日本国海上護衛軍の新人士官・堺修一は、提督としてタウイタウイ泊地に赴任する。南西諸島での作戦中に深海棲艦の侵攻を受け、大本営は「あ号艦隊決戦」を発令した。堺艦隊は出撃するものの、敵の前衛に敗北してしまう。
「くっそ…今度こそ!」
沖ノ島方面へ向かうタウイタウイ艦隊。その旗艦・伊勢の艦上で意気込む堺修一。だが、誰がどこからどうみても、彼は間違いなく疲弊していた。
目の下にはくまができ、顔色は青い。睡眠不足もあって、どうみても健全とは言えなかった。
軍服もやや汚れ、ヨレヨレになっている。
かつてのルームメートにして、佐世保鎮守府の提督見習い、藤原海斗が今の堺を見たならば、その変貌ぶりに驚き、次いでいろいろと問い質すだろう。
なんで堺がこうなっているかというと、理由はいろいろあった。
まず第1に、沖ノ島へ侵攻してきた深海棲艦に対し、泊地艦隊の全力出撃をもって当たっているにも関わらず、敵の中核を捉えられないこと。
堺の艦隊は、戦艦3(うち航空戦艦1隻を含む)、重巡1、正規空母1、軽空母1である。これは、堺の配下にいる艦娘たちの中でも、堺が考えられるだけ考え抜いて編成した、最大火力の艦隊なのである。
が、しかし。
非情にも、失敗続きであった。
今回が5回目の出撃である。
2回目は出撃して早々、巡洋艦部隊を破った直後に羅針盤が狂い、北西方向へ飛ばされた後、いつの間にか海域から離れてしまっていた。
3回目は、先の出撃において、さんざんやられた水雷戦隊、その一歩手前まで進んだ。しかし、ここで運命はいたずらをした。そう、羅針盤が狂ったのである。これによって、艦隊は西へ…先日パラオ艦隊を救助しに行ったところへ…あの水雷戦隊がいるのとは逆の方向へ…そして、自分たちの泊地のほうへ…向かう羽目になってしまった。
4回目は…これまでと違う、北東の方向へ進んだ。しかし、そこで黄色いオーラを放つ空母ヲ級に遭遇。強力な航空攻撃によって艦隊を壊滅させられ、撤退を余儀なくされたのである。
この調子で、上手くいっていないのだ。
第2に、それに付随する資源の消耗である。
お分かりの通り、複数の戦艦や空母を出せば、それに付随する資源の消費は、半端なものではなくなる。読者諸兄の中には、大和型を出してみて、資源の消費力に蒼くなった方もいるかもしれない。あれほどではなくても、戦艦や正規空母の消費は重い。
まして堺のタウイタウイ泊地は、ブルネイのように燃料を近くで産出するのでもなければ、本土のような精錬所や砲兵工厰があるわけでもない。資源の保有量は心もとなく、それをごそっと消費されるのは痛いのだ。
そして第3に…時間がないことである。
この「あ号艦隊決戦」も含め、現在南西諸島で行われている作戦は、艦娘部隊司令部が予定している西方打通作戦…「第十一号作戦」の布石なのである。
これに際し、同司令部は「期日までに作戦を終わらせること」を厳命してきており、もし失敗したならば「しかるべき処置を取る」としている。当然、更迭であろう。
そしてその期限は、あと10日後に迫っている。
というわけで、戦力がない、運もない、資源もない、おまけに時間もない、という八方塞がりである。ストレスにより堺の胃は悲鳴を上げっぱなしであった。
どれか1つでも解決すれば、胃も随分楽になるのだが……
とまあ、それは置いておくとして。
現在、堺の艦隊は期待通りのルートを進行していた。
即ち、あの水雷戦隊の所までやってきたのである。
「前回はひどくやられたな…。だが、今度は!」
堺は、右の手に握りこぶしを作りつつ、あの戦いの後、泊地に帰ってからのやりとりを思い出していた。
以下、回想…
「電探?」
「ええ。さっきの水雷戦隊は、おそらく電探、それも私たちのより高性能のやつを装備していたようね」
泊地に帰投した時、堺の「敵はどうやってこちらを探知したのか」という疑問に、伊勢が答えてくれた。
「そう思う理由は?」
「偵察機が飛んでなかったからな。偵察機がいないんじゃ、目視か電探でない限り、こちらを見つけられない。んで、あの距離じゃ目視で見つけんのは物理的に無理。相手は小さいしな」
伊勢に代わって摩耶が、理由を述べた。
「となると…」
「電探の可能性が高いですね」
同意する赤城。
そこへ、別の声が割り込んできた。
「やはりこれからは、レーダーと航空火力艦の時代だな」
「ん?あ、日向か、びっくりした…」
「日向、あんたいつから…」
日向は、つい最近の着任である。堺艦隊の3回目の出撃の後に、タウイタウイへ着任したのだった。
回想終了…
「だが今度は…!」
「瑞雲第一偵察隊、敵艦隊を捕捉!先日の水雷戦隊です、数と艦種は変わっていません!12時方向、距離2400」
航空隊指揮官の報告を受けて、堺は命令を下した。
「了解!作戦開始!」
「は!」
今回発進させている瑞雲隊は、実は爆弾は持っていない。
が、代わりに、魚雷のような形の、筒状の兵装を抱えている。
「
「は!」
堺の命令に、航空隊指揮官が返事を返した。
「了解!」
続いて、各艦の艦長たちも応じる。
そう、瑞雲隊が持っていたのがこれである。
電探欺瞞紙は、紙と書いているが、実際に蒔くのは紙ではなく、細かく切ったアルミニウムやプラスチックである。これらは、電波をよく反射するので、電探には強い反応となって現れる。そんなものを、大量に散布したらどうなるか?
