インフィニット・ストラトス 少女たちの傷跡   作:きゃすたー(7mg)

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書きあがってから思った。
あとがきで遊ぶためだけに書いたようなものかもしれない、と。

追記
一夏ちゃん(♀)に性別が変わったことで作中の人物にもいろいろ変化が起こっています。ご注意を。


第二話 兵士と幼馴染と令嬢と

「箒ちゃん、彩夏ちゃんも一緒に……」

「すまないが、一夏だけに話がある」

 

 一夏の言葉を遮った少女、箒と呼ばれた彼女は一夏の手をとり歩き始める。どうにも彼女にとって私はお邪魔虫なようだ。

 

「……ねえ、どうかしたの?」

 

 隣の席でそのあらましを聞いていたのだろう。紅桔梗の髪をショートカットにしている少女、原田友恵――だったはず、がこちらを振り返って小さな声で尋ねてくる。

 

「いえ、どうにもお二人とも知り合いなようで。込み入った話なのかもしれません」

「えっと、北條さんも織斑さんと知り合いなの?」

「幼馴染なんです。といっても8年ぶりで、小学生以来でしたけど」

「そうなんだ。いいなぁ、私は地元から独り身でこっちに来たからあんまり同郷の人って居ないんだよね」

「むしろ顔見知りが居るほうが珍しいと思いますよ。世界中の生徒が集まる学校ですし、入学そのものが難しいですから。あ、私のことは呼び捨てで構いませんよ。アメリカ暮らしが長いのでそちらのほうが慣れてますから」

「へぇー! 海外育ちかぁ。私は生まれてこの方縁が無いよ。私のことも友恵って呼んでね」

「ええ、よろしくお願いします。友恵」

「こちらこそ! あ、そういえば彩夏は甘い物好き?」

 

 今、甘い物って言った?

 

「今、甘い物って言った?」

「……彩夏、羊羹と言えば――」

「N県S市の迦楼羅。ちなみにカステラも美味」

 

 ……これは、もしや?

 

「友恵、A県J市の白波堂と言えば?」

「受注生産アンド数量限定のプリン」

 

 どちらともなく差し出された右手同士が固い契りを結ぶ。

 

「そういえば、レゾナンスにスイーツ食べ放題があるんだとか」

「詳しく報告したまえ、同志原田友恵」

「はっ、開店朝10時、閉店夜9時。立地はモール内の飲食店街区画の最奥。噂には当学園の生徒も足繁く通うそこそこに名の通った店のようであります。ちなみにチョコレートソースが流れる“滝”があるんだとかで」

「よろしい。眼前に甘味があるならば我々はそれを食し、踏破し、制覇しなければなりません。それは我々にとって義務であり使命であり……」

「そして生きるという事そのものでもある」

「まさしく……やはり貴女はかけがえのない仲間……同志と呼ぶに相応しい! 作戦決行は日曜日午前9時。ものはついで、我々以外にも甘味を求める同志を探すべくここで“交流会”を催しましょう」

「盛大に、ね」

「もちろん」

 

 ちょうど空白になっていた休日の予定は決まった。新たな同志を見つけ出す(引きずり込む)ためにも全霊を以って当たらなければ。

 

「私は人員を集めましょう。予約のほうは――」

「既に店舗の電話番号は調査済みですよ、同志北條彩香」

「流石です」

 

 口元がニヤリと三日月に歪む。彼女もまた同様に薄らと、しかし内に秘めた欲望をおくびもなく晒した笑みを浮かべて応える。

 さあ、覚悟を決めて待っていろよ甘味たち。そちらが物量で立ち向かってくるなら、こちらはそれ以上の暴食(ぼうりょく)物量(同志たち)を加えた上で蹂躙してやろう。皿の一枚、チョコレートソースの一滴に到るまで喰らい尽くしてやる……!

