前々から構想してた、マテリムジアイヤと他の星の気力の使い方の違いがちょっとだけ描写されます。
「はああああ!!!」
「ちょ、ちょっと待っーー!!」
待たない。
ーーーその日、いつもの訓練場に悲鳴が響いた。
「ああ、痛かった……。ちょっとエネ、容赦なさすぎよ」
「ん。『鎖』の制御も慣れてきた」
「それで縛られてワンサイドゲームになったら私の訓練にならないじゃない……」
「ん。動かない的に剣を叩き込むだけだから、私の訓練にもならない」
「……じゃあ、私のさっきまでの苦労はなんだったの?」
「………アミはいい肉壁だね」
「貴女、フォローしたことないでしょ。寧ろ貶してるわよ、それ」
会話から分かると思うが、剣の訓練の帰りである。私たちは定期的に戦闘訓練をしてからうぇいとれす業に入る日が存在する。今日はその日で、早朝から剣の訓練をしていたというわけだ。
だが、今回は意匠を凝らして『鎖』の訓練も並行してやってみることにしたのだ。ひょんなことから使えるようになったフェバルの能力と思われる【封縛】の『鎖』。それを戦闘中に上手く使えるか、試したのだ。
ーー結果は話の通り。
どうやら『鎖』は捕縛した存在の力を完全に封じるようで、まともに力も入れられず、アミカはエネミア相手に一方的に切り刻まれる事になった。
中々に凶悪な鎖である。普段、私の力を封じてるのもこの『鎖』なので、便利とも言いづらいが。
「…………」
「どうしたのよ?」
「……いや、慣れないな、って」
「…………ああっ、呼び方の事?貴女があまりにも慣れないって言うならやめても良いけど、
「いや、だいじょうぶ。
ちなみにこのオーメス家に居候になって既に数ヶ月が過ぎている。そんな時間の中、私とアミカの距離感もかなり縮まった。相変わらずライバルという立場は変わらないが、二人とも愛称で呼ぶくらいには仲良くなった。
「そんなことより、この数ヶ月気になってる事があるんだけど」
「何よ、そんなことって。ちょっと寂しいわね。……まぁ、いいわ。何?気になることって」
そんなある日、私は気づいたのである。
私はいつも訓練の後、汗だくになって全身に生傷作って帰ってオーメス家の母クルシュさんに怒られていたのだが………何故かアミカは怒られてない。あっちも相当生傷作ってたと思うのだが、理不尽だ。………とか思ってアミカを観察していたら、私は気づいたのである。
ーーーアミカ、戦闘後に傷一つ無い姿に身体が回復してるのだ。
「………その、いつも訓練後に傷が無くなってるのは、何?」
「…………」
だから、いっそのこと聞いてみることにした………んだが、どうやらアミカには予想外のことだったようで、間抜けにも口を開けてポカーンとしている。
「………?」
「あれほど気力が使えるのに、戦闘後に回復しないでママに怒られてるし、中々改善しないから、だんだんエネの事、私マゾかと思ってたんだけど……」
ム。かなり心外である。アミカもさっきの訓練では態々『鎖』に縛られたいとかかなりマゾな事言ってたのに。
「言ってない。そろそろ戦闘中に『鎖』を使いこなした方がいいんじゃない?って提案しただけよ。…………それにしても、アレね。貴女、『気力回復』知らなかったのね」
「『気力回復』?」
なんでも、それは気力を使って身体を治療する技で、『気剣』と同じ、気力運用の基本技らしい。
大きな傷となれば直ぐ回復、とはいかないらしいが、少なくとも簡単な模擬戦の後くらいの傷なら直ぐに治るとか。
いやはや、故郷と違って〝ここ〟は発見の連続だな。
「後で、教えてね」
「それは、いいけど。………まぁ、貴女もママに怒られたくないだろうしね。…………それにしても、エネのこの偏った戦闘知識は何なのかしら?」
最後らへんはよく聞こえなかったが、とりあえず気力回復の基本くらいは教えてくれるらしい。
深く知りたいならどっかの道場にでも行け、と言われた。どうやら教えてくれるのは本当に基本だけらしい。
変なとこでケチ臭い。
そろそろ、太陽も上がる頃、今回も平和な帰り道。そんな、なんでもない日常が今日も過ぎていった。
ーーーー何も変わらない、この日常が私にとってかなり眩しく見えたのは言うまでもない。
ちなみにエネミアの力は許容性の低いマテリムジアイヤの限界到達者程度なので、許容性の高い世界では普通に雑魚です。………今はね。