雄英生の中でも三本の指に入るほどの実力者であり、『ビッグ3』と謳われている。

 

 彼の動きは、他のインターン生である1年生よりも早く、『再現』の“個性”でタコの触手を再現した指で、早速敵の捕縛に試みた。

 狙ったのは、『ジャガブラウンー!』や『よくも仲間を!』と勝手に憤っているダイコンとナスだ。筋肉の塊とも言われるタコの腕による拘束は、そんじょそこらの縄や鎖よりも相手をキツく縛り上げることができる。

 

 早々に拘束されたダイコンとナスは、ただただ野菜マスクの下で困惑の声を上げた。

 

「ぐわっ、なんだこれは!? まさか貴様、海鮮戦隊の差し向けか!?」

「海鮮戦隊っ……!?」

 

 まったく知らない組織の一員に間違えられた天喰は、かなりショックを受けた様子だ。

 海鮮戦隊とは、そもそも何ぞや。生鮮戦隊よりは美味しそうな響きではある。

 

「くっ……おのれ! ダイコンホワイトとナスブラックを放せ!!」

 

 勝手にショックを受けている天喰へ向けて、口から種をぷぷぷっと吐き出す。文字だけ見れば、夏の風物詩の一つでもあるスイカの種飛ばしを想像するかもしれないが、今目の前に居るトマト敵が繰り出す種は、まさに弾丸の如き速度。二人を拘束している天喰にとっては、回避が困難な攻撃だ。

 

「先輩! 俺が」

「アタイに任せなぁ!!」

「うぇ!?」

 

 咄嗟に『硬化』を発動させ、天喰の前に盾として踏み出そうとした切島であったが、逆方向から駆け寄って来たシルバーライオットに突き飛ばされてしまう。

 そのまま派手に転がる切島。『いてて……』と呟く彼が目にしたのは、自身の目の前にギンギラギンに光を反射するバリヤーのようなものを張るシルバーライオットの姿だ。

 

(ん? あの“個性”、どっかで……)

 

 ふと、小骨が喉に引っかかるような感覚を覚えた切島。

 

 だが、彼が何かを思い出そうとしている間にも、局面は変わっていく。

 なんと、シルバーライオットの張ったバリヤーに直撃した種の弾丸は、そっくりそのままトマト敵の下へ跳ね返っていくではないか。

 

「ぐあああ!!?」

「へへっ! そっちの奴にも!」

「あだだだっ!!」

 

 自分の放った機関銃の如き種を全身に浴び、苦悶の声を上げながら後退るトマト敵。さらにシルバーライオットは、バリヤーをいい具合に傾け、トマト敵の横に佇んでいたキャベツ敵にも、種が向かうように仕向ける。

 実に痛そうな音が響けば、キャベツ敵もまた悶絶した声を上げ、その場で怯んだ。

 

「よっしゃ!」

 

 敵の攻撃を反射したことによって出来た隙を逃すハズもない。

 地面を蹴り、弾丸のように駆けだすシルバーライオットは、まずはトマト敵に肉迫する。

 

 『くっ!』と呻きながら、迫るヒーローに反撃を与えようと立て直すトマト敵であったが、掌に再度“個性”によって発動したバリヤーを張った手でビンタされれば、これでもかという程にきりもみ回転し、地面に叩きつけられるような形で地面に倒れる。

 

 単純な膂力ではない。見る限り発動系―――それも、相手の攻撃を反射する“個性”だが、単に攻撃を反射するだけではなさそうだ。

 

「どんなもんだ!」

「よくもトマトレッドを!」

「っと」

「おぉ!? ぶッ!!」

 

 仲間を倒されて憤慨するキャベツ敵。バッと飛び出し殴りかかるも、今度は突き出した拳を掌で流されてしまう。

 全力のパンチを受け流されたキャベツ敵は態勢を崩す。一方で、シルバーライオットはそのまま流れるような動きでキャベツ敵の背後に周り込み、再度“個性”を発動し、敵の背中に触れる。

 するとキャベツ敵は、彼女の掌から弾き飛ばされるような動きをして、地面と接吻するように地に伏せた。かなり勢いが強かったらしく、『鼻がぁ……!』とキャベツ敵は痛がっている。

 

(なんだあの動き! なんか武道でも習ってんのか……?)

 

 どこか合気道を思わせるような力の運び方。そこに“個性”を組み込むことで、切島の“剛”の守りとは違う“柔”の守りを感じさせる。

 

(よくわかんねえけど凄ぇ! ……って、俺だけいいとこ無しじゃねえか!!)

