「そんなに濡れてたら風邪引くよ!」
彼女は的外れな心配をしながら僕に上着を被せた。
「【恐いクラスメイト】君、血が!血が出てるよ!」
彼女は片手で傘をさして、もう片手で僕の顔をハンカチで拭った。
「や、やあ桜良」
少しだけ引き攣った声でクラス委員の彼が言った。
「【恐いクラスメイト】君に何したの!」
「こ、こいつが桜良に付きまとってたから!やっつけたんだ!僕なら君を守れる!僕なら…」
彼の興奮した声はそこで彼女によって遮られた。
「サイテー、もう私、タカヒロの事嫌いになったから。二度と私にも、私の周りの人にも関わらないで」
全てのものを凍てつかせるような声色で彼女は宣言した。
彼女に促されるまま、僕は泣き崩れるクラス委員の彼をそこに置いて、もう一度彼女の家へと向かった。
「とりあえずこれお兄ちゃんのだから、サイズ合うか分からないけど。」
僕は彼女の家で服を着替えていた。
濡れそぼった制服は先程までの僕と彼女の空気感のように冷たく、重みを帯びていた。
それから僕と彼女はいくつか言葉を交わした。
彼女は僕に謝罪をしたし、僕も彼女に謝罪をした。
彼女はこの一連のやり取りを「仲直り」と呼んだ。
今日は不慣れな出来事に沢山行き合うけれど、その中でも1番むず痒くて、胸のあたりが暖かかった。
僕は今度こそ彼女にしっかりと許可を取って、「ダレンシャン」を3巻まで借りた。
そうして、気まずい事を全て精算したうえで、僕は彼女に別れを告げて彼女の家を出た。
今度は彼女も笑って僕を見送ってくれたし、僕も穏やかな心持ちで出発することが出来た。
今度、なにかお礼をしようと、そう決めた。
次の日学校に行くと、上靴も、筆箱もきちんと在るべき所にあって、僕は彼の執着がようやく消えたことに少し安心して文庫本を開いた
少しして、固まった体を伸ばそうと本から顔を上げた時だった。
隣に肉食獣が立っていた。
きちんと確かめてみればそこにはライオンでも虎でもなく、ただ尋常ではない殺気を放つ親友さんが立っていた。
「ちょっと来な」
僕は親友さんの圧力に逆らえず、後ろを着いていった。
「あんた、桜良の事どう思ってんの」
それが、人気のない外階段で親友さんが発した第一声だった。
「どうって…?」
僕が聞き返すと、彼女は僕の頬を打った。
威力こそ、昨日の彼の方が大きかったけれど、そこに含まれた想いと意思が僕の心に鈍痛を与えた。
「あんたはどう思ってるか知らないけどさ!あの子は思っているよりも繊細なんだ!誰かがついてて!見てやんないとダメなんだよ!あんたにそれが出来るの!?」
僕は答えられなかった。
というか、答えを持ち合わせていなかった。
僕は草舟のように生きてきて、彼女にただ流されるがまま、振り回されるがまま時間を共有してきた。
僕が僕自身の意思で彼女と居たことは少しだってなかった。
だとすれば彼女の怒りは、真っ当なものなのかもしれない。
あるいは昨日今日と僕が殴られているのは彼女が沢山の人に愛されていて、僕が隣にいるべきじゃない事を表しているんじゃないだろうか
僕はそれでも彼女と一緒に居ようとするのだろうか。
僕はそれでも彼女の隣に立っていていいのだろうか。
考え込んでいる僕を親友さんは歯をギリッと噛みこんでから睨みつけて、教室へと向かっていった。
人間に深入りしてはいけない。
だけれど、先程から消えない胸の鈍痛は、一体どうして消えないのだろう。
僕は予鈴のチャイムが体を震わせるまで、その場から動くことが出来なかった。
これで五日連続投稿ですが、毎日UA数があがっていってて嬉しいです!今回は短くてごめんなさい。リアルの方で用事があって早く寝ないとなので…
感想も沢山貰えて嬉しいです!その他原作のランキング92位にも乗って、本当に思っていたよりも大掛かりな作品になって、近頃は驚いてばかりです。次も連投できるかわかりませんが、よろしくお願いします!