カヴァス?いやいや俺は   作:悪事

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第二話

  おいっす。俺です、シフです。カヴァスではありません。

 

  この間、キャメロット在住のアルトリア・ペンドラゴンさんに着いて行って、俺もキャメロット市民、というかキャメロットのワンコになりました。……ちょっとタンマ、俺ってば狼ですよ。それなのに城の中庭にポンと居させるだけとかどーなのよ。

 

 

  いや、別段人を襲うなんて真似はしないからいいけど、せめて屋根付きのスペースとか無かったの?まさかの放置プレイに俺もびっくりだぜ。びっくりと言えば、キャメロットに着いて最近急激に体が大きくなりました。それと個人的な朗報、今の俺の外見なんですが完璧にシフです。

 けど呼ばれる時はカヴァスです。色々と苦言を呈したいがとりあえず今は置いておこう。この俺の急成長、あの割と城内ではクールでいるアルトリアちゃんもびっくりしてたけど、案外あっさりと受け入れてしまった。

 

  まぁ、彼女の持つ聖剣も大概ファンタジーだしな。それからというもの、大きくなって以降は自分の食い扶持は自分で取ってくるようにし始めた。最近ではキャメロット飛び出して鹿やら猪やら捕まえるのにハマってる。食堂のおばちゃんたちが意外にも俺の狩りで手に入る肉類を歓迎している。ただ、この間お礼とばかり肉を料理して出してもらったが、生だった時よりもマズイってどういうこと?

 

 

  料理してくれたことは嬉しい。うん、感謝を素直にしたい。けど、味見せずに出すのはいかがなもんかと。ウェルダンとかって言うレベルじゃないぜ。泣く泣く自分で食べる分は狩った直後にローでいただき、他はキャメロットの食堂に回す。

 

  何故、俺が狩りを始めたのかと言うと。これには、とある兄妹が関係してくる。此処で言及した兄妹というのは何を隠そう、みんなご存知のアルトリアちゃんと彼女の義兄、ケイ兄貴のことだ。

 俺を連れて帰ってきたアルトリアちゃんと元のところに返してきなさい的なスタンスのケイ兄貴、兄貴は大きくなった俺の面倒が見切れるかと怒っていたが二人の口論はなんやかんやで妥協点を見出した。

 

  その妥協点というのが、餌は自分で見つけることというシンプルなものだった。えっ?俺の意見?喋れねぇイヌ科の狼さんに何を期待しとるか。まぁ、キャメロットは住み心地が良かったので餌は自分で見つけ食料の確保にも協力するようになった。その甲斐もあってか、割とケイ兄貴は俺が居ることを認めてくれたようだ。というか、あの人がヤバい。超偉い。書類作業やら食料の分配、巡回する騎士たちのルート設定やら雑務を一人でこなしている。この若干、過労気味なケイ兄貴は偶に俺のモフりに来る時があるので、その時は為されるがままでいることが多い。

 

  ともかく、ケイ兄貴、過労はダメですからね。

 

 

  しかし、こうしてキャメロットを内部から見てると、思ってたよりもヒデェな。諸侯たちがアルトリアちゃんの粗を探しまくり、彼女の決定に野次を飛ばす。下っ端っぽい騎士たちは堅物レベルの生真面目さなんだが、円卓の一部や王様お付きの魔術師ことマーリンが本当にヒドイ。こうして中庭で一時間ほど転がっていたが、その間に四、五人くらいは城にいる女の子にナンパしてたぞ。

 

 

  もっとも、ノリが軽く相手にされないことも多いようで。しかしナンパを休むことなく続けようとするのに関しちゃ、あの魔術師キャメロット一だな。

 

  あっ、ケイ兄貴がマーリンの尻を蹴っ飛ばした。仲が悪いな〜あの二人。様子からして付き合いは長いんだろうが、どうにもケイ兄貴はマーリンとの仲が悪いらしい。まぁ、あんなのが身内の近くにいるのはいい気分でもないよね。まっ、こっちは気楽に自由やってるが。

