キス。
それは、自分の唇を相手の体の一部に触れされることを指す。
一般的には、恋人などが愛情を示す行為と認知されていることだろう。言い換えれば、コミュニケーションをとる手段の一つだ。
更には、部位によってそのキスが有す意味合いが変わる場合がある。
私が相手にキスをする時―――
髪なら思慕。
額なら友情。
瞼なら情景。
耳なら誘惑。
鼻梁なら愛玩。
頬なら親愛。
唇なら愛情。
喉なら欲求。
首筋なら執着。
背中なら確認。
胸なら所有。
腕なら恋慕。
手首なら欲望。
手の甲なら敬愛。
掌なら懇願。
指先なら賞賛。
腹なら回帰。
腰なら束縛。
太腿なら支配。
脛なら服従。
足の甲なら隷属。
爪先なら崇拝。
―――これらの感情や意思を刷り込ませる為にするの。
でも、ホントに好きな人へファーストキスをあげる為に、誰かの唇に私の唇を捧げたことはない。
……え、私の好きな人が誰か気になるって? じゃあ、教えたげちゃお。気になってなくてもね。
彼はとってもカッコイイの。
どこが、と問われれば、まずは瞳を挙げる。まるでこの世の全部が気に入らないっていう感じの反抗的な目が素敵。あの眼で蔑まされるような視線を向けられる度に、脳みそが沸き上がるような感覚を覚える。
どうにかあの瞳の先を私だけに向けて欲しい。
次に、皺くちゃな手。まだ若いのに、老人みたいに深い皺が刻まれてる手は、ロクに手入れされていなくて爪もボロボロだけど、不思議と“生”を感じさせてくれる。
今にも崩れそうな見た目。だけれど、実際に彼の五本指に触れられてしまえば、実際に崩れちゃうのは私の方かも。でも、そんな彼の手、延いては腕でギュッと抱きしめられたら、どれだけ幸せなのだろうか。
あと、子供っぽい所。ここはカッコイイというよりもカワイイ所かな。
自分の思い通りにならないことがあれば、すぐにムキになっちゃって不貞腐れちゃうの。気に入らないモノがあれば『壊したい』って常々口にしてるし、大人になっても童心を忘れてないって、私にとってはとても魅力的。
私と比べて年上なのもポイント。なんて言うか、母性を擽られる? みたいな。
髪もボサボサで、服も四六時中真っ黒な色合いのモノしか着ない。
食事も、栄養なんか気にせず自分の好きな物しか食べようとしないし、いちいち面倒を看てあげたくなっちゃうの。
そうね、後は……あれ? 目覚まし時計が鳴ってる。
ああ、そうだ。今日は記念すべき高校生活の初日だ。私の大好きな彼に応援されて、一生懸命頑張って勉強して、更には特訓する―――血と汗と涙を流して、ようやく入学した高校。
確かその高校の名前は『雄英高校』。
日本の中でも、最高峰のヒーロー養成機関として知られているヒーロー校だ。なんでも、オールマイトとかエンデヴァー、ベストジーニストとかのトップランカーを輩出したとかで、余所じゃ雄英に入るだけで将来安泰って言われてるとかなんとか。
でも、そこまで興味はない。
だって……―――。
+
雄英高校1年A組の教室。
そこでは現在進行形で、親睦を深める為に生徒たちが談笑していた。
初日から、入学式をすっぽかして“個性”ありきの体力測定を行わせた担任・相澤への驚きや、体力測定で見た互いの“個性”の感想など、初日から話題は尽きない。
