インフィニット・ストラトス 少女たちの傷跡 作:きゃすたー(7mg)
一夏ちゃんから鬱屈した感じが消えていくのをどうにか表現しようとした。
お嬢様言葉難しい。練習がてら書いてみたけど無理ゲー。
けど彩夏ちゃん前向きに見えて地味にナーバスで欝な子。
もっと戦闘シーン書きたかったけど、実力差が大きすぎて拮抗したシーンが一瞬だけになった。
まあ一週間と数年のキャリアとでは仕方無いんだろうけども。
織斑一夏対セシリア・オルコット。入学してたった一週間、ISの基礎の基礎を学ぶ段階であるというのに急遽行われることになったこの対戦カードは注目を集めていたらしい。
ナタリー先生曰く、“可能性の塊と女帝”だの“注目度NO1対新入生NO1”などまことしやかに言われていたそうだ。聡い子の中にはこの対戦カードに対して“代表候補生による一方的なもので、試合そのものがリンチ同然だ”とか“新入生へのいじめにも等しい”という言葉も飛び出している。私でもそう思う。今だってそうだ。
月日が流れるのは早いもので……といってもほんの一週間の話だけど、一夏の覚悟が決まってからは訓練のスピードは格段に上昇した。即席のプランではあったけれど、ISそのものや銃、剣などの基本的な装備知識と心構えを叩き込まれた一夏は物怖じすることが少なくなった。唐突な状況変化などにはまだ戸惑ってばかりだが、それでも入隊したばかりの軍人程度には心構えができている。
三日目は準備運動から始まり、山田真耶先生によるISの基本的な操作法の講義が実地で行われて、一夏は拙いながらも
四日目と五日目は先日と引き続き歩行練習。そして余力があればIS用の銃や剣を手に持って使いながら動く訓練をこなしてきた。
六日目に入って飛行訓練と飛行中の銃や剣の取り回しを山田先生から教わり、ナタリー先生がラファール・リヴァイヴに乗り込んで、敵への対処法のレクチャーとして仮想敵を務めた。一夏の実際のISによる戦闘経験を底上げすることで、本番で頭が真っ白にならないために……そのために幾度もの檄を飛ばした。
おそらくこの六日目が訓練で一番堪えただろう。罵詈雑言の嵐だ。ナタリー先生が私のことまで引き合いに出して精神的にどん底になるまで追い込んでいく姿は懐かしくもあり、背筋に冷や汗が流れることもあった。しかし何事も反復が大事、要はチェックとテストだ。クリアさえできればナタリー先生は素直に賞賛してくれた。
……七日目は、そう……混沌というべきだろうか。ナタリー先生と私が、一夏がアリーナに姿を現すなり攻撃を仕掛けていく。……つまり実戦訓練ではなくそれはもう“実戦”だった。
波状攻撃に晒されて膝を付き、爆風で煽られながらも必死で逃げ回る一夏の姿はやはりどこかデジャヴを感じた。機体のエネルギーが尽きれば即座にピットの機体を引っ張り出して一夏を乗せ、また追い立てる。…………ああ、確か二年前、初の実戦となる日の前日にああやってナタリア大佐とミーシャ中佐から追い掛け回されたんだった。
「おいアヤカ、大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫――です」
「しっかり見ておけよ。一夏嬢は自らの意思であそこに立った。その姿を見届けるのがお前の為すべきことなのだからな」
灰白色の髪を揺らしてアリーナに目を向けたナタリア大佐――学園での偽名はナタリー先生――が落ち着かないという様子で足組みをする。身なりは小学生が上質のレディーススーツを着ただけのように見えるが、立ち振る舞いは大人のそれであることが大きなギャップになっている。
「青コーナー、英国代表候補生! セシリア・オルコット!」
「赤コーナー、一年A組! 織斑一夏!」
実況のコールと共にそれぞれの機体がピットから姿を現す。一夏はいつもと変わらず日本製の第二世代量産機である打鉄をまとって空を駆けるが、表情は緊張しているのか強張っている。しかしどうにか落ち着こうとする冷静さくらいは残っているらしく、深呼吸をして相手を注視したままだ。
