キャロル&エルフナインのアトリエ~双子の錬金術師~ 作:にゃんちゅ
「嬢ちゃん、こいつが今回の報酬だ」
「どーも……って、何か少し多くないか?」
「どうやら依頼者が出来の良さにかなり満足したみたいでな。少し色を付けたって話だとよ」
とある酒場のマスターと、酒を飲みながらお金を受け取る少女。
キャロルは今、自分の家ではなくそこからある程度離れた、少し大きめの町を訪れていた。
というのも、家にあるお金がまだ底をついたわけではないが、ここ最近家が爆発して食料が吹き飛んだり、それを買いに行ったはずなのに同居人のおせっかいのせいで二度食料を買う羽目になったりと、予定外の出費がかさんでしまったからだ。
その他にも錬金素材を購入したり、割とあったはずのお金が見る見るうちに減っていた。だからキャロルは今、家の留守番をエルフナインに任せ単身で出稼ぎに行っている。
この町にある酒場では食べ物を頼む、お酒を頼むだけではなく依頼を受注したりもしている。
その依頼とは、基本的には依頼者の希望に沿ったものを納品したり、あるいは魔獣、魔物の討伐や賊の制圧だったりと、多種多様だ。
工事現場からの依頼だったら、岩を破壊する爆弾あるいはそれに類似するものが欲しい。
介護施設だったら病弱な人のための薬、栄養剤が欲しい。
孤児院だったら子供が喜ぶような遊び道具のようなものが欲しい。
警備隊だったら手ごろに扱えるような武器が欲しい。
キャロルはそのような依頼を数多くこなし、お金を稼いでいた。
得意の錬金術で普通の人でも扱えるような性能が高すぎない程度のそこそこの道具を生成し、それを納品する。あるいは、討伐の依頼を受けて軽々と達成し、報告。
そんなこんなでキャロルは今、割と大金持ちである。
元々錬金術の研究に没頭したい彼女は、ちまちま稼ぐのはだるいという理由から稼ぐときは思いっきり稼ぎ、あとは基本家に籠るのがいつものスタイルとなっている。
だが別に、キャロルは大きな町を訪れるのも特段嫌いと言うわけではない。
住む分には嫌なのだが、たまに遊びに来るぐらいならむしろ好きな部類になる。
普段家にいる時は食べれないようなものを食べ歩きしたり、家の周りでは中々手に入らないような珍しい錬金素材を買い漁ったり、せっかくだしお土産でも買おうとしてエルフナインにも買ってあげようとしたけどこの前大量の食料を賊に分け与えたことを思い出して無性に腹が立ち自分の分だけ買ったり、酒を飲みまくっていたり。
ついでに言えば、ガキがこんなところで飲んでるんじゃねーよと絡んできたチンピラをぶん殴ってボコボコにしたり。一人で静かに飲んでいたのに変な酔っ払いがナンパしてきたので「お前ロリコンかよ、死ねッ!」と言ってボコボコにしたり。
そして今日も、酒を飲みながら依頼金を受け取りに来ているのであった。
「だいぶ稼げたな、この町で結構遊びつくしたし俺もそろそろ家に帰ろうかな」
「ん、嬢ちゃんはやっぱりこの町の人間じゃなかったのか」
「ああ、結構離れた場所だよ。ちょっと金が欲しくてな、この町に来てた」
もしキャロルがこの町に住んでいたら、奇抜な恰好に加え、凄腕の錬金術師がいるという事で町の有名人になっているのは間違いない事である。
しかしそうではないという事は、別の所にいるのではないかとマスターは推測していた。
「やる事なくなったしな、家に戻って新しい研究を……って、ん?こんな依頼前来たときあったか?緊急依頼?」
「ああ、それが来たのはつい最近の事だ。嬢ちゃんは最近この町に来たのなら、緊急依頼の事は知らないよな」
「……なんだこれ、報酬がやけに大きくないか?しかも、キャンセル料も無しだと?」
キャロルが見たその依頼は、普段自分が受けていた報酬の高い依頼と比べても、かなりの大きい額であった。
そして、キャンセル料が無し。これは、普段の依頼ならば一度引き受けた依頼を達成できなかったあるいは諦めた時に、依頼者にキャンセル料金を支払わなければならない決まりがここにはある。いわば、罰金のようなものである。
だが、この緊急依頼はそのキャンセル料が無い。依頼を失敗しても、罰金は無くてもいいという事になる。
「その依頼は個人的に出している物ではなく、国や町が出している依頼だ。それも、急を要するからその分報酬もクソ高いって事になるんだよ」
「……って事は、その分達成が難しかったり、あるいはリスクを伴う依頼って事なのか?」
「ご名答、嬢ちゃんは察しがいいな。ちなみに今回のは調査依頼らしく、情報量が少なすぎる為私もいまいちわからないんだ」
