緋弾のアリア 時を守る武偵   作:心はニート

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14.オオカミと神童

 時間を稼ぐ方法は任せてほしい、とは言ったものの、正直なところほぼ何も思い浮かんでいない。オニのような怪物なんて戦ったことも見たことすらもないから、加減がわからない。でも自分で考えなければ全部トンファーで受けろとか言われかねない。それは最終手段だ、死ぬかもしれないし。

 相手はほぼ不死身な化け物なわけだから、極論で言えば理子さんの操るような機関銃付き無人機で包囲射撃しても良いかもしれないが、それで全部の魔臓が潰れてそのまま死なれても困る。想定ができない相手に対する時間稼ぎの方法を考えるのは難しいものだ。対人用トラップとか獣用の麻酔弾とか効果あるのかな。

 ジャンヌさんも実際『ブラド』が戦っているところを見たことがあるわけでは無いらしい。一応、彼女が描いた『ブラド』の絵を見せてもらったが……参考にはならなかった。

 かといって、理子さんに直接聞くのも戸惑われる。ブラドの話をしている彼女の目は、怯えているように見えた。きっと恐ろしい目にあったのだろう。

 装備科の平賀さんに新兵器を頼んでおいたが、間に合うかどうかわからない。対魔剣用に作ってもらった物も結局使わないままだし、今度こそ役立てたいとは思っているのだが。

 

 第一目標は交戦前に魔臓の位置を全て特定することだ。オレは保険のようなものだが、だからこそ手を抜くわけにもいかない。最悪は自分自身の力で時間稼ぎするとしても、まずは安全策を考えるべきだ。

 

『細心の注意を払って行動しろ、よく考えて動け』

 

 感情に身を任せてばかりだったオレの、今の基礎となっている言葉。視界を広げて対応すること、動く前に考えること、それが大事だ。未だに感情を抑えきれなくこともあるのは困ったものだが。

 

 

 

 

 依頼を受けてから数日後、この間は特に不穏な気配は感じられなかった。ジャンヌさんとも何度か情報交換したが、あちらも問題ないらしい。この数日間であったことと言えば、白雪さんがS研――超能力捜査研究科の合宿に行って、今日戻ることになっているくらいだ。

 化け物退治チームの方で、小夜鳴先生を何か理由をつけて拘束し、『ブラド』の所在を吐かせるなりヤツをおびき寄せる餌にするという案も出たらしい。しかし、彼は表向きは聖人のように性格の良い、女生徒から多大な人気を集めるイケメンだ。素行も女癖が悪いと言う噂を聞く程度で、何か犯罪に手を染めているわけでもない。危険を冒してまで拘束する理由が見つからなかったようだ。

 こちらとしても魔臓の位置も掴めず、足止めする方法が固まっていないうちに『ブラド』に来られても困るし、そういった強引な手段はやるとしても、もう少し後だろう。

 他にも彼の管理する館へ潜入し、ブラドの手がかりを探す作戦もあるらしいが、その辺りはあちらのチームに任せよう。

 

 今日は中間テストが行われる。午前中の一般科目のテストが終わり、今は午後からの体力テスト中だ。さっきからキンジとアリアさんが、かなり近い距離で何やら話しているがその程度で動じることは無い。好きなだけいちゃつくがいい。そして死ねばいい。

 この後、探偵科と救護科が合同でテストを受けるそうで、それの担当が小夜鳴先生らしい。その間はさすがに何かアクションを起こすとも思えないが、一応キンジが護衛役となる手はずになっている。

 

 そんなことを考えているところで、ジャンヌさんから電話が来た。

 

『そちらはどうだ?』

 

「相変わらず異常なし。そっちは?」

 

『こちらも同じだ。影も形も無い』

 

 いつもやっている定期連絡のようなものだ。ジャンヌさんの読みでは、そう遠くない内に『ブラド』の下僕であるオオカミが来るかもしれないらしい。下僕とは言っても全国各地に放し飼いにされていて、どう動くかまではわからないみたいだが。

 

『……お前はこの状況をどう見る?』

 

