アドシアード当日――ついにこの日がやってきた。白雪さんの護衛任務もアドシアードが終わったら終了となる。すでに任務と言うかこだわりや意地といったものになっている気がするが、もしここで投げ出したことで白雪さんに危険が及んでしまったら、後悔してもしきれない。
途中でいなくなってたアリアさんも、一応レキさんと一緒に見張りをしていてくれたらしい。護衛が手薄になれば、敵をおびき寄せられるかもしれないと頑張ってくれていたようだ。ありがとうアリアさん、ありがとうレキさん。
白雪さんにはキンジがぴったりとついている。その周囲を周ってオレが警戒し、さらにその外からアリアさんが見張っている、という形だ。
装備科の平賀さんに頼んでおいた新兵器も手に入れたことだし、準備万端だ。
ここまでやったならやり通そう。その結果何も無ければそれでいいじゃないか。任務中に誰もケガをしないことはとてもいいことだよ、うん。
学校内の人も増え、にわかに活気づく。
そして、とうとうアドシアードの競技が始まった――
――そして何事も無く終わった。
…………何か起これよ。ここまで来たら何かしらあるだろ。全ての競技が滞りなく終わりました、じゃないんだよ。なんて空しい時間だったんだ。とても平和でしたよ。……いや、そういうことを考えちゃダメだな。何事も無かったことを素直に喜ぼう。関係者の方々には改めてお詫びしておこう。すみませんでした皆さん。
競技が終わったということで、残すは閉会式だけということになった。閉会式にはチアが踊るようで、何がどうなってかアリアさんと白雪さんも一緒に踊っていた。
そして……その閉会式も何事もなく終わりました……。
まあ、最初からわかっていたことだ。『魔剣』は捕まっていると言う警察の調べがあった以上、そこでやめておくべきだったんだ。
閉会式の片付けも終わり、日も傾き始めた。
『護衛任務』終了……無駄に疲れたな。帰って寝よう、そうしよう。
悪い夢を見ていた気分だ。オレは『魔剣』という幻を追っていたんだろうか。魔剣は別の事件で捕まったと言うのに、何から護ろうとしていたんだろう。心が悲しさと空しさでいっぱいになる。今誰かに優しくされたら泣いてしまうかもしれない。
急に眠気がしてきた……集中力が切れてしまったようだ。疲れのせいか、すごい気持ち悪いし体が重い。さっさと帰って寝ようか……。
そう思い帰ろうとしたところで、後ろから白雪さんが話しかけてきた。
「黒野くん、あの、お疲れ様でした」
「……ああ、白雪さん。いや、何も無くてよかったよ、うん」
「すごい疲れてるみたいだね、大丈夫?」
「帰って寝れば大丈夫だよ……たぶん」
心配はしてくれているようで、いくらかは救われる。わざわざキンジを置いて来て、こちらをねぎらってくれているのだから本気で言ってくれているのだろう。……そういえばキンジはどこに行ったんだろう。少し前まで白雪さんと一緒に居たはずなのに。
そう思い、少し後ろにいた白雪さんに声をかける。
「そういえばキンジは――」
――全てを言い切る前に……オレの首元には刃があった。
「……あれ、白雪……さん?」
状況がよくわからない。確かなことは、今、殺されるかもしれない、ということだ。
そして……『白雪さん』が口を開いた。
「……情報通りだな。不意をつけば、やはりこの程度か」
白雪さんでは無い声……だがそれは、どこかで聞いたことのある声だった。
「……あの時の侵入者か」
声の主を思い出し、現状を理解する。……報復ってやつだろうか。
「言っただろう?お前を
ああ、オレが集中状態を切るのを待ってたわけか。そんなこと言ったって、ずっと気を張っていられるわけないじゃないか。
「ずるい、とは言わせてくれないよな」
「当然だろう。少なくとも、数で私を抑えたお前が吐いていい言葉ではない」
そりゃそうだ、油断したオレが悪いな。こちらの任務は『アドシアード終了まで』だろうが、そんなもの敵には関係ない。
「……キンジと白雪さんは?」
「そちらは仲間が抑えている」
――そう、か。やっぱりそういうことだったのか……
「やはり『魔剣』は複数犯……まさかお前は、この時のためにわざと捕まったのか?」
「…………?」
「…………」
「……!……そう、その通りだ」
「……そうだったのか」
なんか違うようなリアクションをされてしまったが、もう、そう言うことにしておこう。その方がお互いのためにも良いのかもしれない。
「それで、オレはどうすればいい?キンジと白雪さんを解放するための条件は?」
「この状況でその余裕か。私がこの刃を少し動かせば、お前は死ぬというのに」
