新米提督・堺修一は、西太平洋のド田舎泊地・タウイタウイ泊地に配属される。提督業にもやや慣れてきた頃、泊地が深海棲艦の空襲に遭う。堺は空母を持つことの必要性を痛感し、苦労の末に瑞鳳を建造するのだった。
「…で」
再建されたタウイタウイ司令部(ただしプレハブ)にて。
堺は、2人の艦娘を前にして、尋ねた。
「正規空母と軽空母って、何が違うんだ?」
堺の前にいるのは、瑞鳳と赤城。ともに、空母の艦娘である。
ちなみに赤城はいつ来たのか?それは、つい昨日のことである。
瑞鳳着任後、提督は早速瑞鳳を演習に出し、航空戦の模様を学んでいた。その時、沖合いから来る敵艦を索敵する、という想定で発進した瑞鳳艦攻の1機が、たまたま泊地近海を航行中の敵空母・ヌ級を発見したのである。
ただちに瑞鳳航空隊は、装備中の模擬爆弾を実弾に積み替え、魚雷の弾頭を実弾に差し替えて出撃した。そして、先の空襲の意趣返しだとばかり、ヌ級を沈めたのである。
その時の報酬艦として泊地に配備されたのが、赤城だったのだ。
「はい、まず搭載数が違います」
赤城が先に答えはじめる。彼女は、端から見ると弓道選手と間違えそうなくらい凛としている。結構な美人だが…いや、あの夢に出てきた和傘の娘のほうが美しいか。そういえば、あの娘は誰なんだろう。
「正規空母のほうが、船体が大きい分、積める機体の数が多いです」
赤城の説明で我に返った。
「搭載数にはどれくらい差があるんだ?」
「そうですね、今の私ですと、18+18+27+10=73機を搭載できます」
「私は、18機と9機と3機で、合わせて30機なのよ」
なんてこった、倍以上差があるじゃないか。
「それに、耐久力や装甲、火力でも、私たち正規空母のほうが高いんです」
なるほど、スペックにも差が出るんだな。
「その代わり、その…ご飯、いっぱい用意しておいて下さいね?」
「ん?どういう意味だ?」
「軽空母のほうが、燃費は軽いのよ」
そうか、強力な代わりに大食ら…いや!その表現は婦女子には失礼か。
「あと、軽空母は潜水艦に攻撃できるのよ」
「ふむふむ、対潜掃討ができるんだな」
「違いとしては、そのくらいですね」
なるほど、よくわかった。後は、出撃を重ねて、学習していけばいいかな。
「で、早速だが、頼みがあるんだ。先日、我が泊地は、敵機の空襲を受けた。恐らく近海に敵空母機動部隊がいるのだろう。敵部隊の居場所は大体察しがついてる。そこを捜索し、敵空母を沈めてもらいたい」
「「承知しました」」
「摩耶、加古、吹雪、綾波を護衛に付ける。頼む!」
「南雲機動部隊、出撃します!」
「小沢艦隊の本当の力、見せてやりましょ!」
「…南雲機動部隊?小沢艦隊?」
「かつて私達が所属していた艦隊の名前ですよ」
「そ、そうか…まあ、とにかく、頑張ってくれ!」
赤城たちと共に出撃拠点に向かう中、堺は考えていた。
(これは…本格的に彼女たちの歴史を調べる必要があるな…)
実は、堺は護衛艦は知っていても、軍艦についてはあまり詳しくはないのである。だが、
幸い、堺は歴史は得意な方だった。今晩からでも、ちょっとずつ勉強していくとしよう…。
堺は、艦隊旗艦となった赤城に妖精化して乗り込み、機動部隊は利根たち残留組に見送られて、出撃した。
赤城の艦橋もまあ、悪くはない。が、どっちかというと摩耶の艦橋のほうが居心地がいい感じがする。何故だろう?