 

 後日、レゾナンスのとある店でパティシエたちの悲鳴が飛び交ったそうな。

 

 

第二話 兵士と幼馴染と令嬢と

 

 

「ほーら、さっさと着席しろヒヨコども」

 

 気だるげに髪をいじりながら教室に入ってきた人物に目を向ける。そこにはつい1時間前に会った私の上司、ナタリヤ大佐があの時の格好で片手に資料を携えて教壇に向かって歩いていく姿があった。

 

「あー、織斑教諭は来客者が見えたので、私が代わって授業を受け持つこととなる。内容も少し前倒しになるが、まあ補足しながら説明してくことにしよう。

 私はナタリー・ハートネット。本年度より非常勤講師として一部実技教科の補佐と学科を受け持つこととなった。今後諸君らの実技訓練を受け持つこともあるだろう。以後よろしく頼むぞ。

 ところで山田先生、この授業は非常勤の私がする必要があるのか――」

「えっ、で、でも、織斑先生の受け持つ科目ですし……」

「そこをなんとかならないか? 副担任なのだろう?」

 

 何やってんですか、と心の中でツッコミつつ大佐の様子を伺っているが、当の彼女は面倒くさそうに山田先生に丸投げしようと四苦八苦している。

 どうやらおろおろしている山田先生を見て諦めたらしく、ため息を吐いてこちらに向き直る。

 

「さて、まず先ほどの授業で諸君らはISに関するおおよその成り立ちや世代の移り変わりなど……まあ大雑把に言えばISの“歴史”を学んだだろう。

 では諸君らに問う。今現在のISというものの“意義”について答えてもらおう。……ん、キミは、えー……セシリア嬢だな。主席なら、まあそれなりの回答を期待するぞ」

「はい。ISは大気圏外での運用、主に宇宙空間などの極限環境下での活動や劣悪な環境下での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツですわ」

 

 起立し、得意げに胸を張って答えた少女を見やる。ぷりんとした桃のような尻を隠すほどのブロンドヘアーにブルーサファイアの輝きを灯した瞳。若干の垂れ目なところが、西洋人の――とりわけ北欧系寄り――顔つきに垂れ目と相まって温和さを感じさせる。

 

「なるほど、実に模範的だ。だが……残念ながら不正解だセシリア嬢」

 

 一言で言えば大人しそう、品の在るという形容の少女の表情は不意に驚愕で歪んだ。

 動揺がクラス中に伝播する。それはそうだろう。インフィニット・ストラトスについての一般的な認識といえばそれなのに、彼女はそれを真っ向から否定したのだ。

 

「……理由を、伺ってもよろしいでしょうか」

 

 セシリアの声がわずかに苛立ちのような、焦燥を孕んだようなトーンで響く。

 教壇の端に立つ山田女史はおろおろとナタリー先生とセシリアを交互に見るだけだが、ナタリー先生はおかしそうにくつくつと笑う。

 ナタリー先生は身なりこそ小学生か中学生といった幼さを持っているが、内実は非常に老成している。幾多の戦場を超え、数多の命の散華(さんげ)を見届けてきた彼女は身を持って知っている。

 

「年の割りにはマシな回答だったと言って置こう。だが君は今この世界の現状を知らなさ過ぎる。既にISは多岐の分野に渡ってその活動の場を広めつつある。一概に“宇宙服のようなもの”なんて解釈では収まらない範囲にな」

「ISの本来の目的は篠ノ乃束博士の仰ったように宇宙空間での活動のためのものです。それが何故不適切だと?」

「君は英国の代表候補生だ。となれば白騎士事件については知っているだろう?」

「……存じています」

「白騎士というISは日本に向かって飛来するミサイル郡を撃墜し、所属不明機の鹵獲を試みた自衛隊や在日米軍を一蹴してみせた。そして篠ノ乃束博士はその白騎士の開発者だ。

 わかるか? “これは兵器ではない”と彼女は言いながらその一方で“兵器としての有用性”を自ら示しているんだよ。そして現実に世界はISの軍事転用というカタチで進歩を遂げつつある。君も第三世代機の試験運用を行う人間なのであれば、それは理解できるはずだが」

「それは詭弁ですわ。第一IS運用協定――アラスカ条約でのISの軍事利用は」

「そう、“利用”は行ってはいけない。……だが研究はするなとは、書かれていないだろう?」

「……それこそ詭弁――いえ、暴論ですわ」

「そうか。そう思いたいのならそうなのだろうな。君の中ではな。

 だがよく振り返ってみるといい。君の機体に装備されているものが果たして何のために使われるものであるのかを、な。

 現実に世界はISの軍事利用を既に許容している。軍用ISの開発と配備は主要国間では当たり前。あとは協定に修正が加えられれば世界は公にISを対テロ戦争や民族紛争の解決に持ち込める。まあ武器は武器だ……どこに向くかは使い手次第だが」

