とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属された新人士官・堺修一。彼は、提督任命される前の晩に、少女に提督やら司令やら呼ばれる、という奇妙な夢を見ており、その夢の中に出てきた、艦娘と思しき和傘の美人を気にしている。沖ノ島方面に来襲した深海棲艦部隊の迎撃作戦「あ号艦隊決戦」を成功させた堺は、大本営から出頭命令を受け、本土へ向かった。


022 提督、昇進する

 東京。

 読者諸兄が東京と聞いて思いつくイメージは、高層ビルが多数立ち並ぶ光景だろう。

その高層ビル群の一角に、その建物はあった。

 

 東京新宿区、防衛省。

 日本を守る3自衛隊…陸上自衛隊、航空自衛隊、そして海上自衛隊改め海上護衛軍…を統括する、いわば司令部と呼ぶべき場所。

 

 その防衛省の中には、いくつもの内部組織が設置されている。その1つが、艦娘部隊だ。文字通り、深海棲艦の脅威から本土や世界各国の拠点、それらを行き来する輸送船団の防衛と、深海棲艦に対する反攻作戦において、中核を担う部隊である。

 

 堺のいう「大本営」とは、艦娘部隊を中心に、海上護衛軍の他の部隊や、陸上自衛隊、航空自衛隊、その他医療、技術スタッフなどを加えて編成される統合部隊の、総司令部のことである。

 この組織は常設はされておらず、必要な時だけ結成され、目的を果たせば解散される。

 その「必要な時」とは、主に2つ。

 

 

 1つは、海外に自衛隊や大規模な輸送船団を派遣するなどの、大規模な作戦行動をとる場合。

 

 

 …もう1つは、本土近海に深海棲艦が侵攻して、本土陥落が現実的となるような、国家存亡にかかわる非常事態の場合。

 

 

 

 もちろん、今回の大本営結成の理由は前者である。

 かつては、後者の理由で大本営が設営されっぱなし、という悲惨な状態に陥ったこともあったが、それも今は昔。

 

 

 今回、堺は大本営から召集命令を受け、出頭した…のだが、作戦会議室に行くのかと思いきや、急に呼び止められ、艦娘部隊司令室に先に行かされることになった。理由は「行けば分かる」としか説明されていない。

 

(行けば分かる、と言われてもわからんっつうの)

 

 廊下を歩きながら、堺はそう考える。

 

 艦娘部隊司令室へは、まだ1度も行ったことがない。おまけに、廊下ですれ違う人の襟章や、胸部に飾られた勲章を見ると、少将だの中将だのといった、堺からすれば天井人のような階級の人ばかりである。堺の緊張は、並みのものではない。

 

 目的の司令室の前で立ち止まり、一呼吸した後に、ドアをノック。自分の姓名と階級を告げると、「入れ」と返答があった。

 

「失礼します!」

 

 声をかけてから、ドアの取っ手に手をかけ、ドアを手前に引いて開ける。

 

 入った先には、赤い絨毯が敷かれ、窓に面して大きな机があった。右手には秘書艦席…秘書艦は席を外しているらしく見当たらない…と書棚とその他少しの家具、左手には洋式の応接セット。何のためか不明だが、カウンターバーまで設置されている。

 

 そして、机の向こうの椅子に腰掛けた、筋骨逞しい50代前半の軍人が1人。黒い五分苅りの頭に元帥帽をかぶり、その下の目は眼光鋭く堺を見据えている。

 

 彼の名は北条征一(ホウジョウ セイイチ)、海上護衛軍元帥にして、艦娘部隊総司令長官。提督たちは彼を、司令長官として、先達の提督として、また救国の英雄として尊敬する。

 

 彼は、かつて鎌倉・室町・戦国・安土桃山の4つの時代の日本において、その行く先を左右しかねない程の力をふるった、北条氏の末裔である。その勇猛果敢な指揮は、戦場において華々しい戦果を出し続け、軍人のみならず一般市民からの人気も高い。

 彼が前線にいた頃は、本土陥落の危機は去っていたが、相変わらず海に出るのは難しく、津軽海峡を渡るならいざ知らず、佐世保から五島列島へ向かうのが命懸けの状態だった。そんな中で、彼は艦娘を率い、北は北海道、南は沖縄まで駆け回り、現ブルネイ基地司令の西郷や、現ラバウル基地司令の河合などとともに、深海棲艦を片端から駆逐していった。中でも、北方戦線を押し上げ、北方領土や千島列島を人類の手に奪還できたのは、彼の功績によるものだ。

 

「貴様か、タウイタウイの提督というのは。沖ノ島の深海棲艦を撃滅したというから、なかなかの手練れかと思ってたが、存外に若いのだな」

 

 この時点で、堺は既に直立不動の態勢になってしまっていた。理由は言うまでもなく、緊張のためである。

 

「はっ、教育隊を出てすぐに提督候補生に選ばれ、研修過程がほぼ終わった頃に、突然提督にされてしまって、今に至るのであります」

「ふむ、すると提督見習いとしての研修は受けていないと?」

「左様でございます。一から自分で学ばねばならなかったので、大変でした」

「タウイタウイはどんな所だ?私はあまり南には行ったことがなくてな、興味があるんだ」

「あえて申し上げるなら、自然以外何もありません。たしかに、近くに地元民の漁村はありますが、人工物といえばその程度。あとは、青い海と白い砂浜に、熱帯特有の濃い緑ばかりです。画家ならともかく、誰もが好き好んで来るような場所ではありません」

「ふむ、貴様、率直に物を言うのだな」

「事実ですから、これ以外の表現が見つかりませんでした」

「はは、事実だからか。貴様思ったことははっきり口に出すのだな。組織が大きくなれば、階級に差がつくから意見を遠回しにしか言わなくなる。そういう時には、貴様のようにきっぱり物を言う奴が必要だ」

 

 この時堺は、こんな方でも笑うことがあるのだな、などと考えていた。北条は基本的に強面なので、笑うところを想像できなかったのである。

 

「さて、今日ここに貴様を呼んだのは、他でもない、昇進だ」

「昇進?私がですか?」

「うむ。貴様は先日、沖ノ島沖に襲来した深海棲艦を破り、十一号作戦を行う艦隊の後顧の憂いを絶った。その功績を認め、貴様は正式に中佐に昇進となった。おめでとう」

 

 そう言って、北条は机の上の辞令の1つを取り、堺に手渡した。

 そこには確かに、「堺修一 左記の者を本日をもって中佐に昇進とす」と書かれている。

 

「ありがとうございます!」

 

 堺は、直立不動の状態から90゜上体を曲げつつ、辞令を受け取る。

 

「ハハハ、そんなに畏まらんでもいいぞ。さて、作戦会議の時間だな。堺君、貴様も十一号作戦に参加するのだろう?」

「はっ、参加を命じられています」

「ならちょうどいい、共に移動しようではないか」

「あ、ありがたく存じます!」

 

(マジかよ…これは、肩身狭いな…!)

 

 こうして、堺は、艦娘部隊総司令官…いわば連合艦隊司令長官と共に、作戦会議室へ向かう羽目になってしまった。




如何でしたでしょうか?

急にお偉いさんと一緒に何かするってなると、緊張しませんか?
うp主は、間違いなく緊張します。

次回は作戦会議が内容のメインとなります。
十一号作戦がなかなか始まらない…まあ、あと2、3話くらいかかるでしょう。

それでは、次回もよろしくお願いします!

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