緋弾のアリア 時を守る武偵   作:心はニート

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11.見えない敵とプランB

 警察署にて

 

 取調べを受けている少女は、頭の中で今後について考えをめぐらしていた。

 

 (……まさかこんなにも早く捕まってしまうとはな)

 

 刃のように切れ長いサファイア色の目を伏せ、先日の失態を思い出す。

 

 (星伽白雪の行動は把握していた。周囲の人間の行動も予測し、あの時間帯なら同一人物に本物と同時に見られることなど無いはずだった)

 

 頭を振り、2本の三つ編みをつむじの辺りに上げて結った、その氷のような銀色の髪を揺らす。

 

 (だが、奇跡的なタイミング……ほんのわずかな隙間があったのか?)

 

 自分を捕まえたあの男を思い出し、苦い顔をする。

 

 (……まあいい。星伽をさらうことができなかったのは、運が悪かったとして諦めよう。だが……これで終わりではない。私が捕まることも『想定内』だ)

 

 終わったことを考えても仕方が無いと、頭を切り替える。

 

 (予定通りではない……が、次の計画に移るか)

 

 

 伏せていた目を上げて目標を次に設定する。

  

 

 (プランB――始めるとしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔剣、捕まったらしいわ。ママの弁護士から電話が来たの」

 

 白雪さんの荷物を運び終え、キンジの部屋を対魔剣用に要塞化し、改めて今後について話し合おうとしているところで、アリアさんから予想外の事を言われてしまった。全ての準備を終え、さあここからだ!状態だったところでこの話だ。外はすっかり暗くなっている。

 白雪さんも予想外過ぎたのか、目を見開いたまま固まっている。

 

「……え?捕まったの?護衛任務終了?」

 

「ええ、別件で捕まった犯人が自分の事をそうだ、って言ってるみたい。まだ全部自白したわけじゃないけど、『魔剣』の仕業だと思われる事件について、犯人しか知らないはずのことを話してるって」

 

「……肩透かし食らった気分だが、捕まったならそれでいいだろ。……それよりこの部屋どうすんだよ……」

 

「……キ、キンちゃんとの……ど、同棲が…………24時間キンちゃん祭りが……」

 

 捕まっちゃったのか……いや、キンジの言う通り、捕まったなら良いことだな。と言うことは昨日の件は関係なかったのかな?

 既にキンジの部屋には対侵入者用トラップ、対盗聴の逆探知装置、監視カメラを設置して、武藤にも防弾仕様の車での送迎を、同じ強襲科の不知火にもキンジとアリアさんのフォローを頼んでいたのに。とりあえずキンジが寝ている間は警戒しておこうかと思っていたのに。装備科の平賀さんにも対超能力者用の新兵器頼んでおいたのに……まあいいか。

 

「うーんそうか、『魔剣』は複数犯かなって思ってたけど違うんだな。考え過ぎだったか」

 

「!!」

 

「そういうこともあるだろ。この部屋片付けていいよな?」

 

「……昨日の侵入者がなんであたしを狙ったのかはわからないけど、魔剣とは関係なかったみたいね。レキにも見張りの手伝いを頼もうと思っていたけど、必要ないわ」

 

 仕方ない、犯人が捕まったことは素直に喜ばしいことだ。さっさと片付けよう、侵入者の方もすでに捕まってるんだし、気にしても意味がない。

 そうして片づけを始めようとしたところで、白雪さんが何かを閃いたように口を開いた。

 

「……黒野くん、『魔剣』が複数犯って黒野くんも、思っていたの?」

 

「ああ、もしかしたらそうかな、ってくらいだけど……?『も』?」

 

「……私もそんな気がしていたの。占いにもそう出てた気がするし、予知夢も見た気がする」

 

 ……占いに予知夢か。白雪さんは星伽神社の巫女さんだし超能力者だ、そういう力もあるのか。何故か白雪さんが必死なような気もするが、信憑性はあるかもしれない。

 しかしキンジの方はそうでも無いらしい。

 

「占いだって?当たるのかそんなもん」

 

「あ、あとでキンちゃんも占ってあげるよ。恋占いとか、恋愛運を見るとか、結婚運を占うとかあるんだよ」

 

「種類が偏ってるな」

 

 顔を赤らめながら、どう見てもアピールしている白雪さんをスルーするあたりは、さすがキンジである。まあそこら辺は後回しにして、今は『魔剣』についてだな。

 

「……それで白雪さん、その占いはどれくらい当たるものなんだ?」

 

「うん、99%だよ」

 

「それもう占いじゃなくない?」

 

 そんなに当たるのか……完全に予知だな、それ。信じたほうがいいのだろうか?アリアさんもそんな白雪さんの言葉を信じられないのか、納得いかないような顔で口を開いた。

 