特に、将来はヒーローを目指しているとだけあって、己の一番の武器とも“個性”についての会話は華が咲いていた。
「へ~! 上鳴くんって電気纏える“個性”なんだよね? 羨ましいなぁ~、電気系の“個性”って。バリバリー、って! すっごいカッコイイと思うよ!」
「お、おうっ! そうか!?」
和気あいあいとする空気の中、特に明るく振舞う少女が、黄色い髪の毛の男子―――上鳴電気の周りを歩き回る。遂には、椅子に座る彼の背後から近寄り、そのまま背中に圧し掛かるような態勢で、自分の顔を上鳴の傍につけた。
初日の同級生とは思えぬほどの距離感。年頃の男子高校生にとっては、否応なしに興奮してしまうシチュエーションだ。
艶のある真紅の髪は、真っすぐ腰の辺りまで伸びている。
同じく真紅の瞳からは、女子高校生とは思えぬほどの妖艶さが漂っており、見る者を引き込むような妖気さえ覚えてしまいそうだ。
そして、極めつけは彼女の唇。程よく水気を纏ったヒダは、薔薇の花弁を思わせるほどに赤く、尚且つ絶妙な厚さを有していた。
他にも、端正な顔立ち。程よく引き締まった肉体は、元来軽い性格をしている上鳴でなくとも、欲情させるには充分過ぎるほどに“要素”が揃っていたのだ。
(ふふっ、ちょっと胸押し付けただけで鼻の舌伸ばしてるし……コイツはちょろそうね)
だが、その美しい容姿とは裏腹に、心の中では悪辣な笑みを以てして上鳴を蔑むような考えを浮かべていた。
(あとは、あの葡萄頭のチビも楽そう。いつでも堕とせる)
獲物に狙いを定める豹の如く、談笑の輪に入っているクラスメイトを見渡す少女。
一瞥しただけで、自分の体を性欲がままに凝視する矮躯の少年への評価を下す。
そんな彼女であったが、ふと隣から話しかけようと近寄ってくる同級生の影に気づき、不審な瞳を浮かべることを止めた。
「でも、どんな“個性”でも使いようですわ。
「そう? アリガト、八百万さん!」
「いえ。礼には及びませんわ」
黒い髪をポニーテールに纏める生徒・八百万百の言葉に、髪乃と呼ばれた真紅の髪をした少女は、溌剌とした笑みを浮かべた。
髪乃の“個性”は『操髪』。髪の毛を自由自在に伸ばしたり動かしたりなど、文字通り髪の毛を操ることのできる能力だ。
直接的な攻撃力こそないものの、髪の毛は案外丈夫だ。その丈夫さを生かして相手を拘束など、用途は多岐に渡る。
そのことを素直に称賛してくれる八百万に感謝を述べる髪乃。
だが……
(典型的なお嬢様タイプの女。頭は良さそうな感じだけど、天然っぽそうだから何とでもなりそう)
だが、裏では他の生徒たち同様、黒い評価を下していた。
(はぁ……皆良い子ばっか。流石ヒーロー科ってトコかな。女子面子は全員フレンドリーに接してくれるし、割と堕とし易いかな? 問題は男共ね)
ニコニコな笑顔の裏では、まさに“悪女”と言わんばかりの思考をして、心の中でため息を吐く。
(面倒なクソ真面目学級委員長タイプに、プライド高くて口の悪い野郎。一匹狼気取りのエリート様。厨二病漂わせてる鳥頭。無口な奴も多いし、逆に女に免疫なさ過ぎて警戒心の高そうな根暗も居るし……)
散々な評価を下しているが、問題なのは手懐けるのが容易そうかそうでないかというだけであって、他人を見下していることに変わりはない。
(―――誰から堕とそっかな?)
