「ようサクヤ、ビールの配給券持ってないか?ビールと引き換えに、いい物みせてやるよ」
「いいもの、ねえ…。リンドウの言ういい物が、本当に私にとって良いものだったことなんてないじゃない」
「ま、そう言うなって…」
出撃ゲートから帰ってくるなり、リンドウとサクヤさんの夫婦漫才が耳に入るので聞き流す。…いや、この会話は確か…。
そうか。ヴァジュラの襲撃、リンドウの生き埋めが近いのか…。
そうすると、今度ソーマに会った時には、リンドウとアリサちゃんを二人きりにしないように伝えておこうか。
それと、ミッション『蒼穹の月』に行く前に一声かけて貰おう。確かマータさんがひしめくという、けっこうヤバめな状態になったはずだ。
ゲームではリンドウ以外皆無事に戻ってきていたけど、この世界は既にゲームとは異なる。
どこまで何ができるかわからないが、手は尽くすつもりだ。具体的には防衛班からなるべく人を引っ張ってきて、援護しながらの撤退。欲を言えば、全て掃討してリンドウに死なないよう伝えておきたい。出来る限り早く瓦礫をどかすことが出来れば、もしかしたらリンドウを救出できるかもしれないし。
とりあえずはヒバリ嬢の元へ。へーいタツミー!(ヒバリちゃんを)ナンパしてもいいけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!つまり退け。
「ミッション終了したよ」
「あ、エリックさん!お疲れさまです!
そういえば、リッカさんがエリックさんのことを呼んでいましたよ。今は、開発室にいると思います」
「ありがとう」
いつも通りの柔らかい笑顔で迎えてくれたヒバリちゃんにそう返し、エレベーターへ向かう。行き先はもちろん、開発室だ。
しかし、このタイミングでリッカちゃんから話か。なんの用だろう。
ゲームではあくまでも主人公視点で物語が進む。でも当然他の人達も何かしら動いている訳で…。
つまり何が言いたいのかと言うと、予想できないことがけっこうあるということだ。
この間も、突然リッカちゃんが部屋を訪ねてきたと思ったら、何か壊れたものがないか聞いてきたし…。暇潰しに他人のMDプレイヤーを直していくのはお年頃の女の子としてどうなんすか、リッカちゃん。
マフィンとかのお菓子作りをするカノンちゃんが普通に思えた瞬間だった。
開発室に着くと、ちょうど休憩中だったのか、背もたれのない長椅子に座ったまま足を投げ出すリッカちゃんがいた。リッカちゃんの手にある、あのけばけばしいピンク色の缶。…もしかして初恋ジュースだろうか。少し気になる。
「あ、エリック。待ってたよ」
「待たせてしまったか。すまない」
「あ、ううん。いいのいいの。私が急に呼んだ訳だし」
とりあえず、手近にあった丸椅子に座る。リッカとの距離は50cmと離れていないが、割とこの子とはこんな距離感で接している。近すぎず、遠すぎないこの距離感が好きだった。
「さて、今日は何の用だい?何か新しい武器の新型でも出来たか?」
そう。俺の知っている神機には、少なくともスピアとかサイズ(鎌)なんてのは無かった。ショート、ロング、バスター。盾ならバックラー、タワー、あと何か一個。銃はスナイパー、ブラスト、アサルト。これが俺の知っている種類だ。
しかし、今既にスピアとかサイズ、あとショットガン?とかいう分類の武器の神機があるらしい。ちなみにだが、我が相棒の20型ガットはなぜかブラスト/ショットガンとなっていた。ブラストだろ。少なくともショットガンとか俺は知らんぞ。
本日のお題は?
「あ、ううん。そうじゃなくて。
大まかにいって3つかな。
一つ目は、エリックってば、ちゃんと爆発系のバレット使ってる?銃口付近から狙撃系のバレットの跡ばっかりだから、結構整備が大変なんだけど」
ぷう、とほおを膨らませながらこちらを見てくる。うーん…。常に内臓破壊弾(狙撃系)とか脳天直撃弾(狙撃系)ばっかりなのですが。ダメですか。そうですか。
「…爆発系のバレットは、苦手なんだ」
「嘘ばっかり。最近全然使ってないでしょ」
「もーっ。
君の神機をいつも整備してるのは誰だと思ってるの?」
「それについては、いつも感謝している」
「それはまあ、前にも聞いたけどさ。…って、そうやってごまかすの禁止!」
「とりあえず、先に二つ目を教えてくれ。まだあるんだろう?」
「はぁ…。しょうがないなあ。
えっと、二つ目はね。最近神機にキズが少なくなってきてるの。かすった程度のキズとか、使用跡とか、地面に擦れた跡くらい。
前はあんなにもガンガンキズついてたのにね。
…少しずつだけど、君も神機も成長してるんだね」
そういって優しくこちらを見つめてくるその顔には、たしかな慈愛が見てとれた。…リッカちゃん、君そういうかわいいところが卑怯だぜ。思わず抱き締めたくなるだろ。ああ、俺が女の体であれば抱きついていたものを…。
そんな思いとは裏腹に、体が勝手に言葉を紡ぐ。…久しぶりにエリックが出てきてるな。
「ふふん、この僕を誰だと思っているんだい?華麗なる極東の戦士、エリック・デア=フォーゲルヴァイデだよ!」
「あははっ、そうだったね。うん、君はそういうやつだった」
ファサッ、と髪をかき上げるマイボディに対して、おかしそうに笑うリッカ。…こういった平和な時間が、永遠に続けばいいんだが。
まあ、そうはならないことを、この俺は知っている。だからこそ、こういった平穏を守るために、俺達はアラガミと戦うんだ。
リッカちゃんが落ち着いたところで、三つ目のことへ。
「三つ目はね。君の神機を調べて分かったことの報告かな?」
「ふむ?」
なんだ?
