緋弾のアリア 時を守る武偵   作:心はニート

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16.剣と盾

 理子さんがアリアさんを狙っていた理由を知ってから、ハイジャックの時の事を思い出してしまっている。今でも間違っていたとは思わないが……何も知らない奴がでしゃばるな、か。彼女の言った言葉は確かにその通りだったのかもしれない。この計画よりアリアさんを狙う事を優先するほど、ブラドに恐怖を抱いていたのだろう。

 だからと言って、今更ヒーロー面して助けるつもりも無い。彼女を一度否定したオレがそんなことをするのはお門違いというものだ。ジャンヌさんからの依頼として、アリアさんからの命令として、そして友人として彼女を護ろう。……ヒーロー役ならぴったりの奴がいるしな。

 そのヒーローは行方不明になったあの日、何故か青森に行っていたらしい。まったく、変なタイミングで旅行に行く奴だ。詳細は作戦終了後にでも聞いておこう。

 

 

 6月13日の潜入作戦当日、既に準備は完了し、あとはキンジとアリアさんが潜入するのを待つのみである。いろいろあったが、何とか支障無く始められそうだ。

 

 『紅鳴館』――ホラーゲームにでも出てきそうな妖しい洋館だ。周囲を囲む黒い鉄柵の向こうには、茨の茂みが続いている。黒雲が見える今日の天気のせいか、館本体は霧で包まれている。ここに小夜鳴先生がいる。館内には他にブラドも、ハウスキーパーすらもいない。ターゲット1人である。

 館には、まず潜入する2人と派遣会社の営業を装った理子さんとジャンヌさんが入る事になっている。オレは近場で待機。小夜鳴先生を拘束後、安全を確認次第こちらも中に入り、館内の捜査をする。彼は戦闘訓練などは受けていないし、本人の戦闘能力はそれほどでも無いはずだ。あの4人がいて手こずる相手では無い。

 

 作戦が開始され、4人が館内に入る。待機中も周囲を警戒し、ブラドが接近してきたのを感じたら、館内のメンバーと合流して倒す。化け物退治は依頼外だが、さすがに目の前で戦闘が始まったら加勢するつもりでいる。たぶんいないよりはマシだろう。

 しかし自分で考えておきながらブラドが接近して来たら、というのは曖昧だな。どうやって来るんだろう、車かな? まさか飛んで来たりしないだろうな。

 そんなことを考えていたところで、付けていたインカムからキンジの声がした。

 

 

『終わったぞ。入ってこい』

 

「……仕事早いな」

 

 潜入任務とは何だったのか……4人が入ってからそれほど経っていないと思うのだが、もう終わったようだ。潜入する2人は衣装に着替える時間すら無かったんじゃないか? 時間的に、館内に招かれて小夜鳴先生が後ろを向いた瞬間にでも拘束したんだろうか。手こずらないだろうとは思ったが本当に容赦無いな。

 だがここからが本番だ。『ブラド』が来るとは限らないが、来ないとも限らない。気を引き締めていこう。

 

 館内に入ると、すでにロープで縛られている小夜鳴先生と取り囲むように4人がいた。中に進むとキンジがこちらに気付いた。

 

「ずいぶん早かったな。もう少し時間かかると思ってたのに」

 

「一応小夜鳴も銃を取り出したんだがな。扱いは素人だった」

 

 縛られて座らされた小夜鳴先生は、ジャンヌさんに見下される形で尋問されているようだ。剣を支えに、どこぞの騎士のように立つ彼女はなかなかの圧力だ。

 

「それで、ブラドはどこにいる?」

 

「……彼は間もなくここに来ます。狼たちもそれを感じて、昂っていますよ」

 

 彼がそう言った途端に、館の外からオオカミの遠吠えが聞こえる。ブラドが来る事の真偽は別として、外に下僕がいるのは間違いないようだ。

 

「……! 黒野、小夜鳴を見ていてくれ。行くぞ理子」

 

「りょーかい。舘の外で待ち伏せだね」

 

「キンジ、あたし達も行くわよ!」

 

「ああ、ついに化け物とご対面か」

 

 この流れも打ち合わせ済みなのだろうか、頼もしい事だ。あの4人で4か所の魔臓を狙えば化け物退治は終了ってところか。本当なら加勢したいところではあるが、彼を放っておく事も出来ない。

 これでブラドの所在はつかめたわけだし、依頼その1の理子さんの護衛は終了。その2はそもそも作戦前に魔臓の位置が掴めたので何もする必要なし。……なんだろう、全然働いた気がしないな。一応ずっと気を張ってたんだけど。