 

 

  マーリンを蹴っ飛ばして、鬱憤が晴れたのかケイ兄貴が苛立った目付きで城内へ戻っていく。ああ、またケイ兄貴は残業か。お疲れ様です。ケイ兄貴が離れていくと、こちらに気づいたのか俺の方にやってくる。こいつ、ニッコリ笑っているだけで胡散臭い。この男、ハッピーエンドに固執し過ぎな悪癖が見て取れる。しかも、そういったオチをつけるためなら善かれと思ってなんでもしようとする辺り、タチが悪い。

 

『やぁやぁ、カヴァスくん。今日も良い毛並みをしているね。触っても良いかな?』

 

  ヤダ、つーか却下じゃ。プイと顔を背けるジェスチャーで拒否するが、こいつ『ありがとう』とか言って問答無用で撫でくりまわしやがる。つーか、何の用だよ本当に。

 

『さて、君の手触りの良い毛並みを堪能させてもらったところで一つ良いかな?』

 

 

  意思疎通できない狼を相手に疑問を投げんな。それにこいつ、こっち見ねぇで自分の世界に入ったまま喋ってやがる。そういう演技がかった仕草は魔術師の習性なのか。

 

『いや、アルトリアが君を連れて帰ってきた時は本当に驚いたよ。久しぶりに彼女が晴れ晴れとした顔をしていて良い気晴らしになったと最初は思っていたけど。まさか君ほどの存在を引き連れてくるとは』

 

 

  んっ?何のことさ。

 

 

『実は君という存在が僕の(千里眼)で認識出来ていない。目で直接見ることは出来る。存在していることも、直接確かめられる。だが、君という存在が世界に現れるのは、まだずっと先のはず。空は赤く紅く染まり、天よりこの星とは異なる星から訪れる究極の一。大地と水、星は死に絶え鋼に染まった大地に降り立つであろう存在が、何故今このブリテンに?…………世界から存在と意思を吸収する狼血、もしや君は……』

 

  すまん、難しすぎる。難解な設定がバンバン飛び出して理解出来ん。俺は文句を言うように一鳴きしてマーリンの話を中断させた。

 

 

  マーリンに言いたいことはただ一つ。

 

  三行で頼む。

 

 

『……なるほど、それが君の願いなんだね。この滅びゆくブリテン、最後の神代を己の両眼で見届けようと。分かった、誇り高き狼の王よ。君があくまでその身をブリテンを照らす薪とすると言うのならば、その焚べられた覚悟と誇り、君の記憶、願いの全てを僕が語り継ごう。ありがとう。灰色の大狼、薪の王……カヴァスよ』

 

  あっ、俺の名前シフでよろしく……って、おい?なんか勝手にトンデモ解釈しおったぞ。この優男。おいおい言うだけ言って行きやがった!?あいつ、変な解説やらかしてブン投げたままとか悪質過ぎる!?

 

 

  なんか、電波気味なマーリンとの触れ合い(スーパー迷惑)を終えて、日は沈んだ夜間の事。俺は城の中庭で横になり空に輝く星を見上げる。星空を見て、在り来たりに綺麗だな〜思う程度には俺も情緒を持ち合わせている。ただ、夜間の中庭は昼間とは打って変わって耳が痛いくらいの静寂が寂しさを感じさせた。

 

 

  のんびりと空を見続けていると城の中から、ようやっと仕事を片付けたと思われるケイ兄貴がやってくる。平気そうに振舞っているが、あの苛立ちに満ちた目を見て三徹目かと予想を立てる。彼は疲れた足取りでこちらに歩いてきて、寝ている俺の前に立つと丸まっている俺の懐部分の狼毛に大の字で寝そべった。

 

  正直、このシフボディ。毛並みが良いため寝心地良いです。でも、兄貴。自分の寝室で寝た方が休めると思うよ。よりにもよって野外の中庭で寝るのはオススメしないよ。

 

 

 

『ったく……やれやれだぜ……』

 

 

  すんません、ケイの兄貴。残業でお疲れのところであることに加え、失礼なことも重々承知なんですが、やっぱり兄貴……スタ◯ド的なもん出せませんか?