対するセシリアは平常どおりと言うべきか、一夏に相対したまま優雅に微笑を浮かべるだけだ。青い装甲と翼、そして長大な狙撃銃が目を引くが最大の問題は彼女のISの背面、ウイング状の突起物……機体名と同じ名称のブルー・ティアーズという兵装は一夏にとって脅威になることは確かだ。そしてアレに気を取られれば狙撃銃の一撃が確実に飛んでくることだろう。
「さて、どう見るアヤカ?」
「……考えられるのは複数のビットを用いて手数で押してくること。ビットを随伴させてハリネズミみたいに全周囲に攻撃できるような守りを敷いて来ること。後はビットの射撃をオトリにして狙撃銃で一撃を叩き込んでくること」
「正しく。今までの戦闘映像の履歴からもそれはわかる。しかし……どうにも不安だな。いや……教え子の晴れ舞台で落ち着かないだけだな」
どうやら訓練期間を経て、一夏はナタリー先生にとって可愛い弟子であり娘みたいな存在になったらしい。私見だけれど、こうまで他人を気にかけるのはナタリー先生にとって自らの知識や技術を与えた特別な人間である証のようなものだと思っている。
「なんだミーシャ! 今は忙し……ああ……まったく、わかった。すぐに向かう」
「どうしたんですか?」
「緊急の要件だ。すまんが一夏嬢の晴れ舞台はお前が見ておいてくれ」
「はぁ…………わかりました」
「すまん。できるだけ早く戻る」
急に右耳に手を宛がったかと思うとナタリー先生は怒鳴るような声を上げたものの、すぐに黙り込んで席を立った。……おそらく
さて、ナタリーお母さんの言いつけどおりまずは一夏の勇姿を目に焼き付けないと。
「ごきげんよう一夏さん。……緊張していらっしゃいますわね」
「……ええ、まあ」
私がプライベートチャンネルで声をかけるものの織斑一夏は険しい表情を崩すことなく、単調な口調で答えてくる。
彼女の黒い髪が揺れる度に、黒い瞳を覗き込む度に、彼女があの一週間前の織斑一夏と同一人物だとはどうしても思えない。今の彼女は何かが違う。頭の片隅で鳴り止まない警鐘を無視して問いかける。
「流石に代表候補生である私と入学から一週間の織斑一夏さんでは分が悪すぎますわ。ここはハンディキャップを設けて――」
「オルコットさん」
……言葉を遮るというのはよろしくないですわね。しかし女は常に冷静であるべし。言葉を遮られようと動じてはいけない。
「ハンデ、いらないよ」
「……正気ですの? 私は若輩の身ではありますが……代表候補生ですのよ?」
「知ってる。だから本気で来て。私が――勝つ」
「――なんなのです、その目は。なんなのです、その口は。私は英国の代表候補生、セシリア・オルコット!
試合開始のブザー。そんなもの、どうでもいいですわ。私を舐めたその態度……悉くを撃ち抜いてボロ雑巾のようにしてやりますわ……!
「ブルー・ティアーズ!」
宙を舞う青い四基のビット――ブルー・ティアーズがアリーナに広がる。ハイパー・センサーが全てを見通すこの全能感。四基の位置取り、速度、エネルギー残量、手に取るように脳内に情報が送り込まれ、アリーナの俯瞰図が組みあがっていく。
相手は打鉄。日本国製の近接戦闘を主眼に置いた機体。であれば近寄らせるなど端からありえない。
「っ……くっ、このっ、くらいで……!」
上空を取った二基が打鉄の両脇を掠めるように狙ってけん制の青い閃光を放つ。コンマ数秒遅れて下方に展開した一基が進路を塞ぐべく光を撃ち出し、それらを警戒して回避するだろう地点を予測し、四基目で当てる。
――予想通りに打鉄は二基目を警戒して第一射を大きく左に回避した。
「温いですわね!」
「きゃっ!?」
四基目が狙ったとおりに光は吸い込まれるような正確さで打鉄の両肩にあたる浮遊するアーマーに直撃する。
たかがティアーズの射撃一つで姿勢を崩すあたり、訓練はできても経験は積めていないのが丸わかり。実力など無いのに、力など無いのに吼えるからこうなる。守りたいものも守れずただ奪われていくだけの弱者でしかない貴女に、私は越えられない!
