とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

女の子に提督やら司令やら呼ばれる、という変な夢を見た堺修一は、新人ながら日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属され、タウイタウイ泊地へ送られる。四苦八苦しながらも、彼は泊地周辺の制海権を、深海棲艦から取り戻すのだった。

18年1月9日、本文中の「大本営」表記を「総司令部」表記に改めました。


011 提督と、はじめての対外演習

 タウイタウイ泊地、堺艦隊司令部にて。

 突如、ゴン!という妙な鈍い音が響いた。まるで、何か硬いもの同士をぶつけたような音。

 

 何があったかというと…

 

「いってぇぇぇぇ…!!」

「ぁ、御免なさい。振り向きざまに砲塔がぶつかっちゃった?」

「大丈夫か、提督?」

 

 司令部にいたのは、3人。正確には、1人の人間と、2人の艦娘。

 

 まず1人目、戦艦伊勢。演習上がりたてで、まだ艤装を装着したままだ。相変わらずごっつい主砲である。

 

 2人目、その伊勢のそばで頭と膝を押さえてしゃがみこんでいる男。言うまでもなく、堺である。

 伊勢からの演習報告を受けた後、下がって休むよう言った。ところが、伊勢が退室しようと後ろを向いた拍子に、主砲で頭と膝を殴られてしまったのである。さっきのゴン!はその音であった。

 

 そして3人目、本日の秘書艦・摩耶。書類を片付けようとしていたら、その瞬間を目撃し、慌ててデスクから出てきたのである。

 

………

 

「あ痛ててて…」

「提督、シャキッとしなよ」

 

 摩耶に水に浸したタオルを巻いてもらって、再び調べものに取りかかる堺。調べているのは、赤城の言っていた「南雲機動部隊」について。

 先日空襲を受けたとはいえ、本土からの輸送船が来たのと、先達の提督たちの資料が地下壕に残してあったため、それらの書物をひもといているのだ。

 

「ええと…あった。『南雲機動部隊…その名は艦隊指揮官「南雲 忠一」の名字から来ている。旧日本軍では「第一航空艦隊」と呼称され、6隻の空母と護衛艦隊から成り立っていた。この6隻は、第一航空戦隊の赤城・加賀、第二航空戦隊の蒼龍・飛龍、そして第五航空戦隊の翔鶴・瑞鶴である。開戦から半年間の間に、500機以上の航空機を撃墜し、自部隊の損害は10分の1以下、艦艇への被害ゼロと華々しい戦果を立て、間違いなく当時世界最強の機動部隊を名乗るにふさわしい実力を有していた』……ええ!そんな強力な部隊だったのか…」

 

 先日、敵機動部隊と交戦した時の、赤城のセリフを思い出す。

 

『私の航空隊なら、きっと防いでくれるでしょう』

『提督、私と航空隊を何だと思っておいでですか?最強の名をほしいままにした、栄光の第一航空戦隊ですよ?』

 

「そりゃあんなことが言えるわけだ…」

 

 書類に書かれた、南雲機動部隊の参加作戦と、その戦果一覧を眺めながら、堺は呟く。

 

「文字通り敵なしじゃねぇか…。よし、なら正規空母複数で固めて、機動部隊の編成を目指すか…」

 

 相変わらずの優勢火力ドクトリン、大艦火力主義である。

 

トゥルルル…トゥルルル…

 

 その時、司令部備え付けの電話が鳴った。堺は資料を置き、受話器を取る。

 

「もしもし、こちらタウイタウイ泊地艦隊司令部です。…ああ、総参謀長閣下でしたか、失礼しました。要件は何でごさいますか?…ええ…ブルネイですか?あそこの油田には助かってます…はい。…はい…えっ!?そこから対外演習の申し込みが…!?…はい、承知しました。…日取りは3日後!?…はい、…はい、分かりました。…はい、では失礼いたします」

 

 受話器を置いた堺は、心臓の動悸と脳の混乱が収まらない。やにわに、デスクに置いてあった、カップ入りの黒い液体(コーヒー)を、半分ほど一気に呷る。

 

「ーーー!!!!」

 

 液体のあまりの苦さに、堺は悶絶することとなった。なんだこの苦さ!?これでは、まるで…

 

「提督ー?コーヒー飲んじまったのか?それ、まだ砂糖も何も入れてないやつだったんだけど…」

「やっぱりかー!」

 

 因みに、堺は実はコーヒーは大の苦手である。教育隊時代のルームメートの藤原曰く「あいつはコーヒーを飲む物だと思ってない」んだそうである。今回は艦娘に淹れてもらったものだったので、流石に我慢しようと思うのだが…

