君の膵臓を喰べたい(完結)   作:初代小人

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何気に時間がかかりましたね。
文字数も多くなりましたしどうしてこうなった…
サブタイ考えつかなくてとりあえずこれにしましたけどいいの思い付いたら変えるかもしれません。


これはこれで幸せなんだって

「そういえばさ、【仲のいいクラスメイト】くんってお昼はもう食べたの?」

彼女は下足箱で僕にそう尋ねた。

 

 

「誰かさんの悪戯に踊らされてたんだから食べてるわけないよ。」

「じゃあさ!」

彼女は笑顔で前置きした。

あぁこれはまた面倒事が増えるな…と一瞬で理解し、やれやれどうして彼女のことを理解し始めているのかと内心で苦笑する。

 

 

「家で何か用意してたりしないなら食べに行こうよ!今日親が両方いなくてさ〜お金だけ渡されてるんだよねっ!」

「ほら来た。またクラスメイトに見つかったら面倒な事になるというのに…」

「そうだ思い出した!」

彼女は一際大きな声で言った。

 

 

「今朝私と仲良くないって言ったでしょ!週末にお茶して、色々出かける仲なのに!」

「うん言った。」

「嘘つくなんて、お姉さん感心しないな〜」

「まず一つ、君はいつから僕より年上になったのか。僕の方が誕生日早いよね?あと、クラスメイト達から詮索されてホントのこと言ったら君の病気がバレてしまうんだけど、どうする?」

「あ、誕生日覚えててくれたんだ〜、プレゼント期待してるね?」

「あ、まあその時まで覚えてたら。じゃなくて、嘘をついて責められる謂れなんてないんだけど。」

「むむむむむ、む〜」

彼女は考えすぎた子供のような顔をしたかと思えば、拗ねて膨れた子供のような顔をした。

あ、結局子供だ。

 

 

「今失礼な事考えてるでしょ!」

彼女はトリックを暴いた探偵のようにビシッと指をさして、ドヤ顔で僕に言った。

「だから人の心を勝手に読むべきじゃないと僕はさっきも言ったよね。」

「否定しないんだ!ひどいな〜」と追及する彼女の顔は言っていることと裏腹にいつも通りの笑顔だった。

 

 

「で、お昼どうする?」

「正直僕なんかと遊んでていいの?他の友達は?」

「今日は予定ないよ。膵臓のこと知ってるの君だけだから、楽なんだよね〜」

「息抜きか。」僕は内心だけで言ったはずがまたも口に出していた。

 

 

「そうそう、息抜き息抜き!」

彼女は急かすように言った。

息抜き、つまり人助けだ。

人間を数えられないほど殺して喰らってきた僕が人助けとはなんとも皮肉な話で、その痛烈さに僕は乗っかることにした。

 

 

「なら人助けのために付き合ってもいいよ。」

「やった!あのね、実は私、クーポン券持ってて…」

彼女はカバンをまさぐって、財布に入る程度の光沢紙を取り出した。

「スイーツヘブン!行こっ!」

「はぁ…」

彼女に気力を奪われたのか、思わずため息をついてしまった。

「もう!早く早く!」

 

たとえタイタニックだとしても草舟が大型船に叶うはずがなかったのだと僕は思い知った。

 

 

──────

 

 

 

店内に入ってやっと、自らの迂闊さに気づいた。

ここまで…もう認めよう、人間と親しくなったのは初めてで慣れない状況で判断を間違えたらしい。

 

 

 

「どうしたの?浮かない顔して。」

彼女の顔は例のごとく満面の笑みを浮かべていたけれど、それは何方かと言えばほくそ笑むという表現が当てはまる風な笑みだった。

彼女の質問に答えることが容易いことはわかったが、それは彼女を喜ばせるだけだろうから、僕は彼女の質問をわざと無視した。

 

 

 

「ここね〜ショートケーキが美味しいの。」

正直僕にはそれはよくわからない。

「あのさ、君は太りたいの?それとも僕を太らせたいの?二日連続で食べ放題だなんて、フードファイターでもそんな事しないよ。」

「両方ハズレ〜君もまだまだだね〜」

彼女はニヤニヤするのを隠すつもりもないらしい。

 

 

「私はね〜食べたいものを食べたい時に食べたいだけ食べるの。」

「なるほどそれは幸せそうだ。」

最も僕がそんなことをすれば駆除まっしぐらだろうけれど。そんな言葉を飲み込んだ。

 

 

「そういえば聞いてなかったけれど、君は甘い物大丈夫だよね?」

ほら来た、ここで上手くやればなるだけ食べずに済む。

そんな浅はかな考えと共に「あまり好きじゃないよ。そもそも僕は少食だから。」

「でもここ、甘い物以外にもパスタとかカリーとかピッツァとか色々あるから、好きなのもあると思うよ?」

人肉(そんなもの)があってたまるか。

 

 

兎にも角にも空腹を訴える彼女と共に僕は食べ物を取りに行くことにした。

なんとか食べられる程度の食べ物をとって席に戻ると、彼女は幸せそうな笑みを湛えて山のように積まれたケーキやパスタを眺めていた。

 

「「頂きます」」

珍しく僕らの声が重なって発された。

 

 

少ししてから、彼女は「そういえば、殺人事件、怖いね。」と切り出した。

僕は不意をつかれてほんの少しだけ吃驚したが、冷静を装って「う、うん。今日その話してる人全然いなかったから僕の夢か幻かと思った。」と、答えた。

「皆会ったこともない人が死んでもあんまり興味無いんじゃない?私も、「まさか私より早く死ぬと思わなかったろうな」としか思わなかったし。」

その感想は間違いなく正しいものだろう。

なんと言っても彼の最期の表情は驚愕だったのだから。

 