 

  初対面から思っていたが兄貴の声は何処かのダイスケさん的な感じがする。それに兄貴、時たまジョ◯ョ立ち的なポージング取ったりするし。あと、泳ぐのがおっかないくらい早かったり、手から洗濯物乾かす熱線出したり下手をすると俺よりも人間をやめてる感じがしてならない。

 

 

『……おい、ワン公……まず礼だけは言っとく。てめぇが鹿やら肉やらを調達するから、あのバカ(アルトリア)の食費がそこそこ浮く。アルトリアがいきなり、狗っころを連れてきた時は驚いたがまぁそれなりに役に立つ事は出来るらしい。…………だが、てめぇ一体何もんだ?』

 

 

  ポケ……じゃなかったデジ……でもない。俺はシフというもんです。

 

 

『この神秘が枯れゆくブリテンに、二、三日程度でバカでかくなる獣がいてたまるか。それにあのろくでなしのマーリンでさえ、お前と言う存在を重く受け止めてる。あの阿呆が動く時は大抵、裏がある。それも一番重要な裏を隠しやがる。めでたしめでたしの大団円で纏めておけば、それまで失い犠牲にしたモノと帳尻が合うとでも思ってる阿呆が、てめぇを気にしてる。それがどういうことか、わからないほど頭空っぽでいるわけじゃねぇぞ』

 

  そんなこ〜と言われても〜。俺、毎日フィーリングで生きてる思考空っぽ狼だって。難しい話題を投げられてもどうしていいやら。よし、困った時の空を見上げる動作。どうだ、俺の渾身の疑問符のジェスチャーは。ケイ兄貴に伝われ、この思い(戸惑い)

 

 

 

『………………………なるほどな、まったく、あのバカは珍妙な奴ばかりに懐かれやがって。そんな理由だけで、てめぇは生まれ育った場所からキャメロットまでわざわざ来たと?』

 

  あれっ?若干、通じてそうな感じなのか?

 

  それなら、アルトリアちゃんに俺の名前シフに改名するようにーーーー

 

 

『だったら、好きにしな。全く、獣の方が下手な諸侯共より忠誠心が高いじゃねぇか。そういや、お前が来てからあいつも少しは昔みたいに笑うようになってきたな。もう一度、礼を言っとくぜ。……"カヴァス"』

 

 

  いやだから、カヴァスじゃなくてシフって……やっぱり、通じてなかったぁぁ!!!

 

 

 

 

 

  ブリテンは今、繁栄の時を謳歌している。この事実を僕は感慨を覚えることはせず、思った通りだと考えている。ブリテンを荒廃させた卑王の撃破などというのは、僕たちの王アルトリアには造作もない。ウーサーと共に理想の王として教導し見守ってきた彼女は、ブリテンを守護する赤き竜へ成長した。もちろん、これが彼女一人の成果だとまでは言うつもりはない。アルトリアの他に円卓の皆が尽力してくれたおかげもあるが、それでも彼女がいなければ成立さえしなかった光景がブリテンに満ちている。

 

 

  そう、この幸福と笑顔こそが僕が何より求めたもの。この尊い輝きこそ、一人の少女にあまりにも重い責務を背負わせてでも手を伸ばした景色である。それでも、この刹那はそれこそ瞬きの間に過ぎ行くと、悟った目で見ている自分がいる。そう、ブリテンは悲しいくらいに手遅れだ。神代が終わり神秘が消える時代の到来。それは当然の摂理、寿命とさえ言っても良い。

 