 

「ふぃー…コーヒーのおかげで頭は整理できたよ、ありがとう」

「別にいいよ。んで、何の電話だったんだ?」

「総司令部からだよ。なんか、ブルネイの提督から対外演習の申し込みを受けたんだとさ」

「よその艦娘と演習で戦うってのかい?」

「そういうことなんだ。摩耶、すまないが、皆の行動予定を見ておきたい。艦隊編成を考えなきゃいけないからな。手伝ってくれるかい?」

「任せときな!予定表取ってくるから、待ってな!」

 

 司令部を出ていく摩耶を見送り、堺は呟いた。

 

「なんで軍部にはこんな泥水しかないのかな…?次何か手柄を立てたら、ここへ支給される飲み物を、コーヒーじゃなくて紅茶にするよう頼もうか…」

 

 とことんコーヒー嫌いな堺であった。

 

………

 

 3日後、演習の日。タウイタウイ泊地前面の海には、10人の艦娘が展開していた。

 堺率いるタウイタウイ艦隊、そして、ブルネイ艦隊である。

 

〇タウイタウイ艦隊〇

重巡洋艦 愛宕 Lv6(旗艦)

重巡洋艦 摩耶 Lv11

戦艦 伊勢 Lv4

駆逐艦 吹雪 Lv13

駆逐艦 綾波 Lv10

航空母艦 赤城 Lv8

 

VS

 

〇ブルネイ艦隊〇

軽巡洋艦 那珂改 Lv21(旗艦)

戦艦 長門 Lv28

駆逐艦 秋月 Lv30

航空母艦 加賀改 Lv80

 

 審判を務める大淀が、宣言する。

 

〈戦闘方式はフラッグ戦です。勝利条件は、旗艦が行動不能になること…それだけです。礼儀を尽くして、演習を行ってください。それではこれより、タウイタウイ艦隊 対 ブルネイ艦隊の演習を開始します。一同、礼!〉

 

『よろしくお願いします!』

 

………

 

 タウイタウイ前面は、あまり島がない。なので、正面きっての激突が予想された。

 

〈練度は向こうが上か…でも、数ではこっちが上、きっといける!みんな、気を引き締めて行くぞ!〉

 

 無線で堺が艦娘たちに訓辞を行う(今回は、堺は陸の上から双眼鏡で艦娘たちの様子を見ている。この演習は、提督は乗艦しない、というルールなのだ)。

 

 一方で、相手方。

 

〈こちらは数は少ないが、皆経験は多い。それに基づいた、柔軟な戦闘展開を、期待しておるぞ〉

 

 ブルネイ基地の提督…西郷 八郎(サイゴウ ハチロウ)も、ブルネイ艦隊の面々に訓辞をしていた。もう60歳にもなろうかというおじいさん提督なのだが、その分戦場経験は多い。

 

 そして…

 

〈では、戦闘…開始!〉

 

 大淀の宣言と共に、花火が上がった。

 演習開始と同時に、両艦隊の空母から索敵機が発艦、相手を求めて飛行し、ほぼ同時に互いを発見した。

 

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

 赤城の号令で、ただちに航空機が発艦し始める。発艦した航空機は、空中で集合し三角形の隊列を組み始めた。

 ところが、赤城航空隊が隊列を組み終えるか終えないうちに、加賀航空隊が密集体形を組んで殺到してきたのである。

 

「対空電探に感!数は約40!敵機だ!」

「もう来たんですか!?まだこっちは編隊集合中なのに…」

 

 摩耶の叫びに、吹雪が驚く。

 

「さすがは加賀さんね。直掩隊は発艦急いで!」

「対空戦闘用意!伊勢さんの主砲は、会敵に備えて通常弾にしといてくれ」

「わかったわ、防空はよろしくね」

「アタシに任せときな!」

 

 タウイタウイの艦娘たちが、急いで対空戦闘配置を取る横で、加賀はひとり、呟いた。

 

「…みんな、優秀な子たちですから」

 

 

 

 赤城航空隊は、零戦21型が15機、九七式艦攻が20機、九九式艦爆が5機。それと別途で、直掩として九六式艦戦6機が順次発艦中である。

 一方の加賀航空隊は…

 

伊勢「!?何あの機体!?」

摩耶「なんだありゃ!?赤城さんの機とは違うぞ?」

赤城「艦攻も艦爆も、機体形状が違う…新型機ですね!」

 

 加賀航空隊は、以下のような編成だった。

 

流星改 12機

彗星12型甲 10機

 

 漸く集合を終え、敵のほうに向かい始めた赤城航空隊、そしてこっちに向かってくる加賀航空隊。それを見比べた伊勢が、摩耶に問う。

 

「ねぇ摩耶」

「どうしたい、伊勢さん?」

「さっき、敵機約40って言ったわよね?…その半分くらいしか見えないんだけど」

「何だって!?」

 

 次の瞬間だった!隊列を維持する加賀隊、その上空にキラリ!と何かが光った。

 そして、高空から艦載機がもの凄い速度で急降下、赤城航空隊に襲いかかった!