 まあ、化け物退治が終わるまでは気を緩めずにいよう。その間、小夜鳴先生から話を聞いておこうか。

 

「……貴方はブラドとどのような関係で?」

 

「ブラドとの関係、ですか。そうですねぇ……」

 

 先ほどから気になっているが、彼は拘束されているのにそれほど動じていない。なぜこの状況で余裕でいられる?あの日廊下で話した時と変わらず、柔らかい口調で話す。

 

「私とブラドは、会えない運命にあるんですよ」

 

「会えない? 間もなくブラドが来るんでしょう?」

 

 変な事を言う人だ、さっき言った事と矛盾してるじゃないか。

 

「……その質問に答える前に、ブラドについて一つ講義をしてあげましょう」

 

「…………」

 

 質問に答える気は一応あるのだろう。講師としての性か、講義という形で話してくれるようだ。

 

「――この世には、吸血で自分の遺伝子を上書きして進化する生物……吸血鬼がいました。ほとんどの吸血鬼は滅びましたが、計画的に遺伝子を上書きし、屈強な個体となった者は今も生存しています。『彼』もその1人でした」

 

「吸血鬼……?」

 

「しかし、『彼』は知性を保つために吸血を継続して行い、やがて『殻』に隠されることになってしまったのです」

 

 ……殻? なんだその表現は。ブラドが吸血鬼であることもすぐには信じられないが、いまいち彼の言いたいことがわからない。

 

「そして、『殻』に隠されたブラドは激しく興奮した時のみ――つまり神経伝達物質が大量に分泌された時に出現するようになっていました。そして永い時が流れ……あらゆる刺激に慣れてしまったせいでブラドは殻から出ることが難しくなったのです」

 

「……でも今はその『殻』から出ているんでしょう?」

 

 なぜブラドの正体を自分から話すかはわからない。だが……『激しく興奮したときのみ』という言葉が引っかかる。

 

「ある日、『彼』と『私』に転機が訪れたのです。ヒステリア()サヴァン()シンドローム()――遠山金一の力によって」

 

「……! ヒステリア」

 

 ヒステリアと金一さん……まさかヒステリアモードの事か?

 

「『彼』の吸血は遺伝子を写し取り、能力を写すことができる。『私』は誰からでも写せるよう、その力を人工化してイ・ウーにその技術を提供し、革命を起こしました」

 

 彼の言葉を信じるなら……例えば誰でもヒステリアモードになれるという事か。そんな事が可能なのか? あの状態のキンジみたいなのがいっぱいいるかもしれないのは嫌だな。そんな集団に会ったら全力で逃げ出したい。

 

「……そして『彼』も、その力によって『殻』から出ることができた。HSSによる神経伝達物質の大量媒介は……『彼』を呼ぶのに、十分なものでした」

 

 ……つまりヒステリアモードは、性的興奮をする事で神経伝達物質を大量に流し、能力を高める力。そしてその力を利用してブラドを『殻』から出す。……だとしたら殻と言うのは……

 

 

「幸運な事に『私』は動物虐待でも愉悦できる加虐嗜好の持ち主でしてね」

 

 

「……何が幸運なんだ?」

 

 

 ……まずい気がする。とても嫌な予感だ。『殻』が想像通りなら……みんなを呼んでおこうか。

 

 

「絶望が必要なんです。彼を呼ぶにはね。彼は絶望の詩を聴いてやってくる。……今私は絶望していますよ。この私がこんな惨めな扱いを受けるなんて……」

 

 

 だが、こいつが言ってる事が本当なら今『ヒステリアモード』になれないハズだ。そんな加虐嗜好のヤツが縛られているんだから。

 

 

「ですが絶望と同時に新しい扉を開くことができました――」

 

 

 

「――縛られるのも、意外とイイですねぇ……」

 

 

「なんだこの変態は……!」

 

 

 あらゆる刺激に慣れたって言ったじゃないか……!なんで今そっちに目覚めたんだこの変態は!

