早指し鴉の行く末   作:あーけろん

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今回短いです。お待たせして申し訳ありません。受験のゴタゴタが終わるまでしばらくお待ちください


疲弊する鴉

 

綺麗な夕日が喧騒な町並みを照らし、多種多様な影を生み出す。ある種幻想的な景色の中、一人の青年が街中をゾンビの如く徘徊していた。足は遅く、歩くたびに頭が揺れ地面に張り付く黒い影を揺らす

 

煤れた雰囲気を放つスーツ姿の青年の様な姿を見て、一体どれだけの人が彼を現二冠を保持する『烏丸 博之』と思うだろうか?

 

 

「…疲れた」

 

 

そう呟くと、家を目指してまたトボトボと歩き出す。プロ棋士である彼の強靭な精神がここまでズタボロにする出来事が、彼に二つも襲いかかった

 

 

一つは『浪速の白雪姫』こと超絶美少女『空 銀子』の恋愛相談

 

普通の恋愛相談ならここまで披露しないが、彼女の恋愛は詰将棋もびっくりな位の複雑さであったのだ

 

彼女は全く素直じゃ無い。その為普通の恋心では考えられない様な話が烏丸に降り注ぎ、彼の精神をじわじわと削っていった

 

そんな話の中に時折まざる惚気話も、彼を疲労させる要因の一つのなった事は言うまでも無い

 

 

その彼女の説得に彼は多大な労力を割いたのだが説得の甲斐は無く、明日九頭龍の家で研究会をする事になった

 

 

 

二つ目は今回の対局で負けた清滝九段による放尿である

 

本当に放尿したのである。比喩でも何でもなく、事実として

 

対局の結果は烏丸の予想通り、九頭竜竜王の勝利で幕を降ろした。だが、その後何をトチ狂ったのか清滝九段がその場で失禁したのだ

 

その時の烏丸は銀子に削られた心を癒すためにモニター室で趣味であり楽しみである詰将棋を作っていた

 

そんな中、突如銀子から早く来てと呼び出された烏丸はすわ何事かと急いで対局室に向かった

 

対局室に入ると、清滝九段が失禁する直前の所が烏丸の目に入った。あまりの事態に呆然とすると、清滝九段の聖水が跳ねて烏丸の顔とスーツに直撃し、彼の目から一切の光が消えた

 

 

「良い年して失禁とか…」

 

 

その場に居合わせた九頭竜には残像が見える速度で頭を下げられた

銀子からは冷たい視線を浴びせられた

張本人からは笑いながら謝られた

ネットでは【朗報】清滝九段の聖水を烏丸二冠が浴びる【爆笑】というスレが立ち上がっていた

関係者の方々からは可哀想な目で見られた

 

 

「スーツ、クリーニングだなぁ…」

 

 

 

許容範囲を超えた彼の精神は、既に崩壊しかかっていた

 

「…帰るか」

 

 

血液をサラサラにしてくれそうな目をした烏丸は自身を守ってくれる暖かい家を目指して、歩く速度を速めた

 

ポケットから鳴り響く電話には、一切気づかずに

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

「…きろ。お…ろ」

 

「うぅ…」

 

 

烏丸の耳元を透き通った流麗な声が響く。こちらを起こす声という事を理解しているが、今日の予定は無いし、そもそも起こしにくる人物などいない為、夢と判断し無視する

 

だが、現実はそこまで甘く出来てはいなかった

 

心地良い夢の世界に旅立とうする烏丸の鳩尾に鋭く重い一撃が突き刺さり、彼の意識を無理やり覚醒させた

 

 

「起きろボケ‼︎」

 

「ぐふぉ⁉︎」

 

 

突然の事態とあまりの痛さにベットから転がり落ちると、辺りを素早く見回す

 

いつもの整頓された寝室には、白い妖精が立っていた。セーラー服を着る精悍な美少女の視線が烏丸を射抜く

 

 

「………?」

 

 

もう一度目を擦り、辺りを見回す

 

 

いつも通りの寝室に、何故かいる銀子。さっき確認した通りの状況だった

 

 

「何だ、夢か」

 

「ぶち殺すぞわれ」

 

「やっぱり夢じゃ無いか…」

 

 

 

現実から逃避しようとする烏丸に白き妖精は無慈悲な真実を突き付ける

 

烏丸は床に座り直し、妖精こと銀子を見上げる。対する銀子は冷たく烏丸を見下ろしており、表情には冷酷な怒りが滲み出ている

 

 

「…昨日の事、覚えてる?」

 

 

銀子は怒りを隠そうともせず此方に問いをなげかける

 

烏丸は頭を働かせ昨日の出来事を思い出し、銀子が激怒している理由を模索する

 

 

「昨日?…あぁ、研究会か。悪い、直ぐ準備を」

 

「違う」

 

 

