戦闘を開始し、しばらくした頃、オレ達は膠着状態になっていた。相手の攻撃は全部防げてはいるのだが、こちらからも攻撃できていないからだ。誰とやったところで、オレの戦いはいつもこんな感じだから焦っているわけではない。
しかし、驚きはした。まさか髪の毛を操ってナイフで攻撃してくるとは思わなかった。両手に銃、髪に2本のナイフ。手数が多くて捌くにも一苦労だ。これは恐らく超能力という奴だろう。武偵校にも超能力を扱う学科はあるが、戦うのは初めてだ。思いの外やりにくい。
「……ハァ、ハァ、……そろそろ、降参、しとけよ。そんで、一発殴らせろ」
「……はぁはぁ、ほんっと、しぶといね。亀なんて、言われるだけはあるよ」
さすがに息が切れてきた。もっと体力つけないとダメだな。
相手にも疲れが見える、弱音を吐くわけにはいかない。が、こちらの方が消耗が激しい。操縦室前でケガした腕も痛い。超痛い。目眩してきた。……時間稼ぎでもしようか。
話でもして時間稼いでいる間に回復しようか、などと考えていたところに――お待ちかねの援軍が来た。
「理子!そこまでだ!!」
「ソウジ!無事?!」
「……おせぇよキンジ。……アリアさん、思ったより元気そうだな、良かった」
やっと主役の登場だ。階段の方から2人が来た。ホント、狙ったようなナイスタイミングだよ――『
……ん?でも、なんかキンジの様子がおかしい気が。いや、おかしいというよりこの、人が変わったかのような印象は……『ヒステリアモード』、か?ということはつまり……
「あは!アリアと何か
そういうことですよね、理子さん。そういうことだよな、キンジ。
「ソウジ、ここからは俺――」
「……キンジ。シリアスな所悪いが、今からお前を全力でぶん殴る。つーか殺す。歯ぁ食いしばれ」
「それ今やるのか!?」
「オレが生と死を賭けた戦いを繰り広げている間裏で女と乳繰り合ってた節操なしには最優先で制裁しなければならないんだ。あ、理子さんちょっとタイム!!」
「え?う、うん」
「……ソウジ、今はそんなことをやってる場合じゃない」
「それはこっちのセリフだってんだよ!いや、助かったよ?このタイミングで『ヒステリアモード』のお前とかスゲー頼りになるよ?でも感情は別!オレが涙をこらえながら理子さんと死闘を演じている間、お前アリアさんと何やってたの?」
アリアさんが真っ赤になってキンジを見て、見つめあって、あわてている。普通ではないリアクションだ。
「あ、あたし、ふぁ、ファーストキスだったのに……!」
「アリア、俺もだって言ったろ?」
「本当に何やってんだよ?!お前いい加減にしろよ!」
何なのそれ、オレは何なの?なんかもう頑張って損したよ。
「選手交代!もう疲れたんで脇役は休みます!どうぞ理子さん、主役の登場です。待っててくれてありがとう」
「え?あ、そ、そう?」
律儀に待っててくれた彼女に礼を言って、キンジ達とは逆方向、理子さんを挟むような形に移動する。
そして――キンジとアリア対武偵殺しの最後の戦いが始まる。冷たい目で理子を見るキンジ。
「疲れが見えるな。だが手加減はしない」
「あぁん……そういうキンジ、ステキ。どっきどきする。勢い余って殺しちゃうかも」
「そのつもりで来るといい。そうしなきゃ、お前が殺される。」
キンジの低い声に、理子はクラッと来たような顔をして、拳銃を構える。
「――さいっこー。愛してる、見せて――オルメスの、パートナーの力」
キンジはナイフを構えてに理子に向かって走り出す。アリアは銃を構えて、その影になるように後ろに付いて同じように走っている。
銃に対してあまりに無警戒なキンジに一瞬、理子は戸惑った。それでも一瞬の後、キンジに向かって一発の銃弾を放つ。
それをキンジは――避けない。自分を守ろうともしない。銃弾に向かってそのまま、まっすぐに向かい合い……銃弾を斬った。
理子の顔が驚愕の色に染まる。盾と目隠しの役割を果たしたキンジはそのまま屈み、後ろのアリアがすぐさま理子の拳銃に銃弾を当て、弾き飛ばす。
そしてついに2人が理子の目の前に迫り、アリアは持ち替えた刀で、キンジはそのままナイフで、理子の左右のツインテールをそれぞれ斬った。そして――
「峰・理子・リュパン4世――」
「――殺人未遂の現行犯で逮捕するわ!」
「……くっ!」
こうして、『武偵殺し』の一連の事件は終わりを迎えた。
「いやーお疲れ。さすがアリアさん、鮮やかなお手並みで。キンジも銃弾斬るとか人間やめ始めたな」
「ソウジも良くやったわ。キンジ、そいつちゃんと縛っておくのよ」
「悪いな、理子」
「オルメス!くそ、離せ!!」
武器も取り上げ、理子さんを縛り上げたオレ達は飛行機が無事に空港に着くまで待機することにした。……それにしてもさっきからアリアさんを『オルメス』って呼んでいるけどなんて意味だろう。何かオレにはわからない因縁があるようだ。そういえば逮捕するときもキンジが峯・理子・『リュパン4世』って呼んでたな。
……今更だがなんかよくわからない状況だ。どういうことか聞いてみようか。と、思ったところで、轟音とともに飛行機が立っていられないほど強く揺れた。
「な?!なんだ!何があった」
事態が呑み込めない。爆発物の類はなかったはずだ。だがこれは……爆発か?
