駐屯任務として街に来た自分達を、街の人々は暖かく迎えてくれた。
以前にも何度か他の騎士団が来たことがあるようで、その経験から自分が逆に学ぶことも多かった。
そんな中、害虫の活動が活発になっている原因、街外れの害虫の巣の場所及び規模を突き止めたため、2日後に討伐作戦が行われることとなった。
突然決まった作戦で、偶然最も近い街に駐屯していた自分の騎士団は警戒及び緊急時のバックアップを命じられた。
血気盛んな花騎士が自分達は討伐に参加しなくていいのか聞いたが、急ごしらえだが戦力としては十分に揃ったため、何かあった際に待機している部隊として控えていた方が重要、とのことだった。
そこで納得した花騎士も、していない花騎士…というか、戦いたくて仕方ない、という花騎士もいたが、騎士団としては了承し、作戦当日になった。
討伐作戦は、街からでも遠見の魔法を使えば見ることができる距離とあって、数人野次馬も来ていた。
…ただ、まだ新米だった自分から見ても連携は上手くいっていなかった。
街に近い場所であること、大規模な騎士団への依頼を待つほどの時間的余裕がなかったこと、また個々では十分な実力を持っていること。これらの条件のせいで焦りが生じ、信頼関係が重要な連携を絡めた作戦を取れるほどの時間がなかったのだ。
やがて、1匹の手負いの大型害虫が包囲網を抜けた。満身創痍といった状態で、街のほうへ向かってきている。
戦闘準備を命じてから程なくして、緊急出撃要請が届いた。
頑張れよ、と街の人々は見送ってくれた…が、今思えばみんな、自分含め油断していたのだ。
大型とはいえ手負い、新米にも十分に対処できる相手だと。
街外れで大型害虫と対峙し、包囲する。
手負いとはいえ大型、一撃が致命傷にもなりかねない。気の緩みはなかった。
…後に判明することだが、その害虫は「特定の魔力にあてられると凶暴化する種類」だった。
包囲が完成した時点で害虫が凶暴化、手負いなら手順を間違うことがなければ問題ないと思っていた自分の部隊は混乱した。
暴れる害虫の攻撃を避けることに精一杯で、陣形を立て直す暇もない。1人、また1人と重症を負い動けなくなっていった。
…全滅は免れない、だがその前にやらねばならないことがある。
団長命令として、最も身軽で俊足の花騎士に告げた。
今すぐ街へ戻り、避難命令を出せ。
彼女がいなくなれば、全滅までの時間は確実に短くなる。彼女もそれを自覚してか、少しだけ躊躇った後に了解し、全速力で街へ向かった。
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「ハアッ、ハアッ…!着いた…!」
「どうした、大慌てだが。今はあの害虫討伐中…だよな?」
「…害虫が凶暴化、騎士団は壊滅寸前です!やがて街へ来ます!急いで避難して下さい!」
「そ、そんな!でも、大型だけど手負いだから対処出来る、って…」
「原因は不明ですが、凶暴化して私達では対処不能なのが事実です…っ!今すぐ避難を!」
ざわざわと声が上がる。これを告げた以上、私はここで避難指示に徹するのがいいのだろう。団長は…その後の指示は何も言っていない。そこまでの余裕はあの場にはなかった。だから、私が選ぶべきは…
「お、おい!どこへ行くんだ!?」
「団長のところへ戻らないと!今ならまだ団長…1人くらいならっ…!助けられるはず!」
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再び死地に全速力で向かう花騎士の背中を見て、1人の男性がつぶやく。
「なあ、銃が何本かあったよな」
「ええ、警戒って言ってたからここに。まさか加勢に行く気?花騎士の力がないと倒せないのに」
「注意を引くくらいは出来るからな、子どもたちが避難した学校からは遠ざけないと。こういうのは大人の仕事だ」
学校から遠ざける、と死の覚悟を決めた大人達の足は、先程の花騎士を追っていた。
