トーナメントから数日後、俺はようやく退室を許可された。それから、データ採集の為と機体のオーバーホールを兼ねて一度技研に俺の機体は預ける事になったそうだ。
俺はいつもあった物が、腕に何も無い事を不思議に思いながらも自室に向かう。
「一夏!大丈夫だったの?!」
途中で鈴が居た。俺の姿を見て心配そうに近づいてきた。
「ん、どうも頭を打って気絶して居たらしくてな。絶対防御で刃物は通らないが衝撃で気絶したらしくてな、脳内に何かなってないか精密検査されたんだ。問題無しで経過観察された分から解放されたってわけだ。まったく退屈だったぜ。」
はぁ・・とため息をつくように言うと、心配がほぐれて安心した顔になった。
「そう、それならよかったわ。ラウラと箒も心配してたわよ?特に箒は自分がした事だからってね。見つけたら心配するなって言っときなさいよ?」
「はは、りょーかい。」
そう言って部屋に戻ろうとしたら腕を掴まれた。
「何だ?」
「あ、・・その・・えっとね?アタシさ、今回の大会で優勝したの。それで、その分頑張ったからか機体に無理が掛かってて、オーバーホールで今専門の人が来て修理してて、訓練もできないしアタシ暇なのよ。しかも明後日までかかるらしいの。だから、明日。アタシと一緒に出かけない?一緒に遊びたいなって思ってさ。」
「・・・。」
俺は少し考える。まぁ、いいか。一応千冬姉の許可取っておけばいいだろう。
「織斑先生に外出許可聞いて大丈夫なら良いぜ。」
「やった!じゃぁ、先ずは許可取って来なさいよ。出たらアタシに連絡してね。その後、箒探して謝って、ラウラ探して心配ないって安心させなさい。」
「わかった、わかった。んじゃ、先ずは織斑先生のとこ行ってくるぜ。明日だな?」
「そうよ、此処からなら・・臨海学校の買いだしもあるしレゾナンスにいくわ。」
「わかった、場所も分かっていれば許可も出しやすいだろうし伝えておく。」
そう言いながら俺は方向を変えて千冬姉を探す事に・・。
というか途中で気がついたんだが、
「電話すればいいか。どこか聞いて許可得たら机に外出届け出せばいいし。」
そう言いながら電話をする。少しこわばった声で千冬姉が出る。
『どうした一夏?何かあったか?』
「いえ、織斑先生として相談が有りまして・・。」
『そうか・・なら、織斑。何の用だ?』
「明日、臨海学校の買い物で外出したいのです。場所はレゾナンスを予定してます。」
『・・レゾナンスか。近いな。ならば許可しよう。外出届けは職員室の私の机に置いておけばいい。』
「ありがとうございます。」
『あぁ、ちょっと待った。一緒に誰か行くのか?今お前はISを持ってないだろう?何かあっては危険だ。』
「一緒に鈴・・二組の凰が一緒です。」
『・・鈴で良いぞ。分かった。ならば問題ない。しっかりと楽しんで来い。』
「・・はい。」
そう言って電話を切る。あ、鈴はオーバーホール中だっけ?まぁ、何か問題が起こる事もそうそうあるとは思えないし、問題は無いだろう。そう思い、鈴に電話する。
「鈴か?許可出たぞ?」
『あら速いのね。すぐに見つかったの?』
「そもそも電話すればいい話だった。少し歩いて気がついた。んで、電話して許可得たからその外出届け書いて職員室に提出してくる。鈴は書かなくていいのか?」
『アタシはどの道出る気だったからね。足りないものあるし。で、ついでに一夏も一緒にどうかと思って誘ったのよ。』
「あぁ、そういう・・わかった。んじゃ提出してその後箒やラウラに連絡して心配かけたって言って置くぜ。」
『そうね、それが良いわ。じゃぁ、また明日かしら。もし夕食時に一緒だったらその時ね。』
「俺は今日も部屋で取る事になってるからソレは無いな。んじゃ明日だ。」
『そう・・。じゃ明日。』