  終わりに近づくブリテンの中、僕はただ人々の営みと我が王の歩みの果てを眺め続ける。王と騎士たちをからかったり、女の子と遊んだり、そんな何時も通りの日常の中に新たなピースが嵌め込まれた。アルトリアが執務を片付け、ブリテンの巡回から帰ってきた時、彼女の側に一匹の狼がいた。彼女はその狼にカヴァスという名を与え共に過ごしたいと言った。

 

  ケイが久しぶりに言い負けた事でアルトリアのカヴァスに対する思い入れはよく分かった。しかし、僕はカヴァスという存在をこのキャメロット、いやブリテンでさえ"見た事"が無かったことに警戒を覚えた。千里を見渡す眼を持つ魔術師をして見通せない存在。もしや、かの卑王や猪の王のようなブリテンに仇なす怪異かとも考えた。

 

  カヴァスという存在を観察し続け、彼は万物の存在と記憶を吸収し成長する生命だと判明した。ブリテンに来て、巨狼というまでに成長したのはこの事実に依るものだろう。だが、しばらく観察をして見ても彼の目的が曖昧なままだ。あれほどの存在が、何故このブリテンに現れたのか?万物の存在と記憶を集め、己が肉体を強化し続ける。この星の生命でも似たようなことは出来るかもしれない、けれど彼のように生物、植物、無機物などと種別を分けず無作為に存在、いや魂を吸収し続ければ器が()つ筈がない。

 

 

  吸血鬼だろうと神だろうと不可能なことを息をするように行う彼が、何故ブリテンへと現れたのか。それは明らかにしなければならない事で、ある日の昼下がり。いつも通りに過ごしていると、キャメロットの中庭に留まる彼を見つけた。

 

 

  あの大狼の真意を知る絶好の機と彼へ近づくことにした。無論、無警戒に近づくのではなく襲われた時のための備えもした上で。手を伸ばせば触れることもできそうな距離まで来る。

 

「やぁやぁ、カヴァスくん。今日も良い毛並みをしているね。触っても良いかな?」

 

  冗談半分に話しかけてみると、意外なことに"好きにしろ"というように首を出してくれた。そのことを少し意外と捉えつつ、彼の体に直接触れる。直接、触れた事で彼の体に宿る膨大とも言える力の一端を理解する。少し、触れる時間が長すぎたかと手を離し、にこやかに微笑んでみる。

 

「さて、君の手触りの良い毛並みを堪能させてもらったところで一つ良いかな?」

 

 

  直接、触れられた事は偶然であったが多くの収穫があった。その情報を以って、本題を告げよう。

 

 

「いや、アルトリアが君を連れて帰ってきた時は本当に驚いたよ。久しぶりに彼女が晴れ晴れとした顔をしていて良い気晴らしになったと最初は思っていたけど。まさか君ほどの存在を引き連れてくるとは」

 

 

  時の彼方、神代もそして、人の世界も全てが終焉する大地に降り立つはずの存在。別の天体より訪れる究極の一。万物を吸収し、無尽蔵に自己を強化し続ける万象の捕食者(プレデター)。何故、そんな存在がこのブリテンへ流れ着いたのか。

 

「実は君という存在が僕の目(千里眼)で認識出来ていない。目で直接見ることは出来る。存在していることも、直接確かめられる。だが、君という存在が世界に現れるのは、まだずっと先のはず。空は赤く紅く染まり、天よりこの星とは異なる星から訪れる究極の一。大地と水、星は死に絶え鋼に染まった大地に降り立つであろう存在が、何故今このブリテンに?…………世界から存在と意思を吸収する狼血、もしや君は……」

 

 

  この大狼は、もしや彼女の行き着く果てを傍観しようというのか?己の思考に没頭している中、思索する僕を掣肘するように彼は短く、だが力強さを感じさせる一吠えを鳴らした。それはまるで"アルトリアの運命を、その願いを守ろう"という言葉にも取れた。気の所為だったのかもしれない、けれど確かに彼……いやカヴァスは彼女の守ろうとするブリテンを見守る眼をしていた。

 