「…子どもを守るならこんな街外れまで来る必要はないと思うけどね、僕は」
「あわよくば、団長を助けて恩を売る?みたいな」
「にしたって命をかけるようなもんだ、別に俺についてこなくてもよかったんだぜ?」
「でもね、あの団長はこんなとこで死ぬべき人じゃない。そうでしょ?」
「気まぐれに命をかけたっていいじゃないか、別に」
「惚れた弱み、みたいな?」
「…バカだなー、お前らは。俺含めてさ」
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もう、部隊に戦える花騎士はいない。立っているのがやっとの者が1人いるだけだ。
暴れまわってスタミナが尽きかけているのか、大型害虫ももうだいぶ動きがにぶい。だがこちらは次の攻撃は避けられない。
彼女の剣が折れ、防御手段も尽きた。次の攻撃が来れば全滅だ。
…自然と、体が彼女を守るように前に立っていた。満身創痍とはいえ、まだ自分の剣は折れてはいない。
ここで守りきれるなら格好いいのだが、現実は非情だ。次の攻撃を受けあっさりと剣は砕け、耐えきれなかった分の衝撃で吹き飛ばされた。
骨は砕け、血溜まりが出来ているのだがあまり痛みは感じなかった。意識を失いかけているのだろう。
駆け寄った花騎士の悲鳴、避難指示を頼んだはずの花騎士の声、援軍と思わしき複数の銃声の中、自分の意識は沈んでいった。
目が覚めたのは、作戦から8日後の夕方だった。
世界花の加護のおかげか、騎士団の死亡者は0。起きたころには全ての花騎士が歩けるくらいに回復していた。
次々と騎士団の花騎士が駆けつけてきて慌ただしくなったが、みんな無事そうでひとまず安心である。
しかし民間人に被害が出たと聞き、作戦が失敗に終わったことを知った。
その後、討伐作戦に参加した部隊の代表が自分を訪ねてきた。元々作戦に参加する予定になかった自分たちが最も甚大な被害を受けた、本隊の失態がなければこんな結果にはならなかった、申し訳ない…と。
また丁度その時、避難指示を出すよう頼んだ花騎士が訪ねて来た。
最後の記憶を思い出す。意識が途切れる寸前に、戻ってきた彼女の声を聞いた。そして複数の銃声。
つまり…避難指示は完了、援軍も連れてくることが出来たが、害虫を止めるには至らず街に被害が及んだ、ということなのだろう。
今回の結果は自分の力不足、観察力不足が原因だ。気に病む必要はない、と告げる。
「違う…違うんです、団長。私は援軍を呼んではいない、あの場所に動いていない部隊はいなかった…私は、団長だけでも助けられたらと、無鉄砲に戻ってきただけなんです」
では、銃声は…本隊の合流が間に合った、ということだろうか。しかし、民間人に被害が…
すると部隊の代表が言う。
「それについてだが、彼女の見たこと、僕たちの見たことをすり合わせ、あの時何があったか話そうと思う」
避難指示を伝えることを命じられた花騎士は、その任務を遂行。
街の人々に伝えたあと、また団長の元へと戻るため来た道を引き返した。
そして街の住民の数人が、力になろうと銃を持ってその後を追ったのだ。
街の住民が撃った威嚇の発砲の音が、団長の聞いた銃声だ。
花騎士は当然驚いた。避難指示を出したのに、なぜこちらへ来てしまったのか。
「…彼らは言ってましたよ、団長。『お前のとこの団長はこんな道半ばで死んでいい人じゃないだろ』って」
銃声に反応した害虫は住民に向かっていき、住民は為す術もなく殺されていく。
まだ少しだけ余力のあった花騎士が攻撃し、再度害虫の注意を引く、住民の銃で威嚇する、その繰り返しで時間を稼ぐことができれば良かったが、それが出来たのも3回だけ。3度目の攻撃で花騎士は致命傷を負い、動けなくなった。
討伐部隊からどうにか数名の花騎士を逃亡した害虫を追う部隊として再編し、その場に着いた頃には意識がある者は団長の部隊の花騎士1人と、街の住民1人だけだった。
