カヴァス?いやいや俺は   作:悪事

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第四話

 もしも、なんて仮定の話に意味はないはずだ。それでも、もしとか、たらればの話を人がしてしまうのは、きっと如何にか出来たはずのことが出来なかったからなんだろう。

 

 俺ことシフは、キャメロット城の中庭を住処とする狼である。周囲の人々はカヴァスと俺を呼ぶが、シフで呼んで欲しい。日々、もっぱらキャメロットを走り回ったり獣を狩ったりとそこそこ忙しくも楽しく平凡な狼ライフを満喫している。しかし、ちょうど暇してた時にアルトリアちゃんが俺を呼んできた。

 

 

 この時の俺は、これがあんな事態を起こすなんて事を、知らずにいたんだ……

 

 

 曰く、どっかの村が襲われているため急いで乗せてくれという次第。無論、ノリノリで一鳴きして準備万端である。40秒で支度(したく)しな!なんて言うまでもなく準備万端なアルトリアちゃんを背に俺はキャメロットを発進した。他の騎士たちの騎馬も十分に早いんだが、やはりこのシフボディに追いつけるものなど皆無だったか。

 

 イヤー、ツライわー。シフの駆け足が速すぎてお馬さんよりもスピードで上回っているとか、ツライわー。な〜んて冗談は、さておき俺とアルトリアちゃん、少し遅れて他の騎士たちは(くだん)の蛮族だかエイリアンだかに襲われている村へと着いた。

 

 

 おい、ピクト人って蛮族というか地球外生物ではないか?正直、こいつらの外見にしてもキャメロットで雇用されている騎士たちを相手に素手で互角な事実にしても、普通の人間では考えられないんだが。そんなエイリアンクラスの怪人たちを剣やら牙やらでバッタバッタ倒して、如何にか退却にまで追い込んだ。民を傷つけられ、怒り心頭なアルトリアちゃんは騎士たちを率いて、奴らを追い詰めていく。

 

 そんな時、偶然か知らんがピクト人の一人がちょうど、後ろを向いたタイミングでアルトリアちゃんは、ばっさりと剣を振り下ろしてしまった。そんな騎士らしからぬ行為にアルトリアちゃんは、衝撃のあまり聖剣をポロリと落としてしまった。

 

 

 そう、これが今回の事件の始まりであり終わりでもあったんだ。

 

 

 

 ショックだったんだろう。アルトリアちゃんの敵味方を思いやる心はほんま癒しやで〜。愕然と自らの手を見つめる彼女に気を使って俺は彼女の聖剣、カリバーンを(くわ)えて彼女に渡そうと(こころ)みた。

 

 カリバーン、伝説に曰く選定の剣。俺はこれがビーム出る剣としか思っていないんだけどね。まぁ、剣は剣だ。斬れれば良いのかと思いつつ俺はカリバーンを口に(くわ)える。俺ことシフは賢い狼だ。決して主人の宝もの的なサムシングの聖剣を、躾けのなってない犬みたいに(よだれ)まみれにすることなどあってはならない。そんな風に力を入れていたことが、あんなことになるなんて……

 

 

 俺はカリバーンを咥えていた時、(よだれ)で汚さないよう顎に力を入れた。そうすると、なんということでしょう。

 

 

 美術品としても高い価値を見込め、武器としても優秀な性能というかビームを出すカリバーンは、俺の咬合力(こうごうりょく)をモロに受けてしまったのである。

 

 

 その結果、"折れました"。

 

 というか、噛み砕いちゃいました。結構、根元の方からパリンと。バリンだったっけ?いや、それどころじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 おいおい、こんな聖剣で大丈夫か?

 

 大丈夫じゃねぇ、大問題だ。

 どーすんの、これぇぇぇぇ!?

 

 

 うん、あれはヒドい事故だった。選定の聖剣が折れて(噛み砕かれて)しまい、アルトリアちゃんは新しい聖剣を貰いに湖の乙女さんとこに行くことに。もちろん、俺はアルトリアちゃんの行くとこに向かうぜ。いつでも足代わりに頼ってくれよ!