 

明日もあると人間が無意識に思っている日常は僕如きが介入しただけであっさり瓦解してしまう脆いものだなんて、全人類のどれ程が理解しているだろうか、と取り止めのないことがふと頭の中に浮かびあがって、そのまま思考の海に沈んでいった。

 

 

 

「【仲のいいクラスメイト】くんは女の子に興味がないの?」

彼女は鼻に白いクリームをつけたまま真面目な顔で不意に難しい問いをした。

そもそもこの場合の「女の子」というのは人間の「雌」の事だろうか、それとも喰種の女のことだろうか。

 

 

 

ともかく、なにか答えなくてはまずいだろうと思い至り、「突然、何を言い出すの?」そう返した。

「さっきから女の子ばかりの店に連れてこられておろおろしてるし、可愛い女の子がいても見向きもしなしいさ。枯れてるの?」

あまりの的外れさに僕は思わずクスリと笑った。

少しばかり知っている目の前の彼女ならともかく、その辺りを歩いている有象無象に等しいような人間なんて、僕にとって食べ物以上でもそれ以下でもない。

 

 

「どうにも場違いな感じが拭えなくてね。落ち着かないのは事実だよ。」

「じゃあさ、片思いは?流石の君でもその位はしてるよね?」

「片思い…した記憶が無いな…」

「記憶喪失?今から病院にでも行く?」

「常々思ってるけど君って馬鹿でしょ。」

「そんなことありませんー!」

彼女は頬を膨らませて講義した。

その鼻ではクリームが彼女が話すのと同期して揺れて、ささやかながら自己主張している。

 

 

 

「聞かれたし聞いてあげるけど君は?」

そう聞かれた彼女は笑顔の中に少しばかりの誇りを含ませて、今まで彼氏が三人いたと話した上で、自分の恋愛論について胸を張って語ってみせた。

彼女の話が嘘でないことを証明できる程度に容姿が整っていることを確認していると、彼女は「ちょっと、引かないでよ!」と今度は不服そうに行った。

 

 

感情豊かな彼女に内心で少しばかり苦笑してから、「ひいてはないよ?でもまあちょっと鼻につくよ?クリームが。」

「ふぇ?」そんな間抜けな声にぴったりな顔で数瞬フリーズしてから彼女は急いで鼻についた白いものを擦りとった。

 

それを見ながら僕は席を立って、不自然でない程度に最小限の食べ物を皿にとって席に戻り、少しでも口直しをするためにインスタントと思わしきホットコーヒーをカップに入れた。

 

 

 

席に向かった僕であったが、椅子に座ることは叶わなかった。

僕の姿を認めた彼女は笑顔を深めたがその向かいに座った人物は対照的に、浮かべていた笑顔を引っ込め、代わりに今朝のクラスメイトが浮かべていたような表情に少しばかりの敵意を混ぜた視線を僕に向けた。

 

 

「え、あんた連れって【根暗そうなクラスメイト】の事だったの?」

「そうだよ~?キョウコなんでそんなに驚くの?あ、【仲のいいクラスメイト】くん、この子は親友のキョウコ。」

笑う彼女、戸惑うキョウコさんの傍を通ってともかく僕は空いていた席に座り、コーヒーを静かに啜る。

目の前では状況を飲み込めないキョウコさんが彼女を問い詰めている。

 

 

「あんたはもういいよ、たまに会話にならないことがあるから。ねぇ、【根暗そうなクラスメイトくん】、桜良とはただの友達だってことでいいんだよね?」

もはやそうであることを半ば決めてかかっているキョウコさんに珍しく少しだけ苛立った僕は彼女に倣って悪戯してみることにした。

「やっぱり「仲良し」って言うのがいちばん当てはまる、かな」

頭を抱えるキョウコさんを見て溜飲が下がった。

 

 

呆れたようにキョウコさんが自分の友達の元に戻ったあと、彼女のとても嬉しそうな笑みを見て、今度は僕が頭を抱える番だった。

「やっと私たちが仲良しだって認めてくれたんだね!うんうん、君が素直になってきてくれてて私は嬉しいよ。」

したり顔で頷く彼女に僕は否定することも出来ず、かといって彼女をこのまま置いておくのも騒がしそうなので、僕は敢えて水を差すことにした。

 

 

「親友に本当の事言わなくていいの?」

「いいのいいの!あの子感傷的だから言っちゃったらあの子絶対私の顔を見る度に泣いちゃうもん。そんなの楽しくないから私は私の為に、最期の最期まで周りには隠すことにしたの。」

どうやら焼け()()に水だったらしい。

ふと思いついたその冗談の余りの寒さに僕は1人で身震いしてから、ずっと胸に潜んでいた問いを彼女にした。

 

 

「ねぇ、君はさ」

「ん?何?」

「本当に死ぬの?」

彼女の笑顔が一瞬にして雲散霧消して真顔になった。

そして僕の瞳をしっかり見ながら「死ぬよ。」そう答えた。

 

 

「死ぬんだよ、私も、君も。ここに居る全員が死ぬんだよ。ただそれが早いか遅いか、生きてる時間が長いか短いか、それだけの違い。明日も自分の命はあるだなんて保証なんてない。だから」

そうして彼女は真面目な顔を最後に和らげて、「別に私の分まで生きろだなんて無責任なことは言わない。君はいつ死んでも後悔しないような、そんな人生を送ってほしいな。」と言った。

 

 

どうやら類は友を呼んだらしく、キョウコさんに負けず劣らず彼女も、そして僕も感傷的なようだった。

 

 




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