「早いっ……でも!」
「そこっ!」
「うっ……! よ、読まれてる……?」
ブルー・ティアーズの射撃を織り交ぜて相手を近寄らせない。相手の緩慢な回避動作に呆れながら、軽くブーストを吹かしながら相対速度を合わせてトリガーを引く。スターライトMk-Ⅱ、星の光を冠した青の奔流が打鉄のアーマーを破壊して過ぎ去り、アリーナのバリアに当たって光を散らして弾ける。
「くっ!? ま、まだこんなもので!」
「狙いが甘いですわ! 間合いも見切れませんの?」
思い出したかのように左手にアサルトライフルを拡張領域から量子変換し、フルオートでバラまく姿はまさに初心者。けん制ですらなく、ただひたすらにあてずっぽうに打っているだけの無意味な抵抗。
難なく回避してブルー・ティアーズで更に追い立てるように囲い込む。
「このっ、これくらいならっ!」
じわり、じわりと包囲を狭めていく。相手のライフルは反応こそいいものの、撃ったところで既にティアーズの影も無い。一つに気を取られた隙に残る二基で射撃を行い、一基をエネルギーのリチャージのために呼び戻す。
徐々に蓄積していくダメージに焦りを感じ始めるころだろう。
「このままじゃジリ貧で負ける……!」
「抜けられるとでも?」
加速して振り切ろうとする打鉄。しかしその程度の速度では余裕を持って反応できる。二基を後方から追撃させ、一基とスターライトの射撃で進路を塞ぐとチャージを完了させた一基を投入して包囲を完成させる。
「行きますわよ、ティアーズ!」
下方からの第一射、流石に反応したらしく回避。織斑一夏は左手に持ったライフルでいくらかこちらに向かってけん制に撃ってくるものの何ら問題はない。姿勢制御で最小限の回避行動をとり、ティアーズの操作に再び集中する。
「ひゃあっ!!」
左上方向からの第二射、背面のスラスターに直撃。
「うあぁぁっ!?」
右側面からの第三射、右足の装甲部分に命中。
「きゃああぁっ!!!」
直上からの第四射、肩部への直接攻撃。絶対防御の発動を確認。
「――っ!」
スターライトの最大出力、腹部への直接攻撃。これも発動を確認。
「はっ――」
あっけない。やりすぎた。そう思ったときには既に全て終わっていた。力なく地に落ちていく打鉄、手にしていたブレードは地に刺さり、咄嗟に盾代わりにしたらしいライフルはスターライトの熱量で解け落ちて使い物にならない。マガジンが空だったお陰で誘爆は防げたのが幸いか。
両肩の浮遊するアーマーはどちらも破損し、脚部の装甲板も堅牢な打鉄のイメージに反して融解していて、装甲の下のアブソーバーなどが剥き出しの状態だ。スラスターからは黒煙が上がり、最早どう見たって満身創痍。なのに――それなのに!
「ゲホッ、ゴホッ、まっ……まだっ……まだ、動ける……私が、勝つっ!」
「……もう降参してはどうでしょう? 万に一つも、勝ち目はありませんわ。あの日のように何もできないまま終わらせてみてはどうです? いくら初日と心構えが違うからといって、たった一週間の訓練期間というのは……無謀が過ぎるのではなくて?」
「確かに最初のころの私は何も言い返せなかった……それが何より悔しくて、情けなかった……!」
「今もそうですわ。もう諦めてくださいまし」
「まだ、諦めてなんかない! 私を……ブリュンヒルデの妹じゃなくて、織斑一夏として認めてくれた人の前で、情けないトコなんて見せたくない……! 私の友達を……バカにされたまま負けるなんて、絶対イヤッ!!!」」
ああ、ああっ! そんな力なんて付け焼刃のクセに! ISに乗れたからといって自分が強くなったような口ぶりで大言壮語をのたまわってっ! ふざけてる、ふざけてますわっ!