  彼の吸収した魂の、存在の力を滅び行くブリテンを支える残り火へしようというのか。そう、カヴァスも彼女に希望を望んだ者。例え、人であらざるとも彼もまた自分と同様に希望と幸福を慈しむ同胞だったのだ。

 

「……なるほど、それが君の願いなんだね。この滅びゆくブリテン、最後の神代を己の両眼で見届けようと。分かった、誇り高き狼の王よ。君があくまでその身をブリテンを照らす薪とすると言うのならば、その焚べられた覚悟と誇り、君の記憶、願いの全てを僕が語り継ごう。ありがとう。灰色の大狼、薪の王……カヴァスよ」

 

 ーーーー彼女とカヴァスを出会わせた運命に祝福を。

 

 

  僕はそんな言葉を胸にしまい、晴れやかな心持ちで城内へ戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  やれやれ……最近は憂鬱な気分と愚痴が止めどなく零したくなる。あの卑王を斃した事でブリテンは一時平和を謳歌している最中。だが、俺としてはこんな平和クソ喰らえだ。未だ、ブリテンは危機を乗り越えきれていない。消え逝く神秘、侵略者たる蛮族、諸侯の不穏な動き、詰んでいる。ブリテンの大地が枯渇するリミット、足を引っ張り合う自陣、侵略を目論む外敵、無理難題のオンパレード。

 

 

  正直、こんな国のどこに期待すれば盛り立てられるとでも思ったのか。親父(ゴミ)詐欺師(クズ)に唆され、理想の騎士王へと祭り上げられた義妹。彼女は自分をどう思っている。ブリテンを守れてよかった?ふざけろ、その中にお前がいないで何の意味がある。

 

 

  あの出来のいい義妹(バカ)は理想に取り憑かれてしまった。そのためなら、何もかもを捨てられるほどに。あいつが夢の中でまでマーリンに王としての指導を受けていると知った時、既に手遅れなのだと悟った。もし、あいつが聖剣(呪い)を手にする前に止められていたら、こんな妄想は価値も意味もない。それでも、思い描いてしまう自分自身がどうしようもなく腹が立つ。

 

  結局、今の俺には執務で足掻く程度しか出来ない。あいつの、アルトリアが少しでも年頃のガキらしくしてやれるように机に向かうだけ。円卓の騎士共も執務に励んでいるが、自分でやった方が手っ取り早い。そんなぶっ倒れそうな政務の日々、我が義妹殿はまた厄介ごとを持ち込んできた。

 

  何でも、蛮族相手に一歩も引かず立ち向かった獣だそうだが……王としての執務と蛮族撃退に追われるお前に世話できるものか。懇切丁寧に理屈を叩き込んでやったものを、どうしても諦めさせられなかった。あの頑固頭を説得する事もやりようがあったが、少しでも気を抜ける相手がいるならと妥協点を出してしまった。

 

 

  それを間違いだと思ったのは数日してからの事だ。デカい……説明不要なくらいに。あ?成長期だ?待て、それで済ませていいわけねぇだろうが。今のキャメロットでこんな巨大化する獣がいるわけがない。近場の何か知っていそうなマーリンを問いただしてもろくに(こたえ)やしない。

 

 

  それどころか、本日も漁色に勤しんでいて……ムカついた余り背後から蹴りつけた。それでも懲りない辺り、これはこのアホの(さが)なのかと感心したものだ。

 

 

  今日も今日とて日は落ちる。沈む日を見るたび、これが最後になるのでは……という奇妙な感触が背筋に疾る。ブリテンは斜陽に差し掛かった、もう滅びは逃れ得ない。いや、世界の全てはいずれ滅びるものと理解はしている。ただ、その滅びる瞬間を背負うのが義妹である事に憤りを持つ。

 

 

  執務をあらかた始末し、城の中庭に向かう。アルトリアとの妥協の結果、あの大狼は中庭を住処とするとした。中庭に着くと案の定、あの大狼は中庭に佇んでいた。その場にいるというだけに関わらず、ひしひしと伝わる存在感。あの灰の大狼、やはり只者ではない。