「あたしは違うと思うわ。『魔剣』は1人、今捕まっているヤツだけよ」

 

「私の占いに文句言うなんて……!許さないよ、そう言うの」

 

「そんな事言うお前にはなんか証拠でもあるのかよ、アリア」

 

「勘よ」

 

「勘かよ」

 

 占い対カンか、どちらを信じるべきか……そういう話じゃないな。ここは普通に警察の調べを信じるべきだろう。それを疑いだしたら何もできない。

 しかし、一応自分で立てた仮説だ、責任は持たないといけないな。

 

「複数犯って言ったのはオレだし、この部屋もせっかく要塞化したわけだから、悪いけど少しの間は予定通りに同居してくれないか?それに部屋片付けるのも面倒くさいし。むしろもうこのままで良くない?」

 

「良いわけないだろ。……まあそういう可能性があるって言うなら、期限付きでな」

 

「あたしは必要ないと思うけど。ま、もう魔剣は捕まったんだし、少しぐらいなら付き合ってあげるわ」

 

「……アリアは要らないのに……」

 

「主な周囲の警戒とかはオレがやるから、みんなは普通にしててもいいからな」

 

 白雪さんがボソッと何かを言ったが声が小さくてよく聞こえなかったな。うん、聞こえなかった。

 

 白雪さんの護衛は、とりあえず近々行われるアドシアード終了まで、ということになった。年に一度行われる武偵校の国際競技大会で、校外からの人の出入りもあり、事件が起こるとすれば一番危険な時期であるためだ。魔剣ではなくても何かしらの事件が起こるかもしれない。

 

 『魔剣』は捕まったことにはなった。だが一度任務を受け、一つの可能性を見出した以上は、最後まで努めよう。

 

 

 

 

 

 数日後

 

 ……何も無い。あれから護衛を続けているがまったく何も無い。近くから不穏な気配も噂すらもまったく無い。アリアさんと白雪さんも事あるごとにケンカしているみたいだ。胃が痛い。諜報科の友達から『魔剣捕まったのにお前何やってんの?』って言われるし、なんかもう嫌になってきた。

 

 ……いや、挫けるんじゃない。自分で出した仮説だ、せめてアドシアードが終わるまでは全うしなければ、自分が納得できない。たとえ1人になっても、そこの責任は取らなければ。

 

 

 

 さらに数日後

 

 ……相変わらず何も無い。今日はキンジと白雪さんが、一緒に花火大会に行く計画を立てていた。なんでも白雪さんは『星伽』から神社や学校から出ることを禁じられているらしい。そこでキンジが『俺がついて行ってやるから一緒に行こう』とか何とか言って、デートの約束を取り付けていた。

 まったくいい身分だ。まあキンジと白雪さんが付き合うなら、その方が丸く収まるだろうとは思っていたから、良い流れかもしれない。影ながら応援して……え?それ、オレもついて行くんですか?あ……オレ護衛だもんね、そうだよね。遠くからお前らのデートを見守ってるね。

 

 ……くじけそうだ。精神的ダメージが半端無い。あいつらなんかデート中にキスしそうな勢いだったし。アリアさんも数日前からどっか行っちゃったし、もうオレはダメかもしれない。

 

 

 

 

 そして特に何事も無くアドシアードの日を迎える。

 

 ……何も無かった。アドシアード当日まで本当に何も無かった。綴先生から昨日『お前まだ護衛やってたの?』とか言われた。苦笑いしかできなかった。今日のアドシアードも競技にも雑用にもイベントにも出ない。任務優先だからな、仕方ない。

 だが今日だ。今日こそが本番だと思わなければダメだ。今までまったく何も無かったが今日は来るかもしれない。魔剣……いるのか?いないのか?

 

 

 『魔剣』――結局会うことも無かったが今日こそは来るかも知れない……っていうか来い。いっそ来てくれ『魔剣』。いつでも来い。どこからでも来い。早く来てくれ『魔剣』!いたら返事をしてくれ!『魔剣』!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某日 警察署にて

 

 

(魔剣、捕まる。……か)

 

 ゆるい金髪をウェーブにした少女は、数日前の記事を眺めて考えをめぐらせていた。

 

(……やっぱり、だめだったか)

 

 イ・ウー内でも友達と言える程度には付き合いがある彼女を、信じていなかったわけではない。だが少女はどこかで、計画は崩される予感がしていた。……自分自身もそうだったように。

 

(そんな気がしてたんだよねー)

 

 

 だが少女の心は動じない。それもまた、『想定内』なのだから。

 

 

(……じゃあ、プランBってことだね…………ジャンヌ)

 

 

 その少女――峰 理子は妖しく笑った。

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