君の膵臓を喰べたい(完結)   作:初代小人

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未成年飲酒、ダメ絶対。


真実か挑戦か

僕は途方もない疲労感に襲われて大きなベッドに倒れ込んだ。

その疲労感の原因は僕にはおおよそ計り知れるものではなかったのだけれど、少なくともこの旅行での活動だけではないことは火を見るよりも明らかだった。

 

 

「あー、すっきりした!」

シャワールームから寝巻きで出てきた彼女は学校で見るのとおなじ、つまりいつも通りのハイテンションで、僕をどうからかおうか考えているようにも見えた。

 

全く、さっきまでのしおらしさはどこへ行ったのか、そうか、眠かっただけなのか。そんな滑稽な自問自答をしてから僕はベッドから立ちあがった。

 

 

「ベッドもういいの?」

「うん、十分。」

 

返事はいつもよりも素っ気なかったけれど、これは僕の困惑、あるいは混乱を隠すための仮面であったと言える。

彼女はきっと僕か腫れ物に触るように接するのも、病人らしく労わってやるのも求めていないだろうと思う。

それでも僕はシャワールームの中で彼女の『共病文庫』の冒頭の中の1文が頭から離れなくなっていた。

 

 

「私は膵臓の病気であと数年で死んじゃう」

 

その言葉の意味を僕は今まで正確に理解したことはなかったのだろう。

興味が無い、そう思っていたことすらあるいは間違いだったのか。

僕は生まれて初めて、僕自身のことも理解できなくなっていた。

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

シャワールームからでた僕を、彼女はいやに赤い顔で迎えた。

「お、出てきたね〜きゃははっ!」

「君は高校生の分際で…」

という僕の説教を遮って彼女は「いーのいーの」と緩やかに手を振った。

 

 

 

「それよりさっ!」

彼女の表情は喜色満面で、僕はそれに嫌な予感を感じる程度に彼女と過ごすことに慣れ始めていた。

 

 

「真実と挑戦ゲーム、しようよ!」

「何その犠牲者の山を生み出しそうなゲーム」

そう返した僕の言葉に彼女はまたひとしきり笑った。

箸が転がるどころか自分が転んでも笑いそうな彼女に少し辟易してから「何それ、知らない」と言うと、彼女は僕にものを教えられるのが嬉しいのか、嬉嬉としてルールの説明を始めた。

 

曰く、広げたカードの中から1人1枚ずつカードを抜き取り、その数字の大きさを競うこと。

曰く、勝った方は負けた方に「真実か挑戦か」と問いかける。

曰く、問いかけられた人は真実と挑戦、どちらかから選ぶ。真実であれば勝者の質問ひとつに何でも答え、挑戦は勝者の命令をひとつなんでも聞くこと。

そして最後に、このゲームは途中で降りてはいけないこと。

 

 

 

ちなみに挑戦を選んだら私容赦しないから。

そう前置きして彼女は僕がやるとも言わないうちにカードを引いた。

 

「ハートの11!ほら【仲良しくん】も早く引いて引いて!」

「スペードの8」

僕は腹の底から息をついた。

対照的にとても楽しそうな彼女は「真実か挑戦か」そう問いかけた

 

「真実」

「クラスでいちばんかわいいと思う子は?あ、もちろん女の子ね?」

分かってるよ。

 

 

いきなり難題が飛んできた。

そもそも僕はクラスメイトの顔だなんて、普段ガムをくれる彼と目の前の彼女しか知らないのだから。

「覚えてる中で、だけど…君、かな」

「えっ、それってそういう意味で取っていいの!?キャーッ!恥ずかしー!」

彼女は僕に梅酒を渡してから、自分の手元のグラスをグイッと呷った。

 

 

「なんで聞いた私が恥ずかしい目にあうのよ!【仲良し】君ももう少し恥ずかしがりなよ!」

「知らないよ、君が自爆したんだから。第一僕がクラスメイトの顔なんて覚えてると思ったの?」

「開き直んないでよ!恥ずかしい!」

 