全員“標的”であるのだから。
そのことを改めて考えると、武者震いでもしたかのように髪乃の体はブルルと震える。
同時に、チロリと蛇を思わせるかのように唇を舐ったのは、ほぼ無意識の内の行動であった。
そして狙いをつけたのは、一件制服が浮いているようにしか見えない透明な女子生徒だ。
(葉隠、だっけ? イイ感じに使えそうだし……)
窺えない顔色とは裏腹に、その激しいアクションや溌剌とした口調から、明るい性格だと分かる透明少女・葉隠透。
初日の体力テストを見た限りでは、透明なだけで身体能力が劇的に優れている訳ではないと推測できた。しかし、『透明』という“個性”の性質上、隠密活動には非常に長けていると髪乃は踏んだ。
―――早々に味方に引き入れて損はない。
不敵な笑みを、髪乃は浮かべるのであった。
+
場所は変わって女子トイレ。
他に人が居ないと知り、呑気に鼻歌を歌っているのは、トイレから出て手を洗っている葉隠だ。
しかし、そんな彼女へ気配を消して忍び寄る影が一つ。
「は~が~く~れ~さんっ!」
「うわぁっ!? 髪乃さん、どしたの!?」
洗って水浸しになった手を拭っていた葉隠に飛びかかったのは、無邪気な笑みを浮かべた髪乃だった。
女子同士だからこそ許される、後方から忍び寄ってからの胸を鷲掴みするという所業。
「へぇ~……透明なのに、結構お胸あるんだねぇ……ほれほれっ!」
「ちょ、くすぐっ、あははっ!!」
そのまま無造作に指を動かせば、服の上から感じる指の動きに強烈なもどかしさを感じ、身を捩らせて笑い声を上げる葉隠。
それだけならば、まだ仲の良い友達で済みそうな光景だ―――会ってからまだ一日も経っていないことを除けば。
(ここが髪で……耳は……お、見つけた♪)
葉隠をまさぐる間、器用に鼻頭で彼女の耳の位置を探っていた髪乃。
透明故に見つけるコトに多少手間取ってしまったものの、所詮は人間の体だ。大体の目測をつけて探れば、一分も経たぬ内に耳を見つけることが出来た。
―――何故耳を探る必要があったのか? その理由は……
「あむっ」
「えっ!? ちょ、髪乃さ……なにやって……」
突如、葉隠の耳は、食まれるかの如く背後に佇む少女に唇で挟み込まれた。
思わぬ行動に流石に困惑する葉隠。だが、その困惑も次第に脳裏を過った感情によって上書きされ、それどころではなくなってしまう。
(何、この感覚? 頭、ボーっとして……体も熱くて……アレ? なんか、髪乃さんのことが―――)
「ねぇ……葉隠さん」
洗面所の鏡越しに映る少女の姿。
彼女が唇を耳から放し、甘い声で囁いている現状に、葉隠は止めようのない興奮を覚えていた。
「ちょっとソコに一緒に入ろっか♪」
「え、でも……」
「いいじゃん。誰も見てないしさ……」
「……う、うん」
“誘惑”されるがままに、再び女子トイレの個室に入る葉隠と、歪んだ笑みを浮かべる髪乃。
そのまま足を揃えて、個室に入った二人組。
しっかり扉を閉め、更にはカギも閉める。
『じゃあさ、ちょっと靴脱いでくれない?』
『えっ……な、なんで?』
『いいからいいから♪』
誰かがトイレに座ったのか、軋むような音が女子トイレに響き渡った。
それから、またもや甘く撫でるような声で、髪乃が葉隠を促すようなやり取りが、続いて聞こえてくる。
暫し悩むような唸り声。それから『う、うん』と渋々了承するような言葉が聞こえ、上履きが床に置かれる音が木霊した。
『じゃあ靴下も……』
『く、靴下も!?』
『駄目……?』
『あ、ちょっ……だ、駄目な訳じゃないけど……』
数秒、ピチャピチャと何かを舐る音が鳴り響き、またもや了承する言葉が聞こえてくる。
布が擦れるような音。これが、葉隠が靴下を脱いでいる音なのだろう。
『じゃ、失礼して……』
