【未完】フェバル 〜剣聖プロトタイプ〜   作:暴虐の納豆菌

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第7話 《封縛》

 

 

 

「ーーーやあぁっ!!」

 

 

瞬間の内に8合。

それが、たった数瞬の間に剣を交わした数だ。

 

エネミアのたっぷりと殺意の乗った20の剣閃は8の剣閃を防がれ、10の剣閃を躱され、2の剣閃をアミカの体に打ち込んだ。

 

当然、こんな結果がアミカの痛手に至る筈がない。

この瞬間のほぼ全ての攻撃を防ぎ、躱され、やっと入った2つの斬撃はアミカの強固な気力強化された身体にまともな傷をつけることは叶わなかった。

 

 

「ーーーぜああぁっ!!」

 

 

放たれる剛撃。

 

数瞬の20の剣閃に及ぶべくもないたった1つの斬撃ではあれども、その威力はそのたった一撃で目の前のエネミアを致死に至らしめる破壊力を持つ。

 

 

衝撃の余波で凪の湖は荒れ狂い、砂浜は爆撃地と見間違いそうな程の様相を見せる。

 

 

「ちっ、相変わらずちょこまかとっ!」

 

「そっちこそ。まるで大砲だよ……」

 

 

前にも言ったと思うが、エネミアの剣は自身の反射神経と身軽な身体を活かした手数の多さが長所だ。

その瞬間の内に無数の斬撃に切り刻まれるその剣技は、我流と言えど余程の剣豪でも勘弁願いたい程の攻撃だ。

 

だが、エネミアの剣は軽い。

生来の体格や身体能力に恵まれなかった事もあり、一撃一撃ではそれ程相手にダメージを与えられないのだ。加えて防御力も無い。

まさに重ねてダメージを与えるからこそ意味のある、乱撃を重視した速度特化の剣技であり、当たらなければ意味は無いの精神を体現した剣である。

 

 

対して、アミカの剣技はその真逆。

一振り一振りが一撃必殺。堅牢な防御は生半な攻撃では物ともせず、取り敢えず相手の攻撃を受け止めてから返すカウンターを重視した重戦士の戦い方だ。アミカの得物である大剣は限定的な盾としても優秀な為、カウンター戦法はこの上なく有効と言える。というか、大剣使いの殆どがカウンターを利用した戦い方を使うだろう。

 

アミカの凄いところは女の細腕、柔肌でそれを極めた所だ。

足りない筋力(もの)を気力で補完し、防げない攻撃を魔力で逸らしているとはいえ、その要塞の如き防御力と、一度でも当たれば瀕死は免れない一撃はエネミアと相性が悪い。

 

 

だが、それはアミカも同じ。彼女は強力な防御と攻撃力を持つが、エネミアの十八番である速度が無い。

鈍重なアミカの攻撃は、エネミアが見切るには簡単すぎる。

 

かと言って、エネミアが優位だと言うとまったく違うと言わざるおえない。

前述した通りエネミアの剣は一撃毎の威力がかなり軽いのだ。

どれだけ剣戟を重ねようともその多くを堅牢な防御力で防がれ、まともに入った攻撃も十分なダメージは与えられない。

必然的に攻撃力の低さから、アミカよりも剣を振るう回数の多いエネミアには次第に疲労が溜まっていく。

アミカの攻撃は一撃一撃がエネミアにとって致死の威力ともなれば躱す際の一切のミスも許されない精神的威圧も手伝ってかなりまずいだろう。

 

しかし、エネミアの攻撃がまったく効いてないという訳では無い以上、アミカにもダメージは着々と蓄積されていく。

 

 

「早く、モノにしなよっ!そのチカラ!!」

 

「言われるまでも、ないっ!!」

 

 

轟ッ!!

 

駆ける疾風の蓮撃と、放たれる必殺のカウンター。

ここまで来ると最早我慢比べだ。

 

エネミアの精神が余裕を無くし、致死の一撃を喰らうのが先か。

アミカの受け止めたダメージが、肉体の限界を超えるのが先か。

 

剣を合わせる毎に苛烈さを増していく二人の戦いは、どちらかが負けを認めたが最後の根性比べ。

少なくとも彼女達にとっては、ライバルの勝負としてこれ以上ない程最適な競い合いだった。

 

 

「ーーーっ」

 

「余所見、すんなぁッ!!」

 

 

能力を行使しようと集中したところにアミカが一撃を放つ。辛うじて避けたが、その風圧に体が浮いた。

アミカの一撃で吹き飛ばされる感覚があるが、抵抗はせず、そのまま飛ばされ距離をとる。

 

フェバルとなった時から弱体化した原因。恐らく、自分のフェバルとしての特殊能力だろう、それを発動させる条件はわからない。だが、こうして今〝元の力を返して貰う〟という形で発動できている以上、何らかのトリガーがある筈だと思い、自己の内側に集中してそのトリガーを探そうとするエネミア。

トリガーが自分の精神に由来する何かである事は今までの事で分かっている。

瞑想は修行法としても、自己の精神状態を確認する意味でも有用だ。〝自己の内側に埋没する〟というのも、簡易だが瞑想法には入るのではないだろうか。……まぁ、瞑想とかに詳しくはないので推測だが。

とにかく、こうして自己の内側に集中して能力のトリガーが何なのか探ろうとしているのだが、それをアミカの猛攻が許してくれない。

 

 

取り敢えず、一旦冷静にーーー

 

 

「たぁあっ!!!」

 

「えっ」

 

 

ーーーは?

 

何が起こった?