「内容は……正体不明の化け物に森で襲われた?化け物に触れた人が炭化して死滅……なんだこれは?」
思った以上のデンジャラスな依頼内容にキャロルは驚き、思考する。
どこかでそんな化け物の文献も目を通した気もするが――――いまいち思い出せないでいた。
「まあいい、その化け物とやらも中々に興味深いし受けてやるよ、その依頼」
「そいつは助かる……正直な話、危険度が高すぎて誰も受ける人がいなくてな、困り果ててた所だ。完全に依頼達成で全額、情報を持ち帰ってくれれば報酬の何割かが支給される」
「オーケー。まあ、パパッと解決してやるよ」
キャロルはこの依頼に錬金術師として非常に興味を持っていた。「世界を知る」、すなわち未知の物に対しては解き明かしたくなる性分なのだ。
この辺の国や町が危険に晒されている事に対して助けてやろうと全く思わなかったわけではないが――――どちらかと言えば、自分が興味を持ったことが依頼を受けた最大の理由である。
(しかし人を炭化させる化け物か……何だったっけな、そんな奴聞いたことはあると思うんだが)
キャロルは一度宿に戻り、化け物討伐の為に準備を進める。
―――
(うーん……暇だなぁ)
場所は変わってキャロルの家。
ここでエルフナインは、暇を持て余していた。
留守番という事で現在一人でいるエルフナインは、家事などやる事をすべて終えて時間が有り余っている状態なのだ。
ならば錬金術の研究、となるが行き詰っている状況。どんな天才であろうと、未知の物を作り出すのは相当難しい事である。
一度作った事のある物はレシピを作っていつでも作れるようにしてあるが、今は特に不足している物があるわけでも無い。
そんなこんなで何をしよう、となっていたエルフナインであったが、外の天気が良いという理由からベランダに出ていた。
(いい天気だし……お昼寝でもしようかなぁ)
寝れば頭がすっきりしていい考えでも思いつくかもしれない、そんな事を思っていた矢先だった。
(ん?……あれは)
こんな山奥には珍しく、一人の男がこの場所に歩いてきたのだ。
道中が険しい道というのもあって麓の村の人達ですら滅多に訪れない場所であるにもかかわらず、だ。
「……ここだったか。随分と探した」
「貴方は……今日は一人でここに?」
「ああ……頼みがある」
その来客とは、前回村を襲撃し、最終的にエルフナインが食料を与えた賊の頭である大男。
だが、今のエルフナインの目からは前回出会った時よりも心なしか小さく見えていた。覇気が感じられないとでも言うべきか。
「……わざわざここを訪ねて来るくらいです、ただ事ではないのでしょう?中に入ってください、とりあえず話は聞きますよ」
「すまない……恩に着る」
そうしてエルフナインは男を家に招き入れた。
心が落ち着くようにあったかいものを作り、二人飲みながら対談する。
「それで、話と言うのは?」
「……化け物の調査、討伐を依頼したい。報酬は俺から出せる物はごくわずかの金品くらい……足りないのなら、俺の命を差し出してもいい」
「……え、えーと?どういう事ですか?」
途中まではエルフナインも理解できた。何らかの化け物の調査、討伐を依頼したいと。
だが報酬で命を差し出すとまで来ればかなり物騒な話である。だがそれほどまでに、大きな事があったのだろうと推測する。
「とある森の中で化け物に襲われた俺達は八割が死んだ。しかも骨も残さねえ、炭になってな」
「そんな……しかも炭、ですか?」
「ああ、その化け物に触れた奴は一瞬にして炭にされた。そしてそいつには俺達の攻撃は何も通らなかった。打つ手も無く、俺は……仲間を囮にして、逃げてきたようなもんだ」
「攻撃も通らない……なるほど」
「だから俺はこの場所を死に物狂いで探した。特別な力を持つ錬金術師なら、何とか出来るんじゃないかって」
確かに、錬金術師は強大な力を持つ者であり頼れるならば真っ先に頼るべき存在なのかもしれない。
エルフナインは単身でここを訪れた理由に納得し、そして考える。
(依頼を受けるのは構わないのですが……)
頭を悩ませるのは、男が提示した報酬。
危険度を考えるのならば、この程度のわずかな金品では全く足りないと言ってもいいだろう。
そして命を差し出すと言っていた件。確かに、命と言うのは極上の錬金素材になり得るものだ。相手も、それをわかっていて報酬として差し出すと言っているのだろう。
この男の目を見る限り、仲間を見捨てて囮にして逃げたのではなく、仲間の敵を討つために逃げるしかなかったのだろうとエルフナインは推測していた。