 これには少し驚いた。ジャンヌさんがこちらに意見を求めることは今まで無かったのに。

 

「……近場で怪しい人間が小夜鳴先生しかいないとなれば、彼の周りにブラドの影が見え次第即、拘束する。動きが見られなければ、こちらから接触することも考えているけど」

 

 彼自身が理子さんに危害を加えるような行動を少しでも見せたら、準備ができていないなどとは言っていられない。

 

『それには同意見だ。おそらく近いうちに動きがあるだろう。気を抜くな』

 

「了解。お互い気を付けよう」

 

『…………』

 

 事務的なやり取りをして電話も終わりかと思ったら、まだ電話口に気配がする。

 

『お前はなぜこの依頼を受けた?』

 

「……?報酬と、まあ、理子さんのためだよ。それをわかっててジャンヌさんも依頼したんじゃないか」

 

『違う。なぜ()()()()依頼を受けた?他のメンバーは面識すらなかったから、まだいい。だがお前とは直接敵対したはずだ』

 

 言われてみれば確かにすんなりと受けてしまった。魔剣とは一進一退の推理戦と死闘を繰り広げたような気がするしな。あの時の記憶は少し曖昧だが、敵対していたのに手を組むことにそれほど抵抗は無かった。司法取引などそのあたりについては割り切ろうとは思っているが、それにしてもだ。

 依頼という形なら、アリアさんからだって来たかもしれない。ジャンヌさんから受ける必要は無かったかもしれない。

 

「……自分でもわからないけど、たぶんジャンヌさんが本気だったからかな」

 

『私が?』

 

「友達を助けたい、っていう言葉が本気だと思ったからだよ。それに、もう同じ武偵校生だったし」

 

 きっとそんなところだろう、深く考えていなかっただけだ。よく考えずに言葉を出してしまうと、そんな甘い感じになってしまうと最近気付いた。

 

『……身内となった途端にそれか。確かに甘いな』

 

「ああ、自分でもそう思う」

 

 心を読まれたかと思った。呆れたような声だった。なぜ彼女があんな質問をしたのかはわからないが、これだけ話せたのは依頼を受けてから初めてだ。今なら聞けるかもしれないな。

 

「……こっちからも質問。なんでオレに依頼したんだ?他に優秀な人間はいるじゃないか」

 

『…………』

 

 その場では受けてしまったが、よく考えればオレじゃなくても良かったはずだ。

 

『……最初のプランではお前はメンバーでは無かった。私が推して、理子も承諾した』

 

「え?」

 

『この計画に必要だと思ったから、以上だ』

 

 そう言って電話は切れてしまった。……まだまだ壁はありそうだが、一応評価はしてくれているようだ。少しづつ関係は良くなっているのだろうか。

 

 

 

 その日の放課後、今、目の前に正座させた1人の男がいる。探偵科と救護科が合同で講義を受ける間は、ヤツがアクションを起こすとも思えない。そう考えていたのだが、とんでもないアクションを起こすやつが現れた。

 

「……噂に間違いは無いか?キンジ」

 

「俺は無実だ」

 

 その講義を受けた人間の間で、みんながDVDに夢中になっていることをいいことに、キンジが理子さんの服の中に手を入れ、胸を揉みしだいていたと言う噂が立っている。あろう事かそれを小夜鳴先生に見られたらしい。それなのにしらを切る気か。

 

「……理子さん、証言を」

 

「キーくんは意外と大胆でした……」

 

「ジャンヌさん、これは……?」

 

「有罪。死刑だ」

 

「待て!本当に無実なんだ。ただ俺は盗られたシャーペンを取り戻そうと……」 

 

 どうやら理子さんにからかわれたようで、その流れでそうなったとのことだ。一体どういう流れなのか。どんな人生を歩めばそんな流れを掴むことができるんだろう。こいつの周りにだけ不思議な力が働いている気がしてならない。

 

 

 

 

 

