君の膵臓を喰べたい(完結)   作:初代小人

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春は桜を際立たせる

彼女には大丈夫だと見栄を張ったけれど、僕の体調の悪化は留まる事を知らなかった。

僕は学校に遅れることが多くなったし、日中寝ている…あるいは意識がないことが増えた。

だけれど、彼女の病室を訪れている時だけはしっかりと意識を保ってられた。

 

 

 

「あのさ」

彼女が悪戯っぽい笑顔で僕に声を掛けた。

なんだか、嫌な予感がした。

 

 

「病院から、抜け出さない?」

「嫌だよ」

僕は即答で拒否した。

代わりに病室を抜け出して、三階の売店へと向かった。

 

 

 

 

売店でしばらく商品を物色した彼女は僕に言った。

「ねえ、サクラが春に咲く理由、知ってる?」

「君が?咲く?」

「ちーがうよ、私自分のこと名前で呼ばないし。」

「そっか、それで桜が春に咲く理由だっけ、そういう種だからじゃないの?」

 

僕の真面目な返答を彼女は鼻で笑って白けた視線で僕を見た。

 

 

「桜はね、散ってから3ヶ月したらもう次の花を咲かせられるの。だけど、その芽は次の春になるまで咲かない」

「うん、それで?」

「私ね、思うんだ。桜はさ、見てくれる人がいないと、その魅力は際立たない。だからさ、桜を見てくれる人が来る、春を待ってから咲くんじゃないかなって。春は、見る人がいなくても、それだけで自分として存在して、魅力があるけど、桜はそうじゃないから。」

 

彼女の言葉は、はっきり言ってよく分からなかった。

彼女は否定したけれど、その桜が花のことなのか、それともそうではないのか僕には判別がつきかねた。

 

 

 

病室に帰った彼女は、僕に向ける笑顔の中に少しばかりの苦悩、あるいは陰鬱な感情を混ぜている気がして、僕は先程感じたのとは違う嫌な予感を感じざるを得なかった。

 

 

「あのさ、もう1つ、お願いがあるんだけど」

彼女は厭に落ち着いた声音で僕に頼み事をした。

 

 

「1回だけ、1回だけでいいからさ、『真実か挑戦』を、やって欲しいんだ」

「僕にどうしても聞きたいことか、して欲しいことがあるってこと?言ってくれたら内容によってはやってあげるよ」

「そうじゃなくてさ、聞いていいか悪いのか、聞くべきかそうじゃないか、私も分かってない事なんだよ。だから、神様に答えを出してもらおうと思って。」

「わかった。」

 

僕は病室の棚を開けて、雑多に並んだ手品道具の中からトランプを取り出した。

「これでいい?」

「うん、ありがと」

 

 

彼女はベッドにスペースを空けて、シャッフルしたカードを広げた。

「君から引きなよ」

「わかった」

 

僕が引いたカードはクラブのJだった。

「嘘でしょ!?あーあ、ダメかなぁ」

 

そう言いながら彼女がカードを引いた。

その手に摘まれているのはハートの13だった。

 

「やったーー!私の勝ち!」

 

 

ここに来て神様は彼女に微笑んだ。

膵臓の分の罪滅ぼしにしては少し足りない気もするけれど言ってはいけないのだろう。

 

「真実か挑戦か」

「真実」

「君は…さ」

「うん」

「やっぱいいや、挑戦にしてもらってもいい?」

「わかった。挑戦」

 

 

「私が死んだ後、悲しまないこと。思い出してくれるなら、春に桜を見た時だけでいいから。」

 

 

その命令を聞いて、僕は今日ずっと感じていた違和感をぶつけずにはいられなかった。

「どうして、もうすぐ死ぬみたいな言い方するの?」

「ん?そんな言い方、した?」

「したよ、今日の君はどこかおかしい。何かあった?隠し事してる訳じゃ」

 

してないよ

さして大きくもないはずの彼女の声が病室に冷たく響いて、僕の声は制されてしまった。

 

 

「死なないよね?」

「膵臓の病気でってことなら死ぬよ?」

「そうじゃなくって!今日明日に死んじゃうことは、無いよね?」

「そりゃあ…わかんない、かな」

「どうして」

「君もそうだから。言ったでしょ?ここに居る全員が、いつか死ぬんだから。」

 

少し間があって、彼女は僕に聞いた。

「ホントのこと、知りたい?」

「うん」

 

 

「君が心配してるようなことはなんにもないよ、ただ君のことを考えてた」

「僕のことを?」

「そうだよ。真実か挑戦も、別に大事なことを聞こうと思ったんじゃないし」

 

 

僕はそこまで聞いてようやく安堵の息をつくことが出来た。

彼女は突然笑い始めた。

 

「どうしたの急に」

彼女は僕の質問に質問で返した。

 

 

「私が死んだら、悲しい?」

僕は即座に首を縦に振ることが出来た。

数ヶ月間合わなかった理性と感情がようやく一致した。

 

 

「うふふふふふふふふ」

「さっきから大丈夫?変だよ?」

「べっつにー?ただ、私こーんなに幸せでいいのかなって思って」

「へ?」

「君がさ、私をそんなに必要としてくれるようになるとも思ってなかったし。今死ねたら、幸せなんだろうな〜」

「やめてよ、縁起でもない」

 

 

僕の制止に、彼女はまた顔をほころばせた。

 

「………本当に、君にはたくさんのものをもらう」

「えっ、急に何?どうしたの?」

 

 

 

「なんちゃって、いつものお返し。それじゃ、そろそろ帰るから」

そう言って、僕は彼女の不満の声を置き去りにして病室を出た。

 

火照る顔と、冷える体を隠すように。

 




今回でこの小説で書きたいものの八割くらいを詰め込んだ気がしてます。文章量少ないけど作者的には濃いのでお願いします
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