ヘスティアファミリアの主神が身に付けていたただの紐である。しかし、その紐はあらゆる者を魅了した。
特定の条件で効果を発揮する。
あなたの憧れは何ですか?そう聞かれれば多くの人は自身の身近な人物、絵本や小説、物語の主人公や、英雄譚の中で戦う英雄、発明家、世界の偉人。彼らのような人物の名前を挙げるだろう。
父親、母親、兄弟姉妹、そして肉親だけでなく身近な人物。夢のような世界で冒険する主人公。多くの命を救い悪を打ち倒す英雄。自身の力で何かを成し遂げた発明家や偉人。
憧れる。憧れた人物のようになりたいと思う。それはとても素敵なことでその憧れに少しでも近づこうと努力する姿はとても健気で儚く美しい。だが、この
青年は旅立った。周りからバカにされ、呆れられもしたがそれでも憧れた物を探すために旅に出た。いく先々で彼は探し物を訪ねて回った。どこにあるかを聞いて回った。バカにされ笑われた。そんな物無いから大人しく国に帰れ。心ない言葉を青年に投げつける人々。それでも彼は諦めなかった。鍛え、実力を身に付け探し続けた。いく先々で何度も現実を叩きつけられ、何度も心が折れそうになり諦めようかと考えた。それでも自身の憧れを、夢を諦める事が出来なかった。そんな旅を続けていた彼はとある町である噂を聞き付けた。
オラリオには巨大なダンジョンがある。そこには神々が地上に降りファミリアを作り、そのファミリアに所属する冒険者に神の恩恵を施し、神の恩恵を受けた人々はダンジョンへ挑戦することができる。
彼は自身が追い求めている物がそのダンジョンにあるのではないかと考えすがる思いで神々の居るオラリオへと向かうのであった。
◇
「ここが…迷宮都市オラリオ…」
多くの人々が行き交う巨大な町。その町を見下ろすかのように巨大なタワーが彼の目に入った。天を衝く巨大な摩天楼。その摩天楼を中心に巨大な町が広がっていた。行き交う多くの人々。人間だけではない。エルフや
「あれが…バベルか…あそこになら俺の求めているものがあるかもしれない…早速行きたいがまずは」
天高く照らしている太陽を見る。そして両手をYの字に頭上へと挙げる。そして高らかに宣言する。
「太陽万歳!」
こうして一人の青年がこの神々、冒険者が住むオラリオの地へと足を踏み入れたのであった。
◇
「さて…ここへ来たのはいいがまずはファミリアに入らなければ元も子もないな」
冒険者は神が営むファミリアに所属しはじめて恩恵を与えて貰える。ギルドで話を聞いた青年は意気揚々と様々なファミリアの門を叩いた。だが、どこのファミリアにも受け入れられなかった。原因はやはり彼の夢を聞いたからだ。何をバカなことを言っているんだこいつはと相手にもされなかった。
この町に来て三日ほど経った。今日も朝から夕暮れになるまで様々なファミリアを訪れた。結果は言わずもがなどのファミリアにも相手にされなかった。途方に暮れる青年。持ち前の明るさも鳴りを潜めとぼとぼとした足取りで歩いていた。自身の考えが甘かった。そう思ってしまうほどに。
辿り着いたのは美味しそうな匂いをさせて活気づいている出店が並んでいる場所だった。ぐぅと腹から音が鳴る。朝から何も食べていなかったことを思いだしとりあえず腹ごしらえをしようと1つの出店へ訪れた。
「すまない…このじゃが丸くんとやらを1つ頼む」
「あいよ!……兄ちゃんなんかあったのか?」
明るい出店の店員は青年が落胆しているのに気づく。青年はゆっくりと話し出した。自分の夢、ここに来るまでの道のり、門前払いされたこと。彼は自嘲気味に笑いながら店員に話す。自分が変人であることは分かっている。それでも夢は諦めたくない。小さな頃からの夢だったから。だからこそ5年前に国を旅立ちここまで来たのだと。それでも現実は甘くはなかったと。
「……ちょっと待っててくれ」
そう言って店の裏へと入っていく。
「おーい。あがりで悪いんだがお客さんだ新入り」
「えぇ!もう終わったじゃないか…」
「いいからいいから…新入りじゃないとダメだ。ファミリアを探してるらしいぞ」
そんな話し声が裏から聞こえる。どたどたと物音と先ほどの男の店員の悲鳴が聞こえた。そして替わりに出てきたのは小さな女の子であった。黒髪のツインテール。白いワンピースを着ており可愛らしい少女だった。
「君かい?ファミリアを探してる子は?」