  混乱する赤城の零戦隊。その隙を突き、艦載機は赤城隊とすれ違う。

 直後、赤城の航空機は、零戦、艦攻、艦爆の別なく次々と撃破判定され、編隊を離れざるを得なくなったのだ。加賀隊には1機の損害も出ていない。

 

「何あれ…!?」

「赤城さんの機が…!」

 

 吹雪と綾波が驚愕する。

 

「そんなことより、あれ何なの!?機体の後ろにプロペラがあるなんて…!」

「私も知らない機よ!あれは何!?」

 

 伊勢と愛宕も、混乱していた。

 

「くっ…加賀さん、あんな機を装備していたなんて…!」

 

 そんな中、赤城だけはこの機体の正体を察し、歯ぎしりをしていた。

 

「私の『あの子たち』にかかれば鎧袖一触よ」

 

 一方の加賀は、ほとんど表情を変えない。しかし、声はどこか得意そうだった。

 

 そう…加賀の戦闘機隊は、震電改を装備していたのだ。

 摩耶の対空電探は、接近する編隊の方位はわかっても、詳しい高度まではわかりづらい。そして震電改は、高空からの一撃離脱を主体に戦う。加賀は、それを利用したのだ。もともと震電改はドッグファイトには向かない機体なので、あえて攻撃隊から離れた高空を飛ばせたのである。

 

 衝撃冷めやらぬ中、摩耶の絶叫が響く!

 

「!! 全艦今すぐ回避運動!ショックを受けすぎて迎撃を忘れてた、敵機艦隊に接近!敵機直上、急降下ァァァ!!」

 

「真上…直上!?直掩隊発艦中止、面舵一杯!」

 

 彗星が爆弾を抱えて突っ込んでくる!

 堺艦隊は回避運動に入る…が、間に合わない!

 彗星が爆弾を切り離し…それは次々に、堺艦隊頭上に落下した。

 

ヒュルルルルル…ズシィィィン!ドカァン!

 

「あうっ!」

 

 500㎏爆弾の直撃を受けた吹雪が、海面に吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れた。マストにするすると白旗が揚がる。

 

〈タウイタウイ艦隊、駆逐艦吹雪、撃沈!〉

 

 彗星の攻撃による被害は幸いにも、これだけだった。しかし!

 回避した堺艦隊の進路をめがけ、流星改が魚雷を一斉発射、12本の白い航跡(ウェーキ)が堺艦隊に突き刺さる!

 ズシーン!という鈍い水中爆発の音が連鎖した。

 

「一航戦の誇り、こんなところで失うわけには…!」

「ちょっとまずったなぁ…どうしよう…」

 

 赤城と伊勢は、中破判定。

 

「げっ!」

 

 摩耶は小破で済んだ。

 

「なんてこった…一撃で艦隊が半壊するなんて…!」

 

 堺にとっても、これは衝撃でしかなかった。

 

 

 

 その頃、ブルネイ艦隊では。

 

「うちの子たちにしては、戦果が少ないかしら…いいわ。第二次攻撃隊、発艦準備」

 

 加賀が二の矢の準備をしていた。

 

「その前に、お客さんの出迎えだ…ですよ。対空電探に感、敵機来ます!」

 

 長門が敬語で、加賀に報告する。この泊地では、長門よりも加賀のほうが先輩なのだ。

 

「わかったわ、攻撃隊は発艦準備急いでちょうだい。手空きの妖精は、対空戦闘用意」

「秋月ちゃん、お願いねー」

 

 加賀の命を受け、那珂が秋月を振り向く。

 

「お任せください!この秋月、きっと艦隊をお守りします!」

「直掩隊、迎撃して」

 

 加賀の冷静な声。8機の紫電改二が、突撃していく。

 

「敵機捕捉!目標諸原算出、主砲に伝達せよ!…対空戦闘、撃ち方始めー!」

 