 それからさらに数日が経ち、対ブラド用にとりあえずワイヤーや閃光弾などの一通りの装備を揃えた頃、ついにブラドの下僕が現れたとジャンヌさんから連絡があった。

 絶滅危惧種、コーカサスハクギンオオカミ。100キロに迫ろうかと言う巨大なオオカミの目撃情報が、人工浮島の南端であったらしい。

 護衛対象からあまり離れ過ぎるのは避けたいところだが、ちょうど小夜鳴先生が担当する身体検査の、再検査とやらがあるタイミングで調査に乗り出すことにした。その再検査は理子さんと一緒にアリアさんや白雪さん等も受けるということで、そちらの心配は要らない。このタイミングで彼がオオカミと接触したり、不自然な行動を見せた場合は即時拘束も考えられる。今なら彼の周囲に人がいても違和感無く、かつ行動も読めるだろう。

 

 こちらはオレ1人での捜査になるが、たとえオオカミが複数頭いたとしても何とかして来い、とジャンヌさんに言われてしまった。やっぱりオレの扱いは雑だな。これも『周囲の警戒』に入るらしい。

 

 南端にある工場跡地に着いたが、何かの気配は感じられない。だが、動物は気配を殺すのも、足音を消すのも上手いので油断はならない。

 

割と奥まで進んだが、ここにいた痕跡は見つかった。数本の獣の毛のみだが、おそらく間違い無い。すでに移動してしまったのか。

 

 この痕跡を追うことが、ブラドを追うことになるかもしれない。放っておけばその痕跡も消えてしまうだろう。このまま追うべきだろうか、と考えていたところでまたジャンヌさんから電話だ。

 

『黒野、学校内にヤツの下僕が現れた。今は遠山と、狙撃手1名がバイクで追っている』

 

「みんなは無事なのか?」

 

 想定内ではある。だがそれでもトラブルは起こりうるものだ。

 

『生徒にケガは無い。だが……小夜鳴が腕を負傷したらしい』

 

「……?なんで小夜鳴先生が」

 

 彼にはブラドとの繋がりがある、その前提で動いていた。その彼がブラドの下僕に襲われた?

 

『それはわからない。それよりオオカミがそちらに向かっている。迎撃しろ』

 

「了解。……ここが巣?それとも飼い主との合流地点か?」

 

 

 気になるところではあるが、まずはこちらに向かっている獣の相手が先のようだ。しばらくしたところでオオカミがこちらに走ってくるのが見えた。……思ったよりでかい。そして速い。まともに受けたら死ぬな、これは。

 

 こちらを認識しながらも、まっすぐ向かってくる獣。正面から受ければ力負けしそうなので、トンファーを構え、受け流す体勢を作る。

 飛び掛ってくるオオカミ、何とか受けるが巨体の割りに動きが速い。そして……その一度の接触で逃げられてしまう。

 

「さすがに追いつかないか!」

 

 相手は獣。その足で逃げられてしまったら追いかけるのは無理がある。とっさに銃に手を伸ばす。相手が獣なら――

 

 銃に手をかけようとした瞬間、一発の弾丸がオレの横を通り過ぎて言った。オオカミに当たったかと思われたその弾丸は素通りし、オオカミも逃げてしまった。直後にバイクのエンジン音が工場内に響く。

 

「ソウジ!俺がヤツを追う!!」

 

「――っ?!相変わらずナイスタイミングだな、お前は!」

 

 

 まったく、本当に狙ったかのようなタイミングだよ――『正義の味方(ヒーロー)』!

 

 

 

 

 ……ん?今あいつ『ヒステリアモード』じゃなかった?『ヒステリアモード』のキンジが運転するバイクの後ろに……下着姿のレキさんが乗っていた。……ん?おそらくオオカミを追ってきたのであろう、それはわかる。だがどんな流れでそうなった?なぜあいつは隙あらばそういう事態になるんだ?オレがシリアスな事をしようとしている裏であいつはいつも何をやっているんだ?

