とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

妙な夢を見た日本国新人海上護衛官・堺 修一はタウイタウイ泊地の提督に任命される。彼は、苦労しながらも、艦娘たちをまとめ、指揮してバシー島沖の敵を撃滅した。

18年1月9日、本文中の「大本営」表記を改めました。


016 提督と、緊急作戦

ドォン!

 

ガスン!ドガァァァァァンッ!

 

 

 

 東部オリョール海。幾つかの小島の他は、陸地がなく、ただただ海だけが広がる場所。

 夜の帳が降り、黒一色の海面の上に、今、3つの炎が燃えていた。

 もちろん、焚き火などではない。

 

 魚雷発射管に直撃弾を受け、艦娘たちに向けて発射するはずだった魚雷が誘爆。火だるまになった重巡リ級が、なおも浮き続けようと足掻く。だが、その甲斐なく、やがて力尽きたように動きを停止し、燃えながらゆっくりと沈んでいく。

 

 その隣には、空母ヲ級。ただでさえ頭でっかちでトップヘビーなところに、駆逐艦の魚雷を4本もくらい、いまや頭が海面下に没していた。空に向かって突き上げられた2本の足と、主砲代わりの杖が、松明のように燃え盛っている。

 

 3つめの炎…これが、一番派手だった。炎…というより、爆発というほうが適当である…の中心にいるのは、戦艦ル級。弾薬庫に35.6㎝砲の砲弾を受け、火の粉と爆炎とをひっきりなしに撒き散らしていたが、ふいに、天を突くような轟音をたてて、大爆発を起こした。そして、こっぱみじんに消し飛ぶ。その火球は上空100メートルにも達し、文字通り雲を、天を焦がした。

 

「…終わりましたね」

 

 砕け散ったル級の破片が、雨あられと降ってくる中で、パラオ艦隊旗艦・戦艦「榛名」は、そう呟いた。

 そして、通信機を取る。

 

「こちら榛名、オリョール海の敵旗艦艦隊の撃滅を完了しました。これより、帰還します」

『そうか、よくやってくれた。ありがとう』

 

 彼女の通信の相手は、上司たるパラオの提督である。

 二言三言話して、通信を切った後、榛名は僚艦たちに声をかける。

 

「さあ皆さん、帰り」

 

「榛名さん、後ろっ!」

 

 随伴していた駆逐艦「白露」の、突然の絶叫。

 

「…後ろ?」

 

 振り返った榛名が見たもの、それは。

 

 …榛名を見つめる、黄色い2つの目。そして、先ほど榛名自身が仕留めた戦艦ル級と、全く同じ形の艤装を有する深海棲艦。

 

「敵…!」

 

 考えられたのは、そこまでだった。

 直後、黄色い目の戦艦ル級が発砲。至近距離でそれをくらい、榛名の意識は、一瞬で吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何ですって!?」

 

 夜もだいぶふけた頃、タウイタウイ泊地。

 寝ていたところを叩き起こされた現タウイ提督・堺は、パラオの提督からの救援要請の電話を受けていた。

 

「…はい…はい。承知しました、ただちに救出艦隊を編成、そっちに向かわせます。最後に連絡があったのは、どのあたりですか?……沖ノ島沖ですね。はい、承知いたしました。では、失礼します」

 

 ガチャリと電話を切った堺は、パジャマ姿のまま、椅子にドサリと身を投げ出した。

 

「やれやれ…」

 

 天井を見上げ、呟く。

 

「ったく…だけど、これやらないと、信用に響くよなぁ…」

 

 そして堺は身を起こした後、大淀に声をかける。

 

「大至急、艦娘たちに講堂への招集命令を」

「承知しました」

 

 提督室の戸を開けながら、堺は思った。

 

(講堂、完成させといてよかった…)

 

 駆逐艦寮と同時に着工した講堂は、つい3日ほど前に完成、お披露目したばかりである。駆逐艦寮は、もう少しかかる見込みだ。

 

 

 

『総員、敬礼!』

 

 提督たる堺が壇に上がるのを見て、航空戦艦「伊勢」が号令をかける。艦娘たちが一斉に敬礼した。

提督は答礼し、口を開く。

 

「朝早くからすまない。諸君に集まってもらったのは、緊急事態が発生したからだ。

先ほどパラオ泊地から入った連絡によると、深海棲艦が逆侵攻をしかけてきたようだ。敵戦力について、詳しいことはほとんどわかっていない。ただ、どうやら未確認の新型戦艦がいるらしいことがわかっているくらいだ。しかも、敵は艦載機の大部隊を放っているとも報告されており、機動部隊がいるのも間違いないようだ。奴らは現在」

 

 ここまで言って、提督はスクリーンに写された地図の一点を、レーザーポインタで示した。

 