「私はたった一週間で超えられるような甘い人間なんかではありませんわ! 私はあの日失ったものを二度と失わないために! 大切な人が生きた証明のために戦ってきたのです!
何も知らないなら教えてさしあげましょう。この身がどれだけの苦難を乗り越えたのかを。
何もわからないなら叩きこんでさしあげましょう。痛みと恐怖と怒りを以って。
それで尚立ち向かおうと言うのなら……!
「父が死に母も死にッ! 絆も財も名誉も思い出も貪りつくされたあの空虚な家で一人必死に足掻いて立ち上がってようやくここまで来たのです! ここまでの力を手にするのにどれだけの苦渋を舐めて這い蹲ってきたか知りもしないくせに! 私に“勝つ”などと吼えないでくださいましっ! 貴女とは……覚悟が違うのです!」
「――違わない! 私は私の大切な人に誓って負けられない! オルコットさんは自分自身の大切な人のために負けられない! だったら何も違わない!」
地に刺さった剣を引き抜いて織斑一夏が立ち上がる。銃は喪失し装甲は多くが破損、もしくは何らかのダメージを受け、操縦者自身も玉のような汗を流して肩で息をする満身創痍の状態。
対する自分はティアーズのエネルギーが若干不安なもののこれまで一発とてダメージを受けていない。いくらでも畳み掛けられる。あと一発スターライトを叩き込めば――
「私はっ! あなたに……ッッ!! 織斑一夏を……私を認めさせるっ!」
「――――っ何を!?」
セピア色の風景画が脳裏を過る。邸宅の一室、父と母の部屋。家財も思い出も何もかもが風化していく世界。一人涙を流したあの日の記憶が――
『絶対に、わたくしを……オルコット家を認めさせて差し上げますわ!』
強さが必要だった。――何のために?
名誉を挽回すると誓った。――なぜ?
私は強くなれた。――何を手に入れた?
「ハアアァァァァッ!」
「なっ!? 瞬時加速……!?」
懐かしくも苦々しい記憶を切り裂く叫び。途切れたフラッシュバックから現実に意識が引き戻されるその先にあった光景は、背部のブースターから煌く粒子を放ちながら迫る打鉄の姿。ボロボロで今にも膝を突いて倒れそうなのに、彼女は凛々しくも幼さを残した表情を気迫に染め上げて剣を構えて突っ込んでくる。
まずい。――負ける。
「――ない」
回避できない。――負ける。
「負けない」
防御も間に合わない。――負ける。
「負け、ないっ」
ティアーズは届かない。――負ける。
「負け……ないっ!」
ミサイルでは遅すぎる。――負ける。
「負け……たくないっ!」
テレビの日本特集で見た記憶がある。鞘の内の剣、マンガで読んだことがある。銃のクイックドロウに対する、剣のクイックドロウ。――居合い切り!
