ストライクウィッチーズ ~音速のウィッチ~   作:破壊神クルル

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3話

 

水上型ネウロイに特攻した筈のラウラは経緯不明のまま、生還しブリタニアの501にて保護されていた。

数日間、昏倒していた彼女は意識を取り戻すが、その日の夜、桜花隊の戦友たちが彼女の前に現れ、ラウラに怨み、憎しみ、妬みの言葉と共に自分達と同じくあの世へと引きずり込もうとしてきた。

しかし、これは勿論、ラウラが見ていた幻影で実際には戦死した桜花隊の仲間達はその場には居なかった。

だが、ラウラの目には、はっきりと桜花隊の仲間の姿、怨みの言葉は聞こえていた。

ラウラはPTSDを発症し、彼女の魔力が暴走してポルターガイスト現象を引き起こす。

なんとかその場はミーナ中佐の的確な指示とバルクホルンと宮藤の行動によりラウラを鎮める事が出来た。

だが、毎晩PTSDを発症し、ポルターガイスト現象を起こされてはたまらない。

PTSDは過去において命の安全が脅かされるような体験をした事により発症するパニック症状‥‥ミーナ中佐はラウラに過去にPTSDを発症させる原因があると睨んでいた。

まずはラウラが言った神雷隊がどこの部隊なのか、そして騎士十字章を所有していた事からカールスラント軍人である事は分かっているので、そこから彼女の過去の経歴を調べることにしたのだ。

 

「うっ‥‥っ!?」

 

ラウラが意識を取り戻すとそこは医務室ではなかった。

 

「‥‥」

 

「うーん‥‥」

 

ラウラの隣には宮藤が眠っていた。

 

(此処は‥‥宮藤の部屋‥‥なのか?)

 

(どうして‥‥?)

 

(私は確か昨夜は医務室で‥‥)

 

(っ!?シャルロットとは!?‥‥皆は!?)

 

昨夜、自分は確かに医務室に居た。

それが朝、目を覚ましてみれば何故か自分は宮藤の部屋に居る。

それに桜花隊の仲間達も‥‥

ラウラが事態についていけずに辺りを見回していると、

 

「うーん‥‥ふぁ~‥‥」

 

宮藤があくびをしながら起きた。

 

「あっ、ラウラさん。おはようございます」

 

「あ、ああ‥‥おはよう‥‥」

 

宮藤はラウラに挨拶すると、ベッドから降りるといそいそと着替えを始める。

 

「‥‥み、宮藤」

 

「はい?なんですか?」

 

「‥‥昨夜‥何があった?」

 

「えっ?」

 

ラウラの問いに宮藤はドキッとする。

 

「昨夜、私は医務室に居た筈だ‥‥それがどうして、私は宮藤の部屋に居る?」

 

「それは‥‥その‥‥」

 

「それに昨夜‥‥医務室に‥‥」

 

ラウラは医務室に桜花隊の仲間達が居なかったか?‥‥と、言おうとしたがその言葉は飲み込んだ。

 

「あっ、いや‥‥変な事を聞いたな‥‥だが、昨夜医務室で何があったのかを教えて欲しい」

 

「‥‥」

 

ラウラと宮藤がジッと見つめ合う。

 

「‥‥実は‥‥‥」

 

宮藤はラウラに昨夜、医務室での事を話した。

 

「‥‥そうか‥それは済まない事をした」

 

「い、いえ‥‥でも、一体何があったんですか?」

 

宮藤はラウラに何故、PTSDを発症させたのかを訊ねる。

勿論、宮藤は昨日のミーナ中佐とラウラのやり取りからラウラが素直に答えてくれるとは思ってはいなかった。

だが‥‥

 

「じ、実は‥‥」

 

ラウラはポツリ、ポツンと昨夜の医務室での出来事を宮藤に話した。

 

「‥‥皆が来たんだ‥‥」

 

「皆?」

 

「ああ‥‥死んだ戦友達が来たんだ‥‥」

 

「‥‥」

 

