君の膵臓を喰べたい(完結)   作:初代小人

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光と影

それから僕らは夜の街に繰り出して、見知らぬ土地の見知らぬ建物の並びを満喫した。

彼女は服屋で僕に感想を求めて困らせてみたり、僕が入ったことのないカーテンのついた直方体の中で2人で写真を撮ったりした。まるで詐欺のように違った外見になって出てきたそれに映っているのは楽しげな少女と困惑した青年で、確かに彼女と僕なのだけれど、どうにも写っているのが自分であるという自信は結局最後まで持てなかった。

 

 

その後やりたい事を済ませた身勝手な彼女は快適な睡魔に包まれ始めたようで、僕にホテルに行こうと催促した。

心身共に疲労困憊で、ひとときでも早くどこかに腰掛けるか横になってしまいたい僕は断る理由もなく承諾して、僕らは歩いてホテルに向かい始めた。

 

 

 

フロントのホテルマンと対峙する彼女を見ながら僕は「ああしていれば落ち着いて見えるのに」だとか、なんにせよ意味の無いそんなことを思っていた。

あ、慌てだした。いつもの彼女だ。

そんな事を思ってから僕は一瞬で我に返った。今、僕は彼女と行動しているのだから、彼女が慌てるようなトラブルは十中八九僕も慌てる羽目になる事に思い当たった。

結局、彼女は頭を下げて陳謝したホテルマンから部屋の鍵を受け取って、僕が今日1日浮かべていたであろう表情、つまり困惑の表情を浮かべて僕のところに来たかと思うとそのまま顔をほころばせ、僕にゆっくりと話しかけた。

 

 

「あの…さ」

「うん」

僕は何事かわからないトラブルに対して諦観し、ただ相槌を打つことしか出来なかった。

「予約に手違いがあって、私たちが泊まるはずだった部屋が埋まってて」

「うん」

「本来の部屋より格上の、いい部屋になったんだけど、さ」

 

 

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「へ?」

 

僕は最早相槌を打つことすら叶わず、気の抜けた声を出すだけで精一杯だった。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

彼女の言う「格上のいい部屋」に入って、これが彼女の口先だけでの悪戯では無いことを確信して、僕は流石に呆れ返った。

よしんば僕が喰種であることが予測できなかったことが仕方ないとしても、同年代の男に対してこうも無防備でいいのだろうか、これはお門違いな心配だった、と僕は首を横に降った。

 

 

「ちょっとー!【仲良し】君さては失礼なこと考えてるでしょ!」

「失礼というか至極真っ当だと思うね、異性と同じ部屋なんて、考えられない」

「いいじゃん!いい部屋に安く泊まれたんだからさ!それとも私の魅力に悩殺、されちゃった?」

「黙れ馬鹿」

「うわははっ、ひどーい!」

「それから僕はこっちに寝るから」

 

そう言って僕がソファを示すと彼女は不満げに「えぇ〜?せっかくこんなにいい部屋なんだよ〜?ベッドまで使わないと勿体ないよ〜」

 

少し苛立って、僕は今日1日の口直しに目の前の人間(桜良)を今ここで捕食しようか、そう逡巡したが、ホテルマンにも顔を見られているし、足取りが掴まれてはまずいのでまだ喰べないことにした。

 

 

それから彼女がシャワーに入ってようやく1人になって、僕はベッドの上でやっと冷静に状況を整理することが出来た。

全く、彼女と居るといつも振り回される。まったくもって困ったものだ。

僕はそう思って苦笑して、ふと僕が苦笑なんてしたことがこれまでにあったかと思考をめぐらせてみた。

馬鹿馬鹿しい、きっと彼女の馬鹿が移ったのだろうと僕は思考を中断した。

 

 

やっと手に入れた平穏に、彼女が流しているシャワーの音が僕をベットに沈めようとしたまさにその時だった。

シャワールームから「あのさ【仲良し】くーん、悪いんだけど私のカバンから洗顔取って〜?」

 

 

僕は短く返事をして彼女のカバンのジッパーを開いた。

ジジジという小気味いい音を立てて開いた中に僕は…

「ッ!?」

 

 

注射針、錠剤、粉薬、それから使い方もわからない、クスリの束。

それらがまるで彼女の死の予兆の象徴であるかのように眼前に叩きつけられた。

人間の死には慣れていたし、何人もの人間を喰べてきたというのに僕は動揺が隠せなかった。

平生の彼女の背後には死の影は感じられないし、どこかで「彼女は死なない」だなんて幻想を抱いていたのだろうか。

 

 

 

僕は…彼女をどうしたいのか、自分自身でも、全くわからなくなっていた。




合計UA3000突破&お気に入り69人&日間ランキング51位ありがとうございます!!!
まさかここまで伸びるとは…前回投稿日だけで1000件伸びました…本当にありがとうございます、完結まで頑張りますのでどうか拙作を今後もよろしくお願いします!
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