地に足つけた打鉄を纏う織斑一夏が目前に迫る。青い空を映し出したブレードの輝きを伴って放たれる抜刀術の間合いの中だ。スローモーションの景色が織り成す一枚のスナップショットのような世界に左腕を突き出し、声を張り上げる。
「太刀の二、霞の二段!」
「インターセプターァァァッ!!」
「負けない……負けられないッッ!」
「うわあぁぁぁぁっ!!」
拮抗した。そう思った瞬間に左腕にかかっていた負荷が消えうせる。インターセプターの刀身に食い込んだ打鉄のブレードがするりと抜けるように胴を薙いで駆け抜ける。
絶対防御が発動したときの眩い輝きがバチバチという音と共に走りぬけ、砕け折れたインターセプターの刀身が宙を舞い、無惨な姿を晒してアリーナの地に転がる。
「私が、勝つ!」
振りぬいた剣をすかさず構えなおし、上段から白銀が振り翳される。右手と左手でしっかりと振り下ろされる剣の軌跡に、思わず見惚れる。
入学初日のあのおどおどとした素振りを塗りつぶすように、鬼気迫る気配が脊髄を伝って私の脳を震わせる。
「――ああ」
袈裟切りに走る剣の煌き。障害になる腕を避けて左の首元から右の腰元へと斬り捨てた白刃が肉を裂く感触。振り抜かれた剣の切っ先を地面に落としたまま、半壊した打鉄を操る少女――織斑一夏は身じろぎもなくただ俯いているだけだ。
『そこまで! 操縦者の意識の喪失を確認! 勝者、セシリア・オルコット!』
「わたくしの……負けですわね」
勝利を告げる声。万雷の喝采。果たしてコレは………誰に向けてのものなのだろう。
「一夏の負け、かぁ」
「やっぱり自分の弟子が負けるのって複雑な気分?」
「それはそうですよ。でも……うん、一週間でここまで来たなら十分です」
隣に座る友恵にも聞こえていたらしい。確かに複雑な気分だけれど、僅かに一週間で拙いながらも空戦をこなして、理論は教えたとはいえ土壇場で
戦闘中の口元を見るに何やら会話していたらしいがどうせセシリアが一夏を挑発したかしたのだろう。最期は気迫で詰め寄ったものの瞬時加速を行うのにギリギリのエネルギーしかなかったことと、一夏の緊張が解けた瞬間に意識ごと飛んでしまったことが惜しいところだった。ISの操縦に必要最低限の体力づくりと精神修養もできていないのに、競技とはいえ戦闘を行うというのは一般人同然の一夏にはひどく辛いものだっただろう。
「ちょっと行ってきますね」
「はいはい、ナタリー先生が戻ってきたら伝えとくね」
「お願いします」
友恵に後を任せて医務室に向かったはいいものの、案の定医務室は面会謝絶状態。近くにある自販機の前で缶コーヒーを片手に一服し続ける。
もちろん本物ではなくフレーバーを楽しむためのものだ。ニコチン、タールなどは一切出ない。水蒸気は出てくるが煙草のそれとは風味が異なる。それを一本吸い、二本吸い……五本目に突入しようかというときに医務室の扉がようやく開いた。
「織斑先生!」
「……妹なら中で横になっている。今しがた起きたところだから、あまり騒がないようにな」
「はい!」
隣をすり抜けるようにドアを開いて医務室へ突入する。入れ違いで部屋を出てきた保険医の先生が驚いた様子だったけど気にしない。カーテンで間仕切りされた一つのベッド、そこで上半身を起こした影を見つけ声をかける。
「一夏? 入るよ」
「彩夏ちゃん?」
カーテンを僅かに開いて覗き込むと一夏がこちらを見る。三時間ぶりの対面にどこか安心して、私の心が穏やかになっていくのを感じる。見たところ傷も無いし怪我もしていないようだ。
「ごめん、負けちゃった」
「え?」
「だから、その……ナタリー先生や山田先生にも指導してもらったのに……」
「代表候補生相手に一太刀、それも完璧に決まったんだから十分だよ」
「でも……でもっ、私……勝てなかった……!」
はぁ、とため息が漏れる。気にしすぎるところも今の一夏の悪い癖なのかもしれない。常に周囲からの視線に晒され続けてきたせいでいろんなことを考えてしまうのだろう。結局セシリアを見返すことができなかったのではないかとか。
ベッドの隣に置かれていたパイプ椅子に腰掛けるとほのかにまだ温かい。きっと織斑先生もずっとここで一夏の目覚めを待っていたのだろう。
「いい? 一夏はISに乗り始めて一週間。相手は代表候補生で、ISに乗って何年にもなる経験者。いきなり勝ちを拾えるワケがないでしょ」