 秋月の主砲、長10㎝高角砲が一斉に火を吹いた。次いで機銃が射撃を開始する。

 濃密な弾幕と、加賀の直掩機、紫電改二の猛攻を前に、赤城隊はほとんど全滅の状態に陥った。攻撃を行えたのは僅かに艦攻1機と艦爆3機だけ、しかしそれも回避されてしまう。唯一、戦艦ゆえの鈍足のため、長門が250㎏爆弾を1発もらったが、小破にすら至らない。

 

「敵機、引き上げていきます!」

 

 秋月の報告が入った。

 

「第二次攻撃隊、発艦。引き上げていく敵機についていきなさい」

 

 加賀が攻撃指令を出す横で、長門が警告した。

 

「水上電探に感!艦隊接近!デカいのが1つ、あと中くらいのが3つだ!」

「複縦陣!砲雷撃戦よーい!」

 

 

 

「ッ!?攻撃隊全滅…!?」

 

 通信を受け、赤城が珍しく、血相を変えた。

 

「どうしたんだよ!?全滅って…」

「敵の対空砲がすごかったみたいね。あと加賀さんの直掩機も新型とのことです」

「こうなれば、砲雷撃戦しかないわね…」

 

 愛宕が呟いたその時、ヒュルルルルル…という音が聞こえてきた。

 

「!敵の砲撃だ!」

「衝撃に備えて!」

 

 摩耶の叫びに、警告を発する伊勢。

 直後、ズドォォォォンッ!という派手な音を立て、水柱が複数、屹立した。

 

「夾叉されちゃったわ!」と愛宕。

 

「初弾から夾叉…レベルが違いますね…!」と綾波。

 そんな中、伊勢が敵影を捉えた。

 

「敵艦隊発見!砲雷撃戦用意!戦艦1、駆逐1!その後ろに軽巡と空母がいる!」

「こっちも向かえ討とうぜ!」と摩耶。愛宕が、号令を出した。

 

「単縦陣でいくわよー」

 

 

交戦形態:反航戦

 

 

「主砲、6基12門、一斉射!」

「全主砲、斉射!てーッ!」

 

 伊勢と長門の発砲は、ほぼ同時だった。

 

ヒュルルル…ズシーン!ドカァァァン!

 

「大丈夫か、姉貴!?」

「ちょっと、やりすぎじゃないかしら?」

 

 長門の砲弾がカス当たりとはいえ、愛宕を直撃したのだ。幸い重要区画には当たらなかったが…

 一方の伊勢の砲撃は長門たちより手前に着弾して、ド派手な水柱をあげている。

 

「くっ…こうなりゃ接近戦するしかないぜ!」

「そうね…摩耶ちゃんと綾波ちゃん、切り込みお願いー」

 

 愛宕は、苦渋の決断を下した。

 

「砲で援護するわ」

「私も…航空機は飛ばせませんが、盾くらいになら…!」

 

 伊勢と赤城も、やる気十分。

 

「よぅし、綾波いくぞ!」

「了解しました!」

 

 

 

「む?敵は接近するつもりだな」

 

 タウイタウイ艦隊の動きを見て、長門が呟いた。

 

「こっちも迎撃しよう!秋月ちゃん、駆逐艦をお願いするね」

「わかりました!」

 

 そこに、意外な声がかかる。

 

「私もやるわ」

「「「え!?」」」

 

 加賀が名乗り出たのだ。

 

「飛行機は全部出してしまったし、それに私の20㎝砲を、忘れてもらってはこまるわ」

「加賀先輩…無茶しないで下さいよ?」

「心配いらないわ」

 

 ここで、那珂が長門と加賀のお喋りを遮った。

 

「おしゃべりはそこまで。来るよ!」

 

 

 

「摩耶さんは後ろの空母をお願いします!綾波は駆逐艦を押さえますので!」

「わりぃな、助かる!」

 

 摩耶に要請し、綾波は決意を固めた。

 

「左舷、砲雷撃戦用意!」

「砲戦でも、頑張ります!」

 

 それに相対するのは、秋月。

 

「踏ん張ってくれ、なんとか旗艦を仕留めてみる!」

 

 長門は、砲撃の照準を愛宕に合わせようとしていた。

 

 

 

 綾波は、秋月を撃沈し、その後愛宕たちを狙う長門の脇腹に魚雷を突き刺そうと画策したのだが…見事に返り討ちにあっていた。

 綾波の火力は、12.7㎝砲連装3基計6門。対する秋月は10㎝高角砲連装4基計8門。口径は小さいが初速が速いため、秋月のほうが砲門数も威力も上なのだ。加えて秋月の砲は対空戦闘を想定しているため、綾波の砲に比べ、連射速度も上なのである。

 このため、綾波は魚雷を撃つ暇すら与えられずに、秋月の主砲弾の雨嵐に倒れることとなった。

 

〈タウイタウイ艦隊、駆逐艦綾波、撃沈!〉

 

 一方の摩耶は、那珂に狙いを定めようとしていた。

 

(あいつ…加賀は空母だから、まともな砲はない…だったら、この際無視してもいい!)

