とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

女の子から司令やら提督やら呼ばれるという、妙な夢を見た堺修一は、艦娘たちを率いる「提督」となり、タウイタウイ泊地に送られる。彼は、四苦八苦しながらも初めての機動部隊決戦を制する(ゲーム的に言うと1-4をクリアする)のだった。


010 提督と、祝賀会

 あの機動部隊決戦より、2日。

 堺の機動部隊は、タウイタウイ泊地へと凱旋した。

 

 そして、泊地周辺海域の脅威がおよそ一掃されたことを記念して、堺は、ささやかながら祝賀会を行うことにした。

 まだ泊地周辺が安定しただけなのに?と思う人もいるかもしれない。だが堺は、これは必要なことだと考えていた。

 

 第1に、仲間たちとの親睦のため。最近は、泊地が発達し始め、それに伴って指揮下に入る艦娘の数が増えてきていた。このままでは、完全な把握が難しくなると考え、誰が配備されているのか、確認する機会が欲しかったのだ。

 

 第2に、ちょっとした発表があったから。その内容については、…会の時のお楽しみ。

 

 

 そろそろ日が沈むという時刻に、会は開始された。

 場所は、タウイタウイ泊地・講堂。艦娘が増えたため、空襲の後の再建の際に、ついでとばかり新設されたのだ。といっても、まだプレハブであるが。

 堺が講堂に来てみると、既に艦娘たちは全員集合し、講堂内には丸テーブルと椅子(たぶん、焼け残った倉庫から出した備品)が並び、立食パーティかバイキングのような感じになっていた。

 

 この会を発案し、指揮したのは赤城。さすが、一航戦の空母だけあるな、と堺は思ったのだが…このとき彼は知らなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 会の始まりと共に、堺は赤城から「提督として、お話をお願いします」と頼まれた。それは別にいいのだが…赤城の様子がおかしい。何かこう、鬼気迫るものを感じさせるのだ。何故だろう?

 考えてもわからないので、頼まれた通り、壇上に上がり話し始める。

 

「諸君。今回我々は、泊地を空襲した敵機動部隊、その親玉と思われる艦隊と対戦し、これを撃滅した。それ以降、泊地周辺において深海棲艦が活動しているという報告はない。なので、私は、深海棲艦を泊地周辺から一掃することができたと考える。それを祝し、この会を開催するものである!」

 

 ここで、艦娘たちから歓声と拍手が起こる。それと同時に、講堂の戸が開き、給糧艦の間宮と伊良湖が、料理と取り皿などを運んできた。

 その料理を見た途端、赤城の目がやたら怪しく輝き出す。ここにきてようやく、堺は気付いた。

 

(あいつ、どうやら旨いメシが食いたかっただけらしいな)

 

 バイキング式に料理が並べられた所で、堺は話を続ける。

 

「今回はお祝いだ。大いに食べ、飲み、騒いでもらって構わない、ただし程々にな。」

 

 もう一度、拍手を受ける。堺は手の平を前に出し、拍手を抑えるようなジェスチャーをした。

 

「宴の前に、2つだけ、この場を借りて発表したいことがある。食いたいと思っているだろうが、少しだけ辛抱してくれ。まず1つめ、今回の作戦成功と、それを記念しての建造に伴い、新たな仲間がここに加わった。まずは、その仲間を紹介することにする」

 

 そう言って堺は、後ろを振り返った。そこには、艤装を付けたままの艦娘が3人。

 

「それじゃ、上がってきて、自己紹介してくれ」

 

 3人は、壇上に上がり、堺の隣に並ぶ。まず、堺のすぐ隣にいた銀髪の艦娘が自己紹介した。箱型の艤装を背負い、そこからカタパルトが左右に伸びていて、それを両手で持っていた。カタパルトには水上偵察機が乗っかっている。

 

「千歳です。日本では初めての水上機母艦なのよ。よろしくね!」

 

(…水上機母艦って何?)