 

 オオカミもいる。ブラドもいるかもしれない。それはとりあえず置いておこう。オレの横を通り過ぎて行ったあいつを最優先でぶん殴ろう。

 

「キーーンジィ!!今からぁ!お前を!全力でぇ!ぶん殴るぅ!!」

 

「今?!バイクに乗ってるんだぞ?!」

 

「至急戻って来い!!Uターンしてこっち来い!!その勢いで殴るから!!」

 

「死ぬだろそれ!!」

 

 くそ、オオカミを追いかけて行ってしまった。この怒りをどこに向ければいいんだちくしょう。

 

 その後、そのオオカミはなんとか捕獲できたらしい。キンジは身体検査の再検査を覗いていたらしく、武藤と一緒に怒られていた。本当に何やってるんだあいつは。

 その現場にオオカミが襲撃し、小夜鳴先生が負傷。その場に居合わせたレキさんがキンジと共に、逃げたオオカミを追った、とのことだ。

 そしてオオカミは、なんとレキさんが飼うそうだ。力の差を見せ付けて従わせたらしい。こっちも何やったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み、オオカミの件と小夜鳴先生がケガをした件の話を聞こうと思い、今は先にレキさんと話そうと試みている。……試みているのだが、うまくいかない。

 

「……レキさん?」

 

「…………」

 

 さっきから何度か呼びかけている、というか完全に彼女の視界に入っているのだが、無視されている。さらに、2メートル以内に近づこうと思うと彼女の足元にいるオオカミに威嚇されてしまう。

 ヘッドホンをしているから、前みたいにオレの声が聞こえていないのかもしれないのは、まだいい。けどオレのこと完全に見えてますよね?なんで無視されてるんだろう。嫌われているんだろうか。

 

 しばらくそのまま粘ってみたところで、ようやくレキさんが口を開いてくれた。

 

「風が……」

 

「風?」

 

「風が、『あまりクロノと関わるな』と言っています」

 

 ……?意味がわからない。風?風がそう言っているというのはどういう意味だ?

 

「よくわからないけど、今日はそのオオカミについて聞きたいことがあって……」

 

「風が……」

 

「え、また?」

 

「風が『話しかけるな』と言っています。」

 

 ……これはあれか、電波というヤツだろうか。本当は自分の意見なのに誰かが言っているということにして、言いにくいことを言おうとしてるのかもしれない。ということはこれはレキさんの本音で、オレと話たくないということか?だがそういうわけにはいかない。オオカミをどうやって従えたのか、それの詳細を知りたくて来たんだ。

 

 もう少し粘ってみると、何とか聞き出すことができた。

 

「――脊椎と胸椎の中間、その上部を瞬間的に圧迫しました」

 

「それは……すごいな」

 

 すごいなんてものじゃない。バイク上でその場所を寸分違わず狙い撃ち、脊髄神経をマヒさせ、しばらくの間行動不能にしたのだ。急場で麻酔銃など持っていなかった彼女が、どうやってオオカミを無傷で捕獲できたのか不思議だったが、とても真似できないレベルの神業だ。

 オレがあの場で撃っていたら、無傷での捕獲は不可能だっただろう。彼女の技はオレの理想とするところにあるのかもしれない。

 それと同時に一つ思い付く。『ブラド』も化け物だと言っても生物ではあるはずだ。レキさんの技とまではいかなくても、生物を行動不能にする方法ならあるかもしれない。筋肉、関節などに損傷を与えれば時間稼ぎになるか。見たことも無い相手だとして、人間等とはまったく別のものだと考えてしまっていた。

 

「ありがとう、レキさん。参考になったよ」

 

「いえ」

 

 相変わらず距離があるが、なんとか聞けて良かった。今後、自分が目指すべき技術をすでに持っている人が同年代にいるなんて驚いたが。やっぱりSランクに評価される武偵は格が違うと改めて思い知らされる。

 話はこれで終わりな訳だが……やっぱり気になるな。聞かないほうがいいかもしれないけど。

 

「……レキさん、あと一つ聞きたいんだけど」

 

「はい」

 

「……今、『風』はなんて言ってるの?」

 

「『死ね』と言っています」

 

「えぇ……」

 

 なんでそんなに嫌われているんだろう。気付かないうちに彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうか。しばらく立ち直れないかもしれない。

 

 とりあえず収穫はあったが、同時に心に深い傷を負ったような気がする。だが挫けてはいられない。次は小夜鳴先生と直接話すのだから。

 

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