 

 そう摩耶は思っていたのだが…忘れていた。

 初期の空母は、敵艦隊との砲戦に備えて、巡洋艦クラスの砲を装備していたことを。そして、相手の空母、加賀は、その「初期の空母」に入るということを。

 

 加賀の後尾に据えられた、5つもの20.3㎝単装砲が、摩耶を狙う。

 

 摩耶が那珂の側面に付け、射撃命令を出そうとした、その時。

 

「撃ち方、始め」

 

 加賀の静かな声とともに、砲が撃たれた。

 

「げっ!?」

 

 まさかの砲撃に、咄嗟に回避運動に入る摩耶。だがそのせいで、那珂から注意が逸れた。そして、那珂はその一瞬の隙で十分だった。素早く、魚雷を準備したのである。

 摩耶は新たに加賀を狙って主砲を撃ち、大破に追い込んだ。あと少しで、倒せる。

 そう確信し、主砲を撃とうとした時だ。突然、背中に鳥肌が立った。

 

「…?」

 

 不穏に感じ、振り返る。そこには那珂の姿。そして。

 摩耶の足元に迫る、8つの青白い影。

 

(61㎝酸素魚雷…!)

 

「しまったぁぁぁ!」

 

 叫んだ時には、手遅れだった。

 

〈タウイタウイ艦隊、重巡洋艦摩耶、撃沈!〉

 

 さらにその直後。

 

〈ブルネイ艦隊、航空母艦加賀、撃沈!〉

 

 那珂の魚雷の2本が、深度調停ミスによって摩耶の艦底を通過、加賀に命中したのだった。

 

 

 

 そして、タウイタウイ艦隊本体。

 長門と伊勢の砲撃の応酬が続く中、ついに赤城が愛宕を庇って、41㎝砲弾を被弾した。

 

〈タウイタウイ艦隊、航空母艦赤城、撃沈!〉

 

 伊勢は既に大破しかけている。

 

(このままじゃ、埒があかない…だったら!)

 

 伊勢は肉薄の道を選んだ。

 

 伊勢型は「直進するのが難しい船」だという評価がある。舵の効きがピーキーで、すぐ曲がってしまうのだ。しかしそれは逆に言うと、舵の効きが鋭いということでもある。

 これは、回避運動にはもってこいだった。

 

 長門の主砲を避けつつ、接近する伊勢。長門も伊勢の覚悟を汲み、砲を構え直す。そして。

 

((…ここ!))

 

 伊勢と長門の主砲が撃たれ、互いに命中した。

 3メートルの至近まで接近していたため、両者とも装甲を貫通される。

 

〈タウイタウイ艦隊、戦艦伊勢、およびブルネイ艦隊、戦艦長門、撃沈!〉

 

(あとは、軽巡と駆逐だけね。これなら、私でも…!)

 

 そう考え、主砲を近づいてくる秋月に指向する愛宕。その視界の上の端に映る、小さな黒い影。

 見上げた愛宕が見たもの、それは。

 

 …急降下する、逆ガル翼の飛行機。

 

 白旗を揚げ、海面に立つ加賀。その口元に、微笑が浮かぶ。

 

「…みんな、優秀な子たちですから」

 

 

 投下されたのは、800㎏爆弾8発、500㎏爆弾10発。

 全てが愛宕を直撃した。

 

〈タウイタウイ艦隊旗艦、重巡洋艦愛宕、撃沈!よって、ブルネイ艦隊の勝利!〉




更新が遅くなりすみませんっ!

自分で書いておいてなんですが、堺さん…コーヒーを泥水って、そりゃひどい…
ちなみにこれで、堺さんのキャラモデルがはっきりわかってしまったと思います。

あと、今回初登場の西郷さん…東郷平八郎元帥の名前のもじりなんですが、こちらにももちろん、キャラモデルがあります。
おじいさん提督…経験に基づく老練な指揮…(お察しください)

また、以下の作品の要素が加わりました。

・ガールズ&パンツァー…演習時、撃沈判定されるとマストかどこかに白旗が揚がる

会話文が多く、読みにくくてすみません…それでもいいという方は、今後とも拙作をよろしくお願いいたします!

追伸:評価・感想・お気に入りお待ちしております!

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