「……でも、私、あんな啖呵切って……いろんな人に助けてもらったのに……!」
「トライアル&エラー、って知ってる?」
「……試して失敗すること?」
「違うよ。試行錯誤ってこと。やってみて、失敗したら改善して、もう一度試すってこと。一夏の挑戦はやり始めてからまだ一週間しか経ってない。だから銃も飛行技術も戦術もまだまだお粗末だけど、少なくとも動いて戦うことができるようにはなった。
今日の敗北はエラーの部分に当たるかな。今日は負けた。じゃあ敗因を探してどうすれば改善できるか試す。そして次に挑んで勝利を掴む。
……人間ってさ、そういうものなんだよ。まだ始まったばかりなんだよ……ね?」
少なくともここは戦場じゃあない。失敗が即落命に繋がるというわけではない。だったら今のうちにたくさんの失敗とそれに見合うだけの成功を収めればいい。失敗して失敗して、本当に勝利すべきところで勝利を得る。それでいいのだ。
一夏は勝てなかったことを悔やんでいるけれど、それはどちらかと言うとそこまで気にするほどじゃあない。一夏は既に代表候補生に一太刀浴びせるという実績を残したのだ。入学して一週間の訓練でIS適正最低値の操縦者が、代表候補生に食らい付く戦いを見せた。試験機とはいえ第三世代機を相手に、第二世代機の打鉄を使って成してみせたのだから周囲の見る眼は変わるだろう。……とはいえ“まぐれ”ではないことを次以降で証明する必要性もあるのだが。
評判を保つというのはかくも難しいものなのだ。運任せなどではなく、実力があるのだと理解させるには積み重ねこそが必要なのだ。
「……まだ始まったばかり、かぁ」
「そ、まだまだこれからだよ一夏」
実感が湧かないという感じの、得心が行かぬという表情だが先ほどよりは断然マシな顔になった。やっぱり笑った顔が一番なのだけれど、今の状況でそう簡単にできるものではない。
「失礼致しますわ。織斑一夏さんはおられますでしょうか?」
この声はセシリア・オルコットだ。あの陰湿な性悪のアバズレめ、今更どの面下げてここに来たのか。一夏に追い討ちをかけようとでも? そうは行かな――
「はい、どうぞ」
「……失礼致しますわ。――北條さんも…………ちょうど良かったですわ」
一夏の真意が読めない。初日であれだけ一夏をけなしたあのセシリアを自ら招き入れるだなんて。何か言われても言い返すだけの自信があるのだろうか?
「お二人に、心よりの謝罪を致します。……その節は不快な思いをさせてしましましたこと、深く反省すると共にお詫び申し上げます」
いつぞやの謝罪など比べ物にならないほどに深々とした一礼を伴って頭が下げられる。……つい先日の夜も口を利くことはなかったけれど、今のセシリアからはあの時のようなプライド高さは微塵も感じられない。……これが上辺を脱ぎ捨てたセシリア・オルコット自身なのか、あるいはそのような皮を被ったのかはわからない。
一夏のほうに視線を向けるものの、一夏も困り果てた様子でおろおろとしてこちらに助けを求めてくる。
「あー、えっと、とりあえず頭を上げてください」
「そ、そうだよね、うん……オルコットさん、顔を上げてください」
「……ありがとうございます」
「それでセシリアさん、一夏への謝罪はわかるとしてもなんで私まで? あの日に一度受け取りはしたと思うんですけど」
「ええ。ですが一夏さんも居ない場でのものですから。……本当に謝罪するべきは一夏さんと彩夏さんの二人が居る場でこそだと思いましたの」
「随分律儀ですね。……まさか分が悪くなったからそういうことをしているんじゃ――!?」
バシンッ、と右頬に走る痛み。じんわりと広がる熱。何をされたのかを理解した瞬間――脳が沸騰しそうになるのも忘れて事実を反芻する。
一夏にぶたれた。あの一夏に、私の一夏が、私を?
「いくら彩夏ちゃんでも、オルコットさんをそんな風に言うのは許さない」
「お、織斑一夏さん……私はそのように言われても仕方のないことをしてしまったのです。例え嘘偽りと謗られようとそれは甘んじて受けるべきでして……」
「違う! そんなの間違ってる! 私はオルコットさんがどんな思いでISに乗ってきて、IS学園に入ったのかをさっき知った! オルコットさんから見ればあの日の私なんて見るに耐えない腹立たしい存在で、許しがたいものだったっていうのもわかってる!