 

 それに既に試験的ながら戦線に投入されているのだぞ、とナタリー先生は続ける。各々のデスクにポップアップされた映像は紛れもなく――あの日中東で発生したテロ鎮圧作戦で銃を放つ、私の乗るラファール・リヴァイヴだ。

 

「これが“公式に残る”二度目のISによる戦闘映像だ。……驚いたかな諸君?」

「そ、そんな……有り得ませんわ……こんな……こんなこと」

「まあ捏造だなどと言われてもかなわん。――改めて自己紹介しよう。

 私は国連軍極東方面軍太平洋戦隊所属のIS実用試験隊、通称“ストームチーム”を率いるナタリー・ハートネット大佐だ。

 今年度より教師として国連より派遣された私の教員としての役目はただ一つ。夢見るシンデレラの夢をぶち壊して現実を見せつけ、心地よい魔法に囚われたままのお姫様を再教育することだ」

 

 ニィ、と口角を釣り上げて彼女は嗤う。こういうときは大抵何かしら悪巧みをしているんだ。

 

「本から知るものが全てではない。目で見える全てが事実ではない。私が行う授業はそういうものだ。

 世界の裏側の汚さを、ISという光に生まれた影を、目に見える事実に隠された裏側を、お前達に叩き込む。そしてその上でISというものが使い手次第で正義にも悪にもなりうる純然たる道具であるということを理解させ、その力の使い方を授けることが私の役目だ。お綺麗な建前の内容は織斑女史や山田女史にお任せする。

 諸君らにはまずISは人を殺すことのできるものなのだということを知ってもらう。気持ち悪かろうがなんだろうがそんなことは知らん。これから諸君らが乗りこなすのは人の命を左右する存在なのだと身を以って知るといい」

 

 セシリアは歯がゆさをかみ締め、静かに睨むような眼差しで先生を見つめている。おそらく彼女の矜持に触れる何かがあったのだろう。

 

「ISは兵器だ。それは間違いようのない事実。だがそこから平和利用へと繋がる可能性が生まれることもまた事実だ。

 インターネット然り、電子レンジ然り、缶詰やトレンチコートなど、軍事技術から民間に持ち込まれた有用な技術は確かに存在している。今はまだ軍事技術の域を出ないかもしれない。だがその先にあるだろう可能性の存在を否定するな。

 諸君らの多くはISを肯定しているだろう。だがそれはあくまで表面的な部分で見ただけの結論でしかない。深みを知れば知るほどに安易に肯定することなど許されん。今のISは人殺しの技術を生み出しもするし、生活を豊かにする技術を生み出しもする可能性を秘めている。

 ――今はまだよく理解できないだろう。だからこれだけは言っておく。

 現状ではIS開発に関わるということは間接的に戦争にも関わるということだ。だが戦争を肯定するな。ISという力に魅入られ、自らが力ある存在だなどと驕るな。ISが善であるか悪であるかを決めるのは使い手たるお前達次第だ」

 

 結局のところ使い手次第、か。ナタリヤ大佐……いやナタリー大佐もまた随分と大雑把に投げたものだ。とはいえ教える内容が定まったのなら話は早い。

 詰まるところ、“相手の言葉の裏を読み取れるようになれ”ということだ。額面どおりに受け取るのではなく、受け取った言葉の裏や穴をいち早く察知して、自らにとって有益な情報に変えていくことが重要なのだ。

 そしてその考えは彼女の授業内容にも色濃く浮き出ている。

 

「――つまりこの米国と中国の間だけで交わされたISを用いた環太平洋防衛機構の構想の意義は、日露間の関係性の軟化と北方領土問題の対話実現、それによって結ばれた技術協力の協定に対する示威を意味する。まあロシアが譲り渡す気なぞ端から無いのは眼に見えているが、日本はこの手の問題を持ち出すと“乗らざるを得ない”のだ。そして日本の同盟国(飼い主)――ゴシュジンサマ気取りであるヤンキーとしては、アジアへの橋頭堡であり肉盾である日本が飲んだくれのイワンどもに尻尾振ってホイホイついていくのが気に入らないわけだ。