 

 千歳の自己紹介を受けて、堺と艦娘たちが考えたのは、それだった。

 

 続いて、村雨や夕立と同じ服を着て、三つ編みのポニーテールを垂らした、黒髪の艦娘が自己紹介する。

 

「僕は白露型駆逐艦、時雨。これからよろしくね」

 

「時雨!やっと会えたわね!」

「着任待ってたっぽい!」

 

 村雨と夕立から歓声が上がる。

 

「そして最後は…」

 

 これまで見た、どの艦娘とも違う格好をしていた。

 巫女服に似た、しかし巫女服とは微妙に異なる服を着用している。茶色の髪を赤いリボンでポニーテールにまとめ、左腰に日本刀を差している。

 背負った艤装は、これまで堺が見たどの艦娘のそれよりも大きく、威風堂々としていた。その周囲に巨大な連装主砲が4つ展開しており、その艦娘自身も連装主砲を1つ、左手に構えている。

 

「超弩級戦艦、伊勢型の1番艦、伊勢。参ります!」

「おお、ついに戦艦が…!」

 

 堺のたっての希望だった、戦艦の着任であった。

 

「以上が、新たな仲間たちだ。仲良くしてやってくれ!」

 

 3人が壇を降りた後、会場がしばし興奮状態にあったため、それが静まるのを待つ。その間に、3人は工厰に艤装を預けに行った。

 

「2つめ、一部からの熱い要望を受けて…この度、我がタウイタウイ泊地の建物を建築し、プレハブ状態を脱出することをここに宣言する!」

『わあぁぁぁ…!』

 

 仲間たちを迎えた時とは、比較にならないほどの歓声が爆発する。因みに、「一部」というのは、数が増えてきた駆逐艦たちである。プレハブでは手狭になってきたのだ。

 

「まずは講堂と、駆逐艦寮から建築し、その後徐々に他も変えていくつもりだ。建築資材や資金の都合もあるので、時間はかかるが、必ず変えていく。少しだけ待っててくれ!」

 

 本日何度目かの歓声が湧く。この時、3人が戻ってきた。

 

「お、ちょうど戻ってきたな。それじゃ、コップを取って」

 

 既に間宮と伊良湖が準備してくれていた。

 全員がコップを取るのを待ち、堺は音頭を取る。

 

「えー…それでは、タウイタウイ泊地周辺から、深海棲艦の脅威が一掃されたことを祝して、乾杯!」

「「「「「乾杯!!!」」」」」

「おもいっきり、かっこめ!」

 

 宴は、ここに始まった。

 

………

 

「へいほく、ふぁりふぁとうほはいふぁふ。(もぐもぐ)ふぉんなふぉうへいな(パクパク)ひょーひをほういひて(むしゃむしゃ)くふぁはって、はふはりふぁふ(ガツガツ)」(提督、ありがとうございます。こんな豪勢な料理を用意して下さって、助かります)

「食い物を口に詰め込んだまま喋るなよ赤城。はしたないぞ…」

 

 目をキラキラさせながら、山と積み上げた料理を、これでもかと腹にかきこんでいく赤城。堺が最初に言った、「おもいっきり、かっこめ!」をこれ以上ないくらい的確に実践している、といえる。

 

(艦娘のやってることが肉体労働だってのは分かるし、赤城が弓道やってるのもわかるけど…)

 

 堺は、次々と消えていく食べ物と、赤城のほっそりした腹とを交互に見て、考え込む。

 

(どうやったら、あの細い腹にあれだけの量を突っ込めるんだ…?)

 

 

 その隣のテーブルでは、伊勢・千歳・瑞鳳・大淀が、料理をつつきながら話していた。

 

「こうして4人が会うのも、あの時以来ですね」

 

 まず千歳が、口火を切る。彼女のそばには、日本酒の一升瓶があった。

 

「そうですね。と言ってもあの時は千歳さんと瑞鳳さんは迷彩でしたし、伊勢さんは…」

「航空戦艦ですよ。全く、配備するって言ってた航空隊は、配備直前に取り上げられちゃったし。おかげで折角のカタパルトも格納庫も甲板も、ほとんど使わないままでしたからね。」

 