 

私は今、まともにアミカの一撃を食らっていた。

恐らく、さっきのアミカの攻撃の威力で吹き飛ばされたのを利用して距離をとったところを着地狩りされたのはわかるが、そのアミカの攻撃にまったく対応できなかった。

 

着地狩りは比較的対処しづらい攻撃ではあるが、アミカと私の速度差では流石に私の方が速い。避けるくらいはわけないと思っていたのだが。ーーー結果は、まともな対応もできずに空を舞っている。明らかに致命傷だ。骨が何本かイカれていてもおかしくない。

この結果はアミカにも意外だったのか、血を吹き出して吹き飛ばされる私をアミカは驚愕の目で見つめていた。

 

 

何故だ?何で、対応できなかった?

目で追う事は出来ていた。ならば、避ける事は容易い筈だ。

全身に走る激痛に歯を食いしばりながらも思考を続ける。

そうして、やっと出せた結論は至極単純なモノだった。

 

ーーー身体が思考速度に追いつかなかった。

もっと言えば、私の速度がアミカの鈍重な一撃すら躱せない程に弱っていたのだ。

流石に平時の幼児にすら劣るレベルではないが、弱体化してるのは確かだ。

 

 

「っ、ーーーむうっ!!」

 

「くぅっ!」

 

 

まだ、体が痛むが、私がさっきの攻撃を受けたのが予想外だったのか、未だに隙だらけだったアミカにたっぷりと殺意の乗った攻撃を加える。

 

すると、さっきの弱体化など無かったかの様に身体は思い通りに動いてくれた。

 

 

 

ーーーあぁ、なるほど。そういう事か。

 

私の中で合点がいく。

確かに、私のフェバルとしての能力は私の性に合っている。

 

まさか、ーーーー殺意に反応して(・・・・・・・)力を取り戻すとは。

 

恐らく、あの時の私は冷静に集中しようとしすぎてアミカへ意識を割いていなかった。それが、必然的に殺意の減衰に繋がり、返して貰っていた力が半端とはいえ、戻ってしまったのだろう。

 

だとすれば、私の能力を発動させるトリガーは殺意、または殺気なのだろう。

ならば、それを限界まで高めればーーーー

 

 

「やばっ、スゴイよ。これが、あんたの本気ってワケ?」

 

「おかげさまで、扱い方は掴めたよ。ーーここからが、本番っ!」

 

 

全身に走る痛みを無視して地を蹴った。

瞬間、私の背後から無数の銀色の鎖が飛び出る。それは、狙い違わずアミカに向かって殺到した。

 

 

「鎖っ!?いや、それよりも、これは!」

 

 

そう、鎖がアミカに向かっていったのはどうでもいいのだ。問題はそれが、私の力であることと、無数の鎖を武器として鞭の様に使うという事は単純に私の手数が増えるという事。

 

さらに言うと、これは強力すぎたのか、それともただ単に能力として欠陥すぎたのか知らないが、持ち主の力すら封印していた縛鎖の具現。

私がフェバルになってからずっと体に巻きついていた、《封縛》の鎖だ。その拘束力はアミカですら捕まれば、一切の抵抗は無意味と化すーー!!!

 

 

「あぁああああ!!!」

 

「くっ、つぅ!あ、あああ!!」

 

 

怒涛の様に打ち込まれる、剣と鎖の鞭。それに、アミカは防戦一方にならざるおえない。

だが、戦場ならともかく、ただの姉妹喧嘩に限界以上の殺意を維持するなど私には不可能だ。

これは、恐らく長く続かない。長くもって、2分ーー酷い時は5秒と持たない可能性が高い。

 

だからこそ、限界が来る前に終わらせる。

 

そもそも、この能力のトリガーは相手を必ず殺すという覚悟ーーー殺意だ。

だから、殺す気の無いライバルとの競い合いで長く維持できる筈が無い。もし、出来たとしても私はやらない。だって〝殺す気で殺さない〟とか、戦士として、何より1つの命を奪い合う者にとって侮辱に等しい。

 

だから当然、この殺意が長引く筈も無くーーー

 

 

「いいでしょう!ここは、私も全力でっ」

 

「あっ、もう、限、界………です」

 

 

ーーー今まで、勇ましい雄叫びを挙げながら怒涛の連続攻撃をしていた私が、精神的な疲労からいきなり倒れ込んだのは当然だと思う。

 

 

「えっ?ちょっと待って?ここからが本番よね?私のこの振り上げた拳はどうすればいいの?」

 

「そこら辺にぶつけて下さい。私はもう限界なのです………」

 

「こんな時に敬語使うなー!!何なの?ここまでテンション上げさせてから、こんなのって無いよ!?やっと、私も全力出せると思ったのにぃーーー!!!」

 

 

意識が朦朧としてきた私は、殺意の維持だけで疲労だけでなく体力も奪うとは、殺意意外にも必要なコストがあるのかな?ーーなんて自分の能力の事を考察しながらアミカの心からの不満の声をBGMに意識を落とすのだった。

 

 

ーーーわかるよアミカ。全力だそうとする程高揚してる時に水さされるとかなり嫌な気分になるよね。だけど、その水さしたのが散々その戦闘狂魂を刺激した対戦相手本人だった場合の虚しさったらないよね。

わかるよ。

 




エネミアの《封縛》の力は、封印の概念そのものを鎖の形に現出させて扱う事もできるという設定。
因みにエネミアの場合は能力のトリガーは『殺意』だったけど、これは能力の持ち主の心に深く刻み込まれた戦いにおける絶対基準となる感情がトリガーとして適応されるので、つまりエネミアは戦いをする者に殺意は必要不可欠と思っている、或いは殺意は戦いのモチベーションを上げる、またまた或いは殺意が戦いの原動力である、と定義しているという事になります。どちらにしろ、狂戦士の思考ですね。
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