『あっ―――』
チュッ、とどこかに口付けが為される音が、静寂に包まれていたトイレの中に木霊した。
すると、不意に二人が入っていた個室トイレの扉が勢いよく開かれ、中からは興味が失せたような髪乃が現れたではないか。
「じゃ、バイバイ。あ、学校では普通にしてよね? 色々面倒なことになるしさ」
「はい……じゃなくて、うん。分かった」
やや困惑気味な葉隠を捨て置き、さっさと教室に戻るべき足を動かす髪乃は、クスクスと微笑みながら潤んだ唇をなぞる。
たった今、葉隠の足の甲に接吻した自分の唇を。
「ふふッ、ふふふッ……♪」
抑えきれない笑い。傍から見れば美人が陽気にほほ笑んでいるだけであるが、彼女の笑みにはもっと恐ろしい意味が含まれていた。
それから彼女はさっさと帰宅の準備をして、帰路につく。
コンクリートの地面を踏みしめ、電車に揺られ、そして階段を上った先にあるアパートの一室へ……。
「ふふふッ、ふふッ、あはははは、あはははッ!!!」
実に愉快。そう言わんばかりに狂ったように笑う少女は、徐に携帯を取り出して、とある人物へ電話を掛けた。
数回のコール。“彼”が出るのが待ち遠しい。
『―――……俺だ。どうだった? 成果は出たのか』
震えるような成人男性の声が、頬を上気させてベッドの上に寝転ぶ髪乃の鼓膜を揺らす。
愛しの彼の声。それだけで幸せ一杯の少女は、熱を帯びた頬を手で押さえながら、こう言い放った。
「うん、出たよ! 初日で一人堕としたよ! 弔くん、私偉い!? きゃはッ!」
『……あぁ。最高だよ、お前は』
「ふふふッ! じゃあ明日も頑張るから楽しみにしてね!」
『分かった。明日も精々頑張れよ……』
愛想もなく電話を切った『弔』という男。
しかし、彼の褒められたという事実だけで、髪乃はこれ以上ない程の幸福に包まれながら、一人ベッドの上で身悶えていた。
髪乃の“個性”は『操髪』……それ一つではない。
髪乃
キスした部位に対応した感情や意思を、相手に刷り込ませる“個性”だ。早い話、洗脳の類に分けられる能力。
葉隠は、その毒牙の第一犠牲者になった訳だ。
愛する男の為、髪乃は同級生に毒牙をかけていく。
全ては、後に『敵連合』と呼ばれる組織の首領・死柄木弔の為に。
「全員堕として、弔くんの下僕にしたげるからッ! だから……もし私がお仕事やり遂げたら―――」
―――壊れるくらいにキスをして♥
これは一人の少女の歪んだ愛によって始まる、洗脳学園物語。
キャラクター設定その6
髪乃愛染:個性『操髪』&『キス』
『操髪』は文字通り、自分の髪を自由自在に操れる”個性”。だが、恐ろしいのはもう一つの『キス』だ!! 唇から分泌される特殊な成分が、キスした部位に浸透! そこから脳に直接働きかけ、感情・意思を刷り込ませる恐ろしい”個性”なのだ!! その気になれば体全身にキスをして、色々刷り込ませることができるが、その場合は大抵キスされた者の精神が崩壊してしまうぞ!!
死柄木に異常な執着をみせる女子高生。死柄木に慕われたいが余りに、頑張って雄英高校に入学。そして洗脳学園ライフを始めることになる。所謂ヤンデレの分類されるタイプの娘。
髪乃's髪 長くて艶々
髪乃's目 血のように真っ赤
髪乃's胸 Dカップ
髪乃's脚 すらりとしている
小話
真面目な話、連載してもいいレベルで構想を練っていた”個性”のキャラです。
一人一人洗脳するために堕としていく。心操とは違い、半永続的に続く洗脳によって侵されていくA組……愉悦が止まらない展開になることでしょう。
今回の場合は、”耳”をキスして”誘惑”し、”足の甲”をキスして”隷属”させた感じです。
他にも色々なやり口はあるでしょうが、まあ、今回はヤるだけヤって去っていったみたいな感じにしました←