そう言い合って電話を切る。そして箒にかけて聞くと丁度ラウラと一緒にいると言うのでそこまで行った。自動販売機のある広場の前で会って話していた所だったらしい。
「おっす、心配かけたらしいな。すまなかった。」
「まったく、こっちはびっくりしたぞ?あれ位で気絶されるとは思わなかったからな。」
「いや、箒。丁度当たり所が悪くて絶対防御が発動したと聞いた。一夏自体には悪い所は無いはずだ。・・しかし、一夏。聞きたい事が有るのだが・・。」
「ん?何だラウラ?」
「なに、あの場所に少し血が落ちて居たのが気になってな?どう言う事だと聞いておきたくて・・。」
「血!?どう言う事だ一夏!?怪我したのか!?それで長い事診療室から出てこなかったのか!?」
慌てたように箒が反応した。発作の時の分だろう。すぐさま飲み込んだんだが殴られて少し吐いたか?しかし俺は、笑って答える事にした。
「あぁ、あの衝撃で口を切っていたんだよ。すこしラウラの方を確認した隙を突かれてたからな、口の中を噛んでしまって口内炎になっちまった。治療してもらってすぐに治ったし、問題は無いぜ?そんな事で心配してくれたのか?それはすまなかったな。」
「い、いや・・別にそれなら心配ないな。うむ。では一夏の元気な顔も見たし、私は部屋に帰るよ。ではな。」
「あぁ、私もそろそろ部屋に戻ろう。ただ飲み物を買足しに来ただけなのに随分と時間が経ってしまった。ではな一夏。」
「おう、それじゃ二人とも。じゃあな。」
そう言って二人を見送って俺も飲み物を買って部屋に戻った。そして、薬と栄養薬を飲んで寝る。食欲はもうほとんどなかった。
朝になり、すぐに起きた俺は身支度を済ませて薬を飲んで出かけるように支度をする。いい時間になったのでモノレールの乗り口にいく。すると丁度そこに鈴が来た。
「あら?少し早目について隠れてから、こっそり後ろからおどかそうかと思ってたのに。」
「こらこら、そんなこと考えるなっての。少し早いが行くか?」
「うん、行きましょ。」
そう言って歩きだしてモノレールに乗る。
ついた先で降りてから歩いてすぐに公園が有り、その先に大型ショッピングモールはあった。そこが目的地の『レゾナンス』。
俺と鈴はすぐにお互いが買いたい物を言って店を見ながら回る。鈴と一緒なのは水着売り場だけだった。とりあえず、一緒に水着売り場に行って俺は自分の分を選ぶ。そして、ちょうど通り掛かりに鈴が居たので声をかけた。
「どうした?悩んでいるのか?」
「あら、一夏。丁度いいタイミングね。コレとコレ、どっちも良いんだけど・・どう?」
「俺に聞くのかよ・・うーん、鈴にはこっち・・かな。」
そう言いながら黄色の濃い水着を選んだ。もう一つは赤だったから。
「そう?こっちもアタシにはこう熱い女って感じで良いんじゃないかなって思ったんだけど?」
「うーん、只鈴は黄色の明るい色って感じがしたんだよな。赤ってもえる情熱やそんな感じじゃないか。それよりは騒がしい感じというのがこっちかなって。」
「何よー!?それ!」
「あはは、そう言うイメージだよ。そう怒るなって・・。」
そう言いながらも鈴の水着を持つ。
「あら、持ってくれるの?」
「ついでだ一緒に買ってやるよ。お前を怒らせた分と俺が選んだ責任だよ。」
そう言って鈴の水着を買って一緒に金を払った。
「ほ、本当にいいの?」
「あぁ、別にかまわないぜ。これくらいならな。千冬姉の毎月のビール代くらいと言われたら勘弁だがな。」
「どれだけ飲んでるのよ!?けっこうしたわよ、これ。」
「大丈夫、気にすんな。アレだ・・久しぶりに会って無かった時分の誕生日プレゼント分とかだよ。あとは・・もう会えないと思ってたのにあった記念・・かな?」