 

 

 嘘です。罪悪感で死にそうなんで是非とも私の背中に乗ってください。

 

 

 ……そして、湖の乙女の住まう湖畔に到着した訳だが、どうすんだろ。えっ?これ、もしかして湖の乙女とかいう妖精が出るまで待機する感じなんですか?アルトリアちゃんは湖畔に座って俺のモフモフを枕に待つ構えのようだ。それで、半日弱くらい待っていると湖から女性が現れたではありませんか。

 

 正直、美人で良かったと思う。ここまで待たされて美人じゃなくておっさんとか出てこられた日には、シフボディの全力タックルをお見舞いするところだ。後はアルトリアちゃんが聖剣もらってお終いだろうと、俺は体を伸ばして眠気ざましに頭をブルブル振るう。

 

 

 さて、いつ頃に話が終わるかなー。なんて、考えているとアルトリアちゃん、湖の乙女さんは俺を見てくるのです。やっべ、俺が剣を噛み折ったのバレたんだろうか。そんな不安が胸中浮かぶ中、凝視されっぱなしは心臓に悪いので二人の元に歩いていく。

 

 今の気分は窓ガラスを割ったのがバレて職員室に呼び出しくらう小学生みたいな感じっすわ。アルトリアちゃん、湖の乙女さんのお膝元に来て戦々恐々としていると、湖の乙女さんが口を開く。

 

 

『……あなたほどの方も彼女の力にならんとするのですね。そう……それならば私も決断しなくてはならない局面にあるのでしょう。……騎士王アルトリア・ペンドラゴン、灰燼(かいじん)の巨狼カヴァス。あなたたちの可能性を信じ、星の内海にて鍛えられし二振りの剣を預けます』

 

 

 えっ、マジっすか。それはつまり、俺ももらえるってことなの?

 

 湖の乙女さんは無言で二本の剣をこちらへと渡した。アルトリアちゃんは、カリバーンに似通った形状の輝く聖剣。これには十二の封印が課せられているらしく、それを満たさなくては真の力は発揮できないという代物らしい。そして、俺に渡された聖剣だが、人が扱うことを想定していないような大剣のような形状で驚くことにアルトリウスの剣にそっくり。

 

 それに聖剣の()も"アルトリウス"という奇妙な一致。これで俺もシフとして一歩成長するのかなぁ〜なんて浮かれていられるほど美味い話ではなかった。

 

 

 この"聖剣・アルトリウス"は持ち主の真の能力を封じるという自己封印宝具。しかも、神造兵装というだけあって、異常というくらい力を拘束される。いや、なんか封印されている力を蓄積(溜め込み)、そして自己を強化するか、他者へと受け渡すというモノらしいが、ビーム出ないの?

 

 溜め込んだ力は全て身体能力の強化に回る?何その脳筋の究極系みたいな力は?

 

 つまり、力をストックする聖剣ってこと?まんまワンフォーオールじゃないですか。

 

 

『アルトリア、カヴァス、あなたたちの選択と運命に全てを託します。どうか、あなたたちの行く先に良き記憶のあらんことを』

 

 

 この言葉は、何か俺たちを気遣うような優しい声色を感じた。もしかして、俺がカリバーンを壊したのバレているのか?それを見越して、釘でも刺しているのだろうか?

 

『ええ、どうか心安らかに。この託された聖剣を必ず貴女の元へお返しします』

 

 

 うん、俺もとにかく首をブンブン振る。絶対、今度こそ壊しません。さっきから冷や汗ダラダラで心臓に悪いんだよな。そんなこんなで、もらった聖剣・アルトリウスの持ち手部分を咥えて俺とアルトリアちゃんはキャメロットへの帰路に着くのでした。

 

 

 …………あまりに超展開過ぎて着いていけないけど、一つ言わせてくれ。

 

 

 俺の名前、シフでお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が王に相応しいのか。選定の剣を抜いたその時から、私は王として生きていくことを心に決めた。しかし、それでも考えてしまう。もし、自分よりも相応しい者がいるとしたら。あの時、選定の剣を抜くことをしていなければ。考え出すだけで思考は泥沼で動けなくなる。

 

 アルトリアという少女からアーサー王というブリテンを治める者へと私は成長を遂げた。卑王ヴォーティガーンや猪王トゥルッフ・トゥルウィス、海の果てからやってくる蛮族たち。多くの難敵との戦いを制し、王としての日々に慣れ始めていた時の事だ。

 

 蛮族出現の一報を聞いた私は、カヴァスと共に報告にあった村へ全速力で駆けて行った。襲撃していた蛮族たちを今度はこちらが強襲し、敵を潰走にまで追い込んだ。無辜の民を傷つけた蛮族に怒りを覚えていたのだろうか、カリバーンに魔力を供給し続け極光の刃を感情のまま振るい続けた。

 

 

 退いていく蛮族の追撃を行なっていた時、私は逃げる蛮族を騎士としてあるまじきことだが、背後から斬りかかってしまう。この卑怯な行為を自分が行ったという事実に愕然とし、私はカリバーンを手から取りこぼす。