…考えていて、気付いた。赤城の艦橋には、妖精が多いのだ。また、摩耶に比べて艦橋自体が狭い。なので、人口(?)密度が高くなり、その分居心地がよろしくないのである。
赤城艦橋にいる妖精さんは、堺を含めて全部で12人。まず、艦長、戦術長、航海長、機関長、砲術長、観測長、通信長。当然ながら魚雷発射管がないので、水雷長はいない。が、それとは別に4人の妖精さんがいた。それぞれ1、2、3、4と書いた腕章を付け、飛行帽っぽいものを被ってゴーグルを付けている。どうやら、各航空隊の指揮官らしい。
設備は、相変わらずの金色の羅針盤、操舵輪、でかいテレビモニター。それと何に使うかよくわからん機械が多数。それらの設備と多人数の妖精さんがぎちぎちに詰まっているような感じの場所、それが赤城の艦橋である。
………
「提督!アタシの索敵機が敵を見っけたぜ!」
艦隊が出撃して1時間後。
通信長の妖精が、摩耶からの通信を伝えてきた。
「わかった!摩耶、編成はどうなってる?」
「重巡級1、軽巡級1、駆逐級2だとさ!」
「了解した。赤城!瑞鳳!」
「第一次攻撃隊、発艦して下さい!」
「さあ、やるわよ!攻撃隊、発艦!」
提督の命令を受け、赤城と瑞鳳が身構える。
左手に弓を持ち、右手で背中の矢筒から矢を抜き取った。その矢は、不思議な形をしていた。羽は普通の矢と変わらないが、矢の先端には矢じりの代わりに、飛行機の模型がついている。
そして、それを弓につがえ…きりり、と引き絞ると、ひょう、と音を立てて放った。
飛ばされた矢は、次の瞬間、線香花火のような明るい光を撒き散らし…瞬く間に、3機の飛行機となって舞い上がっていく。白い機体が、青空に映えた。
赤城は、最初の矢を放った後、目にも止まらぬ早業で次々と矢を打ち出していく。その度に矢は白や緑の飛行機に変わって飛んでいった。
振り替えると、瑞鳳はもう弓をしまっていた。機体が少ない分、発艦作業も早く終わるのだろう。
今回の第一次攻撃隊の編成は、このようになった。
赤城隊
零式艦戦21型 15機
九七式艦攻 10機
九九式艦爆 8機
瑞鳳隊
九九式艦爆 10機
九七式艦攻 6機
九六式艦戦 3機
発艦した航空隊は、空中で集合すると、美しい三角形の編隊を組んで、摩耶策敵機の向かった方へ、進撃していった。
不意に、艦橋に備えられたテレビモニターが起動する。それまで真っ黒だった画面は、青と白に変わった。そこに映る、多数の白い飛行機。翼や胴体に赤い日の丸が描いてある。
どうやら、赤城航空隊の飛行機から、中継映像が送られているようだ。
…やがて、モニター下部の海に、黒いものが小さく映りはじめた。深海棲艦だ。
それと同時に航空隊が動き出す。白い機体は二手に分かれた。白く、脚を収納している機体はそのままの高度を維持し、脚の突き出た白い機体は、群れになって上昇し始める。モニターの左右から、緑の飛行機が次々と映りこむ。その腹には魚雷を抱えている。
ある程度近づくと、深海棲艦から砲火が光った。青空に、黒い煙の花が開く。対空射撃だ。航空隊はそれに怯まず突っ込んでいく。
更に進むと、敵の対空射撃に高射機関銃が混ざりはじめた。何機かの機体が火を吹き、落ちていく。しかし、残りは至近まで切り込んだ。
深海棲艦に向け、緑の飛行機が魚雷を放つ。と同時に脚の突き出た白い機体が急降下し、爆弾を叩きつけた。
上から降ってくる爆弾を、慌てたような動きでかわす深海棲艦。が、駆逐艦の1隻はかわしきれず、爆弾の直撃を受けた。炎上し、動きを止める駆逐艦。
残りは爆弾をぎりぎりで回避した。が、その足元には、10本以上の白い航跡。