答えは簡単。
電探が反応を拾いすぎて、使い物にならなくなるのである。
現代艦艇のレーダー画面でいうなら、PPIスコープ(円形の画面の中で、光の棒が円を描いて回るアレ)の画面全部が、光る点で覆い尽くされた状態である。ある意味での電波妨害であった。
「散布完了!」
「観測長、敵との距離は?」
「計算すると、約1500です!会敵まで、およそ15分!」
「了解した。全艦、戦闘配置!」
「戦闘配置につけ!対水上戦闘!」
「対艦戦闘」を告げるラッパの音が高らかに響く。
「砲雷撃戦用意!」
「主砲発射準備!」
「了解。主砲発射準備!」
「瑞雲隊より入電。『敵艦隊、混乱ノ模様。砲ヲデタラメニ、アチコチヘ向ケテイル。作戦成功ヲ信ズ』」
「よし、このまま前進!一気に叩き潰す!」
…数十分後
「ふー…」
「終わりましたね」
堺のついたため息に、航海長が応じた。
「先日の復讐がな」
すかさず艦長が、鋭いツッコミを入れる。
そう、言葉通り、堺艦隊は敵精鋭水雷戦隊を撃滅し、先日の恨みを晴らした。
電探を封じられた敵艦隊は、混乱収まらぬうちに堺艦隊の襲撃を受けた。そこで怯まずに突進してくるあたりは流石だったが…その手は読まれていた。
堺艦隊は先日の経験から、相手との相対速度を考慮して、相手の進行方向へ砲弾をばらまくよう指示したのだ。
しかも、撃ったのは、貫通は期待できない代わりに比較的広範囲を薙ぎ、火災も期待できる榴弾である。
これにより、まず雷巡チ級…雷撃戦の要となる…が真っ先にやられた。魚雷の誘爆が繰り返され、松明みたいになったのである。戦闘もくそもあったものではない。
続いて、予め発進させてあった赤城と瑞鳳の艦爆隊による爆撃が行われた。赤城隊だけで駆逐艦2隻撃沈、瑞鳳隊も駆逐艦1を大破行動不能にしている。
ついでとばかりに軽巡へ級も被弾、全力の発揮をできなくした。
そこで、伊勢の砲撃がリ級flagshipを捉えたのである。
いかに重巡といえど、至近距離で、瑞雲隊による弾着観測のおまけがついた戦艦の砲撃を受けては、耐えられなかった。
重巡リ級は粉微塵に吹き飛んで轟沈、残りが片付けられるのにもさして時間はかからなかった。
「よし!大きな被害はなし、艦隊進撃せよ!」
「提督、羅針盤回してください」
「おうよ!今回は…」
カリカリカリカリカリ…
「東か。艦隊前進!」
「提督…あの……。敵の中核がいるとされるのは北東です、そっちは外れですよ」
「え…?……ファッ!?ちょー待ってってば!なんでここで羅針盤が!?あぁ嫌イヤいやイヤぁ!!!ここまで上手くいったのに、なんでここで狂っちまうんだよ(パシン)!」
※今の(パシン)はペンが叩きつけられた音です
「ちくしょうめぇぇぇぇぇ!!!」
…だが、もうどうにもならなかった。
堺艦隊、5回目の出撃も失敗!
Red October、昨日に引き続いて新話投稿します!
もう1つの作品のほうも書かなきゃだな…
はい、堺提督、絶賛悪戦苦闘中でございます。
ここは正直骨が折れました…できれば、まあ、あんまり行きたくないですね。
十一号作戦の名を出しましたが、うp主は15年3月の着任なので、うp主にとって最初に巡ってきたイベントは、十一号作戦なのです。ここも、 主人公≒うp主 に従いました。
果たして、堺の攻勢は間に合うのか…!?
もうしばしお待ちくださいませ。