とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

日本国海上護衛軍の新米少佐・堺修一は、艦娘を率いる「提督」に任命される。赴任先のタウイタウイ泊地の田舎ぶりに辟易したりしつつも、彼は泊地周辺の深海棲艦の制圧に成功し、南西諸島一帯の制圧作戦への参加を命じられた。


013 提督、改造する

 本日の天気を一言で言い表すと、こうなる。

 

「天気晴朗なれども波高し」

 

 もちろん、元ネタはお察しの通り。

 

 肌をさらして、1時間も砂浜に寝転んでいれば、「上手に焼けましたー!」となるだろうことは想像に難くない、突き刺すような日差し。熱帯にあたるこの地域は、日のあるうちは気温は高い。おまけに湿度も高く、むしむししている。

 こういう時には、クーラーの効いた部屋で、ジュースを飲むかアイスをかじるかするのが、望外の幸福というものだ。

 

 …が。

 

 タウイタウイ泊地の司令部には、生憎とクーラーなんていう文明の利器は、存在しなかったのだ。

 

 

 

「あぢぃぃぃ…」

 

 提督室に響く堺の声には、作戦を受けて出撃する時のような覇気がない。代わりに喉から出るのは、木からもぎ取られた後、何日も放置されたリンゴのような、萎びた声。

 

 まあ、この蒸し器の中みたいな気候の場所で、クーラーはおろか扇風機もなし、という状況では無理もないだろう。

 さらにいうと、この辺りは、風はほとんどないに等しい。窓先に吊り下げられた風鈴が、ちっとも音を立てないレベルだ。

 無風、高温、高湿度。勤務におよそ適さない条件がここまで揃う場所も、そうそうないだろう。

 

 …摩耶にとっては、関係ないことだが。

 

「…提督、その格好はもうちょっとどうにかならなかったのか?」

「仕方ないだろ!?暑いんだからさ。どっかの書物にも書いてあるけど、冬はどんなとこにでも住めるが、暑い時に住みにくいところは我慢ならないんだよ」

「いや、もうちょい工夫のしようがなかったのかよ?」

 

 摩耶がそういうのも当然だ。

 今の堺は、上半身はタンクトップ一丁、下衣は夏用の薄い生地の長ズボンを膝までまくって、裸足の両足を水を張った金だらいに突っ込んでいる、という格好なのだ。

両手にうちわを持って扇ぎ、頭には水で濡らしたタオルを巻いている。

 部外者が見たら、こんな格好の人が提督だとは、言われるまでわからないだろう。というか、言われた後でも、信じそうにない。

 

「そういう摩耶は、なんでそんな元気なんだよ…」

「元気なのはアタシだけじゃないぜ。他の子たちだって、平気で訓練してんだからさ」

「艦娘と人間じゃ、身体機能が違うのかな…」

「いや、もと人間だし」

 

 艦娘は、艤装による加護や妖精の手助けなんかはあるものの、身体機能はぶっちゃけ人間と大して変わらない。人間が志願してなっているものだから、当然といえば当然だが(設定参照)。

 

「そうだ、訓練といえば、1つ思い出した。提督、改造はしないのか?」

「改造?誰のだ?」

「伊勢さんだよ。あの人、改造できるようになったらしいぜ」

「そりゃホントか?」

「ああ、今朝の訓練が終わった時に、妖精がそう言ったんだよ」

「改造か…やってみようかな。ちなみに、改造するとどうなるんだ?」

「大体は、艤装が発揮できるスペックが上がるぜ。装甲は固くなるし、火力だって強くなる。中には低下するスペックもあるらしいけどな」

「改造したらデチューンしちまうって、どういうことなんだ?」

「そこはアタシもわからん。あとは…飛行機が積める艦だと、搭載数が増えたりもするぜ。それから、艦種がガラッと変わっちまうこともあるぜ」

「例えば?」

「それだよ、それ」

 

 そういって、摩耶はデスクの上の書類の1つを指差した。先日堺が読んでいた資料だ。タイトルは、「航空戦艦と瑞雲」。

 

「戦艦から航空戦艦になるってヤツ。今までは水上機は零式水偵しか積めなかったろ?だけど、改造して航空戦艦になると、瑞雲ってのを積めるようになるんだ」

「積むと何ができるんだ?」

「そこは伊勢さんに聞きな」

「!! そうか、そういやあの資料に書いてたな。航空戦艦になるのは、扶桑型と、伊勢型だった!」

「んじゃ提督、伊勢といっしょに工厰行ってきなよ」

「すまない、ここは任せたよ」

 

 提督は、きっちり服を着てから、伊勢とともに工厰に向かった。

 

 改造作業には1時間ほどかかる、と妖精に言われたので、堺は一度執務室に戻って、仕事をこなした後に出直すことになった。

 1時間後、工厰で提督を待っていたのは、「安全第一」のヘルメットを被った改造担当の妖精たちと、そして。

 

 これまでと異なる艤装を付けた伊勢だった。

 

 何よりもまず目を引くのは、左手部分。以前は主砲を持っていた左手だが、今手にしているのは、奇妙な三角形のような形の金属の板。その上にはレールが敷かれ、レールの端はカタパルトへとつながっている。

 そして、板の周りにあるのは、夥しい数の対空火器。25㎜機銃に混じって、見たことのない箱型の兵装もある。それには、蜂の巣のように、無数の穴が開いていた。いわゆる、奮進砲というやつである。

 

「戦艦の火力と、軽空母並みの航空機運用能力。ね、素敵でしょ?」

 

 伊勢が自慢する。

 

「あ、ああ。この板が、飛行甲板なのか?」

「ええ、そうよ」

 

 伊勢の説明を聞いた後、妖精が渡したデータを見る。

 一目見て…気づいた。

 

「火力低くなってない?」

 

「そりゃそうよ、改造のために主砲外したんだから」

「そういえば、あの戦争の時、伊勢型は5・6番主砲を取り払って、代わりにそこに航空甲板と格納庫付けたんだったな。その再現ってか?」

「詳しくはわからないけど、そういうことみたいよ」

「…で、他には…対空性能・回避能力・運の上昇か」

「あの時は甲板に瑞雲が乗らなかった代わりに対空火器を乗せてたからね」

「すまん、この運ってのは何だ?」

「そこはわかんないの。なんか、回避とか一部の攻撃とかに関わるらしいんだけど」

「…謎のステータスだな。まぁ、運用していけば分かるか」

 

 あとは演習などで確認していくとしよう。




如何でしょうか?

いよいよイベント始まりましたね…今回は、志摩艦隊・西村艦隊の作戦が中心となったようです。そうなると、冬は小沢・栗田艦隊の作戦がモチーフ…!冬に、伊勢の出番がくる…!
個人的に、非常に楽しみにしています。

皆様、イベント頑張ってくださいませ!

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