 

 

 

 騎士としてあるまじき行為ゆえか、はたまた聖剣に許容量を超過する魔力を乗せたためか、聖剣は根元より破損し折れていた。折れた剣を咥えたカヴァスは、どこか悲しそうに私を見ている。それは怒りに翻弄される私の姿を見てか、聖剣が折れて焦燥している私を案じているのか。

 

 

 すみません、カヴァス。心配をかけて。……折れてしまった聖剣をカヴァスから預かり、私たちはキャメロットへ帰って兄とマーリンに全てを打ち明けた。

 

 

 兄はカリバーンを折ってしまった事を追求せず『働き過ぎなんだよ、ド阿呆が』と言って休むように告げられた。一方、マーリンは私とカヴァスにある場所へ行くことを勧めた。湖の乙女が住まう湖に私とカヴァスの二人で新たな聖剣を譲り受けてくるようにと。

 

 兄の休むようにという勧めと、マーリンの導きを聞いて、私とカヴァスは妖精の住む湖へ向かうことにした。それは王としての責務に没頭する生活とはまた違った時間だった。カヴァスの背に乗り、目的地へと向かう旅。それは私がもう手に入らないと思っていた普通の少女のような時間。こんな普通を、日常を守るために私は前を向かなくては。

 

 カリバーンを折ってしまい沈んでいた気分は、カヴァスのおかげで解消された気がする。そう、聖剣を折ってしまった瞬間も、蛮族や怪異、猪王といった難敵たちとの戦いの時も、いつだって彼は私と同じ場所で同じ思いでいてくれたんだ。

 

 湖畔に着いて妖精を待つ少しの間、私はカヴァスの体に身を預けて日向(ひなた)で少しの微睡(まどろ)みについた。何も特別なことのない時間、私は一人の少女としての自分がいたという事を再確認し、十分な休息から目覚めると湖からこの地を守護する妖精が現れたではないか。

 

 

 

 私はマーリンの勧めで此処に訪れた事を告げ、彼女が持つ聖剣を借り受けられるかと問いかける。すると、湖の乙女は私の瞳をじっと見た後に目線を背後のカヴァスへ。それに連られて私も思わず背後へ振り向く。突然、目線を浴びた彼は静かに私たちの方へと歩み寄った。

 

 

 湖の乙女は私とカヴァスの二人を見つめ、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「……あなたほどの方も彼女の力にならんとするのですね。そう……それならば私も決断しなくてはならない局面にあるのでしょう。……騎士王アルトリア・ペンドラゴン、灰燼(かいじん)の巨狼カヴァス。あなたたちの可能性を信じ、星の内海にて鍛えられし二振りの剣を預けます」

 

 彼女はカヴァスが何らかの超常存在だという示唆を口にした。それだけではなく私とカヴァスの両方に聖剣を与えたのだ。星の内海より鍛えられた神造兵器たる聖剣を二振り。はっきり言ってこれは尋常ではない。私は聖剣を諸手で受け取り、カヴァスは巨大な大剣の柄を己の顎門で(くわ)え受け取った。

 

 

 カヴァスの預かりし聖剣、その銘はアルトリウス。私に似通った銘の聖剣をカヴァスは不思議そうに咥えたまま、剣を右側から左側、左側から右側へ持ち変えたりしている。

 

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)と共にカヴァスが得た聖剣・アルトリウスには、力の収束・蓄積を行う力を有している。約束された勝利の剣(エクスカリバー)が人々の"こうあって欲しい"という願いを元に結晶化したものなら、カヴァスの持つアルトリウスは人々の"次代へと受け継ぐ"という意思を核に現出された聖剣。カヴァスの持つアルトリウス……その名の意味は、"()()ぎし約束の剣"。人々が絶え間なく行う次代への継承、人々の営み()という歩み(進歩)を約束する聖なる剣。

 

 受け継ぎし約束の剣(アルトリウス)、人々の歩みを祝福する聖剣。湖の乙女は、カヴァスを超常なる存在として扱っていた。それでも、私にとってのカヴァスは一人の友に相違ない。私はカヴァスを最後まで信じ続ける事を誓う。友への誓いを無言で胸に秘めると共に湖の乙女は別れの言葉を紡いだ。

 

「アルトリア、カヴァス、あなたたちの選択と運命に全てを託します。どうか、あなたたちの行く先に良き記憶のあらんことを」

 

 良き……記憶?