「ここ、沖ノ島沖に展開している。そこに、オリョール海平定のため出撃した艦隊が、閉じ込められたそうだ。これより、我がタウイタウイ艦隊は、パラオ艦隊の救出に向かう。編成は後程発表する。なお、駆逐艦たちについては、泊地周辺の警戒や遠征による資源獲得にあたってもらう」

 

 続いて、堺は艦隊編成を発表した。

 

「救出艦隊、旗艦は伊勢に一任する」

「航空戦艦、伊勢、出撃します!」

 

「続いて、金剛!」

「Yes!私の実力、見せてあげるネー!」

 

「摩耶!」

「よーし、任せろ!」

 

「愛宕!」

「愛宕、抜錨しまーす♪」

 

「赤城!」

「一航戦の誇り、お見せします!」

 

「瑞鳳!」

「航空母艦、瑞鳳、推してまいります!」

 

「以上が、救出艦隊の編成だ。では、6艦は直ちに出撃せよ!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 出航する堺艦隊に対し、見回りと練度向上のための演習を重視するということで、今回は見送りはなしとなった。

 堺は伊勢に乗り込み、艦隊を率いて沖ノ島沖を目指す。

 

 

 

「えーと…」

 

 光る羅針盤の隣で海図を広げる堺。救援要請がどのあたりから届いたかを、パラオ提督の電話を元に探しているのだ。

 

「あった」

 

 呟いて、羅針盤に手をかけ、回す。ひとしきり回った後、針は、ほとんど真西を指した。

 

「よし!」

 

 呟いて、進路変更の指令を出す。

 

「進路変更!面舵130!」

「は!面舵130!」

「よーそろー!」

 

 救出艦隊は、一斉に回頭していく。

 

「司令、赤城から通信。索敵機発艦許可の要請です」

「了解、許可する。それと、パラオ艦隊も見つけてきてくれ。この先にいる可能性が高い」

「承知しました!」トトトツートトトツートトトツー…

 

 モールス打鍵機が叩かれる音を聞きながら、堺は艦隊全員に通信を行った。

 

「みんな、聞いてくれ。この先にパラオ艦隊がいると思われる。だが、敵がいる可能性もある。索敵は怠らないでくれ」

「了解!」

「赤城、索敵機発艦始め!」

 

 通信長妖精の報告とともに、赤城から飛び立った九七式艦攻が、前方の空へ扇状に散っていった。

 

 

 

 発艦から40分ほど経ったころ。

 

「赤城より入電!『索敵4号、敵艦隊発見。空母ヲ級2隻ヲ主力トスル機動部隊、ヲ級2、ハ級駆逐2。攻撃許可求ム』です」

「許可する。それと…なんか数が少なくないか?」

 

 違和感を覚えた堺は、通信長妖精に質問する。

 

「ええ。さらなる索て…あっ、続報入りました。『敵航空部隊、オヨビリ級重巡1、へ級軽巡1、島陰ノパラオ艦隊ヲ攻撃中。事態ハ一刻ヲ争フ』!」

 

 違和感の原因は、これだったのだ。

 堺は、即座に決断する。

 

「ッ! わかった。赤城と瑞鳳へ、全航空機発艦命令。目標はヲ級空母。なんとしても沈めろ。金剛は愛宕、摩耶を率いて前進。討ち漏らしたのを沈めろ」

「Yes!ワタシの実力、見せてあげるネー!」

「攻撃隊、発進せよ!」

 

 たちまち、赤城と瑞鳳の両空母から、合わせて90機近い航空機が発進した。

 そしてその頃には、全速で向かっていたおかげで、敵空母を肉眼で捕捉できるところまで、堺艦隊は接近していた。

 

「全機突撃せよ!砲戦用意!」

「はい!」

 

 堺の命令に、艦娘たちが応じる。そして。

 

「…撃ち方はじめ!」

 

 堺の号令に、全員が応えた。

 

「左舷、砲戦開始!」

「撃ちます!Fire~!」

 

「巡洋艦隊、砲戦距離に入るぞ!」

 

「「「てー!」」」

 

 ところが、摩耶と愛宕だけでなく、赤城までが砲戦に加わってきたのだ。

 全員が、「えっ!?」と驚く。

 

「私も20㎝砲でやります!」

 

(ムチャしやがって…)

 

 腹の中で、堺はそう呟くのだった。

 

 

 

 結局、赤城の突撃というイレギュラーはあったが、パラオ艦隊救援は成功した。

 

 だが、かなりの大戦力が展開していることがわかり…艦娘部隊司令部(これまでに幾度か出てきた、総司令部、というのは全てここである)は堺に、「あ号艦隊決戦」を発令した。




如何ですか?
それと、更新遅くなりました!

みなさま、イベントお疲れ様でした。満足のいく結果は得られましたでしょうか?
うp主は…まあまあかな…

次イベも、頑張りましょう!

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