 結果、その三ヵ月後日本の参入の申し出を待たずして東南アジア地域とオセアニア、中南米を含めたサミットが行われたのはホワイトハウスと中南海の思惑が占める部分が大きく、これによって日本は環太平洋地域の主要国でありながらハブられるといういつも通りのどっちつかずな情けない姿を世界に露呈したわけだ。

 一方でロシアはと言うと日本との技術協力の締結によって古くからの関係国である中国との間に険悪ムードを晒した。経済的にも中国とアメリカの繋がりが増えたことが一因なのだろうが、極東ロシアとアメリカを比べればどちらが経済面で魅力的なのかは一目というやつだ。

 ともあれクレムリンは“背もたれ(防波堤)に不安がある”と中国側へのあてつけを行った。中国側はこれに反発――まあいつも何かにつけてゴネてばかりの問題児だが、今回は割りと本気でキレたのかもな。自分がロシアの座る椅子扱いされたのだから。

 その結果としてロシアは万一全面戦争となった場合、この協定如何ではあの西から東までの広大な国土を僅か十数機のISで防衛せねばならなくなるわけだ。オマケに中国を介しての極東での影響力までもが弱まるリスクを背負っている。

 とはいえあの大統領のことだ……土壇場で中国を引き摺りこむ確信があるエサかネタを持っていて事に及んだのかもしれんが……どちらにしても火種には違いない」

 

 直近の政治的な動きと政府の思惑を推察した考証を交え、実際に表に出ている資料や歴史的背景をも含めた世界の推移を、ドロッドロの黒い面の上澄み部分も含めて語ってくれた。……話に出た国は等しくけなしていたが。

 自国の話が出て憤慨したように顔を赤くする者も居たがほとんどの生徒は息を飲むか険しい表情で映し出された資料に向き合っている。

 

「結局のところ貴様らはIS学園を卒業すれば故国へ帰り政府の犬となる。よく覚えておけ、ただの無能がチカラを得て神様気取りになったところでそれは政府からすれば扱いやすい、代替可能な兵士(ポーン)と変わらん。言葉に惑わされ操られ、心を利用された尖兵に成り果てるだけだ。

 ISは確かに兵器だ。しかしそれを操る貴様ら自身が戦火を齎す暴虐の輩になってはいけない。ISはヒトを守りもし、また殺しもするがそれを決定付けるのは貴様ら自身だ。

 ……世界は未だ安定に程遠く、戦火の種はそこらじゅうにある。貴様らが災禍を大きくする手伝いをしてはならない。何度も言うがISは兵器であり、また同時に無辜の民の命を守るための道具でもある。

 それは市井(しせい)の誰かの幸せを奪うためではなく、それを守り通すために振るうのだ。努、忘れるな」

 

 ナタリアさん――今はナタリー先生か――の彼女の言葉が過ぎ去った後には沈黙だけが残されていく。国連が保有しているものの中で公開可能な戦闘映像を持ち出し、普通なら国連の軍関係者しか見れない書類さえ資料として見せ付けられたのだ。それを行ったのが国連所属の軍人で、その眼で人の生き死にを見届けてきた人物ともなれば一言の言葉に籠められる重さは比類なきものとなる。

 

「っと、ここまでか。歳をとると時間の感覚が緩くなっていかんな。で、織斑教諭は何しに来た?」

 

 鳴り響くチャイム、それを聞いた彼女の口から出た爆弾発言。その言葉の暴力に“どの口が言うか”とクラス中の心が一つになった。今までまとまりなど何も無い有象無象の個人が一つの集団となった初めての出来事だろう。たぶん。

 ナタリー先生が眼をやった先には我らが担任、織斑千冬先生が腕組みして教室を覗いていた。

 

「初めて見せてもらいましたが……やはり軍人の意見は為になります」

「織斑教諭か……そう大したことはしていないぞ。世界の裏側はこんなに真っ黒で汚いからそれに染まっちゃイケナイぞと教えているだけだ。本来こんなものは親の……いや、なんでもない。これにて授業は終わりだ」

 

 急に口をつぐんだナタリー先生は乱雑に資料をファイルに挟み込んで鞄に詰め込み教室を後にする。ふとこちらに視線が向けられたのは気のせいでは……ないのだと思う。

 親を失った“私たち”にとって親代わりであったナタリー先生(ナタリア大佐)は、自分にその言葉をのたまう資格は無いと思ったのかもしれない。自分に資格が無いだなんて、そんなことは無いはずなのに。