ラウラの「死んだ」と言う言葉に息を吞む宮藤。

まだ、軍に入りたての宮藤にとって未だに人の死には直面した事が無い。

でも、ラウラは多くの人の死と直面してきた。

その死んだ人達がラウラの前に現れたと言う。

宮藤にとってそれは想像しがたいことだ。

もしも目の前でリーネが‥‥501の皆が死んだら‥‥

そして自分だけが生き残ったら‥‥

そんな事思いたくもない。

宮藤がそんな事を想っていると、

 

「その時‥‥皆が言ったんだ‥‥」

 

「えっ?」

 

ラウラが続きの言葉をポツリと呟く。

 

「『お前は何で生きているんだ?』『恥ずかしくないのか?』『お前も死ね‥‥』って‥‥恨みがましい目で皆が私に言うんだ‥‥」

 

「‥‥」

 

「‥‥出撃した時‥私は生への執着は捨てた筈なのに私はこうして生きている‥‥結局私は本能的に生への執着を捨てきれなかったんだ‥‥本当に死にたいのであれば幾らでも方法はある筈だからな‥‥」

 

自嘲めいた笑みを浮かべながらラウラは宮藤に呟く。

 

(なんか今のラウラさん‥‥少し前のバルクホルンさんみたい‥‥)

 

宮藤には今のラウラが少し前のバルクホルンの姿と重なって見えた。

バルクホルンも自らの故郷と妹を守れなかった事から自棄になっていた所があった。

先日の戦闘により、バルクホルンはその行動を改めたが、今のラウラはその時のバルクホルンを更に酷くした様に思えて仕方がなかった。

宮藤は部屋を出る際、ラウラを朝食に誘ったが、ラウラは「食欲がない」と宮藤の誘いを断った。

無理に食べさせては余計に身体を壊してしまうと思った宮藤は無理には誘わなかった。

ただ、部屋からは出ない様に念押しはしていた。

ラウラもその点については理解しており、「わかった」と一言呟いて宮藤を見送った。

宮藤が食堂へと着くと、

 

「おはよう、宮藤さん」

 

「あっ、ミーナ中佐。おはようございます」

 

ミーナ中佐が声をかけてきた。

 

「それで、宮藤さん。ラウラさんの様子はどう?」

 

「寝起きの時は安定していました」

 

「そう‥‥それで、何かPTSDを起こした原因とかは分かったかしら?」

 

「はい‥‥ラウラさんが教えてくれました」

 

「原因は何だったの?」

 

「医務室で‥‥その‥‥死んだ仲間の人達が現れたみたいです」

 

「‥‥」

 

「それで、その人達がラウラさんに『お前はどうして生きているのか?』って聞いてきたって‥‥ラウラさん、物凄く辛そうでした」

 

軍籍に長く在籍するミーナ中佐にとってラウラが見たPTSDの原因は理解できる。

自分だっていつラウラの様なPTSDにかかっても可笑しくはない環境で、むしろ今迄の戦いの中で戦死者を出していない事が奇跡に近い。

 

「今のラウラさん‥‥なんだか、少し前のバルクホルンさんに似ています」

 

「トゥルーデに?」

 

「はい‥‥生き残ってしまったことに物凄く後悔していて‥‥でも、死にきれなくて‥‥このままじゃ、ラウラさんの心が死んでしまうかもしれません」

 

「そう‥‥分かりました。宮藤さん」

 

「はい」

 

「今後、時間がある時はラウラさんの傍に居てあげてくれないかしら?」

 

「えっ?」

 

「ラウラさん、宮藤さんには心を開いているみたいだから‥‥」

 

「わかりました」

 

「私の方でもラウラさんが所属している部隊と連絡を取ろうと、彼女の部隊を探しているのだけど、なかなか見つからなくて‥‥」

 

メール、FAX、パソコン、インターネットがないこの時代では致し方無いことである。

 

「はい、任せてください。ミーナ中佐」

 

宮藤はミーナ中佐からラウラの事を託されたが、食事の最中、どうやってラウラの事を繋ぎ留めればよいか悩んだ。

 

(そういえば、私ラウラさんが一体何が好きなのか全然知らなかった‥‥何か好きなモノがあれば、立ち直ってくれるかもしれないけど‥‥)

