とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属された新人・堺修一少佐。彼は、艦娘部隊に配属される前の晩に、少女たちから提督やら司令やら呼ばれる、という妙な夢を見ていて、そこに出てきた艦娘と思われる、和傘をさした美人を気にしている。沖ノ島方面での深海棲艦の侵攻を阻止した彼は、艦娘部隊司令長官・北条征一に呼び出され、中佐への昇進を申しわたされた。


023 提督と、作戦会議…とその他諸々

「そういえば、今のブルネイの司令官は、西郷だったな?」

「はい。あそこの油田には、いつもお世話になっております」

「おう、そうか。実はな、あの西郷という男、俺の少し上の先輩なのだ。本来なら、司令長官は俺じゃなく、彼がなるはずなのだが…。どうやら、現場での叩き上げという経歴が響いたらしい。全く、能力があれば経歴や出自なぞ関係なかろうに…」

「は、はあ…」

 

 どうやら堺、司令長官たる北条に気に入られたらしい。作戦会議室へ向かう道すがら、北条は色々なことを話してくれている。

 

 歩くこと約5分、会議室に到着。

 「貴様が先に入りたまえ、遅刻したと思われるのは嫌だろう?」という北条の配慮により、堺は1人で会議室に入ることになった。北条は少し待ってから入るつもりらしい。

 

(こりゃ完全に気に入られたらしいな…。さて、どこに座る?)

 

 部屋に入った堺の目に写ったのは、多数の人間。そして、それと反比例して、ほとんど空いていない席。どこにするか…

 

「こっち、空いてますよ」

 

 左側から声がかかる。

 ありがとうございます、と言いかけて、堺は絶句した。

 

 声をかけてきたのは、他でもない、かつてのルームメートにして佐世保鎮守府提督見習い、藤原だったのだ。

 しかも、若葉マークつきとはいえ提督帽をかぶっている。つまり、正式に提督になっているのだ。

 藤原が、ニヤリと笑いかける。

 

「きさ…!」

 

 席につくや、声をかけようとしたのだが、それは叶わなかった。司会進行係が、「総員静粛に!」と叫んだからだ。

 

「只今より、十一号作戦遂行のための、説明会を開始する!開会に先立ち、艦娘部隊司令長官、北条征一殿が入室される。総員起立!」

 

 ザッ、と全員の起立する音がきれいに重なる。会議室の戸が開き、北条が入ってきた。

 

「敬礼!」

 

 一斉に、全員が海軍式敬礼(脇を極端に締めるタイプのもの)をする。

 敬礼の中を北条は、幕僚たちを従えて進み、教室のような感じの会議室の中央、天井から下ろされたスクリーン前の教壇まで歩いた。そして、教壇のところで立ち止まり、部下たちの敬礼に目を走らせる。

 ひとわたり眺めた後、北条も答礼として、敬礼した。

 

「直れ!着席!」

 

 再び、ザッ、という音が重なる。そして、ガタガタと椅子を引く音がしばし室内に響いた。

 その音が収まった後、教壇に立つ北条が話しはじめる。

 

「諸君に今日ここに集まってもらったのは、他でもない。現在、我が国では、火力発電が発電量の8割を占めている状態なのは、諸君も承知だと思う。そこで今回、来る夏に向けて、中東諸国に大規模な油槽船団を派遣し、石油の多量輸送と備蓄を行うことになった。諸君の任務は、輸送作戦の間、中東諸国までの制海権を保持し、同時に油槽船団の護衛を行うことにある。本作戦は、十一号作戦と呼称する。諸君の健闘を期待する!」

 

 北条の訓辞の後、北条配下の幕僚による、作戦の各段階の説明が始まった。

 今まで暗かったスクリーンが明るくなり、世界地図の一部分が映し出される。そこに映っていたのは、カレー洋とその沿岸の各国だった。

 地図中央に、槍の先端のように突き出ているのが、カレー半島。その南東部に、小さくリランカ島がある。地図の南側は海ばかり。東の端にはマレー半島とその先端のシンガポールが映り、西の端にはオデン湾と、その奥の紅海への入り口や、ステビア半島、ペルシア湾が映っていた。

 

 幕僚が、説明しながら端末を操作していく。すると、それに従って、地図に赤い矢印が引かれたり、海域が黄色や紫に染められたり、特定の地点に白い旗が立ったりした。それをまとめていくと、以下のようになる。

 

 まず、アンマン・コバルト両諸島周辺の制海権を確保。 その後カレー洋の制海権を確保しつつ、ベーグル湾通商破壊作戦を実施。しかる後、いよいよリランカ島を攻略し、西方への進出拠点とする。

