君の膵臓を喰べたい(完結)   作:初代小人

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今回、グロテスクではありませんが人によっては多大な不快感を覚えるであろう表現があるので注意のために※を付けています。留意して読み進めてください


※鏡写しの二人

彼女に案内された甘味屋でパリッと焼き上げられた梅ヶ枝餅というらしい名物を食べながら僕達はこれからの予定について話していた。

日は既に真上を過ぎているし、僕の服なんかも買う必要がある。夕食については…今考えたら戻してしまいそうだ、後にしよう

そこで僕はこれまでに摂った胃の中の異物(食べ物)を出しておく必要があることに思い至って彼女に「少し手洗いに行ってくるから」と言い残してトイレに行った。

 

先程摂取した梅ヶ枝餅の餡の青臭さで既に臨界点を超えていたらしく、便座に向き合うと直ぐにそれを吐き出すことが出来た。と言っても外から聞こえて異変を察知されないように声は出さないよう気をつけているので外から聞けば僕が普通に用を足しているだけだと思うだろう。

 

 

銀色の無機質なレバーを押し下げてトイレの水を下水に押し流して、備え付けられた消臭スプレーを噴霧していると何やら外が騒がしくなった。揉め事だろうか。

僕は面倒事に関わるのを避けるため、事が落ち着くまでこのまま待っていようと思ったが、輪郭がはっきりしない声の中に聞き覚えのある声が混じったのを聞いて慌てて狭い空間を飛び出した。

 

「あんた達が悪いんじゃない!おばあさんに謝んなさいよ!」

あまり態度の良くない数人の中年女性を睨めつける彼女の傍で腰が曲がった老婆がオロオロしていた。

女性のうちの一人の服が汚れていることから状況はおおかた推測できた。

 

女性は彼女に何か言い返そうという意思はあったようだけれど、そこに周りのお客さん達が不躾な視線やヤジを飛ばして彼女に加勢したことで中年女性達はなにやらカラスのような喚き声をあげながら店から逃げるように立ち去った。

彼女は老婆となにやらやりとりして、小さな箱を恐縮しながら受け取って、元いた席に座った。

 

 

 

「おかえり、大変だったね」

僕なりの労いの言葉を軽く受け取ってから彼女はあの服が汚れていた中年女性が突然突きだした足に老婆が躓いて転んでしまった事を僕に伝え、それから憤慨した。

 

 

騒ぎを聞いた時、どんな内容かは知らなかったけれど、僕は手洗いに篭ってやり過ごそうとし、彼女は果敢に立ち向かった。

結局のところ僕と彼女はまるで鏡写しのように真反対だった。

彼女が言うように表現すると「方向性が合わない」と言ったところなのだろう。

そして傍観し、やり過ごそうとした僕は件の中年女性を責められるだけの権利は持ち合わせていないように思えたので僕は女性を強く非難することはしなかったし、出来なかった。

 

 

店を出て僕らは元来た駅に向かって進み始めていた。

もう夕方と表現するに相応しい時間帯でさっきまで梅ヶ枝餅を食べていたというのに彼女は老婆にお礼として貰った梅ヶ枝餅を食べていた。

「とりあえず都心部を目指そうよ、僕の服を買いに行かないといけないし」

そんな僕の言葉に何がおかしいのか彼女はいつも通りうわははっと笑って、「いいね、君も乗って来たね」なんて的外れな事を言った。

僕は僕自身の最低限の文化的な生活を凶悪な拉致誘拐犯から守るために動こうと言うだけなのに。

 

 

なんにせよ僕は彼女からまた幾ばくかのお金を借りて────これを含めてこの旅行での彼女への借金は意地でも返済する───着替えの服を確保した。

それから彼女の強い希望でモツ鍋屋さんに入った。

 

 

たまたま店は空いていて、すぐに入れたことを彼女は自分の手柄であるかのように主張したけれど、予約した訳でもない彼女にそんな権利はないので無視して案内された席についた。

鍋を食べながら二人の間には珍しくほとんど会話がなかった。

つまり、彼女は鍋を讃え、舌鼓を打っていて、僕は生臭い肉に覚える吐き気を堪えていた。

 

──────

 

 

 

 

 

鍋の中の固体が粗方なくなって、彼女は塞がっていた口が空いたと同時に話し始めた

「この前ホルモン食べた時に言ってた話の続きなんだけどさ」

「火葬は嫌だって話?水葬ならいいって?」

「そんな訳ないじゃん、そうじゃなくって、私ね、前に本はあまり読まないって言う話したじゃない?」

「うん。漫画は読むんだよね」

「そうそう。でも私ひとつだけ、面白くてシリーズ全部読みきった本があってね!知りたいでしょ?」

「うん、知りたい。」

 

 

その人が読んだ本はその人を形作ると言う。

僕は純粋に僕の真逆の人間である彼女の鋳型となった本がなんであったのかに興味を覚えた。

 

 

「ダレン・シャンっていう本なんだけど知ってる?作者さんと題名が同じなの!面白いよね!」

「うん、知ってる。児童書だよね、結構長いシリーズ物でもある。」

「なんで知ってるのさー!流石の【仲良しなクラスメイト】君でも外国の人が書いた本は知らないと思ったのに!」

「ダレン・シャンは今や有名児童書の一角で映画化もされてる。有名だと思ってない時点で君が小説について詳しくないことがよくわかるね。」

「む〜…じゃあ内容も知ってるんでしょ?」

「いいや、恥ずかしながら未読で、映画も見たことがない。」

「じゃあ今度貸してあげるよ!」

そう言って突きだされた彼女の小指に僕の小指を絡ませ、約束する時の儀式を執り行った。

果たしてこれをするのはいつぶりだろうか。

 

 

「それで?」

僕は話を促すことにした。

「う〜ん…今度貸してあげて読んでから話す事にするよ!」

僕はその話の内容が気になったまま、店を出ることとなった。




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