目をキラキラさせながらそう尋ねてくる少女。青年は不審に思いながらも彼女に返事をする。
「そうだが…貴公は?」
青年の質問にぬっふっふと笑ながら少女は自己紹介を始めた。
「僕の名前はヘスティア!ヘスティアファミリアの主神さ!」
自身を神だと胸を張って告げる少女ヘスティア。青年は目を見開き驚く。
「なんと!申し訳ありません…神である貴方への無礼を許してください」
少女が神だと知り青年は膝を着き跪く。そして丁寧に頭を下げる。
まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったヘスティアは慌てていた。
「あ、頭を挙げてくれよ!そんなに畏まらなくてもいいよ!」
予想外の反応に狼狽えるヘスティア。面を挙げてくれと頼むヘスティア。神の威厳が無いなとその光景を見て笑う出店の店員。
「し、しかし…」
「と言うかよく僕の事神様だと初見で信じたね。大抵の人は神様だって信じないのに…」
乾いた笑をするヘスティア。しかし青年は首を傾げながら彼女の疑問に答えた。
「貴方は自身が神様だと仰いました。信じない要素は無いと思います……」
それを聞いたヘスティアとじゃが丸くんの店員は目を丸くする。天然なのか、それとも純粋なのかと。それともどうしようもない馬鹿なのかと。だが、ヘスティアの第一印象は好青年だと。顔はそこまで悪くない。しっかりとした礼儀作法。服の上からでも分かる鍛えられた体。そしてこれほどまっすぐな青年を何故他のファミリアは門前払いしたのか疑問に思うほどであった。
「ねぇ…君の夢を僕に教えてくれるかな?」
真剣な顔で尋ねてくるヘスティア。心の奥を見透かされているような美しい瞳を青年へ向ける。青年はまっすぐに見て自身の幼き頃からの夢を語った。自身の覚悟を、想いを、夢を…まるで小さな子供が身近な憧れの人を、物語の主人公の事を話すように、英雄譚に出てくる英雄の話をするように、偉人や発明家の話をするように彼は語った。
「わた……俺の夢は太陽になることだ!俺自身の太陽を探すためこの迷宮都市オラリオへと来た!太陽は偉大だ。素晴らしい父のようだ。俺もいつか、あんな風にでっかく熱くなりたいんだよ…」
太陽のようになりたい。自分自身の太陽を探すために来た。朝から日が沈むまで人々を照らし続ける存在になりたいと。父のように暖かい存在になりたいと。
今まで彼の夢をそして憧れを聞いたものは変な奴だと、バカな奴だと、彼の憧れを、夢を否定してきた。それでも彼は心折れること無く自分を信じ故郷からはるばるこの地へ来た。どうしようもなく愚かで、純粋で、まっすぐな青年の熱い想い。その儚くも美しいその姿。ただ1つの憧れのためだけに故郷からはるばるこの地までやって来た。
彼の姿はヘスティアの目にはとても美しく見えた。
ヘスティアは真剣な面持ちで彼の言葉一つ一つを聞いた。彼の言葉に嘘偽りがないかではなく彼の話に神として引き込まれたのだ。だが、語り終えた青年の表情は暗かった。
「自分自身おかしな奴だと分かっている……何度も何度も諦めようかとも考えた…でも諦められない……諦めたくない……これが俺の夢なんだよう」
悲しそうに俯く青年。語り終えた彼の瞳は揺れていた。いったいどれだけ馬鹿にされてきたのだろう。笑われてきたのだろう。
彼はまっすぐすぎたのだ。優しすぎる。そんな彼が出会ってきた人々は彼へどのような言葉を投げつけてきたのだろうか。
青年はまた拒絶され笑われると思っていた。神様は太陽なんか無いと言うものだと思い握りしめた拳に痛みが走る。下を向き震える彼の肩に手が置かれた。驚き顔を上げると優しく彼に微笑むヘスティアがいた。
「僕は君の夢を笑ったりバカにしたりしない。君は……本当に良い子だよ…自身の憧れを嘘をつかず僕に語ってくれた!僕はそれが嬉しい…僕のファミリアは構成員ゼロだけど君さえ良かったら僕のファミリアへ来てくれないかな?君みたいな子なら大歓迎だよ!」
青年は驚いたような表情をしていた。初めて自分の夢を聞いて笑わない人物にであったこと。手を差し出してくれた彼女の笑みは正しく女神だった。ヘスティアは右手を差し出し握手を求めた。青年はしっかりと彼女の右手を握り返す。
「よろしくね!改めまして僕の名前はヘスティア!君の名前は?」
「俺の名前はソラール。よろしくお願いします!我が主神ヘスティア様!」
