とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

日本国海上護衛軍の新人士官・堺修一は、提督としてタウイタウイ泊地に赴任する。南西諸島での作戦中に深海棲艦の侵攻を受け、大本営は「あ号艦隊決戦」を発令した。堺艦隊は出撃するものの、敵の前衛に敗北してしまう。


018 提督と、あ号艦隊決戦!(2)

「くっそ…今度こそ!」

 

 沖ノ島方面へ向かうタウイタウイ艦隊。その旗艦・伊勢の艦上で意気込む堺修一。だが、誰がどこからどうみても、彼は間違いなく疲弊していた。

 目の下にはくまができ、顔色は青い。睡眠不足もあって、どうみても健全とは言えなかった。

 軍服もやや汚れ、ヨレヨレになっている。

 

 かつてのルームメートにして、佐世保鎮守府の提督見習い、藤原海斗が今の堺を見たならば、その変貌ぶりに驚き、次いでいろいろと問い質すだろう。

 

 なんで堺がこうなっているかというと、理由はいろいろあった。

 

 

 まず第1に、沖ノ島へ侵攻してきた深海棲艦に対し、泊地艦隊の全力出撃をもって当たっているにも関わらず、敵の中核を捉えられないこと。

 

 堺の艦隊は、戦艦3(うち航空戦艦1隻を含む)、重巡1、正規空母1、軽空母1である。これは、堺の配下にいる艦娘たちの中でも、堺が考えられるだけ考え抜いて編成した、最大火力の艦隊なのである。

 

 が、しかし。

 非情にも、失敗続きであった。

 

 今回が5回目の出撃である。

 

 2回目は出撃して早々、巡洋艦部隊を破った直後に羅針盤が狂い、北西方向へ飛ばされた後、いつの間にか海域から離れてしまっていた。

 

 3回目は、先の出撃において、さんざんやられた水雷戦隊、その一歩手前まで進んだ。しかし、ここで運命はいたずらをした。そう、羅針盤が狂ったのである。これによって、艦隊は西へ…先日パラオ艦隊を救助しに行ったところへ…あの水雷戦隊がいるのとは逆の方向へ…そして、自分たちの泊地のほうへ…向かう羽目になってしまった。

 

 4回目は…これまでと違う、北東の方向へ進んだ。しかし、そこで黄色いオーラを放つ空母ヲ級に遭遇。強力な航空攻撃によって艦隊を壊滅させられ、撤退を余儀なくされたのである。

 

 この調子で、上手くいっていないのだ。

 

 

 第2に、それに付随する資源の消耗である。

 

 お分かりの通り、複数の戦艦や空母を出せば、それに付随する資源の消費は、半端なものではなくなる。読者諸兄の中には、大和型を出してみて、資源の消費力に蒼くなった方もいるかもしれない。あれほどではなくても、戦艦や正規空母の消費は重い。

 まして堺のタウイタウイ泊地は、ブルネイのように燃料を近くで産出するのでもなければ、本土のような精錬所や砲兵工厰があるわけでもない。資源の保有量は心もとなく、それをごそっと消費されるのは痛いのだ。

 

 

 そして第3に…時間がないことである。

 

 この「あ号艦隊決戦」も含め、現在南西諸島で行われている作戦は、艦娘部隊司令部が予定している西方打通作戦…「第十一号作戦」の布石なのである。

 これに際し、同司令部は「期日までに作戦を終わらせること」を厳命してきており、もし失敗したならば「しかるべき処置を取る」としている。当然、更迭であろう。

 そしてその期限は、あと10日後に迫っている。

 

 

 というわけで、戦力がない、運もない、資源もない、おまけに時間もない、という八方塞がりである。ストレスにより堺の胃は悲鳴を上げっぱなしであった。

 

 どれか1つでも解決すれば、胃も随分楽になるのだが……

 

 

 

 とまあ、それは置いておくとして。

 

 

 現在、堺の艦隊は期待通りのルートを進行していた。

 即ち、あの水雷戦隊の所までやってきたのである。

 

「前回はひどくやられたな…。だが、今度は!」

 

 堺は、右の手に握りこぶしを作りつつ、あの戦いの後、泊地に帰ってからのやりとりを思い出していた。

 

 

 

以下、回想…

 

「電探?」

「ええ。さっきの水雷戦隊は、おそらく電探、それも私たちのより高性能のやつを装備していたようね」

 

 泊地に帰投した時、堺の「敵はどうやってこちらを探知したのか」という疑問に、伊勢が答えてくれた。

 

「そう思う理由は?」

「偵察機が飛んでなかったからな。偵察機がいないんじゃ、目視か電探でない限り、こちらを見つけられない。んで、あの距離じゃ目視で見つけんのは物理的に無理。相手は小さいしな」

 

 伊勢に代わって摩耶が、理由を述べた。

 

「となると…」

「電探の可能性が高いですね」

 

 同意する赤城。

 そこへ、別の声が割り込んできた。

 

 

「やはりこれからは、レーダーと航空火力艦の時代だな」

 

 

「ん?あ、日向か、びっくりした…」

「日向、あんたいつから…」

 

