リレンは今、目の前に立つ黒いローブを纏う見るからにも怖そうな大人に怯え、自分の手に持つ一枚の手紙に困惑していた。
「…………え?」
そんな少し体を震わせ怯えているリレンに男――スネイプは顔の表情を一切変えずに舐めるような口調でいう。
「お前はホグワーツに入学する権利を得たのだ。入学する気があるのならば明後日に迎えが来る。それまでに出かける用意をするのだな」
リレンもう一度手に持つ手紙を見る。確かにそこには『ホグワーツ魔法魔術学校』と書かれていた。
「ホ、ホグワーツ……て……が、学校?」
「さよう。ホグワーツでは魔法を学ぶ。そしてお前にはその魔法を学ぶ資格がある。」
魔法と言う気になる単語を聞き少し驚くがリレンにはそれよりも気になる事が一つあった。
「学校には……ひ、人が……沢山いるから……行きたくない……それにわ、私……ば、化物だから……」
今まで人と関わった事の無いリレンにとって学校とは恐怖そのものだった。そもそもリレンにこれ程までに深いトラウマを植え付けたのは紛れもない人間だ。それも今までリレンに酷い暴力を行ってきた子供達と同じ屋根の下で学ぶなど恐ろしくてとても考えられない。
そんな、より一層怯えるリレンにスネイプは言う。舐めるような……だかどこか優しさを感じられるような口調で言う。
「お前が今までどう生きてきたのか我輩は知らん。このまま一人で生きようが前の勝手だ。孤独を求めるなら一人も悪く無いかもしれん。だかお前は心の何処かで求めているハズだ……人の優しさを、人との関わりを……違うかね? ホグワーツに行けば自然と人と関わる事になるだろう。うまく行けばお前の心の支えとなってくれる友という存在が現れるだろう。そうすれば良くも悪くもお前の人生は一人の人生より色とりどりな物になるぞ。」
リレンは心の奥底に閉まっておいた気持ちを見抜かれ動揺する。本当は誰かと関わりたい……人の優しさに触れたい。町の人達とも仲良くなる為に必死になって関わろうとした……たが結局は『化物!』と人蹴りされる。しまいには暴力まで振るわれる。そうした経緯がリレンの心に一人になりたい……人と関わりたくない……と言った感情を心に巣食う大きな壁として作り出したのだ。だが今のスネイプの言葉、ホグワーツと言う希望……それが自分の心の奥に閉まっていた――人と関わりたい――という感情を思い出させる。ジワジワと溢れ出てくる感情はリレンが作り出した――人と関わりたくない――という感情の壁を突き破りどんどん表に出て来ようとする。だが人と関わろうとしても『化物』と呼ばれ突き放されると思い込んでいるリレンは必死に感情を抑えようと心の中で葛藤する。
そんな心の中にある全く異なる感情と葛藤するリレンはやっとの思いで一つの言葉を口にする。
「でも! わ、私ばけも――」
「お前は化物ではない」
そんなリレンの負の感情がこもった一言を遮るようにスネイプが舐めるように……それでも優しさが込められた声で言う。
「あっ……あぁ……」
そんな優しいスネイプの言葉を聞いた瞬間、リレンの心に巣食っていた――人と関わりたくない――という感情が――人と関わりたい――という感情によってガラスのこどく割れていく。やがてその感情はリレンの心を満たしそれは大粒の涙となってエメラルドのようにキラキラとした緑色の瞳から流れ落ちていく。
『お前は化物ではない』
その言葉はリレンが今一番求めていた言葉であった。
スネイプの言葉に詰まった優しいさ……それはリレンが何よりも求めていた物だった。
「うわぁぁーーん!」
リレンは心の奥底に閉まっておいた感情を爆発させ嬉し涙を流しながらスネイプの胸に飛び込む。鼻水や涙でスネイプの黒いローブが汚れようともお構い無しに、今まで閉まっていた感情をスネイプの優しさを感じられる胸でさらけ出し泣きじゃくる。
リレンの泣き顔を見て彼女が今までどんな人生を歩んできたのかを痛い程に感じたスネイプはリレンの背中に腕を回そうとする。だがすんでの所でその腕は止まり下に力無く下げる。
「うわぁぁーーん!」
「…………」
スネイプはそんな彼女の泣き顔を見つめる。いつものように無表情で――だがどこか微笑んでいるような表情で。
――――
「……すぅ……すぅ……」
「…………」
あれから泣き疲れて寝てしまったリレンはベットで小さないびきをかきながら寝ている。スネイプはそんな静かに眠るリレンを見て心の中でため息をつく。本来ならばリレンに魔法の事やホグワーツについての説明をしなければならないのだが、当のリレンはその説明をする前に疲れて寝てしまった為、スネイプは何故こうなったのかと考えると同時に彼女のこれまでの人生を考え、少し哀れな気持ちになる。結局魔法の説明はハグリッドに任せる事にしてスネイプは小屋を後にする。
リレンはこの日の夜、夢を見た。それは今まで見てきた暗闇を寂しそうに一人で歩くという夢ではなく、顔の無いのっぺらぼうな人達――およそ百人くらいの人達と手を繋ぎ楽しそうにお花畑を走るという夢だった。想像してみるとある意味恐ろしい夢ではあるがリレンにとってはこの日見た夢は一生忘れない大切な……楽しい思い出となるだろう。
――――
リレンは、鳥のさえずりと窓から差し込む朝日に照らされ目を覚ます。こんなに早く起きたのは久しぶりだった。
「…………」
リレンはベットから起き上がりギィィときしむ床を踏む。
「…………うん!」
すっかり綺麗になった部屋を見渡し昨日の出来事が夢では無い事を確認したリレンは体を屈伸させ朝日が差し込む窓に近づく。
「……今日は……晴れ!」
今日の天気は雲一つ無い快晴だった。昨日はこんな快晴を見て気分を下げるリレンだったが今日は何故かそんな快晴に元気を貰った気がした。今なら町の人達とも仲良くなれる気がする……そんな根拠のない自信がリレンを振るい上がらせた。
「……ま、町に行ってみようかな……」
一瞬町に行ってみようかと悩むリレン。
「……やっぱいいや……」
しかし昨日のスネイプとの出会いを思い出し、町に行く事を辞める。せっかくスネイプから貰った『優しさ』だ今のまま町にいってもせっかくの『優しさ』を壊されてしまうのがオチだ。
リレンは窓から見える青空をキラキラとした目で見つめる。
「……ホ、ホグワーツ……」
リレンはこれから自分が通う学校の事を思い浮かべる。人が沢山いると言う学校に通うのはやはり不安だし怖い。だがそれ以上に――人と関わりたい――という気持ちが勝り自然とワクワクしてくる。
「……フフ……」
リレンは青空に向かってぎごちない顔で……だかとても爽やかな顔で微笑む。
――おまけ――
*書いてる途中に思い付いたくだらない話です。基本キャラ崩壊の集まりです。
リレンと魔法
スネイプ「ゴホン! それでホグワーツで学ぶ事になる魔法についてだが」
リレン「…………人!」
スネイプ「ファ!?」
スネイプ「ゴホン!(気を取り直して)それで魔法について――」
リレン「……人おぉ!」
スネイプ「ファァ!?」
リレン「人が何人居るかって聞いてんだよぉ!あぁん!」
スネイプ「いや…だから魔法を――」
リレン「人ぉぉ! 何人だ! 子供は大人はジジイはババアは何人づつだぁ! アァァン!」
スネイプ「いや…あ、あのだから…ま、魔法を……(ボソボソ)」