こうして後に太陽の戦士ソラールと呼ばれる青年が一人の心優しき神様と出会った。
◇
「ここが僕達のホームさ!」
じゃがまるくんの店で夕食を終えた二人は彼女のホームに向かった。そして嬉しそうに自身のホームを指差すヘスティア。目の前に広がっていたのはボロボロの教会だった。ソラールは特にボロボロな事に気にすることなくここが俺の家かと感慨深そうに呟いていた。ふと教会の隅に目をやるとそこには折れた石の槍と何かの銅像だったのだろう、足の部分だけ遺された不思議な祭壇の様な物を見つけた。
「我が主神ヘスティア様…あれは?」
何故かその祭壇から目が離せないソラール。ヘスティアは笑いながら彼の問いに答える。
「ん?あれかい?よく分からないんだ。随分と昔からあるものみたいだけどね…何だかこの教会を守ってくれてるみたいに思えて置いてあるんだ!それに僕は炉の神様!炉は祭壇とも言われるから祭壇の神様である僕はあの祭壇を撤去なんてしないのさ!」
「……」
祭壇に近づいてから跪き頭を下げるソラール。その瞬間だった。彼が俯き跪いて下を向いているときだ。ほんの少しだけ祭壇が光ったのだ。
初めての光景にヘスティアは目を見開き驚いていた。その一瞬だけ何者かの力が彼へ何かを与えたのだ。その何かが分からない。あまりにも一瞬の出来事だったからだ。だが、呪い等の類いではなくヘスティアが感じたのは優しい力が彼へ宿ったことだけは確認できた。
「……我が主神ヘスティア様、挨拶を済ませてきました。部屋に入りましょう」
思考の海に沈んでいるヘスティアの元に祭壇の石像への挨拶を終えたソラールが教会の中へと入ろうと促してきた。
◇
「さて!初めての僕の家族ソラールくん!これからここが君の家だよ!寛いでくれたまえ!」
辺りを見回すソラール。お世辞にもいい部屋とは言えないが眠ることができるベッド、テーブル、ソファーと簡素ではあるが家具は揃っていた。ソラールはソファーで寛ぐヘスティアの前に跪いた。
「…ソラールくん?寛いでいいんだよ?」
「神様である貴方への無礼は…」
畏まる彼の顔へズイと顔を近づけるヘスティア。そしてニコッと笑う。
「ソラールくん。僕たちは1つの
サムズアップするヘスティアを見て苦笑するソラールであったが恐る恐ると彼女の隣へと腰かけた。
「さて!今からソラールくんに色々とこのファミリアでの決まり事を言うよ!よーく聞いてくれよ!」
◇
一通り説明を受けたソラール。ヘスティアは生活が苦しいから出店でバイトをしている。ソラールの稼ぎが大切になってくるのでダンジョンで太陽を探しつつお金を稼いでほしいとの事であった。共に生活するのだ。神様が働いているのにお金を入れないなんて事はできない。逆に神様が働くことに反対したソラールだったがヘスティアは特に気にしてないから大丈夫だとソラールを宥めた。
「さて!説明も大方終わったし
「初めてのステイタス更新だよ…どれどれ」
アストラの騎士ソラール
LV.1
力 :0 I
耐久:0 I
器用:0 I
敏捷:0 I
魔力:0 I
《奇跡》
【雷の槍】
とあるアイテムで使うことのできる奇跡。
太陽の誓約戦士が使ったとされる。金属の鎧や、また竜族に対して特に威力が高い。神々、人が住まう以前、この世の絶対だった古の竜を屠った。しかし、その業を忘れてはならない。
《スキル》
太陽の戦士は、輝ける協力者であり、それを求める誰かのために、黄金のサインを書き召喚者を成功に導く使命がある。召喚されれば基本的スキルの上昇。そして太陽の戦士は助けを求める者達の希望である。召還時に金色に輝く。
初めてのステータス更新。ヘスティアが目にした彼のスキルは今まで見たことも聞いたことも無いものであった。
「ヘスティア様?」
何も言わないヘスティアを心配するソラール。我に返ったヘスティアは彼にこの事実を伝えるか否かを考えた。初めて出会ったときは特別な青年には見えなかった。太陽が好きで、憧れる青年。だが、彼のスキルはおかしかった。
「うん!これを渡しておくね!」
数値だけを書き写しソラールへと渡した。ソラールは不審に思いながらもステータスを見て頑張って鍛練しなければと唸っていた。そんな彼を横目にヘスティアは彼のスキル、特に
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