 

 不思議な言い回しに疑問が浮かんだものの、湖の乙女は静かに消えてゆく。消えてゆく彼女の笑顔があまりにも儚く映ったためか、去りゆく彼女に向けて私は厳かな宣言をした。

 

 

「ええ、どうか心安らかに。この託された聖剣を必ず貴女の元へお返しします」

 

 

 その宣言を終え、私とカヴァスはブリテンへと帰還する次第となった。そして、あの時の私たちは、この場での宣言が果たされる瞬間の事を、想像もしていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリテンを治める赤き龍が私の元に訪れた時、私は二つの事に関心を持った。一つは彼女の連れている存在、次いで二つはそれを恐れる事なく共にいる彼女の心に。

 

 世界、いいえ、この星から神秘が急速に消えていく。神秘は薄れ、神代は終わり人理が世界を統べる時代が到来する。そこに幻想の居場所はなく、星の内海、世界の裏側へと旅立つ時は近い。しかし、そこに"待った"をかけた一人の男がいた。人と夢魔の混血児たる花の魔術師は、星の内海へ旅立つのを待つように願い出た。もはや、世界から我ら幻想の住処が消える中、彼は一人で幸福な結末とやらのため奔走していたのである。

 

 

 結果として私は彼の口車に乗せられ、ブリテンの片隅にある湖で"その時"という来るかも分からない時を待つこととなった。

 

 

 待ち続けて、数年ほどの時が流れる。幻想たるこの身には数年など大した時間ではないが、それでも幻想が消えゆく世界に留まり続けるのは負担であった。そして、花の魔術師が告げた"その時"が訪れた日、少女を乗せた狼という風変わりな一組みが湖へとやってきた。

 

 

 少女は光を放つような金髪を靡かせ、その総身から生命の光輝を感じさせた。花の魔術師が入れ込むのも分からなくない。あれほど、生き生きと生命を謳歌する存在を見つけたならば、肩入れしたくなるのもわかる。だが、もう一方の狼は少女とは真逆の印象を見せた。

 

 

 燃えた灰のような灰色の毛並み、禍々しさを感じさせる強烈な瞳、世界の万象から生命を奪い己の体内に蓄えて自己を強化する怪物。純粋な幻想種である自分だからこそ分かったあの狼の特異性。本来であるならば、あの生物は世界を終わらせていなければおかしい存在なのだ。人が世界を統べる人理の時代であろうと、神秘が薄れゆく時代であろうと、神秘の満ち足りた神代であろうと、あの生物が出現すればそれだけで世界は切り替わる。

 

 

 それは火の時代。生物から死が消え存在の消滅が意味を成さなくなる時代。強靭な魂を薪とし続けなければ、即座に滅びる恐怖の時代。

 

 時代どころか、世界の基軸を根底から覆す形容も出来ない化け物。そんな化け物が、金髪の少女を寄りかからせて枕代わりに甘んじている。そんな嘘みたいな光景が目に飛び込んだ。それを信じられず中々、彼女らの前に出られなかったが覚悟を決めて私は彼らの前に姿を見せることを選ぶ。

 

 ようやく、湖畔へ出てきたところに聖剣に選ばれた騎士王が近づいて来る。彼女の瞳を見て理解が追いつく。あの灰の巨狼は、彼女だからこそ力と忠を尽くす事を決めたのだと。

 

 

 だとしたら、もう幻想の時代はお終い。これからは彼女のような人々の時代。私は図らずも、いや花の魔術師の計らいなのか、神代と決別する事を選んだ騎士王に星の願いより生み出された希望を託す。でも、それだけでは面白くない。最後まで花の魔術師の手の平というのは望ましくない。

 

 それなら、彼女と共に進むであろう彼にも託そう。

 

 

 星が連綿と受け継いできた継承の誓約を持つ剣を……

 

 

「……あなたほどの方も彼女の力にならんとするのですね。そう……それならば私も決断しなくてはならない局面にあるのでしょう。……騎士王アルトリア・ペンドラゴン、灰燼(かいじん)の巨狼カヴァス。あなたたちの可能性を信じ、星の内海にて鍛えられし二振りの剣を預けます」

 

 

 騎士王は驚いたような仕草を、灰の巨狼……いいえ"カヴァス"は頭を挙げ真っ直ぐな瞳で見つめてくる。ああ、そうか彼女たちなら次代の希望を託せる。いつとも知れない"その時"を待つため留まり続けてきたことに意味はあったのだ。

 

 

 騎士王とその猟犬の両名に祝福を。願わくば、彼女らの行く先に幸福を。

 

 

「アルトリア、カヴァス、あなたたちの選択と運命に全てを託します。どうか、あなたたちの行く先に良き記憶のあらんことを」

 

 

 


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