花騎士の断片的な言葉から、逃した害虫がよりによって急激に凶暴化した種類だとわかった。討伐部隊もこの種類によってかき乱されたのだ。
そして、なぜ街の住民がいるのか。避難指示は出ていなかったのか聞くが、
「…あー、俺たちは独断でそこに倒れてる団長さんを助けに来たんだ。俺たちはいい。団長さんは、まだ助かるか…?」
「…そうか、いやはや、無駄死ににならなくて良かった」
彼の最後の言葉は、それだったと聞いている。
この作戦が自分が指揮したことになっているのは、突如凶暴化する害虫の存在を隠すためか、民間人が戦ったという事実を隠すためか、結果的に新米騎士団のみに分不相応な害虫と戦わせたのが都合が悪いのか。そのような所だろう。
またこの作戦での死者は、独断で害虫をひきつけたその数人だ。数人である分、死者の偽造は不可能だろう。
「…この中に、お父さんとお母さんの名前がある…それって…」
自分はあの時、イフェイオンの両親を含むあの街の人に助けられた。命と引き換えに、だ。
「じゃあ、それじゃあ…団長は、命がけで街の人を助けようとした人で…仇なんかじゃなくて…」
…違う。自分が両親の仇であることは変わらない。
「えっ…?」
イフェイオンが最初に言った通りなのだ。あの時自分たちがもっと強ければ、街に被害を出さずに済んだ。だから、両親の仇であることに変わりはない。
そう告げると、彼女は怒りか悲しみか、どっちともつかない顔で涙がにじみ出していた。
…だが、仇であろうと。まだ自分は死ぬ訳にはいかない。
誓ったのだ。あの時守られた命で、より多くの人々を守ると。
命を賭けて守る価値のあった、立派な団長にならなければならないと。
今の自分には、強い花騎士がたくさんついてきてくれる。守ることのできる存在がたくさんある。
…守りたい存在が、たくさんある。
だから、まだ自分は死ぬ訳にはいかない。
「…ずるいよ、団長…そんな話を知ってしまったら、もう…私は…」
涙が溢れ出し、崩れそうになる彼女を抱きかかえた。
…すまなかった。
「団長、だんちょお…う、うあ、うわあああああん!」
普段の彼女からは想像もつかない顔で、声で、感情の行き場を求めるようにしがみついてくる。
あの時命を救われた自分に、彼女の感情を全て受け止める責任がある。
…守りたい存在が、また1つ増えた。
「それじゃあ団長は、前も来たことがあるんだね」
そう、療養が終わって動けるようになってから、一度だけだが。
今日はイフェイオンと共に、彼女の両親、そして自分の命の恩人の下へ墓参りに来ている。
もしその時に誰かと出会っていれば誤解が生まれることもなかったかもしれないが、あの時は害虫の襲撃から2ヶ月近く経っていたため、誰にも会うことがなかったのだろう。
数奇な運命だ。まさか彼女の両親も、自分と娘が一緒に墓参りに来るとは思っていなかっただろう。
自分は、命を救われた責任を果たせているだろうか。
「まだ足りないよ。害虫がいなくなって、世界がまた平和になるまで…団長は死んじゃだめ」
また平和になるまで、か。なかなか遠い道のりになりそうだ。
ふと、老婆が階段に差し掛かっているところが目に入る。ここの墓地に来るには階段を昇る必要があり、荷物が多いように見える。
すまないイフェイオン、少しあのおばあさんを手伝ってくる。
「やっぱりお人好し。いいよ、私もすぐ行くから」
まだ話すこともあるだろう。ゆっくりでいいと伝え、老婆に声をかけた。
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お父さん、お母さん。仇は見つけたよ。でも、復讐できなくなっちゃった。
いつも復讐するって言い続けてきたのにごめんね。でも、これでいいの。
私はこれから前を向いて生きていく。あの人と一緒に、いつか平和な世界を見たい。
お父さんとお母さんが守った人と。
『愛しい人』と一緒に。