 大淀が同意すると、伊勢が後を継いだ。伊勢のそばにあるのは、梅酒の瓶。

 

「それを言うなら、私たちだって、あの時はほとんど飛行機なかったじゃないですか。彗星は悪くなかったし、天山や流星だって飛ばしたかったのに…」

 

 卵焼きをつまみながら、瑞鳳が、愚痴をこぼす。

 

「まあ、私達の甲板では、重い機体を飛ばすのは無理がありますよ。甲板の長さが瑞鶴さんくらいあれば、いけるかもしれませんけど」

 

 千歳が後を受けると、伊勢が何かを思い出しているような顔つきをした。

 

「瑞鶴、か…ごめんね、あの時はみんなを守ってあげられなくて…。」

「それは私にも言えますね。力になれず、すみませんでした」

 

 伊勢と大淀が、そろって頭を下げる。

 

「とんでもない、お二人ともベストを尽くされたと思いますよ。ですから、頭を上げてください」

「そうそう、今度はあんなことにならないように、みんなで戦わないとね!」

 

 千歳と瑞鳳は、あわてて慰めた。

 

「二人とも、ありがとう。みんなで、か…そういえば、日向はまだいないんだよね?」

 

 言い終えると、伊勢はコップに注いだ梅酒を、一気に呷った。

 言うまでもなく、日向は伊勢の妹である。

 

「はい、ここは今の提督が着任されてまだ間がないので、来ていない子が多いんです。千代田さんも、まだ…」

「千代田…また、会いたいなぁ」

 

 お猪口の酒を飲み干した千歳が、遠い目をした。

 

「ですねぇ…。そして今度は、日向と共に四航戦で瑞雲を…」

 

 言いながら、伊勢がコップに梅酒のおかわりを注ぐ。

 

「千歳さん、伊勢さん、さっきからお酒しか飲んでない気がするよ…」

 

 瑞鳳が卵焼きを口に運ぼうとしたとたん、伊勢がツッコミを入れた。

 

「そういう瑞鳳だって、卵焼きばっかりじゃない。ちょうど酒の肴になるし、1つよこしなさいよ」

「ええっ!?こ、これは…私、卵焼き好きだから…!」

 

 そこを、大淀が嗜める。

 

「二人とも、飲み過ぎはいけませんよ?」

 

 

(…これは一体…?)

 

 料理を食べつつ、4人の話を隣で聞いていた堺は、首をかしげた。

 最後の、食べ物の話題のあたりは、堺でも理解できるのだが、最初と中ほどはちんぷんかんぷんだった。四航戦とか瑞雲とか、聞きなれぬ単語が並んでいるからだ。ただ、4人で参加した、何かしらの戦いに関わる話らしいことは、想像がついた。

 

(やっぱ、史実勉強していくか)

 

 そう決意する堺であった。

 

 決意を新たにした後、堺は、別のテーブルで騒いでいる駆逐艦たちや、巡洋艦たちの様子を見ながら、ふと思った。

 

(タウイもだんだん発展してきて、艦娘が集まるようになってきたけど、『あの子たち』はまだ、1人も見てないな…)

 

 堺のいう『あの子たち』とは、かつての堺の夢に出てきた、謎の艦娘たちである。5人のうち、4人については、駆逐艦らしいということはなんとなく分かったが、あと1人、和傘の美人だけは、艦種の見当すらついていない状態だ。

 

(まあ、いずれ会うこともあるだろうな。今は、ここを大きくすることを考えないと)

 

 堺のささやかな決意を乗せ、宴の時間は流れていった。




更新が遅くなりすみません!
今回の話は、如何でしたでしょうか?

うp主のはじめての艦これ戦艦は、伊勢でした。
皆様は、何でしたか?金剛型ですか?扶桑型ですか?それとも…もしやもっと大物!?

余談ですが、宴が始まる時の堺の台詞…なんだか見覚えがあるという方もいるのではないでしょうか?
あれは、「ハリー・ポッター」シリーズ(何巻だったか忘れました)のダンブルドア先生の台詞から拝借しました。


…では、次回もよろしくお願いいたします!

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