一番確率の高そうな予想が外れ、烏丸は怪訝そうな顔を浮かべる。黙っていたら将棋盤を持ち出されて殴られてしまうので、手当たり次第に予想をぶつける

 

 

「…八一に無視された?」

 

「違う」

 

「八一と喧嘩した?」

 

「違う」

 

「女の子の日?」

 

「ぶち殺すぞわれ」

 

 

 

烏丸の予想は全て外れた。観念したのか、肩をすくめて銀子に教えを請う

 

 

「じゃあ何だよ?」

 

「小学生、八一の家に連れ込んだでしょ?」

 

 

小学生、と言うワードを聞き再び頭の中を捜索する。すると、昨日の出来事かつ、銀子がブチ切れる理由を思い出し思わず声を上げる

 

本来なら絶対に忘れない程の出来事。だが、その記憶は烏丸に襲いかかった二つの出来事によって頭から消失していたのだ

 

 

「………あぁ」

 

「思い出した?じゃあ早く来て」

 

「来てって、何処に?」

 

 

セーラー服を翻し、寝室の出入り口から首だけ振り向いて烏丸に告げる

 

 

「八一の家」

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

藍色のジーンズに「じゃいあにずむ」と黒字でプリントされた白のTシャツに着替えた烏丸が八一の部屋を訪ねた時、そこは別世界だった

 

 

「むむむ………!」

 

「………チッ」

 

「…(死んだ魚)」

 

 

 

上から順に雛鶴あい、空銀子、九頭竜八一である。少女2人は九頭竜を挟んで互いに睨み合い、中間点にいる八一に火花を浴びせている

 

 

「…魔境だなぁ」

 

 

1秒で帰りたくなった烏丸だが、火花を散らしていた2人がこちらに気づいた為その手段は無くなってしまった

 

 

「あ!烏丸さん‼︎」

 

「遅い」

 

 

雛鶴は烏丸を見ると笑みを浮かべ、銀子は蔑みの表情を向けた

 

 

「烏丸先輩!なんで昨日電話に出なかったんですか⁉︎」

 

「よっ、修羅場ってるな。爆ぜろリア充」

 

「話を聞けぇ‼︎」

 

 

烏丸を視認した九頭竜は目に光を灯し彼をもの凄い勢いで糾弾する。烏丸はそんな後輩の怒りを笑い飛ばし、寧ろ煽り返す

 

 

「美少女に囲まれて自分の奪い合いか、一度体験して見たいものだなぁ…」

 

「じゃあ変わります?」

 

「遠慮しておく。俺は外見より中身を大事にしたいんだ」

 

 

九頭竜との会話で現実から逃げていた烏丸だが、このまま話していると2人、主に銀子に殺されそうなので本題を切り出す事にした

 

 

「そんで?俺呼んでどうするんだよ?」

 

「なんでこの餓鬼を八一の家の中に入れたんですか。その理由をここで説明して下さい」

 

「むぅ!私は雛鶴あいです‼︎」

 

「…烏丸先輩、早くなんとかして下さい…」

 

 

銀子は白い指を雛鶴に向け、事情の説明を後藤に要求する。その口調からは強い怒りが感じられる

 

 

 

「いや、だって九頭竜の弟子だって言ってたから」

 

「それを本当だと思ったんですか?」

 

「生憎、人の嘘を見抜くのが下手だからなぁ…」

 

 

 

銀子からの糾弾を飄々とした態度で受け流す。その態度から寧ろ楽しんでいるのではと相手に錯覚させる程だ

 

 

「…もう良いです」

 

「そりゃ良かった。結論の出ない論争なんて無意味だからな」

 

「…ぶち転がしてやる」

 

 

 

銀子が飄々とする烏丸に負け、ぐったりと肩を落とす。その様を見た鴉はケタケタと笑う。一通り笑うと、視線を九頭龍に向ける

 

 

「んで?九頭竜、お前この子の事どうすんの?」

 

「…っ!ど、どうするって?」

 

「この子、弟子にするの?」

 

 

烏丸は指をあいに向け、これからの是非を九頭竜に問う。その目にはさっきまで確かにあった親しさが一切感じられない

 

友人ではなく、先輩ではなく。将棋に人生を捧げた一人として、彼に問う

 

そんな烏丸の視線に冷や汗を流す。けれど、九頭竜は答えを決めたのか、正面に向き直る

 

 

「まだわかりません!」

 

「…お、おう、そうか。まぁ、早めに決めてやれ」

 

「それはわかってます。因みに烏丸さんはどう思いますか?」

 

「うーん、どうだろう…」

 

 

九頭竜から「あいを弟子するかどうか」との問いを受け、烏丸はその場で頭を悩ませる

 

だが、悩ませるのも一瞬。彼は頭の中で答えを纏め、九頭竜に答える

 

 

「通報されるから弟子にしない☆」

 

 

満面の笑みで言い放った烏丸の頭に、銀子と九頭竜の拳が叩きつけられた

 

 

 

 

 

 

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