「よし、良いでしょう。その依頼、受けますよ。報酬もいりません」
「恩に着……何だって?報酬がいらないだなんて、本気か?」
「ええ、ボクが個人的に引き受けるものなので同居人のキャロルからは協力を頂けるかは微妙な所ですが……出来る限り、何とかしてみせます」
「……ありがとう」
結局の所、エルフナインはお人好しなのである。
―――
現在、エルフナインは家の中の文献を漁りに漁っている。
手当たり次第にそれっぽいものを見つけては、違うと本をぶん投げ。あれも違う、これも違うと本をぶん投げ。
中には珍しい文献もあり、価値をつけるとすれば相当な値が付くであろうものすら――――お構いなしにぶん投げ。
エルフナインは特別整理整頓が苦手なタイプではないのだが――――何かに集中してしまった時にはそれにしか手を付けられなくなってしまうタイプであった。
「ただいま……っておい、何だこれ」
今回の依頼をこなすためにはそれ相応の準備をしなければならないと思い、一度家に帰ってきたキャロル。
そこで待ち受けていたのはゴミ屋敷のように変貌した家と、ぶつぶつ言いながら何かを探しているエルフナインの姿であった。
「……おい」
「あれも違う、これも違う……」
「……おい?」
「何ですか、今ボクは忙しいんで後にしてもらえませんか?」
後ろを確認もせずにそんな事をエルフナインに言われたキャロルから、何かがぶちっと切れるような音がした。
そして懐から取り出したのは、錬金術師お手製の杖。杖を媒体とし、生命エネルギーを効率よく放出するための便利な道具である。ちなみに、硬い。
「……よし」
キャロルは何かを決意し、杖を振りかぶった。杖は、それなりに硬い。そう、硬い。
「死ねクソがぁぁぁっ!!」
「ひゃんっ!?」
キャロルはエルフナインの頭を杖で思いっきりぶん殴った。あまりの痛さにエルフナインは床で悶絶。
ちなみに、エルフナインの身体は丈夫なので悶絶レベルで済んでいるが常人ならば最悪死んでるダメージである。そう、杖は硬い。
「何するんで……!?あ、キャロル帰ってきてたんですね」
「あ、じゃねえよっ!何で数日ぶりに家に帰ってきたらゴミ屋敷みたいなことになるんだよ!?」
「え?あ……本当だ、ごめんなさい」
「やっぱり気づいていなかったか……ったく」
ため息をつきながら今回稼いだ報酬のお金をその辺に置き、近くにあった椅子に座りながらキャロルはエルフナインを見つめる。
「んで、どうやったらこんな部屋が荒れるほど集中するような状況に陥ったんだ?」
「いや……まあ、ちょっと調べ事をですね」
「……まーた厄介事に巻き込まれたんだろ、どうせ」
「厄介事……まあ、厄介事になるのでしょうか。なかなか危険な依頼を引き受けまして、それの調べ事ですね」
「あん?何だそれ……まあいいや、俺も中々な依頼がもう一個だけあってな、それの準備に一度家に戻ってきただけだ。何でも人を炭化させる化け物が出たとかなんとか……」
「炭化……えっ?」
「まあ、ヤバそうだったら様子見程度で戻ってくるから。こっちにはテレポートジェムもあるし大丈夫だろ」
テレポートジェムとは、とある場所から自分があらかじめ決めた座標にワープすることが出来る、便利な錬金アイテムだ。
座標を定めていなかったりした場合稀に失敗して大変なことになるのだが、キャロルの家にしっかりと座標を定めているためそのような事故も起きることはほぼない。
そして文献はちゃんと片づけとけよーとだけ言い、自室へ戻り準備に入ろうとするキャロル。
だが、そうさせまいとエルフナインがキャロルの腕をつかみ動きを止めた。
「……何だよ、俺はまだ仕事が終わってなくてそれなりに忙しいんだぞ」
「実は……ボクの依頼も恐らくキャロルのとほぼ同一のものです。そして人を炭化させる化け物……対処法はまだ見つかってはいませんが、その存在に関する文献は先程見つけることが出来ました」
「……何?」
そう言ってエルフナインは一つの文献を手に取り、その中からとあるページを開く。ちなみに、文献の内容は歴史上の特異災害に関する文献であった。
「恐らくは……これです。大まかな内容しか書かれていませんが、人類を脅かす特異災害の一種である……」
「……ノイズ、だと?」
そこには、ノイズという生物なのかすらよくわからないイラストと内容が書かれていた。
キャロルの家の文献は基本的に錬金術による特殊コーティングがされているので、爆発にも耐える!錬金術のちからってすげー!
そしてノイズくんがアップを始めました。装者からはサンドバッグなのにモブにはめっぽう強いあの存在……