確かにそうだ。だが、その状態で止まっているということは、きっとオレを生かす意味があるんだろう。
そう思って交渉でもしようと思ったのだが、意外にも何も言わずに剣を収めた。
「……『司法取引』で出てきた以上、私も今は囚われの身も同然だ。今のはあいさつ代わりと、まあ、証明のようなものだ」
「証明?」
「私は、お前
そう言ってこちらを睨む。……根に持ってるのかな。
「いやいや、最初からひとりで勝ったつもりもないし。で、ご用件は?」
用件を聞くと、彼女は何故か納得がいかないような顔してから、後ろを向き、こちらを促した。
「私について来い。お前も『プランB』のメンバーだ」
「……意味はわからないけど、大人しくついていくよ」
なんのメンバーだとかはよくわからないが、キンジと白雪さんが捕まっている可能性がある以上、ついていくしかないだろう。
未だに目の前にいるのは『白雪さん』で、結局この人は誰なんだろうとは思っているのだが、名前を聞ける雰囲気ではないな。
誘導され、たどり着いたのは何故か女子寮の屋上だった。そして捕まっているはずのキンジと白雪さん、そしてアリアさんに――理子さんもいた。
一体どういうことだ?2人が捕まっている様子も無いし、理子さんも『司法取引』で出てきている。そして……アリアさんと理子さんと白雪さんが睨みあっている。
「この……汚らわしい、ドロボーの一族!あたしのパートナーは盗めないわよ!」
「くふふ、キーくんだって
「……ドロボー猫が2人も!キンちゃんは渡さない!!」
……なんだこれ。キンジを取り合っているのか?どういう経緯かわからないな。キンジはそんな3人の睨みあいを傍観してるしどうなってるんだろうか。
とりあえずこの場で、一番話ができそうな人に聞いてみるとしようか。
「『魔剣』、2人を抑えたというのはブラフだったのか?」
「私をその名で呼ぶな」
「いや名前知らないし……」
「……30代目 ジャンヌ・ダルクだ」
……へえ、ジャンヌダルクさんて言うのか、珍しい名前だね。突っ込むのは後にして現状把握を優先しよう。
「それで、ジャンヌさん?」
「まあ、そういうことだ。円滑に事を進めるために、そう言った方が良いと判断した。ここに全員集めることが目的だったのだ」
……そうか、とりあえず今、危険な目に会っているヤツはいないわけか。……良かった。ということは次はあいつだな。この状況を傍観しているヤツに経緯を聞こう。
「キンジ。なんでこんな事になってるか教えてくれ」
「……ああ、愛らしい子猫同士がじゃれあっているだけさ」
「意味不明なこと言うなぶん殴るぞてめぇ」
ダメだ、キンジが『ヒステリアモード』になっている。今のこいつと会話する気にならない。やっぱりジャンヌさんに聞こう。あの人がこの場で救いだ、助けてくれジャンヌさん。
「現状が呑み込めないんだけど、どういうことか教えてくれないか?ジャンヌさん」
「……プランBは理子の計画が失敗に終わり、私も早期に捕まった場合、司法取引で2人同時に出ることから始まる。2人ならば『ヤツ』に立ち向かえないまでも、理子を危険から遠ざけることができるからだ」
先ほど言っていたプランBとやらがこの現状と関係あるらしい。そして『ヤツ』による危機……そういえば前に理子さんと面会した時に聞いたな。捕まっていた方が安全だと。
「……その『ヤツ』って言うのは?」
「イ・ウーのNO.2――『ブラド』。理子に執着し、幼い頃から彼女を監禁し、監視していた変態だ」
「なんだよそのド変態は……!」
幼い女の子を監禁して監視だって?完全に変態だ。監視するだけで手を出してなさそうな当たりが生粋の変態じゃないか。
「ああ、だがそのド変態は恐ろしい力を持っている。私達2人では恐らく倒せないだろう。だからこそお前達を集めたのだ。理子を……私の友達を解放するために」
「…………」
……こいつは『魔剣』、白雪さんを狙っていた誘拐魔だ。司法取引で解放されたからって、情に流されていい相手じゃない。そんな都合のいい話を受けるわけには……
だが――理子さんを友達だと言ったその目は、嘘では無いようだ。
「……こっちにメリットが無い。っていうか都合良すぎじゃないか?」
「お前の望む情報をやる。……それに、
そう言って彼女が笑う。
「……本当に
どこ情報だろうね……理子さんかな。
いつの間にか3人の睨み合いも終わり、辺りはすっかり暗くなっていた。
そして、雲間から現れた満月を背にして、理子さんがにやっと笑い、言った。
「キーくん、アリア、ゆきちゃん、それにジャンヌにソウくんも、みんなで一緒に――」
「――化け物退治、やろうよ!!」