 

 敵、鎮圧完了。

 しかし、切島の出番は新参のヒーロー見習いに奪われてしまった。

 

 ふふんと得意げに腕を組み、笑顔を浮かべるシルバーライオットであるが、切島の表情はどこか浮かない。

 

(はぁ。でもまあ、こんな時もあるか……ん?)

 

 ヒーロー業界の“競争”を垣間見た切島であったが、立ち上がった時、新たに目にすることとなった光景があった。

 天喰に捕らえられているナス敵の頭髪が、天喰の触手を払いとばさんと振り回されるが、その内の一房がシルバーライオットの背中へ向かっていたのだ。

 

「―――っぶねえ!!」

「えっ、わあ!?」

「っ……先輩!!」

「ッ―――……ああ!」

 

 間一髪のところで、硬化した自分の体を盾に、彼女を“個性”による攻撃から身を挺して守ることに成功する。

 咄嗟の硬化で硬くし切れなかった為、皮膚の表面が若干ひりひりする程度のダメージは受けてしまったが、この程度ならば全然動ける範囲だ。

 

 すぐさま天喰に声をかけ、ナス敵の暴走を止めるよう訴える。

 すると彼は、今度は手をあさりの貝殻の形にし、抵抗を試みるナス敵の顎を殴り、強引に意識を奪ってみせた。

 

「さすが先輩! “個性”の使い方、慣れてるっス!」

「あぁぁあぁ……俺がしっかり見張っていなかったばっかりに、君に怪我を負わせかねない事態に……」

「だ、大丈夫っスよ!! ほら、俺硬いんで!!」

「それに反比例して俺のメンタルは脆いのさ……君になんて謝れば……穴があったら入りたいっ。タコつぼでもいい……ッ!」

 

 己のミスで後輩に無駄な怪我を負わせる事態になりかけた。そのことについて、己を責め始める天喰。一方切島は、気にする必要がないことを延々と訴えるも、流石にここでは先輩の面子というものもあるのだろう。素直に『そうだね。気になら大丈夫だ』と楽観的な言葉を口にできる状況でもない。

 ヒーローの世界は、一瞬の油断が命を取りかねない事態になるのだ。

 

 その後も、暫し天喰と切島の応酬は続く。

 

「……鋭ちゃん」

 

 彼らの織りなす光景を眺め、シルバーライオットは一人茫然として呟くのであった。

 

 

 

 +

 

 

 

 ヘルシーズを警察に引き渡した後、制服に着替えて帰路につこうとする切島は、天喰の着替えを待って事務所の前で待機していた。

 日も暮れ、夕焼けが賑やかな街並みを照らし、楽しそうな声と共に美味しそうなグルメの香りがほわほわと漂ってくる。

 

「腹減ったなぁ……」

「切島ぁ!!」

「おぉっ!? って、おめェか……」

「『おめェか……』とは、言ってくれるじゃあねえか。あぁ?」

 

 天喰よりも先に出てきたのは、結局今日一日中切島に対しナイフのような眼光を閃かせていたシルバーライオットだった。

 まだ思い出されていないことが不満なのか、カンカンとした様子を隠さず、仏頂面で切島を睨む。

 

「……なあ」

「あ?」

「おめェ……あのさ、まさかだけどよ……鏡子(きょうこ)か?」

 

 ふと思い出したような口振りで言い放たれた名前に、シルバーライオットは微動だにしなくなる。

 

 一拍の静寂が、場を支配した。

 

「……うぅ~!」

「えぇ!? なんで泣く!?」

 

 突然眼尻に涙を浮かべるシルバーライオット。既にコスチュームを脱ぎ、今は制服を着ていることもあって、傍から見れば赤髪の不良がJKを泣かせているようにしか見えない。

 だが、シルバーライオット―――もとい、『鏡子』呼ばれた少女は、通りがかる人々の目を憚らずにワンワンと泣き始める。

 

「鋭ちゃん、やっと気づいてくれたけん! 折角、福岡で磨いた漢気見せたろ思うと、バリ気合い入れたとに~~~!!」

「いや、すぐ気づけるわきゃねえだろ! 喋り方も全然違ぇし、髪もギンギラギンに染めてっしよぉ……」

「これがアタイなりの漢気やけん! 大体、ヒーローネームに『頼雄斗』付けとうとー! アタイは気づいたとに、すぐ気づけん鋭ちゃんは薄情者ばい!」

「うっ……!」

 