そう言いながら頭をかくと反対の手に急に暖かい感触がした。
見ると顔を紅くして鈴が手を握っていた。
「・・ばか。」
「あはは・・言い返せないな。」
なんで距離を縮めているのだろう。突き離さなければいけない存在なのにな。
そうして楽しく二人で買い物をして回った。俺は朝出る直前に食事をしたという事で少し飲み物を飲んだだけで鈴は思いっきり色々と食べていたので笑ってやった。普通見る光景って逆だろって。そう言ったら鈴は怒りながらもその後二人して笑った。
夕方になり、空がオレンジに染まり出した頃、俺達はレゾナンスから出て歩道を歩いていた。途中で買った物を公園の前で渡す事にした。
「そうだな・・鈴、手を出せ。」
「ん?はい。」
「ほれ。」
そう言って小箱を渡した。
「・・何これ?」
「久しぶりに楽しかった分のお礼だ。ほら俺も良いのが有ったから買った。」
俺は指に付けた、象形文字みたいなものが彫ってあるリングを見せた。
「これ、・・一夏?人にリングなんてあげたらいけないわよ?勘違いされちゃうからね?」
「いいんじゃねぇ?お前と遊んだ今日は楽しかったんだし。」
「そ、そう?・・じゃぁいいわ。」
そう言って鈴は指輪を指につけた。ぴったりなのは薬指だったらしい。花の形が掘ってあるそのリングを鈴は嬉しそうに見つめながら鼻歌を歌っていた。
「んじゃ、帰るか。」
そう言って歩きだしたら急に後ろに手を引かれた。
「ど、どうした?」
「う、うー・・その・・手、繋ぎたくて。嬉しかったから・・。」
「・・そっか。」
そういって繋いで歩き始めた。モノレールの駅までは公園を超えてすぐだ。
そうなれば放す事になるだろうと思っていた。
そして、俺は気がつく。
前から来たトラックが蛇行している事に。
そのタイやがつぶれてパンクしている事に。
こっちに向かって突っ込んで来ている事に。
鈴はまだリングを見ながら歩いていて気がついてない事に。
俺はとっさに鈴の繋いでいた手を引き寄せて、体を持ちあげて、そのまま公園の茂みの中に投げた。
「きゃぁ!?な、何を!?」
そう言いながら投げられて飛んでいく鈴。彼女が小さくて軽くて助かった。
そう思った瞬間には、俺の体にものすごい衝撃が来て吹き飛んだ。
そこで俺は意識を手放した。
眼を開けたらそこには鈴が体にしがみつき、俺の手を握って泣いていた。
初めは何か言っているのが聞こえなかったが、次第に耳は聞こえて来た。しかし変わりに体は動かなくなって行く。
「一夏!?しっかりして、一夏、いちかぁ!?」
「り・・ん・・。」
かろうじて声が出た。
「一夏!?大丈夫!?しっかりして!?アタシを庇ったからこんな事に!?」
「うぅ・・ん。り、んが・・ぶ、じで・・よかっ・・た。」
俺はゆっくり笑った。
「一夏!?笑い事じゃないわよ!?すぐに救急車が来るわ!だから・・」
「ほう・・きと、ら・・うらに・・つた・・えてく・・れ・・。」
「な、何をよ!?何を言う気なのよ?」
「い・・ろい・ろめん・・どうかけ・・た。」
「それくらいこれからもでしょ!?良いからもうはなさな・・・」
そう言って立ち上がろうとした鈴の指から指輪が落ちそうになっているのを見つけて何とか俺はその指輪を元につけ直す。目の前がかすんで来始めた。
「一夏!?今指輪の心配より・・」
俺は最後の力を振り絞ってかすむ視界で鈴を見据えて言う。
「・・いま・・、まで・・あり・・が・・とう・・。」
そう言うと俺は最後の力を失い。視界が次第に暗くなる。でも、抱きしめられている感覚がした。あぁ・・温かいな。幸せだな・・。
もう、つらくはないな・・。
○
『喪失』までのカウントダウン・・・・『0』
次回、最終話。
アフター【Dear~貴方の居ない鈴の鳴る季節~】
「雪の白は貴方を思い浮かべる。」