「理子!なんだこれは?爆弾は設置していないだろ?」
「し、知らない!これは本当に知らない!」
「じゃあ何なのよこれは?!どう考えても『イ・ウー』の仕業でしょ!」
理子さんじゃない、じゃあいったいなんだこれは?って言うかイ・ウーってなんだよ。わからないことだらけだ。事態をつかむために理子さんをキンジが担いで、みんなで操縦室に向かう。
「機長さん!何があったんですか?!」
「き、君か!管制塔に連絡を入れて、近くの羽田空港に着陸の準備をしていたんだが、後方からミサイルが!」
「ミサイル?!そ、それで被害は?飛べるんですか?」
一体どういうことだ?ミサイルなんてどこの誰が!外からのミサイル攻撃なんて防ぎようがないじゃないか。後ろで息を飲むキンジとアリアさん。理子さんもこの事態に信じられないような顔をしている。
「ああ、エンジン4基の内2基が破壊されたが飛行は問題ない。だが……燃料が漏れている。持って15分といったところだ」
「そ、そんな……」
最悪の事態だ。そしてそんな最悪の事態に追い打ちをかけるように無線が入る。
『ANA600便。こちらは防衛省、航空管理局だ。羽田空港の使用は許可しない。空港は現在、自衛隊により封鎖中だ』
防衛省?なんで着陸を許可しない?……着陸に失敗すると思っているのか。何を言っているんだ、乗客の命がかかっているんだぞ。
怒りがこみ上げてくるが今、口を挟むと返って状況が悪化するかもしれない。ここは歴戦の風格を持つ機長さんに任せよう。
「……こちらはANA600便の機長だ。説明を求める。まさか、私が着陸に失敗するとでも言うのかね?」
怒気を込めた低い声で相手に確認する機長。この人優しそうだと思ってたけど迫力あるな。年は50代だろうか?貫禄がある。
『機長……?――!あ、あなたは……!まさか伝説の?!ということは副操縦士もいるんですね?!』
「伝説かどうかは知らないが、私は絶対に失敗しない。15年前も、10年前も……今日もな」
「すごい人なんですか機長さん。伝説って?」
無線の相手の態度が急に変わる。声だけでわかるって何者なんだよ?15年前と10年前に何があったんだ。
『……あなたなら信頼できる。防衛大臣も納得するでしょう。封鎖を解除します……ご武運を』
「機長さんすげぇ?!」
一度封鎖された空港があっさりと解除された。飛行機が着陸の準備に入る。
「本当に着陸できるのか?!」
「おいキンジ、伝説の機長に向かってなんて言い草だ。何の伝説か知らんけど。……ここにいる誰よりも信頼できるだろ」
「……いや、実を言うと計器を読み上げる補佐が必要だ。いつもは副操縦士がやってくれるんだが……」
「副操縦士は何やってるのよ?」
そういえば最初に操縦室に来た時から副操縦士さんいなかったな。でも個室もトイレも全部調べたけどそれっぽい人は誰もいなかったはず。
……そういえばおかしい。なんで機長さんは一人なんだ?そんなことあるわけがない。なぜその疑問に気づけなかった?
「お待たせしました。機長」
「うお?!」
「きゃあ?!」
「おお、来たか。長いトイレだったな」
いつの間にかキンジとアリアさんの後ろにまだ若い、20代、30代あたりの副操縦士らしい人が立っていた。一体いつの間に……?馬鹿な!気配を感じなかった……だと?!
「……一体どこにいたんですか?副操縦士さんは?」
「君が最初に操縦室に来た時には機長と一緒にいたよ。気づかなかったかな?」
「なん……だと?」
なんて強キャラっぽいんだこの人。目の前にいるのに気配が感じられないってどういうことなんだよ。マジで何者なんだよこの人たち。守る必要なかったんじゃないか?
「しゃべっている暇はないぞ。早く席につけ。間もなく着陸態勢に入る」
「了解。間もなく着陸態勢に入ります。皆さんは安心して座席にお戻りください。……必ず無事に着陸しますから」
そう言ってこちらに笑いかける。なんて頼もしいんだ。
「……信じて、いいんですよね。機長さん」
最後の確認をする。答えはもうわかっている。
「ああ、もちろんだ。……君は言ってくれたね、私たちを必ず守ってくれると。今度は私の番だ。……必ず、皆さんをお守りします」
機長さんと固い握手を交わし、オレ達はアリアさんが予約していた個室に向かった。
しばらくして飛行機に振動があったが思ったよりは少なかった。無事に着陸できたようだ。本当にすごいな、あの人たち。
こうしてハイジャック事件は解決した。理子さんは警察に連れていかれ、事情聴取を受けている。これで本当に武偵殺し事件は終結した。
――だがこの事件はこれから起こる『イ・ウー』との戦いの序曲に過ぎなかった。