 あのヒトは幼い私にとって本当の母のように接してくれた優しいヒトだ。だが同時に軍人として、私を兵器のように育ててきたのもまた事実だ。

 私の善悪感は戦火とは無縁の平凡な人間とはズレている。それを作り上げたのは彼女と身の回りの環境だった。普通の人なら嘘をついたり騙したりするのは少し後ろめたい気分でもするのだろうが、私にとって嘘や騙しは敵を排除する手段か家族を危険に晒さないための手段でしかない。

 人殺しを忌避するのが普通なのだろうが、私にとって人殺しは味方や家族を守るための最速で最良の手段だ。殺してしまえばそいつは私たちに牙を向かないのだから。集団で来るならかかってこい。その時は私の持てる全てのチカラで根絶やしにするまでだ。 

 

「ねえ一夏――」

「少しよろしいですか?」

 

 今日は千客万来だ。望んでもいないのに次から次へと訪問者が現れる。目当ては一夏ばかりだけど、彼女は今とてもデリケートな問題を抱えているのだからもう少し控えてもらいたいものだ。

 といったところでそれはこちらの都合でしかない。あちらはそんなこと知りもしない。

 

「――ぁ、と、……セシリア、さん?」

「ええ。相違ありませんわ。……改めて自己紹介を。私は英国の代表候補生、セシリア・オルコットと申します。高名な織斑千冬教諭の妹君と同窓となれたことを嬉しく思いますわ。今後ともよろしくお願い致します」

「……織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 ニッコリと笑みを浮かべて一夏と握手を交わすセシリア。美しいブロンドヘアーとシミのない色白な肌。アイスブルーの瞳が輝く彼女はどこからどう見ても整った微笑み……のはずなのに違和感が拭いきれない。薄っぺらいようで分厚い仮面を貼り付けた……そんな二重三重にも折り重なったような感情が垣間見えた。

 

「一夏さんはISの操縦に関しては何か訓練を受けられましたの?」

「あ、いえ、私は特には……」

「まあ! 勿体無いですわ! 一夏さんならきっと織斑教諭のような操縦者になれますのに! 適正値はいかほどでしたの? 妹君なのですから、おそらく素晴らしい適正をお持ちなのでしょう」

「ぁ……あの……」

 

 一夏の顔が青ざめていく。目線は床にうろうろ、言葉もためらいがちに、息が浅く短くなってか細い吐息が漏れるだけ。

 私は先ほどのスイーツ談義の後で一夏のプロファイルをナタリー先生(ナタリヤ大佐)から見せてもらっている。政府が行っていた適正試験での彼女のIS操縦適正は……“(シー)(マイナス)”……はっきりいって動かすのがギリギリというレベルだ。

 ただそれでもIS学園に一夏が放り込まれたということは……政府も“織斑千冬の妹ならば”という今後の成長に淡い期待を抱いているのだ。

 当然他国も一夏の入学に際して情報収集を行っていることだろう。織斑千冬(ブリュンヒルデ)の縁者ともなれば注目度は段違いだ。既にIS操縦適正の検査結果がどこからか漏れていてもおかしくはない。というより真っ先に知られることだろう。

 

「私は経験も多少なりありますが、この度の試験での適性は“(エー)(プラス)”という判定をいただきましたの。ああ、一夏さんもきっと同じくらいなのでしょうね! 言わずとも理解致しましたわ!」

 

 これは悪意だ。今度は彼女の笑顔からはっきり読み取れた。一夏を貶めようとするこの女の悪意だ。その裏側には“織斑千冬の後継者は恐るるに足らず”という英国政府の思惑なんかもあるのかもしれないが、コイツはそれを理解しているかはともかくとして一夏を障害とも思っていない。

 ナタリヤさんに噛み付いたときの感じからするにISを戦争の道具とは思っていないようだけど……それでも権力の象徴であるとは思っているらしい。

 

 ぐっと奥歯をかみ締めた一夏の目尻に薄らと雫が零れる。私の大切なヒトが泣いている。弱りきっている心を引き裂かれ、抉られ、痛みを堪えている。こんなものを許せるか? ――無理だな。

 

「セシリアさん」

 

 すっと音も無く立ち上がって割ってはいると、彼女は先ほどまでの笑みを露骨に崩して鬱陶しげに目線を投げかけてくる。

 