 

宮藤が頭を抱えて悩んでいると、ある事を思い出す。

 

(そういえば‥‥)

 

宮藤は遊戯室へと向かい、楽器の詰まった箱の中を漁り、ある楽器を持ってラウラの下へと向かった。

 

ラウラの事を宮藤に託したミーナ中佐はある意味頭を抱えていた。

出来れば一日でも早くラウラを原隊へと戻したかった。

万が一、ラウラが自殺なんてされればラウラの原隊の指揮官からクレームを必ず受ける。

ラウラの存在を隠蔽してもいいが、根が真面目なミーナ中佐はそんな汚い事をするつもりはなかった。

第一もし、隠蔽工作がバレた時、あのマロニー大将に501を潰す絶好の機会を与えてしまう事にもなりかねない。

早い所、ラウラの所属を判明させて原隊に還さなければならなかった。

 

宮藤が自分の部屋にあるモノを持って戻ると、ラウラは窓の外を呆然とした表情で見ていた。

 

「ラウラさん」

 

「ん?‥‥ああ、宮藤か‥‥」

 

宮藤に声をかけられて彼女の存在に気づく。

 

「ラウラさん。最初、私にハーモニカを預けたって言っていたじゃないですか」

 

「ああ」

 

「ラウラさんのハーモニカじゃありませんけど、コレ‥使って下さい」

 

そう言って宮藤はラウラにハーモニカを差し出した。

 

「‥‥」

 

宮藤からハーモニカ受け取るラウラ。

ハーモニカを受け取るとジッとハーモニカを見るラウラ。

 

「あ、あの‥‥」

 

「ん?」

 

「その‥‥何か聴かせてくれませんか?」

 

宮藤はラウラに何かハーモニカで吹いてくれないかと言う。

 

「‥‥」

 

ラウラはハーモニカに口をつけると、ハーモニカを吹きだした。

 

「~~♪~~♪~~♪~~♪」

 

「あっ、これって‥‥」

 

ラウラが吹いた曲は宮藤の故郷‥扶桑の有名な童謡、「赤とんぼ」だった。

宮藤は目を閉じながらラウラが吹く「赤とんぼ」を聞いていると、宮藤の脳裏に故郷、扶桑の風景が見えた。

秋の夕焼けの故郷、扶桑の風景に、扶桑に残して来た母、祖母、親友の姿‥‥

 

(お母さん‥‥おばあちゃん‥‥みっちゃん‥‥みんな元気にしているかな‥‥?)

 

脳裏に浮かんだ故郷と故郷に残して来た大切な人々の事を思い出して少しセンチメンタルになった宮藤だった。

やがて、ラウラが吹き終えると、宮藤は拍手をしながら、

 

「凄くうまいですね‥‥あっ、でもラウラさんは確かカールスラントの人なんですよね?どうして扶桑の曲を知っているんですか?」

 

「扶桑に一時、滞在していた時があったからな‥‥この曲はその時に覚えた」

 

「あ、あの‥他の曲も吹いて貰えますか?」

 

宮藤はラウラに他の曲を吹いてくれと頼んだ。

 

「うむ‥‥」

 

ラウラは再びハーモニカに口をつけて音楽を奏でた。

 

 

夜‥‥

ラウラは不安そうな顔をする。

暗くなればまたシャルロット達がまた自分の事を攻めてくるのではないか?

そんな不安が過ぎる。

 

「大丈夫です。今日は私が一緒に寝てあげますから」

 

宮藤はラウラの手を握り、彼女を励ます。

最も宮藤本人としは‥‥

 

(うーん、ラウラさんの事は心配なんだけど、リーネちゃんぐらい胸があれば文句は無かったんだけどな‥‥)

 

一緒に寝るのであればリーネかシャーリーの様に胸が大きい女性ならばなお、良かったのだが残念ながらラウラの胸は自分とほぼ変わらないサイズなので、宮藤としては少々物足りなかった。

 

「それじゃあ、お休みなさい」

 

「あ、ああ‥‥おやすみ」

 