「んっとね。エリックは、『オラクルリザーブ』って知ってる?」
「知らない」
「うん、それじゃあ説明するね。
オラクルリザーブっていうのは、ブラスト型神機を使える人なら基本的に誰でも使える機能なんだ。
これは、今のオラクルを一時的に神機に溜めることが出来るの。そうすると、オラクルが大量に必要なバレットを撃てたり、オラクルが足りなくなってもリザーブした分から撃てたりするんだよ」
「なにっ!」
え、なにそれめっちゃいいじゃん。
…って、それたしかゴッドイーター2で出てきたやつじゃない?つまりメテオ。
ごめんリッカ。知ってたわ。
…嘘をついた訳ではないのです。間違えてしまっただけなのです…。
「それで、そのオラクルリザーブがどうかしたのかい?」
「…これは私が調べた限り、なんだけど。エリックの神機は、このオラクルリザーブの機能が使えないみたいなの」
「…あ、そう」
残念。メテオは撃てなくなりました…。ま、そもそもそんなの無くてもこれまで平気だったし、正直無いなら無いで別にいいかな。
どうせメテオの中身覚えてないし。
「まだ原因は分かってないから、はっきりとしたことは言えないけど…。もしかしたらこの先、ずっと使えないかもしれない…」
そう言うリッカの様子はしょんぼりしている。まあ、この子にとって、神機の機能を十全に発揮できるようにすることが自分の使命みたいなものだからな。別に自分は気にしていないんだけど、リッカは気にしてしまうんだろう。
「まあ、そう悲観することはない。また何かの拍子で使えるようになるかもしれないし…。
だから、そこまで気にするな。かわいい顔が台無しだ」
…後半はエリックが喋ったんだが。エリックって、結構こういうキザなことをたまに言うよな。顔が整ってるから嫌味にならんし。…ッハ!これは俺が軟派なことを言いまくっても問題ないフラグ!?
いや、俺はジーナたん一筋。浮気はすまい。…正直リッカちゃんはかわいいですが。
「…ん、ありがとう」
少しは落ち着いただろうか。
さて、こちらとしてもリッカに聞いておきたいことがある。ちょうどいい機会だし、聞いてみようか。
「ところでリッカ。
強化パーツ、ってあるだろう?」
「え?あ、うん」
「オラクル自動回復量を増やすような強化パーツを作れないだろうか?」
そう聞くと、少し考えこむような仕草のあと、顔を上げる。座っている膝に肘をつけ、こちらへ手を向けながらこう言った。
「うーん…。ほとんど効果がなくていいなら、極僅かだけど、気休めくらいでいいなら作れると思う」
なに、マジか。
「頼む」
「え、ホントに?全然効果がないか、あってもほとんど気休めだよ?」
「構わない」
目をぱちくりさせているけど、オラクルの回復手段の確保は最優先事項なんだ。捕食によるバースト化ができないからプラーナの体力回復も意味ないし。や、全くない訳じゃないけども。
とりあえず、何でもいいからオラクルポイントの回復は必須なんだよ。自動回復だけでは全然足りませぬ。
「ん、分かった。じゃあ、何か報酬を用意してよね」
にっしし、といたずらっぽく笑うリッカ。
報酬ね…。
「タオルとか」
「前にエリックからもう貰ったじゃん。まだ残ってるよ」
なんておかしそうに笑うリッカ。うむむ、それは俺だけど俺じゃないんだ。確かに記憶にはある。あるけど、エリックの記憶だからどこか他人事なんだよなあ…。
しまったぜ。
「じゃあチョコレート、とか」
確かエリックはけっこうなボンボンだったはず。その伝手でいけるだろ。
そう言うと、リッカは目を輝かせた。
「本当!?オッケー、交渉成立だね」
「ただし、期待する程の量はないし、いつ手に入るかもわからないぞ」
期待しないで待て。
待て、しかして希望せよ。的な。
「いいよ。それじゃあ、次エリックが来る時までに必要な素材をまとめておくね」
「よろしく頼むよ」
見るからに上機嫌になったリッカを残し、開発室を後にする。
…よろずやさんに行って、お金を増やしておくか。