「あら……どなたですの? 私は一夏さんと“お話”しているのですけど」

「北條彩香。一夏の幼馴染ですよ」

「……そう、ナイト気取りですのね」

「遠からずですね。こう見えて国連のIS操縦者ですので」

「なるほど。道理で。キャンキャン吼えるのも納得ですわ」

 

 一夏の時と打って変わってこのダイレクトアタックぶり。私のことを国連の犬と真正面から言ってのける彼女は大物なのかもしれない。

 

「……あなたと“お話”しても盛り上がりに欠けますわね。では私はこれにて失礼しますわ」

 

 彼女は見事なまでに潔く退いた。自らの目的は達成された、と言わんばかりに話を切り上げて席へと戻っていく。

 

「…………誰も……私なんて目にも留めてない…………誰にもっ……!」

 

 消え入るような慟哭が背中ごしに聞こえる。あの時の彼女の感情の発露から察するに、彼女は自らを不出来と評されたことよりも、ただ織斑千冬というフィルターごしに自らを見られたことが悔しいのだろう。

 ゲームやアニメの登場人物のように、液晶の画面越しで見る映画のように、現実の存在ではない何かを見るようなどこか冷めた目線に耐えられないのだ。自分自身の内面なんて理解しようともされていないことが悔しいのだ。

 

「一夏」

 

 一夏が俯いたままの顔を上げるとその頬を一筋の雫が流れ落ちる。ぎゅっと堅く握られた拳に優しく手を添えると優しくその手を撫でるように解いていく。不安を拭い去り、悪夢を祓い、彼女が確たる自分を見つけ出せる日まで……私が守ると決めたんだ。それは今の一夏を作り出す原因、その一端となってしまった私の責任でもある。

 

「今の一夏には私がいる。他の誰が一夏を認めなくても、他の誰もが一夏を理解しなくても、私が一夏を守ってみせるから」

「彩夏ちゃん……!」

 

 ぎゅっと握り返された手の温もりはあの頃のままだ。田園風景の広がる山裾のあぜ道を一緒に歩いたあの日のままだ。

 私が一夏の敵を打ち払うんだ。一夏が失ってしまった大切なものを取り戻すために……あの頃のような無垢な笑顔を取り戻せるように。




 ――親睦会当日の光景 開店直後――
「諸君! 『お菓子の家(ビッグボックス)』へようこそ! 歓迎しよう……盛大にな!」
「ハッハー! 悪くない、悪くないぜお前らぁぁっ!」
「スイーツイーター……大げさな伝説もここまでだ」
「終止……(細工は流々……仕上げを御覧じろ)」

 ――三時間後――
「ヘッ、ここまでか……悔いは無ぇ……楽し、かった……ぜ(白目)」
「潮時、か……。まあいい、最早私も無用だ……(呆然)」
「メインのオーブンがイカれただと!?」
「無念……(日曜日なのに収益赤字とか\(^o^)/)」
「心しておけ……お前達の無節操な飲食が自らの体重を増やすのだと……!」


Mission Report               (成果発表)    

 Evaluation points           (評価点)
  Satisfaction        90/100 (満足できました)
  Price range         70/100 (値段もお手ごろ)
  Cleanliness         80/100 (清潔感も良好)
  Service             55/100 (ツン気味なので評価が別れそう)

 Payment                     (お会計)
  Buffet              ¥3700  (食べ放題税抜)
  Drink station       ¥0     (食べ放題セットに含む)

 Synthesis            Rank S (総合評価)

 Comment
・美味しかった! フランスとイタリアで修行したらしいテルミさん(?)っていう店員さんのツンツンぶりが良い!(A・H)
・久しぶりに満足できました。ORCA del dolceさんは腕の良い職人さんが揃ってるお店だと噂に聞いていたのですごく楽しみでした。パワフルなお兄さんとクールな店員さんのコンビネーションがすごい! それに他の店員さんも個性的でした。(T・H)
・初めてだったからどうしていいかわからなかったけど、すごく楽しかったです。こんなに美味しいお菓子食べるの初めてかも……。洋菓子だけじゃなくて和菓子の職人さんも居ました。口数は少なかったですけどすごく親切でした!(I・O)

なおチョコレートの滝は30人体制で完全に飲み干された模様。
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