緊張した面持ちでラウラはベッドに横になった。

 

「うっ‥‥う‥‥」

 

深夜、宮藤はすぐ隣で魘されているラウラに気づく。

 

「ラウラさん‥‥ラウラさん‥‥」

 

宮藤は魘されているラウラの身体を揺すり、彼女を起こす。

 

「っ!?」

 

宮藤に身体を揺すられてバッと目を開けるラウラ。

 

「大丈夫ですか?ラウラさん」

 

「‥‥あっ‥‥あっ‥‥」

 

心配そうに声をかける宮藤であるが、ラウラにはその声は届いておらず、部屋の出入口を怯える様に目を見開いて見ている。

宮藤も当然部屋の出入口を見るが、其処には誰もいない。

しかし、ラウラには、はっきりと見えている様でガチガチと身体を震わせ、後退っている。

 

「ラウラさん!!しっかりしてください!!」

 

「み、宮藤‥‥お前には見えないのか‥‥?あ、あそこに居るシャルロット達の姿が‥‥」

 

「‥‥ラウラさん、あそこには誰もいません」

 

「そ、そんな事はない!!‥‥確かにあそこに‥‥あそこに‥‥シャルル達が立っている‥‥私を睨んでいるんだ‥‥」

 

震える指で出入口を指すラウラ。

宮藤はラウラの手を握り、肩を抱きしめて

 

「ラウラさん。落ち着いてよく見て下さい。あそこには誰もいません」

 

宮藤にギュッと抱きしめられながらラウラは恐る恐る出入口を見ると、其処には先程待て自分の事を睨んでいたシャルロット達の姿は消えていた。

 

「‥‥い、いない」

 

「だから、言ったじゃありませんか‥‥『誰もいない』って」

 

「で、でも‥ほんのさっきまでは‥‥」

 

「それはきっとラウラさんが見た幻です」

 

「し、しかし‥‥」

 

「ラウラさん」

 

「なんだ?」

 

「ラウラさんの仲間は皆、ラウラさんの事を嫌っていたんですか?」

 

「えっ?」

 

宮藤にかつての仲間の事を訊ねられ、ラウラはシャルロット達、桜花隊の仲間達の事を思い出す。

付き合いは皆、そんなに長い訳ではなかった。

それでも、互いに戦争が終わった後の未来の事を語り合ったり、切磋琢磨して訓練を行ってきた。

それが例え、変えようとすることが出来ない運命であっても、互いに長い命ではなかったとしても皆、笑いあい、残り少ない時間を目一杯共有してきた。

 

「‥‥そんな事は‥ないと‥思う‥‥」

 

「そんな人達がラウラさんを恨みますか?」

 

「‥‥」

 

「その人達はラウラさんが生き残ってくれた事を恨むなんて私には思えません」

 

「‥‥」

 

「その人達はきっと、生き残ったラウラさんの幸せを願っている筈です。ラウラさんも気残ったのであれば、その人達の分まで生き残る義務があると思います!!」

 

「‥‥だ、だが‥‥」

 

「ラウラさん‥‥人はいつか、死ぬと思います?」

 

「えっ?」

 

「私は肉体の死が本当の死だとは思えません‥‥本当の死は、誰からも忘れ去られた時だと思います」

 

「忘れ去られた‥‥時‥‥」

 

「はい。ラウラさんが亡くなった皆の事を想っている限り、その人達は決して死んではいません‥‥ラウラさんがその人達の事を忘れては本当にその人達が死んでしまいます。でも、ラウラさんが忘れない限りその人達はずっと、ラウラさんの中で生き続けています」

 

「‥‥」

 

「ラウラさんが見ていたのは、全部幻です」

 

「‥‥宮藤」

 

宮藤の言葉がラウラの心に響くことを‥‥

そして、ラウラが新たに生き延びようとする決意を抱いて貰いたいと願う宮藤だった。

それから少しして、ミーナ中佐の下に一つの知らせが届いた。

 

「これは‥‥どういうことなの‥‥?」

 

ミーナ中佐はその知らせが書かれた書類を見て思わず声をあげた。

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