 

「ったく……やれやれだぜ……」

 

 

  どうして、荒事お断りの俺が執務以外の事に頭を悩ませなければならんのか。こいつの危険度は未知数、下手を打てばお陀仏かもしれないが、それでも正体を探らねば。

 

 

「……おい、ワン公……まず礼だけは言っとく。てめぇが鹿やら肉やらを調達するから、あのバカ(アルトリア)の食費がそこそこ浮く。アルトリアがいきなり、狗っころを連れてきた時は驚いたがまぁそれなりに役に立つ事は出来るらしい。…………だが、てめぇ一体何もんだ?」

 

 

  狗っころなどという俺の挑発に動じる事なく、奴は灰色の尾を静かに揺らす。

 

 

「この神秘が枯れゆくブリテンに、二、三日程度でバカでかくなる獣がいてたまるか。それにあのろくでなしのマーリンでさえ、お前と言う存在を重く受け止めてる。あの阿呆が動く時は大抵、裏がある。それも一番重要な裏を隠しやがる。めでたしめでたしの大団円で纏めておけば、それまで失い犠牲にしたモノと帳尻が合うとでも思ってる阿呆が、てめぇを気にしてる。それがどういうことか、わからないほど頭空っぽでいるわけじゃねぇぞ」

 

 

  此処で、こいつのとる行動如何によっては剣を抜くのも覚悟する。しかし、こいつは俺の尋問へ応じる事もなく、首を上げ空を見上げるのだった。透き通る野心、陰謀、邪欲の無い獣の瞳は、欲と願い(エゴ)で生きる人間にとっては思わされるところがある。

 

  その姿が、どうにも自分と……今の己に似通ったモノを思わせた。そうか、こいつもあの無茶ばかりするあいつが放置できなかったのか。そんなあいつのためにわざわざ、キャメロットに着いてくるとは。忠義とは命令に従うことではなく慕われて相手に報いるという事を今更に気づいたのだ。忠誠なんざ、意識もしてねぇ動物がしかして誰よりも忠義に厚いという運命の皮肉に苦笑する。

 

 

「………………………なるほどな、まったく、あのバカは珍妙な奴ばかりに懐かれやがって。そんな理由だけで、てめぇは生まれ育った場所からキャメロットまでわざわざ来たと?」

 

  変わらず、こいつは日の沈んだ夜天を臨んでいる。それが、そんな姿がある記憶を思い起こさせた。クソ親父殿が酔った勢いか、唐突に動物の話をしてきた事を。

 

 

 "子供が産まれたら子犬を飼うがいい、子犬は子供より早く成長し子供を守ってくれるだろう。そして子供が成長すると良き友となる。多感な年頃に犬は年老いて死ぬだろう。犬は子供だった大人に教えるのだ。死の悲しみを"

 

  もし、アルトリアがウーサーやマーリン、俺たちと出会うより先に、こいつ(カヴァス)に出会っていたら。きっと、何か変わっていたかもしれない。そんな気がした。けれど、今からでも遅くないのかもしれない。こいつが来てアルトリアは以前より笑うようになった。

 

 

  こいつは俺が何を言ってもキャメロットにいるだろう。そして、アルトリアを支えようとする。それを悪くないと思っている自分がいるんだ。

 

  反対しようにも、もはや反対する気が起こりゃしねぇ。

 

「だったら、好きにしな。全く、獣の方が下手な諸侯共より忠誠心が高いじゃねぇか。そういや、お前が来てからあいつも少しは昔みたいに笑うようになってきたな。もう一度、礼を言っとくぜ。……"カヴァス"」

 

 

  礼を言わせてもらうぜ、カヴァス。お前があいつ(アルトリア)と出会ってくれた全てにな。

 

 

 ーーーーまったく、やれやれだぜ。

 

 

 

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