君の膵臓を喰べたい(完結)   作:初代小人

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追記(2018/10/03 1:25):タイトルを新規小説作成時点から変更し忘れていたので本来あるべきサブタイトルに修正しました


慣れないこと

少ししてからやって来た彼女と、僕は久しぶりに言葉を交わした。

 

 

「やっほー、お待たせ」

「山でもないのにやっほー、なんて言うのは君くらいのものだと思うよ。君を探しにクラスの大人しめの女の子が来たから、教室に居るんじゃないかって伝えておいたよ」

「あ〜あの子ね、会ったよ。ありがとう、【仲良し】君」

「どういたしまして。」

 

雨のせいもあってか、彼女は普段よりもいくらか落ち着いているように見えた。

少しして彼女は今日1日で最大の疑問の答えをくれた。

 

「そう言えば君、酷い噂をされているの知ってる?」

「いつもガムを勧めてくれる彼から少し聞いたよ。なんでも僕が君に付きまとってるって?」

「それどころか君が私に振られてストーキングしてるって!ただの【仲良し】なのに、失礼しちゃうな!」

「本当だね。」

 

 

「それでさ、【仲良し】君」

「何?」

「今日親二人共いないんだ〜。こんな雨の日に1人で家に篭ってるのも嫌だし、私の家においでよ」

「え、やだよ。君の家は方向がまるっきり逆だし」

「そんなにあっさり断んないでよ!でも君は結局来てくれるって私信じてるの」

 

 

正体すら明かしていないのに随分と信用されたものだ。

だがしかし、その理由は何となくわかる気がした。

僕はこれまで彼女の誘い、あるいは頼みを断ったことは無かった。

しっかりとした意思を持って、残りの時間を楽しもうと生きている彼女と相対すれば、常に草舟のように流されて生きている僕が流され続けてしまうのは自明の理だろう。

 

結局今回も、彼女が以前言っていた「ダレン・シャン」の最初の数巻を借りに行くという名目で僕が彼女の家に赴く事が決定した。

 

 

 

────────

 

 

 

 

クリーム色の壁と赤い屋根の大きな一軒家を見て僕はため息をついた。

別に山内家の財力に、という訳では無い。

心のどこかに今日は彼女の誘いに乗ってくるのだろうと確信じみたものはあったのだけれど、それがとうとう現実になってしまった。

彼女に招き入れられて、僕らは雨から逃げるように玄関に入った。

 

 

「適当に座ってね、眠かったらベッドインしてもいいけどキョウコに告げ口するからね」

彼女は部屋に入るや否や小首を傾げながらそんな脅しをして見せた。

「僕をそんなに軟派なやつだと勘違いしてもらっては困るね、」

「君のことはそれなりに信用してるよ?ホテルでも…キャッ!」

と、頬を赤らめてみせてから僕のじっとりとした視線に気づいて肩をすぼめて見せた。

 

 

「何して遊ぶ?真実か挑戦?」

「僕は本を借りに来たんだけど。」

「別にいいじゃん!予定がある訳でも無いでしょ?生き急ぐな若人よ!なんちゃって〜」

 

僕は諦めて、彼女が若人なんて言葉を知っていたことに感心しながらベッドの上に座った。

反対に彼女は立ち上がって本棚に向かって歩いた。

僕は目的のものを取ってくれるのかと少し期待したけれどそうではなくて、彼女が取り出したのは折りたたみ式の将棋盤だった。

 

「友達の忘れ物なの。取りに来ないし、やろっ!」

断る理由もない。僕は勝負に乗った。

 

 

 

───────

 

 

それから色々なゲームで遊んだけれど、僕が彼女にいよいよ追いつこうという時に彼女は競技を変えた。いや、おい。

 

結局のところ僕は自分との戦いであるレースゲームが最も向いていたようで、遊び慣れている彼女ともいい勝負をして見せた。

彼女は画面の中のカートを操作しながら自然な感じで僕に聞いた。

「【仲良し】君はさ、彼女作らないの?」

唐突に振られた所謂恋バナに僕は至極当然の答えを返した。つまりNo。

人間に深入りするつもりもないんだから、当然だろう。

 

 

「じゃあさ、私を彼女にする気は、何があってもないよね?」

僕はこの質問に、驚きを隠せず、彼女が投げ捨てたバナナに見事に当たってしまって、画面の中で僕の車体はスピンした。

愉快そうに笑う彼女に「ないよ。急にどうしたの?」と僕は問いかけずにはいられなかった。

 

彼女は少し小さな声で「よかった、安心した」と言った。

文脈から察するに、彼女は僕が彼女と恋仲になりたいと思っていると思ったのだろうか。

 

 

彼女の言動で、初めて気分を害した。

僕は彼女を異性とすら見ていないというのに、そんなふうに思われるとは。

甚だしく不快だった。

 

 

「本を貸して。もう帰る。」

「ゆっくりしてけばいいのに〜あ、じゃあさ」

そう言って彼女が僕の背後にたった。

僕は彼女の本棚を不躾に眺めた。

目的の本はシリーズ物のはずなのに、全10数巻のそれらはばらばらに並べられていて、僕の苛立ちを加速させた。

 

 

彼女が本棚に手を伸ばし始めた時、僕はそれらを数巻取り出すのだとばかり思っていたけれど、そうではなかった。

 

 

背中、首の周り、そして胸元を、慣れない温もりが包み込んだ。

背中に触れる柔らかさに、ようやく彼女が僕にまとわりついていることに気がついた。

 

 

「私ね、死ぬまでにしたいことをメモしてるの。言ってなかったよね?」

「うん」

「私ね、これを叶えるために君を今日、家に呼んだの。」

 

 

「私の死ぬまでにしたいこと、それはね…」

 

 

 

 

「恋人でもない男の子と、イケナイことをすること、なんだ」




一応言っておくとこのままR-18まで突っ走ることはありませんのでご安心ください。
いよいよこの物語も佳境と言った所でしょうか。書いていてこれほど楽しい物語も珍しいもので、自分で言うのもなんですがいいものが書けそうだと言う予感がしています。
いつまで続くか、どれだけかかるか分かりませんがこれからもよろしくお願いします。
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