 痛いところを突かれたように呻く切島。

 死琉婆頼雄斗こと返盾鏡子は、切島と小学校の時の同級生だ。同級生だった頃、既に漢気ヒーロー『紅頼雄斗』に情景を抱いていた二人は、よく『ヒーローになれたら……!』と憧れのヒーローへ思いをはせたものだ。

 だが、小学校三年生の時に鏡子は地元の福岡に引っ越し、離れ離れになってしまったという訳である。

 

 当時は標準語で、雰囲気もただの明るい女の子といった風貌だった。そんな少女がバリバリ不良の恰好をしていれば、切島のようにすぐ思い出せなくとも仕方がないと言えよう。

 その上、今は博多弁を用いているではないか。名前は思い出せたものの、依然として昔の記憶と現在の彼女の姿がマッチングしない。

 

(人間変わるモンだなぁ……)

 

 それでも彼女のことを思い出せたのは、偏に今日見せた“個性”だ。

 

 返盾(かえりだて)鏡子:個性『反射鏡(はんしゃきょう)

 なんでも跳ね返せるバリヤーを掌から繰り出せる! 出せるバリヤーの大きさは最大1㎡だが、形は自由自在に変えられることができるぞ!! バリヤーに当たったモノであれば、拳であろうと炎だろうと氷だろうと雷だろうと音だろうと、なんでもリフレクション!!

 

 性質を問わず、バリヤーに触れたモノは全て跳ね返せるという強力な“個性”。

 その性能を目の当たりにし、子供の頃はよく羨んでいたものだと、今になって湧き水の如き記憶が頭の中に溢れかえってくる。

 

「―――鋭ちゃん、聞いとっと!?」

「ん、ああ悪い悪い! 色々衝撃的だったからよぉ……」

「ショックなのはアタイもやけん! アタイは現在進行形で怒っとうと!」

「だー、悪かったって! なんか奢るから許してくれ!」

「ホント!? 嘘じゃなかと!? じゃあ、そこの『たこ野郎』っていう店で売ってるでかタコ、買っとうごたーね!」

「マジか、おめェ! あれ買わせる気か!?」

「そげん心配しらんと。ちゃんと鋭ちゃんにも分けてあげるたい」

 

 涙の代わりに涎をダラダラと零す鏡子は、『えへへ』とだらしのない顔を浮かべながら、涎を拭う。

 食い意地を張った露わにする鏡子であるが、どこぞの爆豪の如く四六時中鋭い眼光を閃かせるよりはマシだ。そう思った途端、切島はプッと噴き出してしまう。

 

 喋り方や雰囲気は変わったが、中身は記憶通りだ。

 

「ほら、タコ焼き食べに行くたい!」

「ちょちょちょ、待て! 俺は先輩待ってっから! 少し―――」

 

 グイグイ切島を引っ張る鏡子と、彼に対抗する切島。

 

(……そんな雰囲気の中に、俺は入っていけないよ。1年生)

 

 その光景を、建物の中から天喰がじっと観察していたということを、この時彼らはまだ知らなかった。

 

 ファットガム事務所にやってきた新たなインターン生により、事務所はさらに明るくなりそうだ。

 




キャラクター設定その5
返盾鏡子(ヒーローネーム『死琉婆頼雄斗(シルバーライオット)』)
個性『反射鏡』
なんでも跳ね返せる鑑っぽいバリヤーを、掌から繰り出すことができる! 1㎡が限界だが、応用性に長けているぞ!!

返盾's目 ナイフのように鋭い
返盾'S口 八重歯がチャームポイント
返盾's胸 さらしを巻いているのでわかり辛いが、それなりにボイン
返盾's脚 すらりとしているが、鍛えているので筋肉質

切島の知り合いである女子高生。『紅頼雄斗』に憧れており、彼をリスペクトしたヒーローネームやコスチュームを考案し、身に着けたりなどしている。切島の記憶の中では、いたって普通な活発な子であったが、数年ぶりに会ったら見た目や喋り方が劇的に変わり、誰だかわからなくなったほどのビフォーアフターを遂げていた。
現在実家があるのは福岡。訛りは、地元の人を触れ合った為に身に着いたもの。コスチュームを着ている時は、できるだけ標準語(という名のヤンキー口調)を用いているが、プライベートではキツイ訛りが入った喋り方になってしまう。
合気道を嗜んでおり、戦闘時には合気道と”個性”を併用した流水の如き滑らかな動きで、相手を翻弄する。

・小話
紅頼雄斗に憧れている少女……所謂不良少女をイメージして作ったキャラクターになっております。本文中でも触れましたが、切島の”個性”を『剛』とした時、こちらのキャラクターの”個性”は『柔』をイメージしております。
博多弁、かわいかー。
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