次の瞬間、3隻ともが水柱に飲み込まれた。
水柱が消えた後には、駆逐艦と軽巡の姿はなかった。重巡はまだ動いているが、のろのろとしており、傾いている。
そこに…
「摩耶様の攻撃、喰らえーっ!」
摩耶の主砲弾が命中した。
………
「うわ…」
赤城艦橋内。堺は、モニターと外とを見比べながら、感嘆していた。
「砲戦する前に、敵艦隊壊滅してんじゃん…。これからは、艦隊には是非とも空母を入れなきゃならんな…」
堺の中で、大艦火力主義…某戦車道の大学付属高校ではないが、優勢火力ドクトリンのようなもの…が、更に大きくなっていっていた。
………
「…むぅ」
赤城艦上で呟く堺。敵の水雷戦隊を撃滅してから1時間以上、東へ…敵がいると思われる方角へ航行しているのだが、行けども行けども敵はいない。海面上に黒い影を見たことは2回あったが、どっちも漂流物だった。
(敵はいなくなった…?)
と思った時だった。
「提督、上!」
加古の叫び。はっとして上を見上げると、夕焼けに染まりつつある空に、黒いものが3つ飛んでいた。敵機だ!
「生きて帰れると思うなー!」
摩耶が対空射撃を始める。「対空戦は得意」の言葉の通りだ。
その中で、赤城艦橋はたちまちハチの巣をつついたように騒がしくなる。
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘、位置につけぇー!」
艦長が号令し、戦術長が伝声管に叫ぶ。艦内はにわかに騒々しくなった。
どこからか、対空戦闘の合図のラッパが鳴り響く。
「直掩隊、発艦急げ!」
戦闘機部隊である第3・第4飛行隊の指揮官が、艦内の無線電話で指示を飛ばす。
「両舷前進最大戦速!艦首風上!」
「がってん承知!」
艦長の号令に、赤城の航海長妖精が力強く応え、舵輪を回す。
赤城が転舵を終えた時には、すでに直掩戦闘機隊は発艦準備を整えていた。
「合成風力よし。直掩隊、発艦します!」
「帽フレー!!」
甲板に集まった妖精たちに見送られ、直掩の零戦隊が次々と飛び立っていく。
「摩耶から通信!対空電探に感!敵機編隊接近!数は、およそ70!」
「70か…多いな、瑞鳳に打電!戦闘機は全部上げろと!」「了解!」 トトツート トツート ツーツーツー ツーツー トツー ツートツー…
通信妖精に命じ、堺は判断を下した。
「陣形の変更は間に合わない、陣形そのまま!全艦、対空戦闘用意!」
敵機来襲!
艦戦20、艦爆20、艦攻30
VS
堺艦隊(複縦陣、先頭は吹雪と綾波、中央が摩耶と加古、後方が赤城と瑞鳳)
直掩隊 零戦21型10機、九六艦戦13機
「数は向こうが多いな…大丈夫か?」
「提督、私と航空隊を何だと思っておいでですか?最強の名を欲しいままにした、栄光の第一航空戦隊ですよ?」
堺の疑問に答えたのは、赤城だった。
「慢心してはいけないんじゃなかったのか?」
「無論です。ですが、慢心と自信とは別物です。私の航空隊なら、きっと防いでくれるでしょう」
そうこう言ううちに、戦闘が開始された。
艦隊前方、遥か遠くの空に、無数の黒点が乱舞する。あるものは煙を吹いて海面に落ちる。またあるものは空中で粉微塵に砕けとぶ。
それらをくぐり抜け、甲殻類を思わせる黒い機体が何機か、こちらに向かってきた。爆弾や魚雷を抱えているらしい。だが…
「主砲三式、対空戦闘!まだまだ…もう少し…!てぇー!」
「加古スペシャルを喰らいやがれー!」
摩耶と加古が、空に向けて主砲を撃つ。一拍遅れて、敵機の目の前に、花火を思わせる光の束が撒き散らされ、白と黒の煙が広がった。
これなら、食い止められたんじゃ…?