 日向は、つい最近の着任である。堺艦隊の3回目の出撃の後に、タウイタウイへ着任したのだった。

 

 

回想終了…

 

 

「だが今度は…!」

「瑞雲第一偵察隊、敵艦隊を捕捉!先日の水雷戦隊です、数と艦種は変わっていません!12時方向、距離2400」

 

 航空隊指揮官の報告を受けて、堺は命令を下した。

 

「了解!作戦開始!」

「は!」

 

 今回発進させている瑞雲隊は、実は爆弾は持っていない。

 が、代わりに、魚雷のような形の、筒状の兵装を抱えている。

 

 

電探欺瞞紙(チャフ)放出しろ!敵艦隊を取り囲むように出せ!艦隊、両舷前進第三戦速!」

「は!」

 

 堺の命令に、航空隊指揮官が返事を返した。

 

「了解!」

 

 続いて、各艦の艦長たちも応じる。

 

 

 

 そう、瑞雲隊が持っていたのがこれである。

 電探欺瞞紙は、紙と書いているが、実際に蒔くのは紙ではなく、細かく切ったアルミニウムやプラスチックである。これらは、電波をよく反射するので、電探には強い反応となって現れる。そんなものを、大量に散布したらどうなるか?

 

 答えは簡単。

 電探が反応を拾いすぎて、使い物にならなくなるのである。

 

 現代艦艇のレーダー画面でいうなら、PPIスコープ(円形の画面の中で、光の棒が円を描いて回るアレ)の画面全部が、光る点で覆い尽くされた状態である。ある意味での電波妨害であった。

 

 

「散布完了!」

「観測長、敵との距離は?」

「計算すると、約1500です!会敵まで、およそ15分!」

「了解した。全艦、戦闘配置!」

「戦闘配置につけ!対水上戦闘!」

 

 「対艦戦闘」を告げるラッパの音が高らかに響く。

 

「砲雷撃戦用意!」

「主砲発射準備!」

「了解。主砲発射準備!」

「瑞雲隊より入電。『敵艦隊、混乱ノ模様。砲ヲデタラメニ、アチコチヘ向ケテイル。作戦成功ヲ信ズ』」

「よし、このまま前進!一気に叩き潰す!」

 

 

 

…数十分後

 

「ふー…」

「終わりましたね」

 

 堺のついたため息に、航海長が応じた。

 

「先日の復讐がな」

 

 すかさず艦長が、鋭いツッコミを入れる。

 

 そう、言葉通り、堺艦隊は敵精鋭水雷戦隊を撃滅し、先日の恨みを晴らした。

 

 電探を封じられた敵艦隊は、混乱収まらぬうちに堺艦隊の襲撃を受けた。そこで怯まずに突進してくるあたりは流石だったが…その手は読まれていた。

 

 堺艦隊は先日の経験から、相手との相対速度を考慮して、相手の進行方向へ砲弾をばらまくよう指示したのだ。

 しかも、撃ったのは、貫通は期待できない代わりに比較的広範囲を薙ぎ、火災も期待できる榴弾である。

 

 これにより、まず雷巡チ級…雷撃戦の要となる…が真っ先にやられた。魚雷の誘爆が繰り返され、松明みたいになったのである。戦闘もくそもあったものではない。

 

 続いて、予め発進させてあった赤城と瑞鳳の艦爆隊による爆撃が行われた。赤城隊だけで駆逐艦2隻撃沈、瑞鳳隊も駆逐艦1を大破行動不能にしている。

 ついでとばかりに軽巡へ級も被弾、全力の発揮をできなくした。

 

 そこで、伊勢の砲撃がリ級flagshipを捉えたのである。

 いかに重巡といえど、至近距離で、瑞雲隊による弾着観測のおまけがついた戦艦の砲撃を受けては、耐えられなかった。

 重巡リ級は粉微塵に吹き飛んで轟沈、残りが片付けられるのにもさして時間はかからなかった。

 

 

「よし!大きな被害はなし、艦隊進撃せよ!」

「提督、羅針盤回してください」

「おうよ!今回は…」

 

カリカリカリカリカリ…

 

「東か。艦隊前進!」

「提督…あの……。敵の中核がいるとされるのは北東です、そっちは外れですよ」

「え…?……ファッ!?ちょー待ってってば!なんでここで羅針盤が!?あぁ嫌イヤいやイヤぁ!!!ここまで上手くいったのに、なんでここで狂っちまうんだよ(パシン)!」

 

※今の(パシン)はペンが叩きつけられた音です

 

「ちくしょうめぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 …だが、もうどうにもならなかった。

 

 

 堺艦隊、5回目の出撃も失敗!




Red October、昨日に引き続いて新話投稿します!
もう1つの作品のほうも書かなきゃだな…


はい、堺提督、絶賛悪戦苦闘中でございます。
ここは正直骨が折れました…できれば、まあ、あんまり行きたくないですね。
十一号作戦の名を出しましたが、うp主は15年3月の着任なので、うp主にとって最初に巡ってきたイベントは、十一号作戦なのです。ここも、 主人公≒うp主 に従いました。

果たして、堺の攻勢は間に合うのか…!?
もうしばしお待ちくださいませ。

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