オルコットさんはずっとISに本気で向き合ってきたんでしょ? なのにあそこに居た私は不貞腐れてISに向き合いもせずに、ただ無為に過ごしているだけの存在にしか見えなかったし実際そうだった。
でも私も本気でISに向き合うって決めて、たくさんの人に訓練をつけてもらって、今日初めて銃や剣を使って戦って……どれだけの思いを持ってオルコットさんが戦っているのかやっとわかった。オルコットさんがなんであのとき私をバカにしたのかも今日になってやっとわかった。
でもオルコットさんのことをなにもわかろうとしてない彩夏ちゃんがそういうことを言うのは――絶対に間違ってる!」
私の頭の中が急速に冷え始める。私が彼女を理解しようとしていないだなんて何を今更。彼女は私の大切な
怒りの赴くままに敵を殺したことだってあった。涙が枯れるほどあの日の地獄を夢に見た。疑いの目で世の中の動きを見渡してきた。
「だから彩夏ちゃんにはオルコットさんのことをまず知って欲しいの。そしてオルコットさんには彩夏ちゃんのことを知ってほしい。
お互いのことなんて何も知らないのにそんな風に決め付けて疑ってかかるなんて絶対ダメだよ。……彩夏ちゃんは一週間前に、私たちはお互いのことをこれから知っていこうって言ったでしょ?
だったら、二人ともお互いのことを理解し合えるはずだよ。いろんな行き違いはあったかもしれないけれど……それでも何も知らないまま喧嘩別れするよりはずっといいと思う」
これが一夏の強さなのだろうか。普段はちょっとおどおどとしたところや心配性なところが目立つ普通の女の子。だけどその根っこはこんなにも前向きでしなやかな強さを持っていたということなのか。
自分自身の在り方さえ見失っていた一週間前とは比べ物にならない。活力を失って腐り果てる前に一歩踏み出すことができたことで、何があっても折れない前向きな気質が蘇ったのかもしれない。これがきっと、織斑一夏本来のものなんだ。
「大丈夫だよ! 彩夏ちゃんもオルコットさんも、きっと大丈夫!
二人とも大切なもののために頑張れる人なんだから、きっとお互いのことだってわかりあえるよ!」
「……織斑さんは、強いですわね」
「一夏でいいよ、オルコットさん」
「ではわたくしのこともどうぞセシリアとお呼びください」
これは嫉妬だ。彼女達が仲良くなっていくことにやきもちを妬いているだけだ。だからきっと私はセシリアを拒絶しようとしたんだ。――狭量な上に嫉妬深いなんて、まるで小学生のようだ。
「――ハァ……そうですね。うん、余計なことはすっぱり忘れます。改めて、北條彩香です。よろしくお願いします、セシリア」
「アヤカさん、こちらこそ改めてよろしくお願い致します」
「さて……とりあえず一夏、いくら許せないからっていきなり平手打ちはひどいと思うんだけどー?」
「うぅっ!? そ、それはぁ……ご、ごめんなさいぃ……」
「いいよ。……お陰で少し目が覚めたから。…………その、ありがとう」
相手を認めるというのは難しいものではないと思っていた。けれど私の心に巣食ったほんの少しの嫉妬心が相手を認めるなと囁いてきて、それが私の行動さえも歪ませていたのかもしれない。
今の一夏のような強さがあれば、私はあのとき差し伸べられた祖母の手を振り払ったりはしなかったのだろうか。人生は変わっていたのだろうか。
もしもの話など何の意味もないはずなのに、ただただ後悔だけが降り積もっていく。
いろいろ変わった点
織斑一夏
・レズっ気持ち
・若干ながら常識的感性を得る
・知性がアップ
・姉嫌い
・IS適正は劣悪
・割りと涙もろい
・ゲロインになる
・白式リストラ(NEW!)
織斑千冬
・シスコン
・妹に関してヘタレ
・ただし剣は容赦なし
セシリア
・原作よりもクール
・IS適正がアップ
・自信がアップ
・プライド高さがアップ
・嫌味っぷりがアップ
・認めた相手には礼を尽くすタイプ
・力こそ正義(NEW!)
・両親への愛に満ちている(NEW!)
・家も金も既に無い。捨て身感がアップ(NEW!)