「まだ落ちてないな!吹雪、綾波、対空射撃!赤城と瑞鳳も、高角砲と機銃で狙ってくれ!」
摩耶の指示が飛んだ。
「わ、私が皆を守るんだから!」
「綾波が、守ります!」
(なに?まだ落ちてない…だと?あれだけ撃ったのに?)
困惑する堺をよそに、全艦が対空弾幕を撃ち上げる。その凄いこと、空の色が真っ黒に変わるほどだ。
敵機は、その弾幕の中を突っ込んできた…が。
直掩隊の奮戦のため、攻撃隊は数を減らした上に、編隊を崩され、個々がばらばらに突撃するような状態になっていた。赤城曰く、そんな攻撃では、大したダメージは期待できないし、対空砲の各個撃破の好餌となるそうである。
その言葉通り、深海棲艦機は次から次へと対空射撃で叩き落とされ、艦隊に接近した機は僅かだった。そしてその機の攻撃も、回避運動により易々とかわされてしまう。
結局、綾波が艦爆のアンラッキーヒットで中破した他は、被害はなかった。
「ふぅ…」
未だ対空砲の残響消えぬ赤城艦上、堺は息をついた。隣を見ると、瑞鳳が半ば放心状態に陥っている。緊張の時間が過ぎ、ほっとしているのだ。と、その時。
「提督、あたしの索敵機が敵艦隊を見つけたよ!」
加古から通信が入った。あらかじめ飛ばしてあったのだ。
そして、その陣容(大型空母1、軽空母1、軽巡2、駆逐2とのことだった)と位置を聞いた、その瞬間。
「艦載機のみなさん、用意はいい?第一次攻撃隊、発艦して下さい!」
赤城が素早く弓を構え、矢を次々と放ったのだ。
「今度はこちらの番です。今なら、敵は攻撃隊の収用や再編を行っているはず。このチャンスを逃さず、一気にやります!」
赤城が出したのは、艦戦10、艦爆10、艦攻10の航空隊である。それは、編隊を組んで敵艦隊のほうへ飛んでいった。
「瑞鳳さん、私の合図で手持ちの航空隊を全部出して下さい。私のと合わせて、第二次攻撃をかけます」
「は、はい!」
呆けていた瑞鳳も、慌てて艦載機の準備にかかった。
その後は、ほとんど一方的だった。
第一次攻撃隊は首尾よく敵艦隊を発見し、空母めがけて雷爆同時攻撃をかけた。
赤城の読み通り、敵空母は航空隊収用と再編にかかっており、一瞬の隙を突かれる形となった。雷撃は、護衛艦が盾になったのもあって避けられたものの、頭に爆弾を落とされたのである。
いきなり旗艦クラスをやられた敵艦隊は混乱。そこに赤城・瑞鳳の第二次航空攻撃隊の殺到と、摩耶以下の艦娘の突撃を受け、ほとんど何もできないまま全滅したのだった。
如何でしたでしょうか?
戦闘描写がほんと難しい…。
本作では、提督は妖精化して旗艦に乗り込み、現場に赴いて指揮をとる、という設定なのはお分かりいただけていると思います。戦闘時の艦橋内の様子は、「宇宙戦艦ヤマト」を参考にしているのですが、…なんというか、それっぽい感じがしないような…。何故なんだろう?
改善案などありましたら、是非とも感想欄にて教えてくださいませ。今のうp主には、これが限界であります…
あと、赤城通信長の打電ですが…お分かりの通り、モールス信号です。
何を言ってるのかは…面倒なので言わないことにします(笑)
それでは、また次回お会いしましょう!