 

そうして彼女がやけくそ気味に引いたのはスペードの1。

神社での御籤も含めて思ったが、神様は彼女のことが嫌いなのか…あるいは彼女にイタズラがしたいのか、なんにせよ意地悪であることが証明された。

 

 

「クラブの3」

「くっそー!なんでこんな時に!」

「日頃の行いだね」

僕は彼女をそうあしらってから、質問について考え始めた。

彼女は僕とあまりにも真逆がすぎる。

そんな人間は、一体どうすれば生まれるのだろうか、僕は少し気になった。

 

「君はさ、どんな子供だったの?」

「え、そんなのでいいの?うー…ん…落ち着きがない、とかはよく言われてたね、元気なのはいいんですけど〜って!失礼しちゃうよね!」

「何も失礼じゃないと思うよ」

「ひどいっ!」

そう言ってキャハハッと楽しげに笑った彼女はまたもグラスを呷った。

 

 

 

神様は彼女が嫌いなようで僕はそれから連勝を重ねた。

僕があまりにも彼女の生い立ちに関するつまらない質問ばかりするために、彼女は不機嫌そうに頬をふくらませていた。

 

あまりに彼女がむくれるので僕は彼女に配慮して彼女が喜ぶような、比較的面白い質問を考える必要があった。

 

 

 

「今までの恋愛経験は?」

そう聞いた瞬間彼女はぱあっと顔を輝かせた。分かりやすい。

「彼氏は今まで何人かいたんだけどね、別れちゃったや」

「病気がわかったから?」

「違う違う、彼は表面上はすごく爽やかでイケメンだったんだけどね、彼氏になったらダメだったや」

「そう。」

 

 

僕はこの返答以外に適当なものを見つけることが出来ずにいた。何も付け足すことすら出来ず、言葉を発せなかった。

だって僕は恋愛なんてするつもりは無いし、したことがない。

だからきっと僕はこの話を聞くのに適切ではないのだろう。

 

 

いよいよラスト、そういう時に彼女が椅子から滑るように落ちて床に座り込んだ。

「あはは、立てないや」

そう言いながら軽く笑う無防備な彼女を見ても僕は何の欲も湧かなかった。

 

 

「ごめーん、私のカード代わりに引いて〜」

「7」

「うわぁ…びみょん…それで、君のカードは?」

「…6」

 

いつものように嘘をついて、騙してしまえば乗り越えられる局面だった。

10回目の最後で彼女からされるであろう質問を、僕は敢えて受けることにしたのだった。

理由は分からない。このホテルに着いてから僕は自分のことがわからない。いっそこのホテルにそういった心理的な細工がしてあるのかと思う位だった。

 

 

 

「真実か挑戦か」

「真実」

 

 

数瞬の間があった。

恐らくそれは、彼女の葛藤や懊悩と言ったものの大きさなのだろうと僕には推察することが出来た。

 

 

 

「もしも…もしも私が、本当は死ぬのがめちゃくちゃ怖いって、そう言ったら君は、どうする?」

いやに低いトーンでされた質問に今度は僕が悩む番であった。

僕が、この僕が

 

 

喰べてやろうか

 

 

そう思ったけれど、思うだけでその言葉は口から漏れる事は無かった。

 

 

「どうもしないよ。だって僕は、僕には何も出来ないもの。怖くないよって励ますのも、頑張ってって応援するのも、可哀想にと同情するのも、全部僕がするのはお門違いじゃないか。君はそんなの求めてないし、必要ないだろう?だから僕は何もしない。」

 

 

「フフッ、君らしいなぁ」

帰ってきた声は少し湿っている気がした。




テストだったので投稿が遅れました!感想返信もできてなくて誠に申し訳ございません!もう大丈夫なはずです!次回で旅行が終わるのでよろしくお願いします!
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