 その後、アンズ環礁を制圧して、洋上補給拠点とし、そこを足掛かりにステビア海を打通、中東諸国への海路を開く。

 最後に、制海権を確保した海を通行する油槽船団を、往路・復路ともに護衛する。

 これが、作戦全体の概要である。

 

 次に、作戦に参加する艦隊と、その役割が発表された。

 

 本作戦の主力となるのは、リンガ泊地の駐留艦隊。ここの提督が前線指揮を取ることになる。

 それを支援するのが、パラオ泊地・佐世保鎮守府・舞鶴鎮守府・佐伯湾泊地の艦隊。特別編成された応援部隊の参加となる。

 その5艦隊の作戦行動を後方から支援するのが、ブルネイ艦隊、そして堺のタウイタウイ艦隊である。周辺海域の地理を知っている両泊地に対する、妥当な役割だ。特にブルネイは、油田を抱えているので、補給基地としての役割も期待されている。

 最後に、横須賀鎮守府・呉鎮守府の艦隊が、油槽船団の護衛を往路・復路ともに行う。復路には、制海権の維持に努めていた他の艦隊も合流し、船団とともに撤退する。

 

 最後に、作戦の実施期間が設定された。

打通作戦自体の期間は、2週間。そこから、油槽船団の往復に1カ月。

 つまり、十一号作戦は6週間の作戦である。

 

 

 作戦説明会は、1時間ほどでつつがなく終了した。

 

 

…………

 

 

「貴様も、今回の作戦に?」

「ああ。流石に矢面には立たせてもらえんと思うけどな」

 

 作戦説明会終了後。

 防衛省食堂にて、堺は藤原と話しをしていた。海軍カレーを食べながら。(この日はたまたま金曜日だったのだ)

 

「貴様も提督になれたんだな」

「何だそのセリフは。俺が学問が苦手だから、試験に通らんと思ってたみたいじゃねえか」

「いや実際そうとしか思ってなかったんだが」

「ひでえヤツだ、全く。んなことより、貴様、提督仕事はどうなんだ?提督になって、書類仕事も増えてんだろ?」

「俺は問題ねえよ」

「んなこと言ったって信じねーぞ俺は!部屋の片付けができねぇヤツに書類仕事が務まるワケあるかよ」

「ちょっ、きさっ!?いらんこと言うんじゃねーよバーカ!」

「見苦しい、貴様の事務処理能力が壊滅してるってのはみんな知ってるぞ!」

「んなこた俺が一番わかってんだよ!今さら蒸し返すなよ!ちくしょーめぇぇ!」

 

 言ってる内容はアレだが、2人は実はたいへん仲がよろしいのである。

 

 

 

………

 

 同時刻。

 東京・防衛省より遠く離れた、厚木飛行場にて。

 

「おい、あれが…」

「そうらしいな…」

 

 堺の護衛で本土まで来ていた、「赤城」戦闘機隊所属の妖精2人が、ぎらついた目で、周囲を見渡していた。

 

「20㎜機関銃の弾が増量…!」

「しかも、防弾性能もエンジン出力も向上。簡単に落ちるなどとは言わせない…!」

 

 2人が目を付けていたのは、戦闘機乗り仲間の間で、本土で開発中との噂があった、新型戦闘機である。

 その名は、零式艦戦52型乙。

 

「な!?おい、あっちは…!」

「バカな!魚雷も積める上に、80番で急降下爆撃ができるだと!?」

「兄貴、忘れていませんよね、あの機体は…」

「ああ。かつての演習の時に、ブルネイの加賀の奴らが使ってきた…!」

 

 80番とは、800㎏爆弾のこと。

 2人が見ている機体は、艦上攻撃機「流星」。

ようやく前線配備が始まったところである。タウイタウイへ配備されるのは、いつの日だろうか(ブルネイの流星は、性能調査のため先行配備されていただけです)。

 

「うちにも、ああいう新型機、欲しいですね…」

「全くだ」

 

 新型機に思いを馳せつつ、2人は航空機を眺めていた。瞳に、怪しい光をたたえながら。




如何でしょうか?

ちなみに、各地の地名のモデルは、一部知っているものもあると思いますが、以下の通りです。

・アンマン諸島→アンダマン諸島
・コバルト諸島→ニコバル諸島
・カレー洋→インド洋
・ベーグル湾→ベンガル湾
・リランカ島→セイロン島
・アンズ環礁→アッドゥ環礁
・ステビア海→アラビア海
・オデン湾→アデン湾

改めて見ると、艦これの地名って、食べ物の名前が妙に多いですね…さりげない飯テロ。

というわけで、十一号作戦、いよいよ発動です!
次話あたりから、描写できるかと思います。お待ちくださいませ!

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