「エリック、頼まれてた強化パーツ出来たよー!」
「ありがとう」
神機整備室。
通路の両側にいくつもの神機が林立する、まさしく武器庫そのものの神機保管室の隣にある、工具やら材料やらがあちこちに散らばった、半分リッカの個室となっている部屋だ。
神機整備室の真ん中には四角い木製のテーブルがでかでかと存在を主張しており、リッカはその机に軽く腰掛けながらテーブルに手をついていた。
つい先ほどまで作業をしていたのか、ごつい手袋をしたままである。
そして机の上には、なにやらよくわからない金属製の円柱が。円柱といっても、あまり分厚くない。せいぜい握りこぶし程度の大きさか。…そう言えば今気付いたけど、強化パーツってどこにどう付けるの?
そんなことを考えていると、リッカが説明をし始めた。上手く出来てご満悦なのか、テンションがちょっと高い。あと、どことなく誇らしげだ。ちなみにこういったタイミングで褒めまくると、ブンブンと勢いよく振られるしっぽが幻視できる。ちょっとしたレアな表情だ。
詳しいな、まるでリッカ博士だ。
残念だけどジーナたん一筋なんだよなぁ…。
「これが前頼まれてた強化パーツ。
仕組みとしては、神機と神機使いが接続する部分に組み込むことで、オラクル細胞の循環効率を上げるの。
とは言っても、ただ循環効率を上げると神機使いの身体にいつも以上に負担がかかっちゃって、使い物にならない。
だから、この強化パーツの真の心臓部分はウロヴォロスの素材。他の素材との相性があるから特定の部位じゃなきゃダメで、かつオラクル細胞を生み出す働きとその補助を担うんだ。
あとは、負担軽減のために伝導率を上げる必要があったから、伝導体をまるまる二つ分。これを、全体に特定の分布で組み込むんだ。
自分でも、上手く出来たよ。だから、当初の目標よりも性能が良くなってる。はいこれ」
そう言って手渡された強化パーツは、けっこうずっしり重かった。2kgくらいありそう?
「ありがとうリッカ。やっぱりいつもひたむきに神機に向き合っている君に頼んでよかったよ」
「そうかな…。へへっ、ありがとね」
にっ、と笑いながら鼻の下をこするしぐさが実にキュートである。あっ、そんな機械油だらけの手袋したまま鼻をこすったりしたら…!
「あっ…!」
リッカも気付いたらしく、恥ずかしそうに顔を赤く染めた。そうだよね。機械油ってけっこう臭うよね。
「ほら、これ」
すっ、とエリックがポケットからハンカチを取り出してリッカに差し出す。うーん、このあたりはエリックって本当に育ちがいいんだなぁと痛感する。俺ならここまですんなりとは渡せないし。ちょっと恥ずかしいし。
「や、大丈夫だって…!」
そう言いながら、えと、えと…!ってキョロキョロしてるリッカちゃん。おそらくタオルを探しているんだろうけど、なかなか見当たらないらしい。ああもうじれったいなあ。
「わぷ」
面倒なので強硬手段に出る。あー、これあれだ。
エリックさん、完全に妹のエリナと同じ感覚でごしごししてる。一応リッカちゃんは一個上か同い年のはずなんだが…。ま、リッカちゃんかわいいし。多少はね?
「…よし。まったく、嬉しいのは分かるから、少し落ち着きなよ。
あとこれ、頼まれてた
そう言って、簡素ながらも丁寧にラッピングされた小さな箱を渡す。ちなみにこれは、叔母さんから運良く譲ってもらえたチョコレートである。お金を支払うつもりだったんだが、甥っ子から金をとるほど落ちぶれちゃいないと一蹴されました。一応これでもお金に関しては心配はいらないんだが…。
丁寧にお礼を言って、ありがたく頂きました。
そしてそれをラッピング。
リッカちゃん、なんで普通の甘いものも好きなのに、冷やしカレードリンクも好きなんだろう…。謎。
「わっ、ホント!?ありがとエリック!」
明らかに先ほどよりも嬉しそうなリッカちゃん。リッカちゃんが嬉しそうで何よりです。
「さて、僕の相棒の整備は終わってたかな?」
「わー…♪」
聞いちゃいねえ。早速包装をいそいそと開けている。そんなに慌てなくても、チョコレートは逃げないよ。
「おお…!」
箱を開けると、上品に9つに区切られた中に、一口サイズの芸術品のようなチョコレートが仕舞われていた。リッカちゃんのおめめがキラキラしてるぅ…。
「ね!ね!食べてみてもいいかな!?」
「どうぞ」
「わーい!どれにしようかなー…♪」
ふんふーん♪と上機嫌に鼻歌を歌いながら迷っているリッカちゃんを尻目に、僕はコーヒーメーカーの置いてある部屋の奥へと向かった。
これはしばらく待つしかなさそうだ…。
…この強化パーツの名前は、上田オリジナルにしよう。
コーヒーを飲みながら、幸せそうなリッカちゃんの顔を眺めつつ、僕はそんなことを考えていた。
強化パーツ『上田オリジナル1』
予定
『オラクル自動回復量↑極小』
実装
『オラクル自動回復量↑微小』