 

 

「よく見てくださいよ?私は人に見られている方が掛かりがいいものでしてね。ほら、私のこの惨めな姿をもっとよく見てください!ジャンヌのように見下す感じで!!」

 

 

「そこで目覚めたのか……!」

 

 

 人が変わって行くような印象。これは……ヒステリアモードか。

 

 

 

「さあ かれ が きたぞ」

 

 

 

 

 ――最悪だ。縛っていた縄なんて物ともしない。全てを引きちぎって彼の体は化け物となっていく。

 

 着ていたスーツも破け、その下から出てきた肌は赤褐色に変色していく。雄牛のように筋肉が盛り上った。毛むくじゃらの腕と脚、そして牙。これが……吸血鬼か。

 

「Ce mai faci……いや、日本語の方がいいだろう。初めまして、だな」

 

 声帯まで変わったのか、急に何人かが同時に話しているような不気味な声になっている。

 ……ダメだなこれは逃げよう、ここで戦うメリットも無い。みんなと合流して倒してもらおう。ここで無理をする必要は無い。弱点もわかっているんだ、合流して戦った方が……

 

「黒野!さっきの緊急コールは……」

 

「……?!ブラド!」

 

「あ……理子さんにジャンヌさん」

 

 来ちゃった。いや呼んだのオレだけど。

 

「……キンジとアリアさんは?」

 

「外でオオカミ達の相手をしている」

 

「ブラド……小夜鳴に化けてたなんて!」

 

 

 

 

 

 

 目の前の化け物を理子さんは憎しみと恐怖が混じったような目で見ている。

 

 

「おぅ4世。久しぶりだな。イ・ウー以来か?放し飼いにしてみるのも面白ぇかと思ったが、感付いて逃げるとはなぁ」

 

 

「……ブラド。やっぱりだましてたな!オルメスの末裔を倒せば、あたしを解放するって約束したくせに……!」

 

 

「――お前は犬とした約束を守るのか?ゲゥゥウアバババハハハハハ!」

 

 

 下品に笑いながら約束は嘘だと当然のように言い放つ。……こいつ今理子さんを犬って言ったか?『動物虐待でも愉悦できる加虐嗜好』、か。なるほど……そういうことか、この糞……

  ……ダメだ、熱くなるな。こいつと正面から戦うのはたぶん得策じゃない。

 

 

「ジャンヌさん。他の2人と合流しようか?」

 

 

「……いや、挟まれるのはまずい。ここで倒すぞ。……これも想定内だ」

 

 

 ブラドと理子さんが話している内に声を落として提案してみたが、確かにオオカミと挟み撃ちはきついか。さすがに彼女は冷静だ、この状況でどんなプランを……?

 

 

「奴の攻撃をお前が全て防げ。その隙に私と理子で倒す」

 

 

「……やっぱりそうなるのね」

 

 

 ……まあ、ここまで来たら何とかするか。オレは一応――『負けない武偵』らしいからな。

 

 

 

 

 外の黒雲はいつの間にか雷を鳴らし、暗くなった館内を照らす。

 

 

「いいか?4世。お前は一生、俺から逃れられねぇんだ!檻に戻れ……!繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)

 

 

 ブラドの心無い言葉が館に響く。その言葉を受け止め、理子さんは恐怖を……いや、それを上回る怒りをぶつける。

 

 

 

「――4世じゃ、ない」

 

 

「あぁ?何を言っている。お前は4世だ。いい5世を作るしか利用価値が無い、無能な4世じゃねぇか!」

 

 

 その瞳に意思を込めて――彼女は吼えた。

 

 

 

 

「――っ!あたしは……『4世』じゃない!『峰 理子』だ!!ふざけんなっあたしはただの遺伝子かよ!あたしは数字の4じゃない!あたしは『理子』だ!!『峰・理子・リュパン4世』だ!!――あたしは!あたしは5世を産むための機械なんかじゃない!!」

 

 

「――っ?!何だと……!犬の分際で!!」

 

 

 館に響くその悲痛な叫びは、ブラドを一瞬怯ませるほどだった。だがヤツはすぐに激昂し、こちらを威嚇する。……戦いの時が来たようだ。

 

 

「理子!……やるぞ。ここでヤツを倒す。お前は無能なんかでは無いという事を……私と証明するのだ」

 

 

「……ありがとう、ジャンヌ。ここで勝って、あたしは初代リュパンを超えるよ」

 

 

 決意を胸に戦う意思を見せる。オレも仕事はこなさなければ。……だが、まあそれはひとまず置いておこう。

 

 ――さっきから無能だの犬だの……理子さんになんて言い草だこの糞吸血鬼は……!

 

 

「お前の居場所はあの檻の中だけなんだよ!4世。これが人生最後のお外の光景だ!!」

 

 

「……いい加減黙れよ変態野郎。――お前こそ!一生檻にぶち込んでやるよ!!」

 

 

 一度彼女を否定したオレがやる事じゃない。それでも今だけは……彼女を助けよう。

 

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